特別レポート

各国(地域)の自由貿易協定(FTA)における畜産物の例外品目について

調査情報部調査情報第一課


1.はじめに

 世界貿易機関(WTO)では、どの国に対しても同様の条件で関税など通商規則を定めること(最恵国待遇)が原則であり、 関税削減等市場アクセスをはじめ国内支持、輸出規律について交渉を行う。しかし、2005年1月を交渉期限とする農業分野の交渉は、 2000年3月に開始されて3年半が過ぎたにもかかわらず、未だに農業モダリティを確立できず、米国と欧州による共同提案も出されたが、 発展途上国の抵抗など多くの問題を抱えて平行線のまま未だ終結を見ない混とんとした状況となっている。

 一方、自由貿易協定(FTA:Free Trade Agreement)は、協定構成国のみを対象として、排他的に関税の撤廃等(特恵待遇)を実施する仕組みなので、 GATT第24条により、構成国間の「実質上すべて」の貿易について関税や制限的通商規則を廃止することを条件に、 WTOの基本原則である最恵国待遇の例外扱いとすることが認められている。同条の解釈に係るWTO加盟国の共通了解事項として、 関税等の撤廃は原則として10年以内に行われることとされている。

 ただし、同条の「実質上すべて」については明確な国際基準が存在しないこともあり、既存のFTAには農畜産物をはじめとする例外品目 (除外品目や再協議(先送り)品目)が設けられている。

 WTOに通報されたFTAは、WTO農業交渉の先行きが不透明の中、1990年に30、2002年に179と増加している。今回は、既に締結済みのFTAの中で、 畜産物にスポットを当てて、協定の例外品目の取り扱いを報告する。







○ 自由貿易協定の数は急速に増加。協定の内容は関税の撤廃だけでなく、サービス貿易、投資の自由化、 人材育成等を含む包括的なものに変化。
○ 農産物については、関税撤廃の除外品目、関税撤廃までの経過期間の設定等といった柔軟性を持った取扱いが行われている。




2.米国-ワシントン駐在員事務所   犬飼 史郎、道免 昭仁

1 米国のFTAにおける例外品目の現状

 米国は、1985年に発効したイスラエルとの自由貿易協定をはじめとし、カナダ(1989年発効)、 北米自由貿易協定(NAFTA、1994年発効)、ヨルダン(2001年発効)、シンガポール(2003年5月調印)、チリ(2003年6月調印) と6つのFTAを結んでいる。今回は、発効から10年目を迎え、その後米国のFTA交渉の模範とされてきたNAFTAのうち米墨合意を中心に、 また、本年合意に至った米・チリFTAについて取り上げ、畜産物に関する経過措置の合意内容等を概説する。

(1)NAFTA
 NAFTAのうち農畜産物部分は、それぞれの国の異なる事情を反映し、3つの2国間協定により構成される。基本的には、 すべての関税、関税割当(TRQ)を15年間で完全撤廃することとされている。米国・メキシコ間では畜産物の例外品目はないが、 カナダ・メキシコ間では、鶏肉、七面鳥肉および乳製品が自由貿易協定の対象外とされている。 米国・メキシコ間での関税撤廃までの間の経過措置は、次のように定められている。




(2)米・チリFTA
 本年6月に調印された米・チリFTAは、前月に調印された米・シンガポールFTAとは異なり農産品の貿易に直結するものである。 このため、例外品目はないが両国ともに畜産物について経過措置を設けるとともに、鶏肉の動物検疫問題については、 引き続き問題解決を図っていくこととされている。




2 除外品目および再協議に至った経緯

 NAFTAにおいて、カナダ・メキシコ間のFTAでは乳製品、鶏肉・七面鳥肉を合意の対象から除外している。これは、 カナダにおいては乳および鶏についてクオーター制度による国内生産調整を行っているところであり、 これらの品目をFTAの対象品目としてしまうと国内政策そのものが機能しなくなる恐れがあったからである。 また、今後もこれらの製品がFTAの対象に追加される見込みはないとされる。

 次に、米国の乳製品を例に取ると、NAFTAそのものは既存の国内支持や規格を維持することを認める内容ではあったが、 関税や輸入ライセンス制の廃止に伴い、米・墨間での乳製品貿易への影響を双方の業界が懸念したことから3つの措置が講じられた。 まず一つ目は1の(1)の(1)で紹介した関税上の経過措置である。2つ目は、動植物検疫措置である。メキシコ産の乳製品は米国における基準 (例えばA級低温殺菌乳の基準)を満たさない限り輸入が認められない。3つ目は原産地規則である。原産地規則を厳格に定めることにより、 メキシコが第三国からの乳製品の輸入経由地と化すことが防止されている。

 また、米・チリFTAでは、チリ国内での米国の牛肉の規格の取り扱いが論点の一つとなり、 最終的にはチリ側が米国の規格を例外的に同等なものとして認めることで妥協した。ただし、鶏肉の動植物検疫問題については合意に至らず、 今後も話し合いを継続することとなった。米国がチリとのFTAで除外品目を設けなかった背景には、 交渉途上にあるFTAA等において交渉相手国に例外品目を認めないとの方針を明確にする意図もあったとされる。

 FTAというと関税の撤廃に目が向けられるが、実際には、動植物検疫、表示、規格等の非関税障壁に関する問題の解決も必要となる。

3 問題点等

 本年はNAFTA発効から10年目に当たり、10月には3国の通商担当者がカナダのモントリオールに会し10周年を祝う共同声明を発表するなど、 対外的には自由貿易推進の成功例として誇示されるNAFTAであるが、これまでの10年の道のりは決して平坦なものではなかった。カナダの乳製品、 鶏肉、鶏卵に関する高関税賦課に関するNAFTA紛争処理、相次ぐダンピング防止税賦課、カナダの乳製品に関するWTO紛争処理等、 畜産物に関する数多くの貿易問題に直面してきた。特に、米・墨間では、 米国側はNAFTAによりメキシコの不透明な運用がなされていたライセンス制度を撤廃できたことに大きな意義があったと考えられる。 しかし、関税の撤廃が実施される10年目を向かえ、豚肉や鶏肉について米国からの輸入増に悩むメキシコの生産者の強い反発もあり、 豚肉のアンチダンピング調査開始や鶏肉のSG発動が行われるなど、合意時に先送りした課題がもたらす問題にも直面している。

4 今後の交渉予定と進捗状況等

 米国は、現在、FTAA(2005年目標)、中米5カ国(2003年目標)、モロッコ(2003年目標)、豪州(2003年目標)、 南部アフリカ関税同盟諸国(2004年目標)の5つのFTA交渉を開始している。この他、ASEAN、 中東諸国とのFTA協議に向けた準備が進められているとともに、タイやドミニカ共和国とのFTA交渉の開始が公表された。

 FTA政策の推進による自由貿易の伸展とWTO交渉の加速を目指す米国であるが、農産品、 特に畜産物の中のセンシティブ品目に例外的な経過措置を設け激変緩和を図るなどの対策が採られてきている。

 最近、肉用牛生産者・牛肉協会(NCBA)は米・豪FTAに対する反対の語気を弱め、米・豪FTAにより生ずる不利益を、 例えば韓国の更なる市場開放を進めることにより調整を図ることを求めている。この背景には、WTO交渉の先行きが不透明な状況において、 更なる市場アクセスの改善を得るためにはFTAが有効であり、総合的な米国のFTA政策を進める上で、また、 他の産業との関係から自己に利益がなくても、FTAについて単に反対のみを表明することが困難な状況にあることが挙げられる。 しかし、複数のFTAが合意される状況では、個々のFTAにおいて個別品目に経過措置を講ずるという従来からの手法に加え、 総合的なFTA政策の中で利益を得ていくという新たな発想が生まれてきたことは注目に値する。


3 EU-ブリュッセル駐在員事務所   関 将弘、山  良人

1 EUのFTAにおける例外品目の現状

 EUは、これまで1973年に発効したスイスおよびリヒテンシュタインとのFTAをはじめ、約30の国・地域との間でFTAを結んでおり、 いわばFTAの先進地域であると言える。協定の締結相手国は、スイスやノルウェーといった歴史的・物理的にかかわりが深いEUの近隣国をはじめ、 2004年にEUに加盟が予定されている国、今後加盟交渉が行われる国などが中心となっており、さらには中近東や地中海沿岸地域の国、 南アフリカやメキシコである。主な国とのFTAについて見ると、品目の指定などに違いはあるものの、 いずれにおいてもEUにとって重要な農産物については、関税撤廃の対象とはしていないことが特徴の一つであると言える。

 EUがFTAを締結している相手国のうち、メキシコについては日本もFTAの締結を目指している国の一つであるが、 ここではEUとメキシコのFTAについてその概要を見てみる。

 EUとメキシコのFTAの締結に向けた交渉は、2000年3月23日の「ECとメキシコの合同理事会決定No2/2000(2000/415/EC)」に取りまとめられ、 EUとメキシコのFTAは2000年7月1日に発効した。

 EUとメキシコによるFTAにおいては、 ・工業製品については、EUは2003年1月1日まで、メキシコは2007年1月1日までにすべての工業製品を関税撤廃する。 ・農産物については、2010年までにEUが輸入するものの80%、メキシコが輸入するものの42%を関税撤廃する。 などとしている。

 EUにとってメキシコは、ラテンアメリカにおいて従来から貿易上の重要な国の一つであり、メキシコにとってEUは、 米国に次ぐ貿易相手国となっていた。しかし、メキシコが1994年発効した北米自由貿易協定(NAFTA)に加盟したことにより、 メキシコの貿易に占めるEUのシェアが低下していた。このような中、この低下傾向に歯止めをかけるため、EUはメキシコとのFTAの締結に取り組んだ。

 このFTAの締結は、EUにとっては、EU産の工業製品が、米国、カナダおよびメキシコにより作られたNAFTA地域の市場へ、 NAFTA加盟国と同等の条件でアクセスすることができることとなったことなどの意義があるものである。

 メキシコにとっては、貿易における米国の割合が非常に高い状況にあるが、FTAの締結により米国以外の貿易相手国を確保し、 貿易相手国を多様化することが可能となるなどの意義を持つものである。

 なお、交渉において最も困難な分野は、工業製品についての市場アクセスをどのようにするかであった。これは、 EUがNAFTAと同等の条件を求めたためであった。一方、農産物については、EUとメキシコの貿易のわずかな割合を占めるに過ぎないことから、 他の分野に比べ交渉の争点とはならなかった。

○ 関税削減のスケジュールと例外品目について

(1)関税削減のスケジュール
 EUとメキシコのFTAにおいて、農産物に係る関税については、お互い最長10年間の期間を設けて削減することとなっている。

 相手国産の農産物に係る関税の削減スケジュールについては、EUまたはメキシコがその農産物の重要度をもとに分類しており、 その内容は以下のとおりとなっている。なお、表中の品目は、EUがそれぞれのカテゴリーに分類している畜産物の例示である。

注:当初の関税率は、主なものの例示であり、実施はHSコード別に規定されている。

(2)例外品目
 一方、この協定締結の際には、関税の削減スケジュールなどを決めず、一定の期間(協定発効3年)以内(2003年まで) に再度検討することとしているものがあり、これらをカテゴリー5に分類している。

 EUが「再協議品目」と規定しているメキシコ産の畜産物は、生きたウシ科の動物(繁殖用純粋種を除く。)(関税分類番号010290)、 牛肉(同0201、0202)、牛肉加工品(同021020)、豚肉(同0203)、豚肉加工品(同021011から021019)、家きん肉(同0207)、 乳製品(同0401から0406)のほとんどのものがこの「再協議品目」に分類されている。

 メキシコが輸入するEU産農産物に係る関税の削減スケジュールの分類もEUと同じである。また、EUの場合と同様に、再協議品目を設定しており、 畜産物ではうさぎの肉やかえるの脚などを除くほぼすべての食肉、ほぼすべての乳製品、 家きんの卵といった具合にほぼすべての畜産物を再協議品目としている。

 また、EUにおいては、低率の関税(一般の場合の半分)を適用する枠を設けるもの(カテゴリー6)(乾燥卵黄など)や、 加工農産物のうち原料となる農産物への関税の削減状況などに応じて関税の削減を決めるもの(カテゴリー7)(ヨーグルトの一部)もあるが、 メキシコ側もEUと同様にカテゴリー6および7といった分類はあるが、区分に分類している畜産物はない。

2 除外品目および再協議に至った経緯

 EUは、EUの共通農業政策(CAP)上重要な作物や畜産物を再協議品目である「カテゴリー5」に分類している。 これは、CAP上重要な作物については、一般的に価格競争力に乏しいものであり、これらの作物等に係る国境措置を撤廃することは、 地域内におけるこれらの農産物の生産に多大な影響を及ぼすこととなると考えたためと考えられる。また、国境措置を撤廃した上で、 域内の農業生産を維持するためには、CAPの大幅な変更をすることが不可欠となるが、CAPの大幅な変更を行う考えが当時なかったためと考えられる。

3 問題点等

 EUとメキシコのFTAにおいては、先述のように、畜産物の多くのものを再協議品目とした。このため、EU域内の関係者からの反発はなかった。

4 今後の交渉予定と進捗状況等

 EUは南米南部共同市場(MERCOSUR)諸国(ウルグアイ、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ) とのFTAの締結に向けた交渉を1999年から始めており、これまでに10回を超える交渉が行われてきた。今後は, 2004年10月の閣僚レベルでの交渉に向けて、市場アクセスについての議論などを精力的に行う予定となっている。

 さらに、EUは中東の湾岸協力会議(バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦) との貿易拡大を目的とした交渉を1990年から行っているが、湾岸協力会議側の準備不足等から交渉が進んでいない状況にあり、 湾岸協力会議における共通の関税機構の準備等が必要であることなどから、EUが湾岸協力会議とFTAを締結するためには、 今後さらに数年はかかる模様である。

4 オセアニア-シドニー駐在員事務所   粂川 俊一、井上 敦司

1 豪州のFTAにおける例外品目の現状

 現在までのところ、豪州はパプアニューギニアとの通商連携(TCR)協定、ニュージーランド(NZ)との経済緊密化(CER)協定、 シンガポールとのFTAを締結している。その中でもNZとのCER協定は、両国間の歴史的な生い立ちを含めた政治経済関係から重要な協定と認識されている。 その歴史も長く、今年(2003年)は発効から20年という節目の年でもあった。

 現状において、豪州・NZCER協定における畜産物に関する例外品目はないが、参考まで当初の協定の概略を記す。

○ 豪州・NZCER協定:1982年調印、1983年発効

基本事項

1 二国間で貿易されるすべての商品について、1988年1月1日までに事実上すべての関税を撤廃すること
2 5%またはそれ以下にすべての商品の関税を即時撤廃すること
3 協定締結当初から5年間、合意された方式によって関税を段階的に削減すること
4 関税枠や数量制限を増加させないこと
5 数量制限を1995年までに段階的に廃止すること
6 両国間における貿易品目上の補助金や奨励金を1987年7月までに廃止すること

例外事項

 原則的にすべての製品、サービスは対象となることが合意されたが、関税や数量制限の撤廃等が免除されるなどの一般原則の例外も設けられた。 例外が設けられたのは、豪州、NZそれぞれの政府による既存の産業計画の対象となっていた物品 (衣料品、自動車、たばこ、家具、鉄鋼、ゴム製品、電子機器、衛生陶器など)やラジオ・テレビ放送、郵便サービス、沿岸海運・船内荷役、 テレコミュニケーション、健康・第三者保険、空港管理、航空管制などである。

2 除外品目および再協議に至った背景

 豪州・NZCER協定において、農産物は、ほとんどの品目で関税や数量制限が撤廃されたが、一部の品目についてこの協定の一般原則を 緩和する例外措置が設けられている。協定締結当初においては、畜産物では除外品目扱いではないが、乳製品について例外措置が設けられていた。

 CER協定が実施される以前から、豪州の酪農業界はNZとの乳製品の自由貿易について懸念を抱くとともに、 より効率的であるとされていたNZとの競争を余儀なくさせられることになる自由化に強く反対していた。したがって、 この協定で影響を受ける産業の一つとして酪農業界が予想されていた。

 そのため、両国の酪農産業界は協議のための委員会を設置し、乳製品貿易の取り扱いについて交渉が行われ、 両国の当該産業は協定の付属書として覚書を締結し、おおむねCER協定の規定内で事業を行うことで合意した。

 この覚書において、協議のための委員会が両国の酪農政策に関する情報交換の場として定期的に開催されることや、 協定で規定されるSG措置を移行期間に適用することができる旨が明文化された。

 このSG措置については、両国の産業の混乱を防ぐことから、CER協定の総則において規定されたが、 乳製品のようなセンシティブ品目については、NZからの輸入急増に備え、覚書の中でも相互に認識する必要があった。 この救済措置が設けられたことから既存の割当枠や関税はCER協定に基づき廃止され、関税はゼロにまで引き下げられることとなった。

 1988年のCER協定の見直しにおいて、1990年までにすべての商品は関税ゼロになるよう、 当初の計画より早くこの協定の積極的な展開と前進を図るため、協定のすべての付属書に関する交渉が行われた。 乳製品の協定の付属書(覚書)も廃止され、1990年からCER協定の規定に基づくことになった。

 以上のように豪州・NZCER協定において、乳製品貿易は、1983年から1990年までの間、 協定に付随した覚書に定められた事項に基づき実施されていた。

セーフガード措置

 移行期間においては、協定の第17条でセーフガード(SG)措置が規定された。ただし、 最後の手段としてのみSG措置を実施することができることとなっている。国内産業を脅かしたり、 深刻な実質的損害が生じるまで輸入量が増加した場合には、両国間の協議を要請することができる。 要請を受けたときは、SG措置の適用を回避するため双方の条件を満たす解決策を求めて協議を行い、 双方の条件を満たす形での意見の一致が見られない場合、国内産業が脅かされている側の国は、調査や報告、 適切な措置の提案を求めるために産業諮問機関へ当該問題を付託するものとなっている。

3 効果

 このように、2国間だけでなく多国間交渉でもセンシティブ品目として扱われることが多い乳製品については、 豪州・NZCER協定でも特別の配慮がなされた。

 この間に豪州では、1986年に当時のケリン第一次産業大臣によって国際競争力の強化を図るべくケリン・プランが策定された。 その後、クリーン・プランを経て、最終的な規制緩和政策の仕上げとして2000年に酪農乳業改革が実施され、 豪州の酪農乳業界では今日まで相当な合理化が行われた。

 規制緩和を成し遂げた豪州の業界関係者は、現時点では豪州・NZCER協定について、 世界で最も効率的なNZの酪農乳業との競争が豪州酪農乳業の成長の一因であると総じて積極的な評価を行っている。 結果論ではあるが、ケリン・プラン策定のタイミングとの相関から考えると、 一定期間の例外措置の導入が豪州といえども効果的な役割を果たしたとも言える。

4 今後の交渉予定と進捗状況等

 豪州のFTAについては、前述したもののほか、タイとのFTAが2003年10月に合意し2004年締結予定となっているほか、 米国とのFTAが現在交渉中という状況である。

 タイとのFTA合意において、畜産物では乳製品と牛肉が豪州側の恩恵を受ける製品として挙げられており、 中でも酪農業界は歓迎の意を表明している。ただし、全国農業者連盟(NFF) は両品目に代表されるセンシティブな農産物が除外されなかったことを評価する一方、 両品目の関税撤廃期間が長期にわたることについて失望したとコメントしている。

 注目を集める米国とのFTA交渉については、2002年11月に交渉開始が合意され、2003年3月から現在まで5回の会合が実施された。 交渉開始に至るまでも、米国側から豪州の検疫措置などについて問題視されるなど懸念材料もあったが、 特に農業分野については市場アクセス改善に期待感が強く、総じて豪州側は米国とのFTAに向けて積極的な業界が多かった。

 米国とのFTAに関しては、豪州国内で次の利害得失正反対の調査分析レポートが存在する。

(1) 民間調査機関の国際経済センターが豪州連邦政府から委託されて2001年に発表した「豪州・米国自由貿易圏による経済的影響」レポート

・ 総じて両国に積極的な経済効果があり、第3国にとっても市場機会の創設につながる。
・ 大きな利益が見込まれる農産物としては、乳製品、砂糖、牛肉、ワインなどが挙げられており、 乳製品については、関税割当制度や関税の廃止で豪州産乳製品に対する需要が354%も増加する。
・ 一方、その影響で豪州産乳製品がアジアから米国市場にシフトした分の輸出の幾つかをNZが獲得する。

(2) 民間コンサルタント会社ACILが地域産業研究開発公社(RIRDC)から委託されて2003年に発表した 「豪州・米国自由貿易圏構想における豪州農業展望」レポート

・ 豪州連邦政府が年間40億豪ドルの利益増を主張しているのとは逆に、経済的には赤字をもたらす。
・ 要求の少ない米国が交渉の主導権を握り、農業分野がほぼ除外されるといった条件が明らかになれば、豪米関係は改善するどころか悪化する。
・ 日本と中国からの反発も予想され、豪州の米自動車、服飾産業に対する優遇措置に不満を持った両国が、 豪州産の牛肉や羊毛の輸入制限を行う可能性も考えられる。
・ 輸出先として55%を占める東アジア諸国と10%の米国との比較上の観点から、 米国とのFTAにより豪州がアジア圏の自由貿易構想から除かれる恐れがある。

 このほか、最近の報道によれば、国際通貨基金(IMF)の研究者による調査で、豪米間の関税障壁が撤廃された場合、豪州からは、 穀物、食肉、乳製品を中心に輸出額が増加し、米国からの輸入も増加するが、日本などからの輸入が減少し、 結果として豪州の国内総生産(GDP)は0.03%減少するため、豪・米FTAは豪州経済にとってマイナスの影響がある旨レポートされた。 なお、米国経済に対する影響はほとんどないという。偶然かもしれないが、 構想段階から交渉段階にかけて時間が経過するほど豪州にとってあまり成果がないのではないかというような 分析結果が目立つようになってきている。

 10月下旬、ブッシュ大統領の訪豪で年内合意に向けた加速がついたとされているが、同大統領とハワード首相の非公式会談において、 米国の農産物の関税について数年にわたり徐々に削減する段階的実施の可能性について話し合われたとの報道もされている。

 しかし、ハワード首相は最近の発言において、米国が農業分野で大幅な譲歩に同意しない限り協定を締結しないことを強調しており、 12月第1週に最終といわれた5回目の会合が開催されたが、合意には達していない。


5 東南アジア諸国-シンガポール駐在員事務所   斎藤 孝宏、木田 秀一郎

1 アセアン諸国のFTAと畜産物例外品目の現状

 アセアン(東南アジア諸国連合)は東南アジアの10カ国からなる地域の経済発展等を目的にした連合であり、 この国家グループとして諸外国とのFTA締結を目指し、既に中国、インド、日本等との間にFTA締結の準備が進められている。 特に中国とはアセアンが原加盟6カ国と新加盟4カ国とに分かれて対応し、 それぞれ2010年と2015年までにFTAを実現させる枠組み協定の署名がなされている。 しかし、域外諸国との貿易対応に関しては個別国ベースで大きな格差があり、現時点では各国ごとのFTAが推進されているのが実情である。

 このような中、シンガポールとタイが他のアセアン諸国に先駆けてFTAを推進している。その他のアセアン諸国においては、 マレーシア、フィリピンおよびインドネシアがFTAを進めようとしているが、未だどこの国とも合意に至っていない。

(1) シンガポール
シンガポールは、既に日本をはじめ米国、豪州とFTAを締結している。特に、農業分野でのセンシティブ品目がなく、 多くの農業人口を抱える他のメンバー国よりFTAに積極的に対応できる立場にある。つまり、ほとんど農畜産業の存在しないシンガポールにおいては、 FTAを推進する上で、農畜産物の例外品目の設定を必要としない。

(2)タイ
 FTAの実施を強力に推し進めているタイに関しては、中国(中国-アセアンFTAの構成国として)、インド、バーレーン、 豪州およびペルーとFTAの枠組み合意がなされており、FTA実施に合意していると同時に一部の品目に関してアーリーハーベスト (関税撤廃の前倒し)を実施している。

 特にタイと豪州のFTAに関しては、食肉および乳製品の関税の引下げおよび撤廃の時期を規定しており、 現時点においては実質的にセンシティブ品目扱いとなっている。

 なお、タイは中国との枠組み合意の中でアーリーハーベストとして野菜および果物について自由化を行っている (HSコード(2桁)分類の1〜8類に関してアーリーハーベストの対象としていたが、 その中でも7類の野菜と8類の果物ナッツに関して10月から関税を撤廃した。)が、 畜産等他の品目に関しては特に例外規定を設定しておらず、現時点においては、 アーリーハーベストの実施期限である2006年が到来すればタイとの間において農林水産品目8分野すべての品目で関税の撤廃がなされることとなっている。

 タイは国内に多くの農業人口を抱えるものの、FTAを戦略的にとらえ、(1)自由化の波に乗り遅れない(2)FTAによる競争促進効果を国内産業の構造改革につなげる (3)FTAによる輸出拡大を図る-などの方針の下、FTAに積極的に対応するよう政策的に展開している。 同国のFTAを利用して国内産業の構造改革を進める手法は、十分な国内コンセンサスを得た上で行動を起こすことを重要視するわが国とは異なり、 現政権の強力なリーダーシップ(下院の500議席のうち7割以上を与党が占める)を背景になされている。 これはタイ国内の投資環境の改善を国際的にアピールすることによって海外からの直接投資を増加させ、 それを経済発展の原動力としようとする政策に合致するものである。

2 タイの豪州とのFTAの例外品目

 FTAに関する畜産物例外品目の設定状況の調査を行うに当たり、国内に多くの農業人口を抱える多くのアセアン諸国が、 他の農業大国に対してどのように例外品目を設定しているのか、参考事例として、タイ・豪州間のFTAを取り上げることとする。

(1)実質的な例外品目
 タイと豪州間とのFTAについては、2004年の前半に署名を行い、発効を2005年とし、 それぞれの品目に関して一定期間をおいて関税を引き下げ、最終的には関税を撤廃するというものである。 つまり、厳密に言えば、FTAが発効した時点で関税の撤廃がなされていないものは、実質上の例外品目として規定することも可能であるが、 関税撤廃の時期は明示されているので、各品目における関税撤廃までの期間等により、何がタイにとってセンシティブ品目なのか判断できる。

  農業分野における主な品目の関税撤廃の期限は次の表の通りであり、ここでは、WTO加盟国の共通了解事項としての 「原則10年以内の関税等の撤廃」を超えた期限が設定されている牛肉、牛内臓、 豚肉および脱脂粉乳等加工乳製品が実質例外品目相当として扱うこととする。


○ 豪州産畜産物に対するタイの輸入関税
http://www.dfat.gov.au/trade/negotiations/goods_outcome_benefits_031003.htmlから作成

(2)実質的例外品目に至った背景
 先に述べたように、タイはFTAを戦略的に位置付けることにより自国の経済全体を発展させること目的としているものの、 FTAの相手国の中でも豪州は農業大国であり、急激な畜産物の国境措置の撤廃は、 小規模農家が多く存在するタイにとって非常に大きな打撃を与えることとなる。

  特に肉牛、乳牛および豚を飼養する小規模農家にとっての影響は大きく、直ちにこれらの関連品目である牛肉、 豚肉および乳製品の関税を撤廃した場合には、農業経営が存続できない状況も容易に想定される。

(3) 問題点等
 FTAに対する政府機関および関係業界団体の反応は次のとおりである。

(1) 農業組合省農業経済局等
 農業組合省農業経済局の担当者は、関税撤廃までのスピードが速ければ、その影響は小規模の生産者のみならず大規模生産者にも及ぶので、 関税の削減は慎重に行う必要があることを認識している。一方、 生産者は生産物への付加価値を高めることによって競争力を持つことを期待しているが、 米国のような競争力を持つ国には及ばないとし、非関税障壁の問題も大きいとしている。
また、別の政府関係者は、FTAの実施により飼料等の原材料コストの引き下げがなされることにより、 生産コスト全体の引き下げに働くとの見方も示している。

(2) タイブロイラー加工輸出協会
 大手ブロイラー企業の団体である本協会は、タイのブロイラー産業は他の米国やブラジルの輸出国と比べると規模的に小さく、 飼料の一部を輸入に依存しているため生産コスト上の競争力は乏しいが、付加価値と生産性によって競争している。今後、 FTAの拡大により米国との競争にさらされるが、米国企業には、生産と輸出振興への補助がなされており、競争上の公平性に欠ける。 また、米国は衛生問題を理由にタイのブロイラーを拒絶している。タイ政府は、FTAの交渉について、 関税や輸入枠の撤廃のタイミングだけを考えるのではなく、非関税障壁に関しても検討してもらいたい。 タイは米国から大量の飼料原料やワクチンを輸入しており、タイのブロイラー産業が衰退した場合、それらの輸入が減少することを考え、 双方にメリットのある関係を築くべきであるとしている。

(3) 政府系乳業企業関係者
 政府系乳業企業関係者は、タイと豪州のFTAによって小規模の酪農家には悪影響が出て転職を余儀なくされることとなる。 タイの多くの酪農家の規模は小さく、収益性も非常に低い一方、豪州の乳業は生産量、 生産性の高い経営そして安価な飼料価格によりタイの乳業をはるかに超えており、競争する状況ではなく、 小規模畜産農家は安い輸入原料で生産を行う食品加工業で働かざるを得なくなるのではないかと、状況を厳しく認識している。


6 南米-ブエノスアイレス駐在員事務所   犬塚 明伸、玉井 明雄

1 メルコスル(南米南部共同市場)における例外品目の現状

(1)メルコスル域内の例外品目
 メルコスル(MERCOSUR(西語)、MERCOSUL(葡語)。以下同順で記載。)は、1995年1月に関税同盟として発足し、 アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、ブラジルの4カ国が加盟する。事務局本部はウルグアイの首都モンテビデオにある。

 協定の主な内容としては、(1)加盟国間の関税廃止(2)加盟国以外から輸入される品目に対する対外共通関税(AEC、TEC。以下略称はAECとする。) の設定(3)地域外の諸国や諸地域に対する共通貿易政策の採用(4)加盟国の法制度の調和-などとなっている。

 組織構成は、(1)最高機関で各国の外務および経済大臣等から構成される共同市場審議会(CMC)(2)執行機関で各国の外務省、経済省、 中央銀行等の代表者から構成される共同市場グループ(GMC)(3)諮問機関で各国の外務省の代表者(および必要に応じて開催される技術委員会) によって構成される貿易委員会(CCM)-などとなっている。

 メルコスルにおける例外品目は、前述の協定内容(1)により基本的には存在しないことになるが、 砂糖および自動車部門は各国産業への影響が大きいと判断されたため、 CMC決定第7/1994号第10条において委員会を設けて自由化に向けた措置等を検討していくことになり関税措置が継続されている。

 なおパラグアイは、近年ブラジルおよびアルゼンチンが実施した変動相場制への移行により2国の輸出競争力が高まり、 特にパラグアイ国内の加工産業に影響が出ることを懸念して、関税措置を2001年7月に復活させ継続している。 このうち畜産物関連製品については、関税10%で19品目(豚肉6品目、鶏肉4品目、牛乳2品目、ヨーグルト1品目、バター1品目、 チーズ2品目、鳥卵2品目、天然ハチミツ1品目)が対象となっている。しかし現行措置の期限が2003年12月31日となっており、 国内産業へのインパクトを判断して、再延長するか、無税に戻すか検討することになっている。

(2)メルコスル域外から輸入する場合のAEC例外品目(AECの適用を受けない品目)
 AECは、メルコスル内の貿易を優先させる目的から設定され、現行措置はGMC決議第65/2001号に基づいている。しかし、 メルコスルには自国産業の保護や育成のためAECの関税率を変更できる制度があり、各国はこのAEC例外品目を100品目まで設定できることになっている。 (なお、メルコスル発足当時、経済情勢が良くなかったパラグアイは、399品目以下を2006年1月1日まで設ける措置が維持されており、 合計499品目以下の設定が可能となっている)。

 AEC例外品目は、自国産業を保護する場合に関税率を高くし、 逆に自国産業の振興に有益となる場合には関税を低くもしくは無税とすることもできるため、 加盟国のAEC例外品目の設定状況を分析することにより、当該国のセンシティブ品目の概観が伺える。 なおAEC例外品目は条件を満たせば変更可能であるため、11月1日時点のもので分析する。

○ アルゼンチン
 AEC例外品目を98品目設定しているが、農畜産物およびその加工品(以下、「農産物等関連製品」とする。)は、 わずか2品目(鳥卵製品関係、飲料関係)となっており、畜産物関係では乾燥卵1品目で、AECは11.5%から16.5%となっている。

○ ウルグアイ
 AEC例外品目を100品目設定し、そのうち農産物等関連製品は14品目あるが、畜産物に関連した品目はない。

○ パラグアイ
 AEC例外品目を427品目設定し、そのうち農産物等関連製品は16品目あるが、ウルグアイ同様、畜産物に関連した品目はない。

○ ブラジル
 AEC例外品目を99品目設定し、そのうち農産物等関連製品は20品目で、畜産物に関連した品目は牛乳やモッツァレラチーズなどの乳製品11品目で、 15.5%や17.5%のAECを27%まで引き上げている。

 なお、AEC例外品目は一端規定しても変更することが可能となっている。 CMC決定第68/2000号の中に規定されているAEC例外品目変更に係る条件を簡単に記述すると、

(1) 改定後6カ月経過すれば20品目まで入れ替えが可能、もしこの条件以外で品目を入れ替える場合は、事前にGMCの承認を得る。
(2) 各国は、AEC例外品目リスト提示10日以内に異議の申し立てを行う。
(3) 仮に異議があった場合は、限度数量および該当措置の期限日等を決め、異議がなければ、限度数量などの付属条件はなく承認される。

などであり、この規定により自国産業の情勢にあわせAEC例外品目を変更できるシステムとなっている。

(3)問題点等
 メルコスル加盟国間に畜産物関連製品を例外品目に置かないことにより、アルゼンチンとブラジルの間には、 ブラジル産鶏肉に対するアンチダンピング措置問題(畜産の情報「海外編」2002年7月号p19参照) やブラジル産豚肉の流入によるアルゼンチン養豚産業の競争力低下(海外駐在員情報通巻第589号)などの問題が生じている。 しかし、これらについてメルコスル域内の関税変更(関税措置の復活など)を強く求める声は聞かず、 問題案件は当事国の生産者団体間の話し合いや、2国間協議、WTOでの裁定により解決する方向にある。

(4)今後の交渉予定と交渉経緯
 メルコスル域内の関税等に係る交渉については、今後のテーマに上る話はない。ただし、 AEC例外品目を設定できる制度は2003年12月31日までと期限が迫っており、当初の対外関税率を統一しようとした目的に反し、 当該措置をさらに延長するのかが注目される。

 なお、今後の当該措置の取り扱いについては、本年末(2003年12月)にCMCおよびGMC会議を開催し決定する予定である。

2 チリにおける例外品目の現状

(1)韓国とのFTAについて
 2003年2月15日、チリと韓国間のFTAが調印された。チリでは8月から国会下院の外交委員会で審議が開始され、 9月9日に上院の特別委員会で承認された後、11月20日現在、韓国国会の行方を見守っている状況にある。ここでは、 チリが例外品目に何を設定したかを見ていく。

 なお、当FTAは、両国の国会承認の1カ月後に批准されることになっている。

(1) 例外品目の現状
 チリが韓国から輸入する品目のうち農産物等関連製品で、協定批准後に関税が即時撤廃されないものが53品目あり、 そのうち関税を撤廃しない除外品目42品目に畜産物関連製品はない。しかし、生鮮牛肉(現行関税率6%)は、 10年後までに関税を撤廃することとなっている。


表 10年後までに関税を撤廃する品目の関税削減率(チリが韓国から輸入する場合)

(2) 例外品目および再協議に至った背景および問題点
 生鮮牛肉を即時関税撤廃の対象から除いた理由をチリ外務省経済交渉部FTA担当者に質問したところ、 「チリは牛肉の輸出大国になるとは思っていないが、牛肉の輸出促進を最近始めたばかりなので、 国内の畜産振興のため関税の即時撤廃とはしなかった。しかし、韓国の牛肉は高価なので輸入が極端に増えるとは考えにくいし、 当該関税率も低いので関税を10年後に撤廃しても大きな影響はないと見ている」との回答であった。
(3) 今後の交渉予定と交渉経緯
 韓国国会が動き出したら、チリ国会も協定承認に向け審議を再開する予定である。韓国次第の状況となっている。

(2)米国とのFTAについて
(1)
例外品目の現状      
 2003年6月6日、チリと米国はFTAに調印し、チリは8月26日から国会下院の特別委員会で審議が開始され、 10月22日に上院を通過し、12月4日大統領が署名した。ちなみに米国も9月3日に大統領が署名しているので、 両国間の自由貿易は2004年1月1日から開始される予定となっている。なお、当2国間の協定には除外品目は存在しない。
(2)例外品目および再協議に至った背景
 チリが米国から輸入する品目のうち関税が即時撤廃されないのは全部で562品目あり、 そのうち農産物等関連製品は259品目で、畜産物関連製品では (ア)牛肉製品関係で11品目 (イ)鶏肉および七面鳥製品関係で13品目 (ウ)酪農製品関係で37品目 (エ)鳥卵製品関係で5品目と合計66品目なっている。
上記のうちチリがセンシティブ品目として挙げた (ア)では、生鮮牛肉(現行関税6%)、 (イ)では生鮮鶏肉パーツ(現行関税25%)、 (ウ)では牛乳・クリーム・粉乳などの乳製品(現行関税6%) について自由化プロセスを紹介する。

(ア) 1年目の無税の関税割当1,000トンを毎年10%ずつ増やしつつ、関税は均等に削減し4年目に自由化。
(イ) 現行関税を2年間据え置いた後、3年目から無税の関税割当枠8,000トンが始まり、毎年5%ずつ増やしつつ、 関税は均等に削減して10年目に完全自由化。
(ウ) 関税は8年間で均等に削減。
なお、鶏肉および乳製品等を即時関税撤廃の対象から除いた理由をチリ外務省経済交渉部FTA担当者に尋ねたところ、 「鶏肉は両国にとってセンシティブ品目であり、乳製品はチリにとっていつでもセンシティブな品目であるため」 と簡単明瞭な回答が返ってきた。


表 主要畜産物製品の関税撤廃プロセス(チリが米国から輸入する場合)

(ア) 生鮮牛肉の場合


(イ) 鶏肉および七面鳥の生鮮パーツの場合


(ウ) 8年後に関税を撤廃する品目の関税削減率(牛乳、クリーム、粉乳などの乳製品も該当)


(3)今後の交渉予定と交渉経緯
 米国との間には、鶏肉輸入をめぐる覚書が存在している。このペーパーには 「鶏肉製品貿易について相互の利益を図るために技術・科学的な作業を鋭意進めていく」 とあり具体的な記述がないため、チリ外務省経済交渉部FTA担当者に確認したところ、2国間の衛生条件が異なっているので、 今後衛生条件の同一化に向けた検討を実施していくことが約束されているとのことであった。



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