◇絵でみる需給動向◇
イギリス食肉家畜委員会(MLC)によると、2003年のEU(15カ国)の牛肉生 産量は、EU最大の牛肉生産国であるフランスやそれに次ぐドイツなど加盟国の 多くで牛飼養頭数の減少が続いていることや、2000年10月以降、フランスを中 心に域内で再燃した牛海綿状脳症(BSE)問題による消費落ち込みの影響が残 ったことなどにより、前年比1.1%減の約743万8千トン(枝肉ベース、子牛肉 を含む)と見込まれている。2002年11月または12月時点におけるEUの牛飼養頭 数は、前年同期比2.8%減の約7,813万1千頭となった。 国別では、両国でEU全体の生産量の4割以上を占めるフランスおよびドイツ でそれぞれ、3.2%減の184万4千トン、4.3%減の132万2千トンと見込まれてい る。なお、ドイツでは2003年5月期の牛飼養頭数も減少が報告されている。ま た、最も減少が見込まれているのはデンマークで、これは同国で生乳生産割当 制度枠を厳守し、とう汰したことによる。2002年12月時点における同国の乳用 経産牛頭数は、前年同期比2.4%減の61万3千頭となった。一方、主要牛肉輸出 国であるアイルランドでは、2003年の輸出が好調であることから、5.7%増の5 9万5千トンと見込まれている。また、スペインやオランダでも増加が見込まれ ている。
一方、2000年10月以降、BSE問題の再燃で落ち込んだ消費量は、2002年に入 り回復傾向で推移しており、2003年もドイツやフランスなど多くの国で引き続 き堅調であることが伝えられていることから、前年比1.3%増の約758万トンと 生産量を上回ることが見込まれている。 生産量と消費量の不足ギャップについては、介入在庫からの放出と域外から の輸入により補われるが、現在、EUの牛肉介入在庫量は、今年に入り急激に減 少してきている。7月の在庫量は前年同月比90.1%減の約1万7千トン(製品重 量ベース)となり、在庫量は11月までに解消する見込みである。また、2002/0 3年度(7月〜6月)のEUの通常の国境措置(注)によるブラジルやアルゼンチ ンなど域外からの牛肉輸入量は、前年度に比べ26.6%増の約6万2千トンと大幅 に増加した。加盟国すべての国で輸入量は増加しているが、最も輸入量が多か ったのはイギリスで、67.9%増の1万5千トンとなった。 (注)EUでは、域内牛肉需給の安定を図るため、通常の国境措置として域外か らの牛肉、子牛肉等の輸入に対しては、関税に加え輸入課徴金が課せられてい る。ただし、EUにはさまざまな特恵措置(関税割当措置)があり、94年のガッ ト・ウルグアイラウンド(UR)合意でもその存続が認められた。例えばブラジ ルやアルゼンチンなどから高品質牛肉を輸入するに当たっては、毎年度関税割 当数量(ヒルトン枠)が設定されている。域外から輸入される牛肉の多くは、 このような特恵措置によるものである。
EU委員会が今年6月に発表した「EU15カ国における主要農畜産物の中期見通 し」によれば、EUの牛肉需給は、2003年以降消費量が生産量を上回り、EUは牛 肉の純輸入国になることが予測されている(詳細は本誌8月号参照。)。6月に 合意した共通農業政策(CAP)では、・肉用牛のと畜奨励金については金額を 減額した上で継続することを可能とする・繁殖雌牛奨励金(保留に対する奨励 金)は現行のまま実施する−といった肉牛生産を刺激する面もある制度が今後 も残されたが、需給ギャップを埋めることができるとは考えにくい。そうなる と、EUは今後、現在の輸入措置についても何らかの対応を迫られる可能性もあ ると思われる。また、EUの牛肉輸入動向が、世界の牛肉需給に及ぼす影響が今 後大きくなるとみられる。
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資料:MLC 注:2002年は暫定値、2003年は予測値 |
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