世界貿易機関(WTO)の紛争解決機関(DSB)は2月17日、EUの要請に基づき、米国、カナダが実施しているEUの輸入品に関する制裁措置の継続に関するパネル(紛争処理小委員会)の設置を決定した。
EUは既に解決に向けた指令を発効
WTOのパネルおよび上級委員会は1998年2月13日、EUが実施している成長ホルモンを投与した肉牛から生産された牛肉の輸入禁止措置は、適切な科学的リスク評価に基づいておらず、また、それを支持する科学的証拠が不十分であるとする報告書を発表した。
そこでEUは2003年9月22日、1999年から2002年までの間に実施した科学的なリスク評価の結果に基づき、農場での成長ホルモン使用に関する理事会指令96/22/ECを改正する指令(2003/74/EC)を採択した。改正の根拠となったリスク評価は、公衆衛生に関する獣医政策科学委員会が行ったものであり、その内容は、牛肉のホルモン残留が人間の健康へ与えるリスクについて再評価したものであった。結果は、問題となる成長ホルモンの使用禁止を認めるものであった。これにより、2003/74/ECでは、17β-エストラジオールの使用については永久的禁止、また、テストステロン、プロゲステロン、トレンボロン、ゼラノール、メレンゲステロール・アセテートの5種の成長ホルモンについては、引き続き科学的な根拠が解明するまでは使用を禁止することとした。なお、この指令は、2003年10月14日から施行され、1年以内に、加盟各国の国内法で施行されている。
EUが紛争処理手続きを開始
EUは2003年10月27日、1998年のWTOが下した判決を満たす新指令を発効したことをWTOへ報告し、これにより、米国、カナダが実施しているEUからの輸入品に対する制裁措置は、もはや正当ではないことを併せて主張した。
これに対し、米国とカナダは、EUの発効した新指令は、科学的なものではなく、またWTOの判決やDSBルールを満たしたものではないとしていた。
EUは2004年11月8日、米国、カナダが実施している制裁措置に異議を唱え、WTOへ協議を要請し、紛争処理手続きを始めたことを発表した。両者は同年12月16日、ジュネーブにおいて協議を行い、それぞれの立場を理解はしたが、満足できる解決には至らなかった。
第2回目のDSB会議でパネル設置を合意
そこで、EUは2005年1月13日、DSBに対しパネルの設置を要請した。同年1月25日に、DSBの会議が開催された。その場において米国は、 (1)EUが再評価した研究や、規則を含む文書についてまだ再調査を行っているところであること、(2)今のところEUの改正した対策は、DSBのルールを考慮したものではないこと、(3)EUの紛争処理ルールに関する解釈について異議があること−を理由に、この会議でのパネル設置に反対した。またカナダも同様にパネル設置に反対した。
その後、2月17日のDSBの会議において、改めてEUからの要請によるパネル設置が審議され、合意された。
今回のパネル設置で、EUと米国、カナダとのホルモン牛肉に関するパネルの設置は1996年5月に米国が要請して以来2度目となる。いまだ両者の主張に開きが大きいことから、今後も話し合いは長期になると思われる。今後の動向に注目したい。
◎欧州委、「子牛肉」に対する消費者の認識調査を開始
欧州委員会は3月1日、EUの消費者の「子牛肉」に対する認識調査をインターネット上で開始した。現在EUの市場で販売されている「子牛肉」は、飼料、体重、と畜月齢など定義が異なっている。消費者への正しい情報は不可欠であり、加盟国の中でも定義の統一を要望する声が挙がっていた。欧州委員会は、集まった回答を基に、加盟国と協議し、子牛肉の定義を提案していくこととしている。
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