ハリケーンの影響に直面する米国の穀物産業


穀物輸出施設の稼働率は63%まで回復

 ジョハンズ米農務長官は9月7日、ハリケーン「カトリーナ」の通過後ミシシッピ川下流部における港湾機能は実質的に停止していたものの、約1週間が経過した同日現在、穀物輸出施設の稼動率は63%まで回復したと公表した。

 米国南部における物流の拠点となるルイジアナ州ニューオリンズ周辺地域では、輸出用穀物の保管および船積みのため、揚穀能力を有する10の大型穀物倉庫(elevator)と3つの海上装置を擁している。これらの施設は、最大約5千3百万ブッシェルの穀物を保管し、1時間当たり97万ブッシェルを積み出す能力を備えている。ハリケーンの影響により、ミシシッピ川周辺では、(1)大型運搬船の通航制限、(2)内航用小型輸送船の進行の遅れ、(3)作業員の不足−などにより稼動水準の縮小を強いられているものの、停止していた船の航行は再開し、多くの穀物倉庫は操業機能を取り戻しつつある。

 USDAは、輸送航路および穀物保管施設に対する被害状況の評価はほぼ完了したとし、現在は関連施設の復旧、通航および作業員の安全確保に焦点を当て、米国運輸省(DOT)、同沿岸警備隊、同国防総省(DHS)および産業界と密接に連携し、復旧対策に取り組んでいる。同長官は、諸外国に対して穀物輸出への影響を最小限とすることを保証するとし、これから秋に向けて到来する本格的な船積み期に対応するため、通常レベルでの穀物輸出への回復を急ぐとしている。


生産者に対する緊急支援対策の実施

 USDAは同日、今回のハリケーンによる被害を受けたメキシコ湾沿岸における農業および牧場経営者の復興を支援するため、1億7千万ドル(194億円:1ドル=114円)を超える緊急支援対策を公表した。今回公表された主な対策の概要は以下のとおり。

 ・緊急保護基金

 農場の管理・保護を目的とする構築物の修復および倒壊したがれきの除去などに対する補助。ルイジアナ州への1,245万2千ドル(14億円)を最高に、ミシシッピ州、アラバマ州、テネシー州の4州に対し、補助金総額は約2千万ドル(23億円)

 ・緊急融資計画

 USDA農家サービス庁(FSA)による、穀物生産量の30%以上の減少を強いられる被害を受けた生産者または、農場における建物、動産および家畜に対する被害を受けた生産者に対する低金利融資。補助金総額は1億5千2百万ドル(173億円)。補助対象は米大統領または同農務長官により指定された主要農業被災地域

 ・市場取引援助貸付計画の要件変更

 USDA商品金融公社(CCC)による市場取引援助貸付計画(Marketing Assistance Loan Program)について、保管施設が倒壊した穀物生産者を救済するため、地上で保管される一定の要件を満たした穀物についても融資の担保としての利用が可能となるよう要件を変更する。当該変更は、米国農産物の安定的な市場取引に加え、被災地における現地穀物価格の維持についても意図するもの。1生産者当たりの融資上限額は10万ドル(1,140万円)

 なお、同農務長官は9日、ミシシッピ州の31の郡をFSAによる緊急融資計画の要件となる主要農業被災地域として新たに指定した。これにより、8月29日にブッシュ米大統領が指定した47の郡および隣接する地域として既に要件を満たしている4郡と併せ、同州全体が本融資計画の対象となったことになる。


2005年のトウモロコシ生産予測は10%減

 このような中、USDA全国農業統計局(NASS)は9月12日、今回のハリケーンによる被害、さらに、今夏のミシシッピ川上流およびイリノイ川流域など中西部における干ばつの影響を反映した上での2005年の主要作物生産予測(9月1日現在)を公表した。トウモロコシ生産量の前年比を州別にみると、コーンベルト地帯および周辺地域では、北部のミシガン州およびウィスコンシン州を除くすべての主要生産州で減少が見込まれ、特にミズーリ州(前年比35%減)、イリノイ州(同22%減)、ケンタッキー州(同18%減)ではその減少幅が顕著となっている。2005年のトウモロコシ総生産量は、先月の見込みから3%上方修正されたものの、過去最高となった前年に比べて約10%の減少が見込まれている。

 なお、畜産物に関するハリケーンによる詳細な被害状況については公表されていないものの、現地報道によると、被災地域ではいくつかの養鶏農場の倒壊や、浸水などによる家畜への影響が出ているものとされている。


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