カンボジアの農村獣医(VAHW)の活動



ひとくちMemo

 東南アジアの多くの国では、家畜は労働力のほかに大切な家計の資産として扱われているが、獣医師制度が不十分な上、専門の教育を受けた獣医師の数が不足している。当地域のほとんどは熱帯に属しており、常在する疾病も多く、家畜の疾病対策が地域経済に与える影響も大きいことから、緊急な対応が求められている。しかしながら、多くの国は財政事情が厳しく、家畜衛生分野に十分な予算を割けないのが実情となっている。このような状況を補完するため、カンボジアでは、国際機関や第三国の非政府組織(NGO)の支援の下に、正規の獣医教育ではないものの、一定の家畜衛生に関する訓練を受けた者が農村家畜衛生員(VAHW:Village Animal health worker、通称「農村獣医」)として罹患家畜の治療やワクチン注射などによる疾病予防の活動を行う制度を採用している。カンボジアの首都プノンペンの隣のカンダル州におけるVAHWの活動を追ってみた。


愛用のカバンの中はビタミン剤や寄生虫駆除剤などの注射薬でいっぱい。
今回取材に協力してもらったYos 氏、57歳。 1980年代にベトナム人獣医師から1年間の訓練を受けたという。往診の範囲は自宅から半径約7キロメートル。
市街地を移動中のYos氏。時期は雨期であったが、取材時は晴天。
本日最初の治療は豚。生後3カ月になるが成長が思わしくなく、飼い主がビタミン剤の注射を希望した。1頭目は柵の外から、2頭目以降は抱えて複合ビタミン剤を注射。
 
   

犬に寄生虫の予防注射。飼主の協力がかかせない。

今度は牛に寄生虫予防の注射を行う。この薬剤は、内部寄生虫だけでなく、外部寄生虫にも効果があるとのこと。この農家の牛は1年半も母牛と一緒。牛があばれるので、Yos氏に代って農家の若手が注射。
カンダル州を流れるトンレサップ川の渡し舟。船上でつかの間の休息。その後赤い埃の中を再び移動。
次の農家も豚の治療。飼主のために薬品の処方箋を作成。
口蹄疫(FMD)のワクチン注射を行う。ワクチンは氷で冷やしながら扱う。
若手VAHWのChan氏30歳、開業5年で豚を専門に扱っている。
VAHWの兄から手ほどきを受けた。1日の走行距離は60キロメートルに及ぶ。

Chan氏のカバンの中。

豚の去勢作業。当然ながら豚は全力で抵抗する。

動物薬販売店の店先、飼料も販売されている。必要に応じて薬品は冷蔵庫に保管してある。

 
カンボジアではVAHW育成のため、行政とNGOが一定の研修を行い、修了者に証明書を発行するプログラムを2000年から行っている。これは、世界銀行の農業生産性改善計画(APIP)の下で、国際農業開発基金(IFDA)の融資事業により実施されている。写真は、2000年にタケオ県で発行された証明書である。今年6月までに行政とNGO合わせて7,800人が研修を終了しているが、政府はさらに5,700人ほど必要だとしている。
シンガポール駐在員事務所 斎藤 孝宏、木田秀一郎

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