ブラジルにおける人工授精の現状


精液販売が20年で5倍以上増加

 ブラジル人工授精協会(ASBIA)によれば、牛の精液販売は20年間で順調
に増加し、5倍以上となった。

 人工授精用ストローの販売本数は20年前の1982年は約128万本であったが、
2002年には約708万本となっている。このうち国産は1980年代には8割以上
を占めていたが、93年に78%と初めて8割を切り、98年の52%を底に、20
02年には7割まで回復した。この背景には、1999年の変動相場制への移行に
よる実質的な通貨切り下げで輸入品の価格が上昇したことや、ブラジルの気候
に順応し、育種改良されてきた牛の精液が再認識されたことがある。(表1)

ネローレ種の精液利用が特に増加

 また、肉用牛および乳用牛別の精液販売を見ると、輸入精液の販売数が最高
の281万本であった1998年からの5年間で、乳用牛の改良にはホルスタイン
種(平均約170万本)を中心に毎年230〜260万本が使われ、そのうち国産精
液が30〜40%を占めている。一方、肉用牛は、5年間で輸入精液が4割強減少
し、国産精液は約8割増えている。以上から近年の精液販売の増加は肉用牛、
中でも国産精液が主要因であることがわかる(表2)。

 以前から肉用牛の精液で一番多く使われていたのはネローレ種であるが、1
998年における順位は、1位ネローレ種23.8%(79万本)、2位レッドアンガ
ス種20.1%(66万本)、3位リムジン種13.3%(44万本)となっており、肉
質改良のためヨーロッパ品種の割合も多かった。しかし、2002年には1位の
ネローレ種が37.4%(176万本)を占め、2位レッドアンガス種の13.6%(6
4万本)をはるかにしのぎ、強い耐暑性などの特性を持つブラジルの気候にあ
ったネローレ種精液の利用傾向がさらに強まったと言える。

人工授精率はまだまだ低率

 ASBIAは、「人工授精は品質や生産性の向上、疾病のコントロールに期待
され、最近の増加はブームと呼べる状態にある」と評価している。また、ブラ
ジル農牧研究公社(EMBRAPA)によれば、ブラジルには肉用繁殖雌牛3,800
万頭、乳用牛1,700万頭が存在しているが、それらの10%以下にしか人工授
精がなされていない状況であると報告しており、今後のこの部門の成長には、
まだまだ余地があるようである。

表1ブラジルの人工授精用精液の販売本数の推移
 

表2ブラジルの精液販売本数(肉用牛、乳用牛別)



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