特別レポート

第15回世界食肉会議から

調査情報部調査情報第1課

1 はじめに

 2004年6月15日から17日まで第15回ワールドミートコングレス(世界食肉会議)がカナダのマニトバ州の州都ウィニペグで開催された。

 世界食肉会議は、1974年にスペインのマドリードで開催されてからほぼ2年に1度、世界各国で開催され今回で15回を数える。今回は、「岐路に立つ世界の食肉産業」と題した5つのセッションで構成され、国際機関や政府関係者、業界関係者など世界40カ国から約600名が出席し、現在、食肉貿易に大きな影響を与えている牛海綿状脳症(BSE)や口蹄疫などの問題に焦点を当ててセッションのテーマなどが選定されている。

 今回は第15回世界食肉会議のセッションの中からBSE発生国であるカナダ、EUそして国際獣疫事務局(OIE)の基調講演の概要を報告する。

2 会議の構成および主な講演の概要

(1)ディスカッションの構成

「岐路に立つ世界の食肉業界」と題されたパネルディスカッションは2日間にわたり25人のパネラーにより以下の構成で進められた。



「ワールドミートコングレス2004のパンフレット」

(2)ボブ・スペラーカナダ農業相

 カナダにとって牛肉産業は農業経済のみならず経済全体の要である。牛肉産業はカナダで最大の食品産業であり、雇用の面でも重要である。牛肉産業の輸出額は130億ドル(1兆1,180億円、1カナダドル=86円)となっており、農産品および食品の全輸出額の1/5に達する。

 カナダのBSEの経験により、世界最高水準の食品安全システムおよび適切な家畜衛生システムの価値が証明された。また、関係者が一丸となって問題に取り組むことの重要性も痛感した。カナダでは、BSE確認後の昨年6月に国際的なBSE専門家のチェックを受けて、その提言に基づいて、特定危険部位(SRM)の除去、レンダリング段階での交差汚染防止などに取り組んでおり、牛肉に対する消費者の信頼も取り戻している。

 
「講演するスペラーカナダ農相」
   

 BSEについては、公衆衛生と家畜衛生の両面について、科学に基づいた防疫のための基準が定められる必要がある。この一年間、北米3国(カナダ、米国、メキシコ)はこの目標に向かって協調してきた。今後も3国で世界的な家畜衛生の機関であるOIEを通じ、リスクに基づいた現実的な方策のための活動を進めていく。北米3国の政策の調和も進めていくが、ブッシュ大統領とベネマン農務長官がBSE問題を科学に基づいて解決して行くとしていることに勇気づけられている。2週間前にパリで開催された第72回OIE総会では牛肉などについて必要以上に貿易制限的な措置を講ずるべきでないことが確認された。

 BSEは世界の食肉産業が直面している問題の一部に過ぎない。近年、世界の60億人の消費者の声と力が強くなっていることにも着目する必要がある。我々はこの10年間、生産から消費への急速な転換を目の当たりにしてきた。消費者は、安全で、高品質で環境面でも持続可能な方法で生産された食肉を求めている。このような新しい市場の動きに応えるため、カナダは、2010年を目標として安全で高品質かつ環境に配慮した農業および食品に関する新たな政策を進めている。これは、国際的にも受け入れられるものと信じている。カナダは、農産物について包括的な追跡システムの構築を目指す。牛肉については、すでに3年前から個体識別システムを実施しており、これを家畜全体を対象に広げようとしている。また、安全の向上のための施策にも取り組んでいく。環境についても適切な生産の実施のための新たな手法の導入を進めている。農業と農地の関係、農地の保全の研究にも取り組んでおり、科学的な進歩を現場で活用するための研究も官学民で一体的に進めていく。生物燃料を生産する研究についてすでに米国と協力して取り組んでおり、例えばSRMの処理としてバイオディーゼルなどの活用方法も注目している。

 カナダはこの会議への参加者と協力して、消費者の求める高品質で安全な食肉を提供していくという重要な役割を担っていく所存である。

(3)フランツ・フィシュラー 欧州委員会委員

 EUにとって食肉産業は、カナダのように唯一最大の産業ではないが、農業総生産の1/4を担っており、近年大きな変化を遂げている分野の1つである。EUのみならず世界の食肉産業はこの10年間厳しい状況にさらされてきた。特に家畜衛生については、一部でなく食肉の多くの分野で、BSEや鳥インフルエンザなどの困難に直面してきた。これまでの苦労がより安定した将来を保証することを期待している。

 BSEは、農業政策の本来的な目的や完全な追跡システムの必要性などEUにおける農業政策の見直しのきっかけとなった。畜産業の健全な未来は、高い規格基準の維持と消費者の懸念への対応にかかっている。EUの歩みはその途上になるが、数年前の包括的な法改正や数次にわたる農業改革の結果、EUの食肉政策は家畜衛生と公衆衛生の双方の要求を満たすものとなっている。科学委員会で最新の科学に基づくBSE対策の見直しを行っており、表示や個体識別などについても対応してきた。このような積極的な努力が実を結び、2003年の牛肉消費はBSE危機以前の水準まで回復している。輸入も記録的な水準となり、特に南米諸国からの低価格での輸入が行われた。

 食肉の消費の伸びは、単に公衆衛生の見地のみならず、消費者の信頼による。養豚については、動物愛護や環境問題が頻繁に取り上げられるようになってきている。このため、この数年は1頭当たりの飼養面積や離乳月齢などの見直しを行ってきた。昨年から輸出補助金の要件として輸送に関する条件を動物愛護の観点から追加した。また、EUへの新規加盟国に対してもEUの高い品質基準を満たすよう施設の向上を図っているところである。

 EUの共通農業政策(CAP)改革における農業改革の原則は、デカップリングとこれまでの直接支払いの統一による単一支払いである。デカップリングにより、終点は生産量から農地や動物愛護に移ってきている。デカップリングにより、環境に配慮した畜産の拡大や動物愛護に関する基準の確立のみならず予算の効果的な農家への支払いが期待されるとの調査結果が得られている。新たな計画が来年から実施されることにより、EU15カ国間の市場のバランスが大きく改善される結果、中期的には牛肉の生産は大幅に減少し、2010年までに牛肉価格は約8.9%上昇すると専門家は予想している。アジェンダ2000の実施により、EUの食肉の価格は国際価格に近いものとなり、調整保管経費や輸出補助金の削減に貢献してきた。

 国際貿易交渉の観点からも、EUの改革は域内住民の要請のみに合致するものではなく、国際社会の要請にも合致するものである。CAP改革は世界の現状に即し、EU産品に国際競争力を強化するとともに、EU市場を第三国に開放するものでなくてはならない。貿易阻害的な国内支持や輸出補助金を削減していくEUのポジションは明確である。輸出競争や市場アクセスについても議論の必要がある。非貿易的関心事項は、EUにとって重要である。家畜衛生や品質上の問題を理由に多くの貿易制限が実施されており、EUもこの例外ではない。EUの内外の消費者が品質、環境保全、動物愛護に関する品質の保証を求めていることは明白である。

 農業改革の推進に加え、市場開拓や消費者の信頼の確保が前進のためには不可欠である。

(4)アレジャンドロ・テラマン OIE国際動物衛生規約準備委員会会長

 OIEは世界166カ国をメンバーとしており(南北アメリカ大陸29、アフリカ48、EU49、中東12、アジア26など)、その目的は、世界における動物の公衆衛生の位置付けにおける透明性の確保や正しい分析と獣医科学的情報の普及啓もう、それら専門的知識の促進、国際的な連帯による動物疾病の制御と撲滅への貢献、衛生植物検疫(SPS)協定とWTOルールの範囲内での国際貿易の保全と動物と動物製品の国際貿易における基準の発行、法的な枠組みと獣医人的資源の供給や国際社会における動物愛護原則の開発を行っている。

 OIEが策定する国際基準は、陸上動物衛生規約、海洋動物衛生規約、陸上、海洋生物のワクチン接種と診断テストマニュアルである。

陸上動物の衛生コード(規約)は以下の通り

・メンバー国の主任獣医師が根拠のない輸入禁止措置をさけるために動物および動物製品を輸入する際に衛生規則を制定する衛生評価に用いる詳細な勧告を提供する。

・その勧告には反すう動物、豚、ウサギ、蜂、家きん、犬、猫を含む

・4カ国語(英語、フランス語、ロシア語、スペイン語)を用いる(アラビア語訳は後に可能となる予定)。

 OIEの情報組織と機能は、OIE早期警戒システムの確立メンバー国からの報告を基に公式外な情報の能動的調査と確認、フィールドレベルのデータ収集の質的向上、OIE国際情報システムの構築である。そのために、

監視重要性

・監視(サーベイランス)以外の危険に関する保証は行わない

・サーベイランスは信憑性のための必須の手段

・サーベイランスの実行を支援しなければならない法律の制定

・サーベイランスの位置付けは国際的な病原体の渡来のような偶発的な事象に対応するため

家畜疾病の発生が確認された場合の対応

・特定地域(Regionalization):移動制限区域とそれ以外の地域

・区分(Compartmentalization):動物衛生ステータスや生産システムを基に区分

・野生動物の特定地域と区分への影響

・私有地と公共地の影響

などが上げられる。

 注:第72回OIE総会では、ゾーニングについての議論はなされていない。

 最近のトピックとして興味事項は、各国による規範の変更、畜産物の食の安全、動物愛護、口蹄疫(FMD)、BSEであり、BSEについては以下の提言を行っている。

BSEの規則についての提言は

・輸出国の危険カテゴリーの違いによる貿易ガイドラインの必要性

・OIEはBSE発生国からの全面的な輸出を禁止したことはない

・BSEカテゴリーにかかわらず、以下の製品は貿易できる。

 (乳および乳製品、精液、皮革、皮革由来のゼラチン、コラーゲン)

・規則定義は安全な牛、牛肉、ほかの製品の貿易のための規定である

また、BSEの衛生評価として

・肉骨粉(MBM)の事実上の強制的な給与禁止

・SRMの除去

・能動的なサーベイランスに加えターゲットサーベイランスの実施

・安全の評価ではなく、健康なと畜牛を認識するための手段としてのBSE簡易診断の実施

 としている。

 
セッションに聞き入る参加者
   

 今後のBSEへの挑戦として、事実を正確に伝える伝達コミュニケーションの必要性、自己満足と間違った安全認識の是正、BSEは伝染性の疾病ではないことの普及啓もう、国際的な妄想(科学に基づかない判断、措置)に対抗しなければならず、最終的には各国が国際的な貿易規則に準拠しなければならないことを明らかにすること。

 現在、国際貿易でBSEについて行われるべきことは、輸入の停止措置ではない。しかし、残念ながら、OIE基準が国々の輸入基準を同調させるものとはなっていない。国々の透明性と道徳的な報告により現在の貿易環境は不利な立場に置かれており、各国の独自なリスク評価の報告により不本意ものとなっている。

 総括としてOIEの責任は、科学に基づくアドバイスを政策決定者や消費者に対し明確にすることであり、政策決定者の責任は、公衆衛生と動物衛生において一般的でない評価や消費者の妄想を拡大させないこと、根拠のない貿易禁止措置に寄与しないことである。

3 まとめ

 BSEや鳥インフルエンザの発生を契機に食肉および食肉製品の安全性に関するリスクコミュニケーションの重要性が認識され、行政、製造業者、生産者などからの情報が誰の手にもすぐに届くようになった。今回の世界食肉会議でも消費者を意識した言葉「食の安全」、「トレーサビリティ」、「透明性」、「危機管理」、「健康」などが何度も耳に入ってきた。その一方で、食の安全への取り組みが疾病や国ごとに異なることが問題となっており、輸出国は輸入国の輸入停止措置などの対応に「科学に基づく判断を行うべき」と連呼し批判していた。BSEの貿易問題に加えて、口蹄疫の問題など防疫、疾病の撲滅、統一的な基準に基づく対応など、各国間の安全に対する認識の違いが問題を大きくしている。

 OIEは疾病に対する科学的基準を策定するが遵守するかどうかは加盟国の意思であるとし、あくまで、中立的な立場を強調し、貿易問題はOIEの責任外であると強調していたのが印象的である。各国の食肉に関する安全の判断がまさにテーマである「岐路」であることを実感した。

 また、今回の世界食肉会議に先駆けてウィニペグにおいて会議の開催母体であるIMS(世界食肉事務局)の年次総会が開催され、役員の交代が行われた。米国のフィリップ・セングUSMEF会長に代わり新会長はアイルランドBordBiaのパディ・ムーア理事長、副会長にはデンマークDSのアン・ランドホルトCEOとブラジル、サンパウロ州ジャオ・カルロス・メイレルス局次長が選出された。

 所感であるが、これを意図したのか、今回はEUや南米からのパネラーが多く活発に発言を行っていたが北米、オセアニアは今ひとつ元気がないように思えた。

4 参考(会議参考資料から)

参考1

 世界食肉会議の変遷

 世界中から集まった食肉産業の代表は、2年毎に意見交換を行ってきた。多くの国からの参加者はお互いのビジネスパートナーや有識者を求めて参集する。会議は食肉産業の状況について議論し、傾向を分析して、対外問題を見直す最高の機会を提供する。 政治、経済、経営、技術の専門家によって行われるセッションは食肉産業の今後に影響を及ぼす要素と状況に関する貴重な洞察を提供する。

 ここ数年間での、世界食肉会議の開催はベルリン(2002)、ベロオリゾンテ(2000)、ダブリン(1999)、北京(1997)、デンバー(1995)、およびシドニー(1993)となっている。

 世界食肉会議はパリを本部としたInternational Meat Secretariat(IMS世界食肉事務局)と提携して計画される。 IMSは南米から26、北アメリカからの10、西欧からの35、東欧からの4、極東からの12、および南部のアフリカからの8を含む世界中から96のメンバーにより構成されている。

参考2

 ワールドミートコングレス2004ウエッブサイト
 http://www.worldmeatcongress-canada.com/


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