豪州肉牛産業、エタノール義務化に関する調査報告発表 ● 豪 州


MLAの調査結果発表

 豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)は8月29日、調査機関に委託して実施したエタノール義務化が牛肉産業に与える影響に関する報告書を発表した。

 豪州連邦政府は、石油価格が高騰する中で、代替エネルギーの一つとして注目されるエタノールの使用義務化を検討している。このエタノール生産には穀物が原料とされることから、義務化による豪州の牛肉産業、とりわけ、穀物を飼料として多量に使用する肉牛フィードロット産業に与える影響が懸念され、MLAが調査を行ったものである。

 なお、連邦政府のエタノール義務化の狙いは、原油輸入量を減らすだけでなく、再生可能な資源の利用の推進や地方の雇用増などの経済効果も含んでいる。現在の連邦政府のエタノール生産への支援策は、税の優遇措置や工場の新設または拡張に対する資金援助となっている。


穀物価格上昇で肉牛産業に悪影響の可能性

 この調査結果によると、エタノール使用の義務化に伴い穀物価格が大幅に上昇し、コスト増や輸出価格の上昇による肉牛産業などの農業部門に及ぼす悪影響の方が、義務化による原油輸入量の減少から生じる利益よりも大きいと分析している。概要は次のとおり。

1.エタノールのガソリンへの含有量を10%、ディーゼルへの含有量を15%に義務化した場合の影響については、

  • 穀物価格は25%以上上昇する。
  • 2010年までエタノール生産に必要な穀物は1,210万トン、飼料用としては、2,800万トンが必要となる見込み。これは、小麦の輸出向けと国内食用向けの合計60%を転用することになり、産業に大きな影響を及ぼす。
  • 干ばつなどで2010年の穀物生産が50%減少すると、全体の生産量は1,400万トンまで落ち込む。この結果、小麦価格はトン当たり450豪ドル(3万8,250円、1豪ドル=85円)まで上昇し、牛肉の輸出価格に影響を及ぼし、輸出競争力が減少する。
  • 穀物価格の高騰により、鶏肉や鶏卵生産者は、飼料用に米国産コーンの輸入を必要とするが、検疫問題が障害となり輸入できない。
2.穀物価格の高騰で肉牛生産者の利益の減少を招く。

 穀物価格の上昇分は肉牛生産者およびフィードロット事業者共同で負担しなければならない。穀物価格の上昇の影響は、飼料穀物代のフィードロット経営コストに占める割合にもよる。穀物価格がトン当たり180豪ドル(1万5,300円)と仮定した時、約22%の割合となる。エタノール使用の義務化により、穀物価格がトン当たり230豪ドル(1万9,550円)に上昇した場合、肥育素牛価格はキログラム当たり13セント(11円)(生体ベース)下落すると見られている。さらに、穀物価格が干ばつの影響でトン当たり450豪ドルに上昇すると、素牛価格はキログラム当たり90セント(77円)下落するとみられている。

3.穀物価格の上昇が燃料経費の上昇を招く。

 穀物価格が上昇すると、エタノールの生産費用も上昇する。干ばつ時には1リットル当たり7セント(6円)の燃料価格の上昇を招く。

4.全体的に見ると、畜産物と穀物の輸出量の減少や輸入穀物の増加を招き、肯定的な影響よりも否定的な影響のほうが大きい。


フィードロット産業、義務化反対を表明

 豪州フィードロット協会(ALFA)会長は、この報告書の発表を受けて、エタノール義務化政策は、「豪州に多くの利益をもたらす農業部門を犠牲にするものだ」と厳しく非難している。


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