2002年の畜産事情を総括 ● カンボジア
タイとの関係悪化が影響
2月26〜28日の3日間、カンボジアの首都プノンペンで農林水産省家畜生産・
衛生局の年次会議が開催され、国内24県の家畜生産・衛生事務所長によって
2002年の生産・衛生状況が報告された。同会議には、例年、農林水産省幹部
の他、畜産関係民間企業の代表者も出席しているが、今年は1月末から続くタ
イとの関係悪化の影響などにより、タイを中心とする外資系民間企業の出席
はなかった。会議では家畜頭羽数、家畜衛生、国際協力プロジェクトなどに
ついての報告が行われたが、例年行われている次年度(4〜3月)予算の説明
は予算成立の遅れから見送られた。次年度予算は、例年より大幅に遅れて3月
12日に確定した。これによると同局の予算額は前年度比3.6%増の22億595万
リエル(約6,600万円:100リエル=3円)であり、前年度同様、事業予算は外
国援助への依存度が高く、ほとんど計上されていない。
鶏飼養羽数が大幅に増加
会議での報告によると、2002年のカンボジアの家畜飼養頭羽数は、牛が292万
4千頭(うち役用133万8千頭、繁殖用雌牛75万頭)で前年より5万4千頭(1.9%)
の増加、水牛が62万5千頭(うち役用36万6千頭、繁殖用雌水牛21万5千頭)で前
年並みであった。また、同国の食肉資源として重要な位置を占める豚の飼養頭数
は、210万5千頭(うち繁殖用雌豚19万8千頭)で前年より1万3千頭(0.7%)の減
少、豚に次いで重要な動物性たんぱく源である鶏は、1,667万8千羽で前年より142
万7千羽(9.4%)とかなりの程度の増加となった。同国では、農業の機械化が進
んでおらず、農業における役用家畜の重要性が高い。役用家畜頭数の減少は社会
不安につながるため、政府は役用家畜の頭数維持に神経をとがらせている。同国
は、2001年に続き、2002年も大規模な洪水に見舞われており、家畜の流失だけで
なく、中間業者が洪水被害を受けた農家の家畜を買いたたいてと畜するケースも
頻発しており、同局関係者の中には役畜の実頭数は減少しているとする見方もあ
る。
家畜疾病がまん延、食肉衛生上も問題
同国では、口蹄疫などの各種疾病が常在しているが、予算不足からワクチンの
接種や治療が十分に行えていない。同会議では、例年、口蹄疫、炭そ病、パスツ
レラ菌感染症など重要な感染性疾病の発生状況について詳細な発表が行われてき
たが、今年は発生状況の発表はなく、治癒頭数、へい死頭数、殺処分頭数のみが
公表された。これによると、感染性疾病罹患家畜のうち、治癒したものは牛2万
5,195頭、水牛6,191頭、豚8万459頭、へい死および殺処分となったものは牛8万
2,316頭、水牛4,888頭、豚57万6,533頭となっている。しかし、農家の中には、
疾病発生を報告して殺処分にされることを怖れ、報告せずに庭先と畜し、食肉と
して販売してしまう例も多く、家畜衛生事情は相当深刻な状況にある。政府は、
予算および人員の制約から十分な疾病対策が行えないため、村単位で選抜された
農民の代表に研修の機会を与え、全国に約5千名の衛生補助員を任命しているが、
これも予算の制約から十分な活動が行えているとは言いがたい。
今後の問題点
家畜生産・衛生局は、同国の畜産が抱える問題点として、・家畜衛生・生産に
関する法制度の未整備、・口蹄疫やパスツレラ菌感染症の拡大を防ぐための国境
での監視が行われていないこと、・ワクチンを含む動物医薬品の不足(効力維持
のための冷蔵施設も欠如)、・洪水など自然災害の頻発による飼料の不足、・農
家の知識欠如とワクチン接種忌避、・農畜産物価格の大幅かつ頻繁な変動と価格
安定対策の不在、を挙げている。以上の諸問題は従来から認識されていたものと
変わりなく、これらに対する対処方針も他国政府の開発援助や非政府機関(NGO)
への支援を求めるものとなっており、同国の畜産発展のためにはさらに相当の期
間が必要な状況にある。
元のページに戻る