豪州で検疫政策に対する豚肉業界の提訴方針をめぐり論議


農畜産業界はAPLの提訴方針に懸念

 豚肉業界団体であるオーストラリアン・ポーク・リミテッド(APL)が連邦政府の豚肉製品の輸入規制緩和について連邦裁判所に提訴する方針を決定したことに対して、他の農畜産業団体では、この試みが成功した場合、豪州の検疫政策に対する否定的な行動の前例となる可能性があると懸念を表している。

 APLの提訴方針は、連邦政府農漁林業省が傘下のリスク分析機関バイオセキュリティー・オーストラリア(BA)の豚肉製品輸入に関するリスク分析報告書を承認すると発表したことに対して、離乳後多臓器性発育不良症候群(PMWS)などの疾病のまん延を招きかねないとして5月24日に発表されたものである(「海外駐在員情報」通巻第616号・第627号参照)。

NFFは政府決定を支持か

 農業団体である全国農業者連盟(NFF)では、検疫家畜衛生特別委員会でこの問題が検討されているが、この委員会にNFFの科学技術アドバイザーであるシャノン博士によるBAの分析結果を評価したレポートが提出された(シャノンレポート:NFFの内部資料として非公開)。

 シャノンレポートでは、(1)厳格な加工・調理などの方法による新たな規則は、疾病の侵入リスクが極めて低いことを表し、豪州の適切な検疫水準に合致していることを保証するものと評価するとともに、(2)世界貿易機関(WTO)協定上における論争の可能性についても警告しているとされる。結果的にこのレポートは、さまざまな予防措置の下で豪州により広範な国々からの豚肉輸出を認めるというBAの決定を強く支持し、APLの新たな豚の疾病リスクに対する懸念に対して反論するものである。

 NFFは6月21日の会議でこのレポートを検討し、科学的な見地の枠組みの中において検疫問題を解決することを確認した模様で、同23日にBAの分析を支持することを発表している。

牛肉、酪農業界ともAPLに批判的

 牛肉業界関係者の間では、「APLの提訴が実行された場合、今後、すべての産業が検疫規則に対して同様の行動をとる危険性がある」との声が多いとされる。また、NFFの特別委員会の議長を務めるアダムス豪州肉牛協議会(CCA)理事長は、APLの方針に対してはコメントしていないが、シャノンレポートに対して、「BAの分析が(1)適切な科学的知見と輸入リスク分析方法に基づき行われ、(2)疾病侵入の認めがたいリスクがないことを評価している」と客観的な立場ながらも肯定的なコメントを与えていた。

 一方、酪農乳業界も、APLの提訴方針に対して豪州の検疫制度の信頼に対して潜在的なダメージを与える可能性があると懸念を表しているが、その中でAPLの行動に対する乳業最大手マレーゴールバン社による次のようなコメントが報道された。

 (1) 疾病の脅威のような検疫問題に対して海外の顧客は国内市場を守るために使われる便法とみる可能性が高いため、豪州にとって重要な輸出市場を脅す。

 (2) 貿易相手国からの報復の危険性もあり得るため、豪州産製品のすべての輸出業者が豚肉業界や市場を失う危険性に対して反対することを望む。

 牛肉、乳製品はともに純輸出産品と言え、輸出入の両面を持つ豚肉業界と立場は異なり、また、米国とのFTA合意の影響なども色濃く表れている。

APLは他の農業部門と連携へ

 当然ながらAPLは、NFFに対してAPLの立場を支持するよう強く主張している。ただし、APLのヒンギス会長は、シャノンレポートに対して賛同できない部分があるとともに、多くの科学的な意見の1つでしかないとした上で、「APLは、BAのリスク分析全体に対する厳正中立な見直しを必要としており、このために提訴しなければならないのは残念である」と述べている。

 2月に豚肉と同時に発表された他の産品の輸入リスク分析報告書については、フィリピン産バナナについてはBAの分析の一部に誤りがあったため改訂版に対する異議申し立てを受付中、ニュージーランド産リンゴについては異議申し立てが6月23日に締め切られた。

 ヒンギス会長は6月1日、現在豚肉業界と同様にBAの分析結果に反対活動を行っているリンゴ・洋ナシ業界を支持する声明を発表した。


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