特別レポート 

豪州の課徴金制度について

−牛肉・酪農を中心に−

シドニー駐在員事務所 粂川 俊一、井上 敦司




1.はじめに

 豪州の昨年(2002年)の今ごろは干ばつが激化する中、肉牛・牛肉業界では、
豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)の年次総会での販売促進活動などの財源強
化を目指した課徴金値上げの動きが注目されていたが、値上げするにはタイミ
ングが悪く、結果的に否決された。

 一方、酪農業界では、昨年来、業界団体再編のための法律が逐次改正され、
今年7月には、従来の特殊法人的な性格を持つ豪州酪農庁(ADC)と酪農研究開
発公社(DRDC)が統合し、課徴金を納める生産者によって運営されるデイリー
・オーストラリア(DA)が設立された。

 このように、豪州における畜産関係業界団体の財源や運営には、「課徴金」
(Levy)という言葉がキーワードとして付いて回る。

 本稿では豪州の課徴金制度について牛肉と酪農を中心にその概要を紹介する。

2.課徴金とは

(1)課徴金の性格

 豪州の農業政策の中で、 連邦政府として直接関与するものは、 貿易、検疫な
どの国の責務として行われるべきもの以外には、 土地・水源の保全管理、 干ば
つ救済措置などの国土保全・災害対策や横断的な構造調整対策が主な政策の柱
となっている。

 豪州には、 生産者に対する直接的な生産振興対策はほとんどなく、 基本的に
は農産物輸出国として、輸出市場の拡大を目指し、販売促進活動などを通じ最
終的には国際市場から最大限の利益を得ることが生産振興につながるとの見方
が強い。

 農産物の販売促進、研究開発、業界の利害調整・政策提言は、各部門ごとに
代表的組織が設置され、その運営経費は基本的には生産者などからの課徴金収
入によっている。組織の設置、 生産者などからの課徴金の徴収根拠は連邦法令
の規定に基づくものであり、この点からは、 課徴金は一種の税金とも考えられ
る。 従って、 連邦政府は監督権を有するものの、 各部門ごとにその関係者に課
徴金を財源とした産業振興の権限を委譲しているとも言える。他国の例を挙げ
ると、米国のチェックオフ制度に仕組みや資金の使途について類似している点
が多く見える。

 現在、豪州の第一次産業において、課徴金制度は、畜産、酪農、穀物、園芸
など幅広い分野で活用されているが、羊肉産業における課徴金に関する議論で
は、「理想的な課徴金」について次のように特徴付けている。

○ 「理想的な課徴金」の評価基準



(2)課徴金の役割

 豪州の農業は、輸出依存度が高いため、生産の効率や製品の品質、さまざま
な市場革新や市場状況の変化に対応する能力などの面において国際市場下にお
いて常にトップであるべきと認識されている。第一次産業の課徴金については、
国際的な立場を維持する必要性から、これらに要する資金を調達するための手
段として、これまでの多くの成果が認識されている。

 このようなことから、現在、畜産業界における課徴金は、基本的に販売促進
や研究開発、家畜衛生など限定的に使用されている。

 また、課徴金の導入や既存の課徴金額の調整は、業界を代表する団体から発
議されるが、新たな課徴金を導入する場合、次のような要件(次項で詳述)が
必要となっている。

・課徴金の導入は、産業全体と負担者の双方にとって有益となるという強い主
 張

・調達される課徴金の総額の概算

・調達される課徴金の使用計画の策定

・課徴金の算定方法の明示(課徴金の算定方法には様々な方法がある: 家畜、
 製品重量、製品金額)

 技術的な要件を除けば、課徴金については「産業全体と負担者の双方にとっ
て有益となる」ことがその役割の象徴的な文言である。


(3)課徴金導入の要件

 第一次産業における課徴金は、税金の導入と異なり、通常、生産者と業界の
協議によって決定される。このため、導入に当たっては、あくまでも業界内の
合意を追求することとなる。

 連邦政府は1997年に、ガイドラインとして課徴金に関して検討されるべき条
件を分類化するシステムを導入した。そのシステムは次の12項目の原則から成
る。1〜11項は新たな課徴金に関連するものであり、12項は既存の課徴金の変
更手続きに関するものである。

○課徴金提案正当化のための12項目の原則


 このような原則に基づき業界内で検討された後、提示案を作成し、政府の承
認を得た上で、所要の法整備が実施される。提示案は、@義務的な課徴金の目
的、A課徴金によって克服される市場不振のタイプの説明、B産業・公共にお
ける利益の大きさ、C相対的な効果の基準、D産業の協議過程−から構成され
る。

3.畜産における課徴金制度

(1)概要

 課徴金は、業界の中核となる組織によって集められ、@市場開拓・販売促進、
A研究開発、B家畜衛生、C残留物検査−それぞれ特定の目的を扱う組織に配
分される。

 徴収業務は、農漁林業省(AFFA)の中の課徴金歳入業務部(Levies Revenue 
Service:LRS)に中央集権化されている。従って、LRSは徴収と配分の両方の
責任を持つことになる。

 配分された課徴金を使用する組織は次のとおり。

@販売促進:MLAやDA、オーストラリアン・ポーク・リミテッドのような生産
 者や処理加工業者によって運営される団体が使用する。

A研究開発:地域産業研究開発公社(RIRDC)と部門別の研究開発公社(RDC:
 現在では多くの部門で団体再編が実施されたため、牛肉につい てはMLA、
 酪農についてはDAの機能の1つとなった)が、研究目的の 課徴金財源を扱
 う。なお、課徴金徴収額に対応した財源が別途連邦政 府から交付される。

B家畜衛生:豪州の動物衛生基準の改善をはじめ、疾病のサーベイランスや緊
 急家畜伝染病の対応を担う豪州動物衛生協議会(AHA)が使用する。なお、2
 002年に官民で合意された家畜疾病発生時の関連コストを分担する家畜伝染
 病緊急対応協定(EADRA)に要する産業側の財源については、大部分の業界
 で、通常時はゼロベースで疾病対応時に発 動する課徴金徴収について合意
 がなされており、本稿で説明する一般的な課徴金とは別枠のものである。

C残留物検査:全国残留物調査(National Residue Survey:NRS)に使用する
 資金に充当される(NRSは実際の検査については州政府検査機関で実施され
 るが検査結果の総括や行政判断はAFFAの中のNRS部が担う)。

図:一般的な課徴金の流れ

 なお、課徴金の支払いは、通常の事業経費として100%の税控除を受ける。


(2)牛肉産業

 肉牛・牛肉産業は、長い課徴金の歴史を持つ。当初のシステムは「と畜段階」
を徴収のベースにしたものであったが、最近では、家畜の売買時の「取引段階」
をベースにしたものとなっている。

@経緯

 豪州における最初の肉牛課徴金は、成牛のと畜時に徴収される定額の課徴金
として1960年に導入され、この仕組みは20年以上も継続した。

 80年代において、研究開発に要する財源の強化、市場機会の改善、健康・安
全性問題の改善に対する必要性の認識の高まりを背景に、課徴金の徴収対象に
重点を置いた見直しが行われ、80年代後半、肉牛・牛肉業界は、と畜課徴金を
肉牛取引課徴金に置き換えることに合意した。さらに、課徴金収入が市場価格
の変動にリンクし、公平で安定的なものであるべきとの議論を踏まえ、業界は
次のような課徴金の提案を行った。

・肉牛生産者とフィードロット業者からの肉牛取引課徴金

・枝肉を基準とする処理加工業者からの牛肉生産課徴金

・輸出家畜に賦課される肉牛輸出課徴金

 これらの課徴金は、91年から第一次産業課徴金法(Primary Industries Lev
ies and Charges Act 1991)によって法制化され、90年代において販売促進、
研究開発、家畜衛生・安全性問題への対応を通じて豪州の牛肉生産を支援した。

 98年においてさらに見直しが、MLAの設立を核とする業界団体の再編と併せ
て行われた。その際、政府は、処理加工業者と生体家畜輸出業者に対する課徴
金がゼロとなる課徴金規則を設定し、形式的に課徴金を免除した。ただし、政
府・業界の合意書によれば、処理加工業者と生体家畜輸出業者の両者は、MLA
によって実施される業界の「共同の」産業プログラムへの資金を拠出しなけれ
ばならず、両者が業界支援を公約する意志がない場合や業界全体で財源が不足
する場合には、課徴金規則を発動できることとされた。従って、実質的に、両
者はそれぞれの部門の資金調整機関である豪州食肉処理業者協会(AMPC:98年
設立)とライブコープ(98年設立)を通じてMLAとの共同プログラムに対する
資金供給のための「自主的な課徴金」を持つこととなった(業界では一般的に
「拠出金」と呼ばれている。本稿においてその経緯に鑑み法に基づかない「自
主的な」課徴金と位置付けた)。

 以上の変遷を経て、現在、牛肉産業には、生産者に対する義務的な肉牛取引
課徴金(Cattle Transaction Levy)と業界団体に対する拠出金と呼ばれる自
主的な課徴金が存在している。

 なお、前述したように2002年のMLAの年次総会における1頭当たりの肉牛取引
課徴金の50豪セント(約39円:1豪ドル=77円)の値上げ(3.5豪ドル(約270
円)→4.0豪ドル(約308円))の試みは、生産者の投票により否決された。

A 規則

 肉牛取引課徴金に関しては、第一次産業(内国)課徴金法(Primary Indust
ries (Excise) Levies Act 1999)と第一次産業(通関)課徴金法(Primary 
Industries (Customs) Charges Act 1999)の2つの法律がある。

 現在の肉牛取引課徴金の徴収額と使用内訳は次のとおり。

○ 肉牛取引課徴金

資料:MLA

 なお、概ね現在の仕組みとなった1991年以降、課徴金の値上げは1回だけで
(1991年5月:5.75豪ドル(約443円)から6.25豪ドル(約481円)へ)、その
後、値下げを続け、1996年8月以降は現行の3.50豪ドル/頭となっている。

B 関係者

 肉牛取引課徴金の関係者は次のように分類される。

ア 納付者:肉牛生産者、フィードロット業者

イ 徴収代行者(政府に送金):家畜業者、処理加工業者

ウ 政府の徴収担当部署:LRS

エ 課徴金の支出先:MLA、NRS、AHA

オ 監督機関:食肉諮問協議会(Red Meat Advisory Council:業界全
  体の監督機関として政府に対する諮問や業界資産の管理・配分の監
  督を実施)

C 管理運営主体

 肉牛取引課徴金に関する主要な管理はMLAによって扱われる(NRS、AHAによ
って担われる残留物検査や家畜衛生対策を除く)。MLAは、販売促進や研究開
発の計画に関して業界代表団体と協議、検討を行う。

 課徴金によって賄われるMLAの業務の監督については、課徴金の対象である
牧草肥育牛や穀物肥育牛に関する部門を代表する豪州肉牛協議会(CCA)と豪
州フィードロット協会(ALFA)が連帯責任を担う。また、この2団体は、定期
的な資金調達の水準と必要な課徴金収入額の調査・検討も担う。

 なお、自主的な課徴金については、MLAとの共同のプログラムを実施するた
め、処理加工業者はAMPCを通じて、生体家畜輸出業者はライブコープを通じて
拠出金としてMLAに納付する。

D 課徴金の規模

 2001/02年度のMLAの決算によれば、牧草肥育牛からの取引課徴金が3,470万
豪ドル(約26億7千万円)、穀物肥育牛からの課徴金が470万豪ドル(約3億6千
万円)であった。

 研究開発公社の年次報告(Innovating Rural Australia)によれば、2001/
02年度においてMLAは、研究開発費総額4,570万豪ドル(約35億2千万円)に対
して、生産者の課徴金と業界からの拠出金で1,870万豪ドル(約14億4千万円)、
連邦政府から2,289万豪ドル(約17億6千万円)、合計4,159万豪ドル(約32億
円)を受領している。また、NRSの業務報告によれば、2001/02年度の収入に
おいてNRSは170万豪ドル(約1億3千万円)を受領している。ただし、AHAにつ
いては、畜種別の受領額が公表されていないため、肉牛に関する受領額は明ら
かにされていない。

 なお、AMPCを通じた自主的な処理加工業者の課徴金は、2001/02年度におい
て他の畜種を含めて1,390万豪ドル(約10億7千万円)であった(肉牛相当分は
73%)。生体牛輸出業者もまた、自主的な課徴金を実施しており、2001/02年
度においてMLAは、AMPCとライブコープから1,180万豪ドル(約9億1千万円)の
支払いを受けている。

E 課徴金の使途

 肉牛取引課徴金によって集められた資金は、全般的な畜産関係の課徴金同様、
販売促進、研究開発、残留物検査、家畜衛生に使われる。

 MLAの最大の使途は、国内外における販売促進で、羊肉の販売促進を含め年
間4,600万豪ドル(約35億4千万円)に上る。次に大きいのが農場現場における
生産性向上対策で2,300万豪ドル(約17億7千万円)となっている。そのほか、
食肉安全性に関わるプログラムに1,400万豪ドル(約10億8千万円)、情報の収
集・提供プログラムに800万豪ドル(約6億2千万円)と続く。これらのプログ
ラムを通じて、現在、注目を集める全国家畜個体識別制度(NLIS)やミート・
スタンダード・オーストラリア(MSA)、キャトルケアなどの品質保証制度の
推進を図っている。

 MLAの使途以外には、残留物調査と家畜衛生対策があるが、家畜衛生対策と
してAHAで実施されるプログラムは次のとおり。

 一般的なプログラムとしては、動物衛生対策プログラム、獣医師認定プログ
ラム、家畜伝染病サーベイランス、全国動物衛生情報システム、口蹄疫防止対
策があり、特別のプログラムとして、牛結核清浄保証プログラム、動物衛生に
対する全国展開、全国伝達性脳症(TSE)サーベイランス・プログラムがある。


(3)酪農産業

 酪農産業における課徴金制度は、畜産業界の課徴金制度の中でも特徴的であ
る。それは、課徴金の負担者が生産者となる通常の課徴金とは別に、酪農乳業
制度改革の結果として、産業の構造調整に要する経費に充当するため消費者が
負担する特別の課徴金が導入されたためである。

@ 経緯

 酪農産業の課徴金の歴史は豪州の酪農制度の歴史と言っても過言ではない。
その課徴金のルーツは連邦政府が酪農政策の見直しを実施した1986年にさかの
ぼる。同年に発表されたケリン・プランの下、酪農の生産性向上を図り、国際
競争力を高めることを目的として、最終的には価格支持水準を引き下げること
を前提に市場支持交付金制度が導入された。この制度は酪農家から一定の課徴
金を徴収し、それを財源として輸出向け乳製品に係る加工原料乳価格の支持、
言い換えれば乳製品の輸出補助に充当するもので、価格支持の財源を従来の国
の負担から酪農家の負担に切り替えるとともに、酪農産業における本格的な課
徴金導入の最初のものとなった。

 92年にケリン・プランはクリーン・プランに継承されたが、業界が急激な規
制緩和に反対したため、輸出補助率について2000年まで段階的に削減すること
を明記するにとどまった。しかし、93年のガット・ウルグアイ・ラウンド交渉
で、輸出向け乳製品に係る市場支持交付金制度が実質的な輸出補助金とみなさ
れたため、95年からこれを廃止し、新たに国内市場支持交付金制度が導入され
た。その際、課徴金は飲用向け生乳からの課徴金(酪農家負担)と国内向け加
工原料乳からの課徴金(乳業メーカー負担)の2種類に変更された。

 この間、州政府の管轄下にある飲用乳についても規制緩和が段階的に実施さ
れていたが、その後、1986年のケリン・プランの下で始まった連邦政府の酪農
乳業政策の総仕上げとして、2000年6月末をもって酪農乳業制度改革として加
工原料乳、飲用乳とも支持制度が廃止され、生乳取引は用途を問わずすべて自
由市場に委ねられることとなった。

 酪農乳業制度改革を実施するに当たっては大規模な補償措置が講じられたが、
その財源として、消費者によって支払われる飲用乳に対する課徴金が導入され
た。

 従来から課徴金の管理運営についてはADC(豪州酪農庁)が担っていたが、
制度改革は乳製品の一元輸出機能の廃止など産業を代表する組織を合理化し、
より企業的にする要素も合わせ持っていたため、酪農業界団体改正法(Dairy 
Industry Service Reform Bill 2003)により、ADCはDRDC(酪農研究開発公社)
と統合するとともに新たにDA(デイリー・オーストラリア)として民営化され、
2003年7月1日に業務を開始した。

 以上の変遷を経て、現在、酪農産業には2種類の課徴金が存在している。

 1つは生乳課徴金(All Milk Levy)として他の畜産の課徴金制度と同様、
生産者である酪農家によって支払われる課徴金で、販売促進、調査、DAの運営
(旧ADCの運営)、家畜衛生に使用される。もう1つは酪農構造調整課徴金(Da
iry Industry Adjustment Levy)として酪農乳業制度改革に伴う補償措置を消
費者の負担によって賄うものである。

A 規則

ア 生乳課徴金

 この課徴金は2002年に改正された第一次産業(内国)課徴金法 (Primary 
Industries (Excise) Levies Act 1999)に基づく。

 現在の課徴金の徴収額は次のとおり。

○生乳課徴金(All Milk Levy)

資料:AFFA

イ 酪農構造調整課徴金

 この課徴金は、酪農産業構造調整法(Dairy Industry Adjustment Act 2000)
と酪農構造調整課徴金法(Dairy Adjustment Levy(General) Act 2000)の2
つの法律に基づく。この調整金は、酪農乳業制度改革の補償措置として講じら
れた酪農構造調整プログラムの財源を捻出するために設けられた。当初総額17
億豪ドル(約1,309億円)の措置であったが、その後、改革の影響の実態を踏
まえて1億4千万豪ドル(約107億8千万円)が追加措置された。

 この課徴金は、飲用乳の小売価格から1リット当たり11豪セント(約8円)が
徴収される。

B 関係者

 酪農の課徴金の関係者は次のように分類される。

ア 納付者:酪農家、消費者

イ 徴収代行者(政府に送金):処理加工業者

ウ 政府の徴収担当部署:LRS

エ 課徴金の支出先:DA、酪農構造調整委員会(DAA)、AHA

C 管理運営主体

 他の畜産の課徴金同様、AHAなど共通する団体を除けば、DAとDAAの2つの組
織が管理運営主体である。

ア DA

 酪農産業の再構築の一環として、政府は従前の豪州酪農庁(ADC)と酪農研
究開発公社(DRDC)を統合し、DAを設立させた。このDAが従来のADCに引き続
き通常の課徴金を扱う。

 DAは、ADCとDRDCが実施していた販売促進や貿易促進、研究開発などの業務
を行うが、DAは従前の組織と異なり、「課徴金を支払う酪農家のための」組織
という牛肉業界におけるMLAと同様の位置付けとなったことから、DAの会員で
ある酪農家は課徴金額について議決権を有することとなった。

イ DAA
 DAAは、酪農乳業制度改革による酪農家に対する補償措置の支払いを扱うた
めに設立された独立の組織であるが、飲用乳の消費者から集められた課徴金に
関して調達状況や産業から政府に対する払い戻し状況を監督する。

 酪農構造調整課徴金は、当初の計画においてその徴収期間は2008年までの8
年間であったが、現在、追加措置の実施や飲用乳消費の減少を背景に2010年の
第1四半期まで継続することが計画されている。DAAによれば、課徴金徴収が終
了すべき時期に関する勧告を決定するための計画の見直しが2006/07年度に予
定されている。

D 課徴金の規模

ア 生乳課徴金

 ADCの年次報告によれば、ADCは2001/02年度において2,100万豪ドル(約16
億2千万円)の課徴金を受領した。

 また、研究開発公社の年次報告によれば、2001/02年度において酪農関係の
研究開発費総額3,191万豪ドル(約24億6千万円)に対して、酪農業界が課徴金
を含め1,506万豪ドル(約11億6千万円)、連邦政府が1,537万豪ドル(約11億8
千万円)をそれぞれ負担した。加えて、旧DRDCの報告では、調査を賄う課徴金
は1,380万豪ドル(約10億6千万円)の収入があり、それに見合った額として連
邦政府が前述した1,537万豪ドルを分担した。

 なお、AHAについては、畜種別の受領額が公表されていないため、肉牛同様、
受領額は明らかにされていない。

イ 酪農構造調整課徴金

 2001/02年度の構造調整課徴金の結果として、2億1,900万豪ドル(約168億6
千万円)が調達された。

 なお、最近の課徴金収入額の推移は下表のとおり。

 AFFAによれば、2001/02年度の酪農産業の課徴金は総額で2億5,300万豪ドル
(約194億8千万円)が計上された。

○最近の課徴金収入額

資料:AFFA
 注:生乳課徴金の1999/2000年度には2000年6月で廃止された旧制度による
   課徴金を含む。


E 課徴金の使途

ア 生乳課徴金

・ ADC

 2001/02年度においてADCは、輸出促進に530万豪ドル(約4億1千万円)、国
内販売促進に980万豪ドル(約7億5千万円)を支出した。

・ DRDC

 同じくDRDCは、家畜の生産性や農場地域問題、飼料管理などの農場関連のプ
ログラムに1,760万豪ドル(約13億6千万円)、生産性の向上や乳製品需要の改
善など工場関連のプログラムに990万豪ドル(約7億6千万円)、情報関連と戦
略関連の研究開発に合わせて380万豪ドル(約2億9千万円)、合計3,130万豪ド
ル(約24億1千万円)を支出した。

イ 酪農構造調整課徴金

 連邦政府の改革に対する補償措置は、酪農構造調整プログラム(DSAP)とし
て、当初、@すべての生産者に対する酪農構造調整金の支払い、A廃業生産者
に対する廃業補償金の支払い、B特別影響地域に対する総合支援計画─の3つ
の柱で構成された。

 その後、2001年5月に追加酪農支援(SDA)プログラムが実施された。これは、
酪農乳業制度改革後の価格動向によって最も深刻な影響を受けた生産者に対す
る支援を目的としたもので、@飲用向け比率の高い生産者に対する追加補償、
A当初の補償対象とならなかったが改革の影響を大きく受けた者に対する救済、
B地域補償の拡充─を内容とする。

 補償措置の実施に要した金額は、DAAによれば、2002年6月末現在でDSAP計16
億2,620万豪ドル(約1,252億2千万円)、SDA計1億1,110万豪ドル(約85億5千
万円)、DSAP・SDA総計17億3,730万豪ドル(約1,337億7千万円)となっている。
ここで重要なのは、補償措置の中心である酪農構造調整金が8年間にわたる四
半期ごとの分割交付が基本とされたものの、大部分の生産者が一括交付を受け
たため、結果的にこれらの支払いが課徴金の徴収の前に行われることである。
従って、課徴金の徴収は2010年まで徐々に行われ、政府に対する払い戻しが実
施される。

4.課徴金制度をめぐる情勢

(1)政府の課徴金政策

 連邦政府は、第一次産業に対する課徴金について、1980年代に始まった「政
府関与を少なくし業界主導の産業育成を図る」という政策の下、@政府の財政
的な理由、A政府と産業界の協力体制、B産業の利益確保−の観点から制度化
して実施している。

 なお、一般的な政府の財源調達方法として、課徴金は農業部門以外にも広い
範囲に活用されている。政府は農業部門以外では課徴金や特別税を短期間での
資金調達手段として使用している。


(2)関係者の見解

 課徴金の関係者の間にはさまざまな意見が存在する。農業部門においては、
課徴金なしに市場における不振時に対応できないことや、研究開発、販売促進
活動を継続するための財源は不可欠であることから、課徴金による集合的な産
業資金調達は、必要なものとして総論的には受け取られているようにみられる。

 ただし、各論的に、課徴金システムの管理運営をめぐっては、@義務的なも
のか自主的なものか、A徴収に当たって量をベースにするのか価値をベースに
するのか、B公平と公正の確保、C課徴金納付者の定義付け−など様々な議論
が存在する。


(3)課徴金に対する批判的見解

 課徴金徴収よりも、むしろ課徴金の使途について批判的な意見が数多くある。
例えば、牛肉産業の課徴金納付者の中には、MLAの運営にはまだ改善の余地が
あるとの意見を持つものもいる。特に干ばつの進行下における2002年の年次総
会においては、課徴金を原資とする資金の使途について、販売促進活動や研究
開発活動のあり方について議論を踏まえて決定すべきであるなど厳しい批判が
あったようだ。

 さらに、当然の議論として、課徴金は追加コスト負担であり、輸出市場にお
いて豪州産製品の競争力に影響を与えているのではないかということがある。
この反論として、もし課徴金がその部門にとって市場拡大や生産性向上などと
して反映されるなら、総体的な収入として使用される税金とは異なり、目的達
成のための必要なコスト負担であるという意見がある。

 なお、野党第一党である労働党は、小売価格に直接転嫁されるような課徴金
や特別税について問題視しており、ハワード政権が多くの新たな課徴金を事実
上の税金として導入しているとして批判的である。

5.おわりに

 豪州の畜産業界における課徴金は長い歴史を持ち、また、業界の構造改革に
対応した多くの見直しを経て、今日の形にたどり着いた感がある。特に最近に
おいては、課徴金の支出に責任を持つ組織をMLAやDAのように生産者主体で
「民営化」する傾向があり、その中で、「透明性の確保」と「健全な企業の統
治」はカギを握る要素として重要視されている。

 畜産業界における課徴金については、大筋、業界の合意を得て実施されてい
るため、その細部の手法を除き概ね関係者にはあるべきものとの積極的な認識
が多いように見える。ただし、酪農構造調整課徴金については、その負担者が
消費者であるため、農業分野以外で多く活用される特殊目的の課徴金同様、野
党からは何かと批判が多い。

 また、大部分が生産者からの課徴金であるため、その使途も販売促進や研究
開発、衛生対策など最終的に生産者に利益が還元される共通目的を持つ限り、
互助的な資金負担という見方もできる。

 加えて、豪州産製品の海外での認識の向上や、業界主導型の各種の品質保証
制度の開発・普及など課徴金の果たしてきた役割も大きい。

 畜産をはじめとする農業対策に要する資金について、政府の一般歳出は、通
常の行政経費以外には、資源対策や横断的な構造調整対策、干ばつ時の支援対
策などが中心となっている。そのため、仮に将来、政権交代があったとしても、
その他の市場拡大に向けた販売促進、イノベーションに向けた研究開発、バイ
オセキュリティーや食品安全性の確保対策については、部分的には政府の資金
負担もあるものの、業界の合意を得た課徴金を原資として賄われる図式は変わ
らないものと考えられる。むしろ販売促進や研究開発部門での課徴金の活用は、
内外の市場動向に対応するために拡大することも予想される。

参考資料

"Levies Revenue Service Report to Clients 2000-2001"AFFA
"Levies Revenue Service Report to Clients 2001-2002"AFFA
"Innovating Rural Australia 2002"AFFA
"Australian Dairy Industry in Focus 2002"ADC
"Feedback-July 2003"MLA
そのほか、AFFAホームページ http://www.affa.gov.au/ など

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