EU委員会、ホルモン牛肉問題解決に向け新指令を発効


消費者の強い反対によりホルモン投与牛肉の輸入を禁止

 EU委員会は10月27日、世界貿易機関(WTO)の紛争解決機関(DSB)に対し、EU委員会が成長促進ホルモン使用に関する新しい規則を施行した旨を通知するとともに、米国、カナダが実施しているホルモン牛肉問題についての制裁措置の解除を要求した。

 EUでは、消費者の強い反対により、成長促進ホルモンを投与した肉牛から生産された牛肉の輸入を89年1月から禁止している。その結果、EUへの牛肉輸出が制限されることとなった米国、カナダは、EUの措置は科学的根拠のないものとしてWTOに提訴した。その後、米国の要請によりパネル(紛争処理小委員会)が設置され、WTOの上級委員会は98年1月、EUが禁止している成長促進ホルモンを投与した肉牛から生産された牛肉の輸入禁止措置は、衛生植物検疫措置に関する協定(SPS協定)に違反していると裁定した。WTOの裁定では、輸入禁止措置の解除または輸入禁止措置を正当化する評価の提示期限を99年5月と定めた。これに対しEUでは、即時に輸入を解禁するのではなく、輸入禁止措置を正当化する評価(成長促進ホルモンについての危険性の評価)を行うこととした。

EUの科学委員会は"危険性が有り"と評価

 EUの公衆衛生に関する獣医政策科学委員会(SCVPH)は99年4月、牛に使用する6種類の成長促進ホルモン剤(17β-エストラジオール、テストステロン、プロゲステロン、トレンボロン、ゼラノールおよびメレンゲステロール・アセテート)は消費者の健康に害を及ぼす可能性があるという見解を発表した。特に17β-エストラジオールは、発がん性物質であると考えられると発表した。さらにEU委員会は2000年5月、今までの見解を改正する必要がないことを再確認した。

 しかし、米国、カナダは、EUが裁定に応じなかったとして、99年7月からEUに対し、1億1,680万米ドル(約128億円:1米ドル=110円)、1,130万カナダドル約9億6千万円:1カナダドル=85円)の制裁措置を実施した(現在は中断されている)。

EU、成長促進ホルモン使用に関する指令を改正

 EU議会およびEU農相理事会は9月22日、農場での成長促進ホルモン使用に関するEC指令96/22を改正する新たなEC指令2003/74を採択した。この指令は、既に10月14日から施行されている。

 この指令は、99年4月に健康に危険性があるとされた6種類の成長ホルモンのうち、17β-エストラジオールの使用を、動物福祉の観点による次の3つの目的((1)、発育不良の子牛に対する使用 (2)、子宮筋腫の雌牛に対する使用 (3)、牛、馬、羊、ヤギでの人工授精の発情誘発剤としての使用)に限定して許可している。その他5種類の成長ホルモンについては、引き続き科学的な根拠が解明するまでは使用禁止を継続することとしている。なお、加盟各国ではこの指令施行後12カ月以内(2004年10月14日まで)に国内法で施行しなければならない。

EU、WTOに改正内容を通知

 新指令の施行を踏まえ、EU委員会は10月27日、WTOのDSBに対し、今回EU委員会が行った措置を報告した。これに伴い、米国、カナダが実施している制裁措置に対して解除を求めた。

 しかしながら、報道によると米国は11月7日、DSBの会合において、EUが要求した制裁措置解除を拒否したとされている。

EU、米国からの輸入品に制裁関税

 一方で、EU委員会は11月5日、米国が実施している輸出優遇税制(FSC)は、WTO違反であるとして、この制度を廃止しなければ制裁関税を課すとする内容の規則案を採択した。この件に関してWTOは2003年5月、FSCがWTO上違反であることに対するEUの制裁関税を40億米ドル(約4,400億円)まで認めている。この規則案では、通常の関税のほかに制裁関税として2004年3月から5%課税し、毎月1%増加し、1年間で17%まで引き上げて課税するというものである。これに適用される品目として、農産物など44の関税分類番号の品目が該当している。


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