特別レポート

ブラジルにおける遺伝子組み換え
(GM)作物の栽培許可をめぐる経緯

ブエノスアイレス駐在員事務所 犬塚 明伸、横打 友恵

 

1 はじめに

 ブラジルでは遺伝子組み換え(GM)作物の栽培および販売に係る法律が連邦議会を通過し、2005年3月24日に大統領が署名して成立した。

 GM作物の栽培などの許可にかかわる動きは95年からあったが、遺伝子組み換え体(GMO)の環境評価に関する権限などをめぐり環境団体などが訴訟を起こし、司法上の問題としてGM大豆の栽培や販売は許可されていなかった。

 一方、米国に次ぐGM作物栽培国アルゼンチンからGM大豆種子がブラジルの南部地域に流入し、栽培などの許可がないまま違法に栽培が拡大して行った。このため、政府も現実に存在するGM大豆との整合性を図る必要が生じ、2003年と2004年には暫定令による限定的な栽培や販売などを認めるという、苦肉の策を講じた。

 当事務所では消費者の関心が高いGMOについて、ブラジルにおける動静をずっと追ってきたところであり、今回は過去から現在までの経緯を総括する。


2 ブラジルの大豆生産輸出量

 まずブラジルにおける大豆の生産と輸出、および日本におけるブラジル産大豆の地位を見てみる。

(1) 大豆の作付傾向 −米国に次ぐ世界第2位まで増加

 昔から南部地域は伝統的な穀物生産地域であったが、79年9月から日本の国際協力機構(JICA)が支援し、ブラジル政府と共同で実施した中西部における「日伯セラード農業開発協力事業(PRODECER)」の成功(2001年7月までの試験的事業で約35万ヘクタールを開発。またこの四半世紀で1,000万ヘクタールの農地が開発)が、当時の時勢などと合致したことにより大豆の作付面積が拡大し、最近では北東部のセラード地域での作付けも拡大してきている。

 また、ブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)などによる品種改良や生産資材の投入などにより、中西部における単位面積当たりの収量も増加しており、当地における生産量の増加は目覚しいものとなっている。


 

(2) 州別生産量

  州別に生産量を見た場合、中西部に属するマットグロッソ州、ゴイアス州、マットグロッソドスル州で48.2%を占め、中西部地域における大豆生産の拡大傾向をまさに示していることになる。しかし、伝統的な生産州である南部のパラナ州やリオグランデドスル州、南東部のサンパウロ州で合計35.5%と、その割合も高い。これらの中で遺伝子組み換え(GM)大豆の生産量が一番多いといわれるのはリオグランデドスル州で、一般的に生産量の8割程度がすでにGM大豆であろうと言われている。 

(3) 輸出について

 前述したとおりブラジルは、近年大豆生産量を増やしてきた国であるが、その傾向は下のグラフのとおり指数曲線的な増加傾向であり、またそれに伴って輸出量も同様な傾向を示している。

 また世界的な地位を見れば、米国に次ぐ生産量となっている。数年前から南米主要国の生産量合計は米国をしのぐと言われてきたが、統計的に見れば2002/03年度産から上回っている。輸出量もまだまだ米国には及ばないものの、アルゼンチンとパラグアイを合わせた3カ国でみると、米国に匹敵する量を輸出しており、世界需給における南米の存在感が増していることは間違いないようだ。


 ブラジルの主な輸出先は、何と言っても中国が注目に値する。2000年以前は100万トンにも満たない貿易量であったが、それ以降急激に輸出量が増え、最近では600万トンを輸出している。
中国では大豆油の消費量が拡大しているが、大豆油を製品として輸入するより、搾油のために大豆粒の輸入を拡大する傾向にあるためと言えるであろう。




(4) 日本から見たブラジル産大豆の輸入量と額

  日本の大豆輸入量は年間400〜500万トンであり、米国がそのほとんどを占める。ブラジルは第2位の地位で、過去おおよそ10%以上を占めてきたが、最近は約17〜18%となっている。

 また過去における総輸入額の変動は大きいものの、ブラジルのシェアとしては10〜15%で、最近では約16〜17%となっており、日本にとっては量・額ともに一定の割合を占める重要な輸出国となっている。

 なお、ブラジル産大豆は、納豆や豆腐などの食用原料に適さないと言われ、搾油用に回されているとのことである。


 

3 GM解禁までの経緯(※p79以降の年表も参照のこと)

(1)カルドーゾ政権期(1995年1月〜2002年12月)

 ブラジルでは95年1月、遺伝子組み換え(GM)の技術的利用と環境放出に係る法第8974号(旧バイオ安全法。2005年にもバイオ安全法が制定されるため「旧」とする)が制定されたが、法令的な問題のため「国家バイオ安全技術委員会(CTNBio)」の設立は、同年12月20日付けの大統領令第1752号が公布されるまで待つことになる。
(注:なお2000年6月の連邦裁判所の第1審判決により設立根拠であった上記の大統領令第1752号が違憲とされ、最終的には2000年12月の暫定令第2137号が設立根拠の根幹となった)。

 当時CTNBioは、GM作物の生産・輸入・流通・販売などについての結論的な技術見解を示し、また環境への影響を判断する権限などを与えられ、委員構成は、科学技術・環境・保健などの関係省庁の代表7名と、バイオテクノロジーなど技術専門家8名および消費者団体代表1名を含む民間代表3名となっていた。

 98年9月CTNBioは、モンサント社のグリホサート耐性のラウンドアップ・レディ(RR)大豆は、人体および環境に負の影響を与えないとする結論的な技術見解を示した。このためブラジル農務省(MAPA)は、商業的な生産・販売につながる品種登録の受け付けを開始する予定であった。しかし、消費者保護団体などはCTNBioが技術見解を出す前から連邦裁判所に対し、GM大豆の栽培や販売に係る差し止め訴訟を起こしていたため、同省の品種登録開始は延期されていた。

 いくつかの連邦裁判所は最終判決に至る途中で予備判決を下しているが、第一審の最終判決は連邦区連邦裁判所のプレデンテ判事が2000年6月に出したものとされ、RR大豆の栽培に当たっては以下となった。

(1)憲法において「環境アセスメントに関する規定は法律によって定められる」ことになっており、環境への影響を判断する権限をCTNBioに与えた大統領令(第1752号)は、法律より下位であるため違憲である
(2)モンサント社に対し、事前に環境アセスメントを実施するよう政府が命じること
(3)政府は消費者保護法に基づき、GM製品に対する食料、販売、消費の安全に関する規則を制定するようCTNBioに命じること
(4)以上の要件が満たされるまで、CTNBioは技術見解を示すことはできない

 この判決に対しモンサント社は、大統領令1752号でCTNBioに環境アセスメントの必要性の有無を判断する権限がすでに与えられていることを理由に第一審判決を不服として控訴することとし、また政府も大統領令を違憲とされたため、モンサント社とともに控訴することとなった。また、食料安全に関する規則としては、96年11月12日付け訓令第3号の中で既に規定されていると判断していた。

 一方、政府は、上記(3)の消費者保護法の観点から示唆されると考えられるラベル表示について、遺伝子組み換え体(GMO)を4%以上含む食品に対する表示を義務付けた2001年7月18日付け大統領令第3871号(同年12月31日から施行)を制定し、さらにCTNBioは2002年1月、第一審判決により則した食料安全規則を定める訓令第20号を制定した。

 2002年2月から連邦控訴裁判所において審理が開始され、輸出競争力を高めるためにGM作物の自由化を目指す政府は、表示義務を定めたことにより連邦控訴裁判所がGM大豆の栽培および販売の解禁につながる判決を下すことを期待した。一方消費者保護団体などからは、GMOが原料として含まれるものすべてがGM食品であり、4%の数字にかかわらず表示を義務付けるべきであると反論していた。

 しかし結局のところ、カルドーゾ政権時代にはGM解禁までには至らなかった。

(メモ(1))GMトウモロコシの輸入問題

 ブラジルにおけるGMOの解禁についての話題は、ほとんどがGM大豆の栽培や販売が中心であるが、トウモロコシについても問題を提起している。

 99/2000年度のトウモロコシ生産は干ばつにより二期作(冬期作)が不作となったため、ブラジル国家食糧供給公社(CONAB)は当該年度の輸入量を約150万トンとし、その多くは安価なアルゼンチン産で賄われると予測していた。

 しかしアルゼンチン産トウモロコシの数十%はGMOと言われていたため、2000年5月下旬、グリーンピースと消費者保護団体は、アルゼンチン産トウモロコシはGMOを含んでいるとして、穀物入港地の各連邦裁判所に提訴した。提訴を受けた各連邦裁判所は、いったん陸揚げを差し止め分析調査した結果、GMOは検出されず、ポルトアレグレ連邦裁判所は6月中旬に陸揚げを許可した。しかし、検査に要した半月間の港湾使用料は輸入業者の負担となり賠償問題に発展した。

 また2000年6月下旬には、ブラジル東北部の港に停泊していた輸送船に積載してあった一部のアルゼンチン産トウモロコシからGMOが検出され、全量をアルゼンチンに送り返す措置などが検討された。

 このような中、2000年7月3日CTNBioは、MAPAからの要請を受けてGMトウモロコシを分析し、飼料用GMトウモロコシに対して「何らリスクを根拠付けるものはない」とする見解をコミュニケ113号で示したため、MAPAは輸入許可を出せるようになった。なお、2000年6月26日に連邦裁判所で第一審判決が出ているが、CTNBioがコミュニケ113号を公布した時点では、まだCTNBioは判決内容について連絡を受けておらず、CTNBioの行為は有効となる。


 なお後述のとおり2005年3月には新たなバイオ安全法が制定されたことにより、CTNBioのGMOに対する見解が意味を持つことになったが、MAPAは2005年5月3日のコミュニケで、アルゼンチンからのGMトウモロコシの輸入手続きについて規定を発表したと報じた。

 同規定は輸入製品の受け入れ、加工および使用に際して順守すべき事項を定め、家畜飼料のみに仕向けられるGMトウモロコシは2004年8月2日付け訓令第3号に従うとされた。訓令第3号によると輸入業者は貿易統合システム(SISCOMEX)の書式に輸入許可申請事項を記入し、家畜飼料用製品輸入申請書(RIPAA)をもって、連邦農業管理庁飼料検査部に分析を要請することになる。なお、RIPAAには輸入製品を受け入れる各施設名およびそれぞれの受入量を記載しなければいけない。

 MAPAのバイオ管理部の担当者によると、CTNBioが家畜飼料としてのGMトウモロコシの輸入に肯定的な所見(2005年3月22付け技術所見530号)を出しており、その見解に則した製品のみを輸入するために、この規定を順守することは重要であるとしている。なお、輸入されたGMトウモロコシは食用や栽培用に用いることはできず、輸入製品の荷卸、輸送、貯蔵、加工および使用許可はMAPAが行い、かつ国際農牧監視所が設置されている港などでのみ受け入れることができる。さらに、目的地までの輸送は道中における環境への散乱を防ぐため、穀類専用車によって行われなければならず、また表示規則を定めた大統領令第4680/2003に従う必要があるとも話した。

(メモ(2))中国、ブラジルに対して非GM大豆証明書を要求

 2002年3月中国は、GM農産物の輸出国に対し、GM作物の生物や環境への影響・安全性を評価した資料などの提出を求め、それを中国政府が認定したもののみ同年12月20日以降輸入可能とする決定をした。しかしその後、技術上の問題を理由に2003年9月20日まで期限を延期した。

 中国に大豆を供給している輸出国の中でGM大豆の栽培および販売が許可されていないブラジルの場合、輸出する大豆が非GMOであること(「栽培していないこと」と「混入していないこと」)を証明する必要が生じた。ブラジル政府は、国境を接するアルゼンチン産GM大豆が混入するリスクがある※1と考え、その対応に苦慮していたところ、中国政府は12月20日までに対応がなければ輸入を認めないと通告した。このため両国は交渉し、ブラジル政府がバイオセーフティ証明書モデルを中国政府に提出し認定を受け、これを暫定的に添付することにより、中国は輸入を認めることとした。
※1:ブラジルのカルドーゾ政権は2002年末時点で、アルゼンチンから持ち込まれるGM大豆種子による栽培の実態があることを公には認めた発言はしていなかった。しかし、誰もが知っている“公然の秘密”の様相を呈しており、公的に認めたのは次期ルラ政権となる。


 ブラジルが提出した暫定証明書モデルには、(1)(当時の)法令などの下でブラジルから輸出される大豆は非GMOである、(2)しかし、GM大豆を生産するアルゼンチンとの国境地帯ではGM大豆が混入する可能性があることを否定しない、(3)もしGM大豆が混入したとしても、それは中国がすでに米国やアルゼンチンから輸入しているRR大豆であるためリスクはない−とした。さらにCTNBioが「RR大豆は、人体や環境などに対するリスクを立証する根拠はない」としたCTNBioコミュニケ54号を添付した。12月12日ブラジル政府は、暫定証明書モデルを中国政府に提出したが、中国政府から一部訂正の必要があると指摘されたため、ロドリゲス農相は2003年1月14日、中国大使に該当箇所を訂正した暫定証明書モデルを手交した。


 一方、MAPAは2003年1月13日付けコミュニケにおいて、「ブラジル司法当局がGM大豆の栽培と販売を許可しない場合、暫定証明の有効期限である同年9月20日以降輸出される大豆には“非GMO証明”が必要となるため、2002年12月19日付け農務省令第79号(官報公布2002年12月31日)において「非GM大豆の証明システム案」を公表し、パブリックコメントを募集している」と報じた。

 しかし実際には、後述するGM大豆の流通を認める暫定令が相次ぎ制定され、かつ続いて新バイオ安全法も制定されたため、2005年8月現在、パブリックコメントは棚上げの状態となっているとMAPAは回答している。

(2) ルラ政権期(2003年1月〜)

(1)2003年

ア.2002/03年度産のGM大豆の取り扱い


 ブラジル政府は2003年3月27日、2003年に収穫されるGM大豆の販売に関する暫定令第113号(3月26日付け)を公布した。

 前述のとおり2000年6月に連邦区連邦裁判所がGM大豆の栽培および販売を禁止する判決を下しているため、原則ブラジルではGM大豆を栽培できないことになっていたが、2003年3月6日付けの政府系機関紙アゼンシア・ブラジルでは、「ルラ政権はブラジル国内で数百万トンのGM大豆が栽培されていることを認め、これらの大豆を栽培した多数の小規模農家に損害を与えることがないよう、収穫物の販売を可能とする措置を検討していた」と報じた。

 なお“暫定令”とは、「その重要性または緊急性が認められる場合、大統領が法律の効力を有するもの」として発令できることになっており、かつ公布日から120日以内に連邦議会で承認されなければならず、その後大統領の署名を得て法律化することが憲法で定められている。

 暫定令第113号の主な内容は次のとおりである。

(ア)2002/03年度に収穫されるGM大豆の国内外における販売は、2004年1月31日を期限として認められる(2002/03年度の収穫は、2003年2月下旬頃から始まり 同年5月末までにほぼ終了)が、この日以降に存在するGM大豆の在庫は焼却処分される。

(イ)(ア)で対象となるGM大豆(同大豆製品を含む)には、適切なラベル表示により、含有量に関係なくGMOが混入していることを消費者に伝えなければならない。

(ウ)2002/03年度に収穫される大豆の生産者および取引業者は、MAPAが信任する認証機関が発行する非GMOの証明書を取得することができ、この証明を表示しなければならない。

(エ)(ア)で対象となるGM大豆は種子または種子の能力を残す形状での利用・販売は、全面的に禁止される(参考:2003/04年度の大豆作付けは、2003年10月頃から開始)。

(オ)本来国内市場向けに出荷が予定されていたか、または、暫定令公布日までに国内向けでの取引契約をすでに行ったGM大豆の一部を輸出に向ける奨励策を政府は講じることができる。

(カ)本暫定令の規定に違反した者は、1万6,110.00レアル(約76万円:1レアル=約47円)以上の罰金が課せられるほか、金融機関からの公的融資などを受けることができず、また収穫物廃棄に係る経費を賠償しなければならない。

(キ)2003年に収穫された大豆において、GM大豆が存在しないことが証明された場合に限り、MAPAが公布する省令に基づき、当暫定令の適応外とすることを認める。

 この暫定令に対する関係者の反応はさまざまであり、GM大豆問題に慎重な態度をとってきたシルバ環境相は「GM大豆の作付けを監視する組織を作り、違反者への罰則を通じて、生産者に対し法律の順守を自覚させたい」と述べている。また、モンサント社は今回の措置を歓迎し、一方GM大豆の栽培や販売に反対し続けてきた消費者保護団体や環境保護団体は、この暫定令は、経済面のみを重視した、人体への影響を考慮しないものであり、司法当局がGM大豆の栽培および販売を禁止する判決を下しているにもかかわらず発表されたとして反発した。

 また、ブラジル全国農業連盟(CNA)は、ブラジルでは、生産されるすべての大豆(大豆製品を含む)についてGMOか非GMOかを証明する体制が整備されていないことなどから、これらの販売に混乱を来すとし、業界や農協はGM大豆の表示義務について、GM作物の栽培に従事しないものが同表示に係るコストを負担するのは不合理であるとした。中でも鶏肉業界は、ブラジル産鶏肉の主要輸出市場であるEUからの需要が低下するのではないかと懸念した。

 なお、当暫定令を法律化する連邦議会の審議過程で、上記(ア)については「販売期限を60日間延長することができる」ことが追加され、また規則などを守っている非GM大豆の生産者にはコスト増につながるとして批判された上記(ウ)の非GMO表示は義務ではなくなり、かつ後段の「イ.GMOの表示規則」との関係からGM表示は1%以上含む場合に必要になるなどの変更がなされ、法第10688号(2003年6月13日付け、6月16日公布)となった。

イ.GMOの表示規則

 ルラ大統領は2003年4月24日、GMOを含む食品などのラベル表示に関する大統領令第4680号に署名し、25日付けで官報公布した。同令は、GMOの混入率が4%以上である食品に対しラベル表示を義務付けた大統領令第3871号(2001年7月18日付け)を廃止するとともに、主に次の事項を定めた。なお、GM大豆の栽培および販売の解禁につながる司法の判決が下されていない中にあって今回の措置をCTNBioは、司法判決と法令制定は別問題であるとした。

(ア)GMOの混入が1%以上である食品、飼料、およびそれらの原料が販売される場合、GMOの混入があることをラベル表示により消費者に知らせなければならない。

(イ)GMOの混入を商品の販売伝票にも記載することで、販売の各段階にその旨を知らせることとする。

(ウ)(ア)で規定されたGMOの混入率については、CTNBioの判断によりその率を引き下げることができる。(筆者注:GMOの混入率1%以上を0.5%以上に改定できるの意)。

(エ)GMOを含まない、またはGMOに由来しない商品に対しては、「非GMO」と表示することができる。

(オ)GMOを含む飼料により飼養された家畜由来の食品または原料に対しても、その旨を表示するものとする。

(カ)2003年に収穫された大豆由来の食品または飼料については、GMOの混入率にかかわりなく、「GM大豆を含む可能性がある」または「GM大豆由来の原料を含む可能性がある」と表示するものとする。ただし、2003年3月26日付け暫定令第113号の適応外としてMAPAが別途定める地域で生産された大豆、または当該地域で生産された大豆由来の原料のほか、同暫定令の規定により非GMOであることが証明された大豆については、この限りではない。

(キ)2003年に収穫された大豆由来の食品または飼料は、それらの原料となる大豆の販売が2004年1月31日までに行われたものに限り、同日以降も販売が認められる。

 この大統領令の制定に対して、ブラジル環境省生物多様性・森林局のカポビアンコ局長は「GMOの混入率を従来の4%以上から1%以上に引き下げたことや、GMOを含む飼料により飼養された家畜由来の食品や原料にもラベル表示を義務付けたことは、大きな前進である」と評価し、一方CNAのスペロット副会長は、今回の規則がブラジルの農業生産者と何ら議論が交わされることなく決定されたとした上、混入率について厳しい基準が設定されたとの意見を示した。

(メモ(3))司法の動向に右往左往
 一人の判事がGM大豆の商業的栽培につながる決定を司法官報に掲載

 2003年8月12日付けの司法官報に、連邦控訴裁判所のセレネ判事がモンサント社のGM(RR)大豆の商業的栽培の解禁につながる決定を掲載したとの報道が流れた。セレネ判事は今回の決定に当たり700ページにも及ぶペーパーを出しており、その内容を適確に把握することは難しく、(1)GM大豆の商業的栽培が可能となった、(2)GM大豆の商業的栽培と販売を事実上禁止する第一審判決は効力を失ったが、栽培・販売には農務省などの政府関係機関の許可が必要である−などの報道がなされた。

 連邦区連邦裁判所は、環境アセスメントの実施なしにGM大豆の商業的栽培を認めないなどとする第一審判決を下し、同時に食料安全に関する規則や表示義務規則の制定などを求め、要求事項が履行されるまでCTNBioが安全性に関する結論的な技術見解を出すことを禁じた。これに対しモンサント社および政府は上訴し、連邦控訴裁判所において審理されていた。

 連邦控訴裁判所の判決や決定などは3人の判事(=合議体)により行われ、そのうちの1人セレネ判事は、2002年2月に栽培の解禁につながる意見を表明していたが、他の二人の判事は調査するために時間が必要であるなどとして明確な判断を示さないまま1年半という長い時間が経過した。

 なお2003年1月から発足したルラ政権が、2002/03年度に収穫されるGM大豆のみ販売が可能となる暫定令第113号(2003年3月26日付け)や、GMOに係る表示規則を定めた大統領令第4680号(2003年4月24日付け)を相次いで公布したことや、生産農家のほとんどがGM大豆を作付けるといわれる南部のリオグランデドスル州における大豆の作付時期(10月)が近づいてきたこともあり、GM大豆についての関心が社会的に高まっていた時期の司法の動きであった。

 一人の決定のみではGM大豆を栽培できず

 前述した700ページにも及ぶセレネ判事のペーパー内容に関しては、一方の当事者であり以前にはCTNBioの弁護士を務めていたレジナルド氏に分析を依頼したところ、以下のとおりであった。

1 セレネ判事の決定内容:

 判事は審理において係争案件を停止する権限(遮断的効力を与える権限)を持っているが、控訴審開始に当たりこれを行使していなかった。よって2003年3月にモンサント社は連邦控訴裁判所に、この権限を用いてCTNBioが禁じられている「GM作物の安全性に関する結論的な技術見解を出すこと」ができるよう抗告していた。セレネ判事は今回これを認めたため、CTNBioは安全性に関する技術見解を出すことができるようになった。

2 1の影響:

 CTNBioは、暫定令第2191-9号(2001年8月23日付け。暫定令第2137号が番号更新されたもの)により安全性に関する判断権限を有しており、GM大豆の商業的栽培に対して「環境アセスメントの必要性なし」との結論的な技術見解を出せば、栽培の可能性が生じる。ただしCTNBioの見解を基に関係省庁は所管業務(例えば、農務省の栽培許可が必要など)を実施することから、即栽培には至らない。

3 セレネ判事の決定の効力:

 今回の決定は一人の判事に基づくもので、暫定的に効力を得ただけであり、他の2人の判事が同意すれば決定的な効力を持つことになる。ただし、これが最終判決とはならない。

 なお同年9月、セレネ判事が属する連邦控訴裁判所の第5合議体は、セレネ判事の決定を否決したため、司法上の状況は何も変わらないものとなった。

ウ.2003/04年度産のGM大豆の取り扱い

 ブラジル政府は2003年9月26日、2003/04年度のGM大豆の栽培および販売に関する暫定令第131号(2003年9月25日付け)を官報で公布した。

 2003年に収穫されるGM大豆の販売については、前述の暫定令第113号によって期限付きで許可されたが、2003/04年度以降のGM大豆の栽培はできないことになっていた。しかし、GM大豆の栽培が広く行われている南部のリオグランデドスル州政府は、2003/04年度の大豆の作付時期の10月前に、連邦政府に対してGM大豆の栽培について最終的な取り扱いの指針を強く求めていた。


 こうした中で、再度、公布された暫定令の概要は以下のとおりである。なお、暫定令第131号は大統領令第4846号(2003年9月25日付け、9月26日公布)で補足されており、以下はその内容も一部含む。

(ア)2003年に収穫され、生産者が独自に利用するために保管していたGM大豆の種子を、2003年12月31日を期限として環境アセスメントの実施なしに、2003/04年度の作付けに利用することを認める。しかし、当該種子を販売することおよび生産州以外で栽培することは禁じる。

(イ)(ア)の種子より生産されるGM大豆は種子または種子の能力を残すことのないものとして、2004年12月31日を期限とし販売できるが、種子としての利用は禁止する。なお、当該期間までに販売されなかった当該大豆は焼却処分しなければならない。

(ウ)MAPAは、GMOの存在が認められないことが証明された地域を同暫定令の対象外とすることができる。

(エ)2003年に収穫されたGM大豆の種子を同年の作付けに利用することを希望する生産者は、GM大豆の栽培や販売について、9月26日から30日以内に、政府が定めた規則に従い、責任を負う旨の誓約書に署名しなければならない。

(オ)(ウ)を除く地域に所在し、(エ)の誓約書に署名しないGM大豆生産者およびMAPAが信任する認証機関が発行する非GMO証明書を提示しない非GM大豆生産者は、政府からの税制優遇措置や公共の金融機関からの融資を受けることはできない。

(カ)GM大豆の栽培が環境および第三者に被害を与える場合、当該生産者は賠償責任を負う。この賠償責任は、GM大豆を購入した者に対しても適用される。

(キ)環境保護地域、インディオ居住地、環境省が生物多様性の保護を図るための優先的地域および指定地域などにおいて、GM大豆の栽培は禁じられる。

(ク)本項の履行を監視するため、MAPAや環境省などの関係各省、ブラジル再生可能天然資源・環境院(IBAMA)や国家衛生監督庁(ANVISA)などの環境問題担当機関により構成される追跡調査委員会を設置する。

(ケ)当暫定令および法第10688号(暫定令第113号が法律化したもの)の規定に違反した者は、1万6,110.00レアル(約76万円)の罰金に、1トン当たり10%を加算して、推定生産額の倍を上限に罰金総額が課せられる。

 今年に限りGM大豆の栽培を承認した暫定令が公布された理由として、公には非GM大豆の種子が不足しているためとされたが、現地報道によるとロドリゲス農相は同年9月29日にサンパウロ市で行われた食用大豆に関する国際セミナーにおいて、「(GM大豆の商業的栽培を解禁する司法の判決が下されていない中で)リオグランデドスル州の生産者が大挙してGM大豆を栽培する場合、これを検査し処罰する体制が十分ではない」ことを挙げた。また「政府として、GM大豆の取り扱いは暫定令ではなく新バイオ安全法に基づくことを望んでいたが、同法案に対する政府内の意見が一致せず、今年の作付け前に公布することが困難であった。しかし、同法案は10月末までに連邦議会に提出される予定である」と述べた。一方、司法当局の反応として、ブラジル連邦判事協会の会長は、今回の暫定令の発令は、環境アセスメントの実施なしにGM大豆の商業的栽培を認めないとする司法の判決に反しているとして、政府の対応を非難した。


 なお暫定令第131号の中で、GM大豆の自家増殖種子を作付けに利用することを希望する生産者は、GM大豆の栽培や販売について政府が定めた規則に従い、責任を負う旨の誓約書に10月26日まで署名しなければならなかった。しかしこの時期は多くの生産者にとって、大豆の作付作業に当たることなどから政府は10月24日、同誓約書の期限内の提出が困難であるとして期限を12月9日に延長した。


 こうした中、暫定令第131号に関して、MAPAジマルジオ事務次官が11月10日に行った発表によると、全国10州から計1万1,199件の誓約書を受理し、内訳はリオグランデドスル州1万790件、マットグロッソ州108件、パラナ州225件、バイア州16件、ピアウイ州22件、ミナスジェライス州28件、マットグロッソドスル州1件、サンタカタリナ州、ゴイアス州およびサンパウロ州がそれぞれ3件であるとした。

 またマットグロッソ州農務省代表部によると、同州の州境において種子として利用するために州外からGM大豆を持ち込もうとした数台の輸送車を差し押さえたほか、数名の生産者が作付けを目的としてリオグランデドスル州産のGM大豆を購入したため押収した。このためジマルジオ事務次官は、主要な大豆生産地においてGM大豆の違法な取り扱いに対する監視体制を強化するとした。


 なお、暫定令第131号は法律化のため連邦議会で審議された際、下院で (1)販売期限を1カ月延長して2005年1月31日までとし、かつ60日間の延長の可能性も追加、(2)2003/04年度において、GM大豆品種を全国品種登録制度(RNC)に暫定的に登録することは認めるが、種子として販売することは禁止(筆者注:レジナルド弁護士の説明では、すでにMAPAに対して品種登録申請が出されていたものを指すとのこと)、(3)農務省などは種子の生産と在庫を厳しく管理、(4)誓約書の提出期限を12月9日に延長、(5)GMの表示義務化を規定(ただし、混入率の規定なし)、(6)「GM大豆を購入した者」にも適用していた賠償責任の規定を削除−などの修正がなされ、2003年11月20日には修正されることなく上院を通過し、12月15日に大統領が署名し法第10814号として12月16日に公布された。

(メモ(4))気を吐くパラナ州知事

 連邦政府は2003年9月26日付け暫定令第131号により、2003年に収穫され生産者が自ら利用するために保管していたGM大豆種子の作付けを2003年12月31日まで認めた。しかしながら、マットグロッソ州に次ぐ国内第2位の大豆生産州である南部のパラナ州では2003年10月14日、同州におけるGM作物の取り扱いに関する条例案が州議会で可決され、レキオン州知事が10月27日に署名して成立した。同条例(パラナ州法第14162/03号)は、(1)同州で食料および家畜用飼料に向けられるすべてのGM作物の栽培、輸入、加工および販売などを禁止するとともに、(2)国内最大の大豆輸出港である同州のパラナグア港を、GM作物の輸出または輸入のために使用することを禁じたものであった。なお、この条例は公布日から発効し、2006年12月31日まで有効とされた。


 現地報道によると、州政府は条例が州議会で可決された後の10月20日から、サンパウロ州、マットグロッソドスル州、サンタカタリナ州との州境に監視所を設け、州内に入る大豆の積荷に対して非GM大豆証明書の確認やGMO検査を実施したため、多くのトラックが州境で立ち往生する事態が発生した。これに対しマットグロッソドスル州政府は、同州経済に重大な影響を与えるとしてパラナ州の対応を強く非難したが、パラナ州政府は法第10688号(暫定令第113号が法律されたもの)によって、2003年に収穫された大豆の取引に非GMO証明の提示を求めたため、同証明書の不備なトラックなどは通行禁止の対象となった。

 さらにパラナ州政府によると、州知事が条例に署名した後、パラナグア港では同港のターミナルに積載されていた大豆を対象にGMO検査が実施されることになった。10月28日に行われた検査の結果、一部の大豆からGM大豆が検出され輸出が停止した。

 政府統計によれば2002年に同国から輸出された大豆1,597万トンのうち509万トンが、パラナグア港から出荷されている。


 パラナ州政府の農務局によると、条例に従い州内でGM大豆の作付け、販売などを行ったものは処罰されるが、一部の生産者はGM大豆の作付けを行う動きを見せていた。また同州政府は、連邦政府が制定した暫定令第131号第4条で「MAPAは、GMOの存在が認められないことが証明された地域を同暫定令の対象外とすることができる」と規定したことから、条例によるGM作物の栽培および販売などの禁止措置と並行して、州全域でGMOが存在しないことを証明し、同州が同暫定令の適用除外と認められるようMAPAに申請しようと考えていたため、生産者とのあつれきを生んだ。

 しかし2003年11月10日にはMAPAのジマルジオ事務次官が、「暫定令第131号に基づいてパラナ州の生産者から225件もの誓約書が提出されたことを踏まえると、同州を暫定令の適用除外とすることは困難である」と話している。(2004年11月23日MAPAコミュニケ情報では最終的には591件)。

 なお同年11月25日には、港湾当局が差し止めていたGM大豆を含む約7万トンがラベル表示されて輸出された。このことについてパラナ州政府は「官報に掲載され条例が有効となる前のことだったので輸出を許可したが、これが最後のGM大豆輸出である」とコメントした。しかし同年12月10日には連邦最高裁判所が、同条例に対し出されていた違憲訴訟を認める予備判決を下し条例を差し止め、そして2005年4月6日には、「すべてのGMOの栽培を禁止した州条例は国家が定めた法令に反するとして違憲である」旨の最終判決が下された。なおパラナグア港の使用制限について連邦最高裁判所は、何も触れていないとのことである。

エ.GMOの規制に関する法案の提出

 ブラジル政府は2003年10月31日、GMOの規制を目的とした法案を連邦議会に提出した。法案は、無許可でGMOの栽培・販売・輸送・貯蔵などを禁止し、違反した場合には3年以下の懲役を含む厳しい罰則が適用されるなどの内容となった。

 なお、当法案は90日以内に採決されるよう緊急案件として連邦議会に提出されていたが、現地では既に多数の修正意見が出され、かつ閉会期間をはさむ可能性があるため、GMOに係る諸問題の解決について年内決着は難しいとの報道がされた。

 実際のところは後述するように、1年5カ月経った2005年3月に制定される。

(2)2004年

ア.GMO表示の順守状況


 2004年10月8日ブラジル法務省は、検査した製品すべてにおいてGMOの混入率が0.1%以下であったことを発表した。8月末にサンパウロ州、パラナ州など9州の消費者保護団体が34サンプルを収集し、それらを試験場で分析した結果を法務省が公表したものである。

 ブラジルでは前述のとおり、法第10688号(2003年6月13日付け)、法第10814号(2003年12月15日付け)により正規にGMOの混入する可能性がある製品が流通することが認められた。しかし大統領令第4680号(2003年4月24日付け)によって、GMOの混入率が1%以上の製品にはラベル表示を行う義務があり、「試験場が送ってきた結果はすべて大統領令第4680号に従っている」と評価した。

 しかしながら良く考えてみれば、当該大統領令では、『2003年に収穫された大豆由来の食品または飼料については、GMOの混入率にかかわりなく、「GM大豆を含む可能性がある」または「GM大豆由来の原料を含む可能性がある」と表示するものとする』とされており、この公表自体には当該製品に利用された大豆の生産年や加工年月日の記載がされていないことから、完全に順守されているかは不明なところである。

 なおこの発表がなされる以前には、州レベルでの検査などでGM表示がないのにGMOが含まれている製品があったとする報道も数件見られた。

イ.2004/05年度産のGM大豆の取り扱い

 連邦控訴裁判所は2004年6月28日、CTNBioに対し結論的な技術見解を出せる権限を戻す決定を下し、同年9月1日付け司法官報において公布した。これはセレネ判事が属する第5合議体の結論であり、これ以後、そして2005年3月24日の新バイオ安全法(法第11105号)が制定されるまで旧バイオ安全法に基づいたCTNBioは活動していた。しかし判決の中で、「(1)表示および食料安全の規定については既に発行されているので問題ない、(2)GM大豆の栽培には環境アセスメントを必要とする」としたため、「環境アセスメント」についてはモンサント社(同年9月13日)などが、「CTNBioの権限回復」については消費者保護院(IDEC、同年9月10日)などが異議申し立てを行った。(なお、異議申し立ては連邦控訴裁判所の大法廷で審理されることになるが実施されていない)。

 このような中、ブラジル政府は2004年10月15日、2004/05年度においてGM大豆の栽培および販売を条件付きで承認する暫定令第223号(2004年10月14日付け)を公布した。これは連邦控訴裁判所の判決は出たもののGM大豆の栽培が司法的に解禁されたわけではなく、また法第10814号(暫定令第131号が法律化したもの)により、2004年に収穫されたGM大豆は種子としての利用は禁止さているからである。なお、正規に品種登録された証明書付きGM大豆種子は圧倒的に不足していると言われていた。

 また連邦議会では、GMOの栽培および販売などを規定するための法律が審議継続中であったが、リオグランデドスル州などではGM大豆の作付時期を迎えていたため、暫定令はそれらに対応した措置であった。ロドリゲス農相は同月15日コミュニケの中で、「政府は数週間前、生産者が安心してGM大豆を栽培する合法的な手段を提供することを約束し、それを守った。合法的に大豆栽培を可能とする環境を実現できたことがもっとも大切なことだ」と話している。

 なお当暫定令の概要は、

(ア)生産者が自ら利用するために自家増殖し保管していた2004年産GM大豆種子は、同年12月まで作付けすることを承認。

(イ)ただし(ア)の場合、GM大豆種子として販売することや州外に所有する農場で利用することは禁止

(ウ)2005年に収穫されるGM大豆の販売は、2006年1月31日までとするが、60日間の延長が可能

(エ)GM大豆の栽培および販売は、2004年12月31日までに誓約書に署名し指定機関に提出することによって可能

(オ)期限内に宣誓書に署名しなかったGM大豆生産者は公的融資(全国農業融資システム(SNCR)による融資)を受けることができない

(カ)非GM大豆生産者が公的融資を受けるためには「非GM大豆生産者宣言書」を提出

(キ)GM大豆の生産により環境、または第三者に害を及ぼした場合、罪の有無にかかわらず賠償責任を負う

(ク)2004/05年度の栽培において、GM大豆品種を全国品種登録制度(RNC)に暫定的に登録することを認めるが、種子としての販売は厳禁

−などと、法第10814号(暫定令第131号を法律化したもの)の内容と近いものとなっている。

 なお法律化する際の連邦議会の審議の過程で、上記(ウ)の延長可能期間が「180日間」に、(エ)の誓約書提出期限が2005年1月31日に変更され、そして(ク)はMAPAのRNCにグリホサート耐性を有するGM大豆品種を暫定的に登録することを承認し、かつ種子会社がロイヤルティーを請求するには販売伝票の提出により種子販売を証明する必要がある−などの修正がなされ、2005年1月13日に法第11092号として公布された。

 なお、2005年4月13日のMAPA公表によれば、誓約書の総数は112,652で、多い順にリオグランデドスル州の104,334(前年81,602)、サンタカタリナ州の3,549(同557)、パラナ州の2,554(同591)となっており、この南部3州で全体の98%を占める。次いで4番目は中西部のマッドグロッソ州で1,514(同158)となっている。

(3)2005年

ア.GMOの解禁に向けた新バイオ安全法案が 連邦議会を通過


 3月2日ブラジル連邦議会下院は、GMOに関連したすべての活動に係る安全規定および監視の仕組みを定めた新バイオ安全法案を賛成352票、反対60票で可決した。本法案は2003年10月から審議され、2004年2月に下院を通過し、同年10月には上院で法案が修正の上可決されたため、再び下院で審議されていた。

 法案は当初下院の通過時、CTNBioの権限が弱かったが、上院で以下のように強化され、再度下院で修正案は出されたものの、修正されずそのまま可決された。なおこの法案には、ヒト胚性幹細胞の研究解禁に関する条項も盛り込まれていた。

 GMOに関する主な内容は以下のとおり。

(ア)CTNBioはGMOの研究、栽培、販売などに関する許可を一元的に管轄

(イ)GMOを含む製品は、表示を義務化

(ウ)大統領府に属し11名の関係閣僚からなる国家バイオ安全審議会(CNBS)が結成され、GMOの商業的利用に関して最終判断を下す

−などとなっている。

 CNTBioは、GMOの栽培・販売などに関する許認可権を一手に掌握するとともに、ブラジル再生可能天然資源・環境院(IBAMA)が所管していた環境アセスメントの必要性についても最終決定を下す権限を得た。

 関係機関の反応は次のとおりであるが、GMOの解禁に向け活動を続けて来た農務省は、冷静に対応していたことが印象的であった。

○農務省(MAPA:3月4日)

(ブラジルは暫定令(その後法第11092号となる)により、2004/05年度のGM大豆栽培などに限って条件付きで承認しているが)バイオ安全法案が下院を通過したといえども大統領が署名するまで、GM大豆の栽培などの条件である政府が定めた制限を順守するという誓約書は提出義務である。なお大統領の署名後に、誓約書の必要性の有無については検討する。(筆者注:2005年8月時点で、前出のレジナルド弁護士に確認したところ、誓約書の取り扱いについては新バイオ安全法の規定に基づき制定される大統領令で、2005/06年度の栽培と関連付けられて定められるのではないかとのことである)。

○環境省(MMA:3月3日)

 法案は、CTNBioにGMOの商業的許可権限を排他的に与えたため、環境・畜産・農業・漁業・保健の各分野で行動する政府機関を二次的な立場へ追いやった。

 また環境アセスメントの必要性を判断する権限をCTNBioに与えたことにより、環境に与えるインパクトを評価する国家権限をはく奪したことにもなった。GMOの利用に係る決定過程に重大なアンバランスが生じ、いまだ生態系に対する影響が解明されていないテクノロジーに対して、必要な予防措置を欠くことになる。

 連邦議会の憲法的権限を認識した上で、環境省は法案に含まれる潜在的環境リスクをブラジル社会に示す義務を感じている。

○ブラジル全国農業連盟(CNA:3月4日)

 法案は、GM大豆などを規定するため農業分野には有利である。また高い競争力をもたらすバイオテクノロジーを導入すべきか否かの議論が収束することになる。

 これまで司法は、GMOの栽培などに対するCTNBioの決定を、各省が否定する権限があるとしてきたが、今後はCNBSのみがその権限を有することになる。新バイオ安全法案により、これらの疑問は過去のものとなった。

○消費者保護院(IDEC:3月3日)

 可決された法案のうちGM製品に関する部分に対し、IDECや全国消費者保護民間団体フォーラムに属する団体は拒絶の意を表明する。残念ながら連邦議会およびルラ政権は消費者の健康に対する権利および健全な自然環境を無視した行為を明らかに示し、多国籍企業の主張に協調した。

 法律が成立してもIDECが提訴した遺伝子組み換え(トランスジェニック)を禁止する司法決定が継続され、その効力が司法によってのみ消滅するものと理解している。また環境アセスメントや環境への影響を調査させることは憲法によって定められており、本法案で消滅するものではない。

イ.新バイオ安全法成立

 2005年3月24日、連邦議会を通過してから20日以上経って大統領が署名し、28日に公布された。

 大統領が直接拒否した条項はなかったが、官房長官などがいくつかの条項を拒否した。官房長官が拒否した中には、CNBSの審議日数に期限が設けられていたことがあり、「CTNBioの審議には期限がないのに、関係閣僚が問題だとした案件に関して、新たな調査や分析が必要になるのに、CNBSの審議日数を45日とし、かつもしこの期間内に結論が出なければ、CTNBioの技術見解が決定事項になるのは問題である」と説明している。

 なお新バイオ安全法の詳細は、ホームページ(http://lin.alic.go.jp/alic/month/fore/2005/oct/spe-02.htm)の(参考法令)を参照のこと。

(メモ(5))RR大豆のロイヤルティー問題

 2003年11月10日付けMAPAコミュニケにおいてジマルジオ事務次官は、RR大豆の特許権を持つモンサント社がロイヤルティーの支払いを求めている件について、「ロイヤルティーに関しては農
務省の権限を越えるものであり、われわれが見解を示すものではない」と話していた。この時点ではロイヤルティーに対する政府の方針が明らかではなかったが、すでに問題は存在していた。

 その後、ロイヤルティーの支払いに対する考えが明確になってきたのは、法第11092号(暫定令第223号が法律化したもの)および新バイオ安全法である。前者の第7条では、本法において定める作付けに利用されるGM大豆種子についてロイヤルティーを請求しようとする場合、特許権を有する会社は販売伝票によって種子の販売を証明することとされ、後者の第35条では、農務省の全国品種登録制度(RNC)に登録されたグリホサート耐性を有するGM大豆品種の生産および種子販売を許可する−とされた。

 これらによりグリホサート耐性遺伝子を組み込んだGM大豆に対してロイヤルティー(特許料や技術料と記述されている)の請求が可能となり得ると判断し、モンサント社は種子協会や生産者団体などとの交渉を加速したようである。

 しかしここで問題となるのは、アルゼンチンから流入したグリホサート耐性のGM大豆を自家増殖しかつ栽培・収穫した不正規大豆に対するロイヤルティーの徴収である。よってモンサント社は、正規のものについては種子販売の段階で、不正規なものについては収穫後の販売時に徴収する2つの方法で交渉した。
(なお2003/04年度に、RR大豆種子に対するロイヤルティーをモンサント社は要求したとの報道があるが、この行動に出た動機はおそらく暫定令第113号の公布により、GM大豆の解禁が間近いと思った種子生産者が増殖準備のために、RR大豆種子を購入したことによるのではないかと思われる)。

○2004/05年度のRR大豆の原種子・種子および大豆粒

 ブラジル種子生産者協会(ABRASEM)は、「2004/05年度 RR大豆種子の増殖に利用された原種子に係る技術料」と題する情報第43/2005号を発出し、「2005年4月19日にサンパウロで協定が結ばれ、種子生産者は2004/05年度の種子生産に用いた原種子キログラム当たり0.30レアルのロイヤルティーを2005年5月30日に払う」と回報した。

 また現地では、ABRASEMが同年7月11日の会議においてモンサント社から、

(1) RR大豆種子のロイヤルティーを1キログラム当たり0.88レアル
(2) ロイヤルティーを支払わない不正規種子から生産された大豆に対し、2005/06年度は生産者販売価格の2%を徴収する(2004/05年度分に対しては、1%を徴収するとの情報もある)
(3) ロイヤルティーの徴収は種子生産者が行うが、モンサント社はその徴収手数料として徴収されたロイヤルティーの32.5%を種子生産者に支払う

との提案を受け、作付時期が迫っていたこともあり契約したと報道がされた。しかし、ABRASEM傘下の各州種子生産者協会は、生産者との交渉はモンサント社が直接すべきであるなどと一斉に反発した。

 このような中2005年8月12日、リオグランデドスル(RS)州種子生産者協会(APASSUL)とモンサント社は、GM大豆に係るロイヤルティーおよび徴収方法について交渉が成立したとの報道がなされた。

 内容としては、不正規種子から生産された2005/06年度産大豆の生産者販売価格にロイヤルティー2%を徴収することに異議を申し立てないことを条件に、RS州の長期乾燥による生産量の激減を考慮に入れ、

(1) 種子生産者に支払う徴収手数料32.5%を43.2%に引き上げ
(2) これにより種子生産者が独自の判断で、種子に係るロイヤルティーであるキログラム当たり0.88レアルを0.50レアルまでの間で自由に設定可能―となっている。

 モンサント社はRS州の方式を各州での交渉ベースとするようである。

 なおモンサント社が収穫物に対してロイヤルティーの徴収を求めることができるのは、ブラジルにおいてグリホサート耐性に係る技術特許が既に承認されているからであると言われている。

 

4 新バイオ安全法に基づく現在の体制

 新バイオ安全法に基づくGM製品の解禁権限を持つ2つの組織については、関心が高いと思われるので、その概要を説明しておく。

(1)国家バイオ安全審議会(CNBS)

 CNBSは大統領府に属し、国家バイオ安全政策(PNB)の策定や実施にかかわり、以下の11名の関係閣僚からなる。

 なおGMOの商業的利用許可に関して、各省の部局や公的法人などの登録監視機関などの要請により審議し、社会的・経済的な利益および時勢、または国家の関心に関する観点から最終的な判断を下す権限を持っている。

(CNBSメンバーの閣僚)
(1)大統領府官房長官(審議会長)、(2)科学技術相、(3)農地開発相、(4)農務相、(5)法務相、(6)厚生相、(7)環境相、(8)開発商工相、(9)外務相、(10)国防相、(11)大統領府特別水産漁業庁長官

(2)CTNBio

 CTNBioは科学技術省に属し、GM製品に関する国家バイオ安全政策(PNB)の策定や実施、GM製品の研究や商業的利用に係る技術的安全規則の制定や技術所見作成において、連邦政府を支援・補佐する役目を負っている。

 また権限としては、
(1) GM製品に対する研究、活動、プロジェクトに関係する規則の制定
(2) GM製品の評価およびリスクモニタリングの基準を設定
(3) GM製品に関わる活動およびプロジェクトのリスク評価分析などをケースバイケースで実施
(4) GM製品に関連する各組織が設ける内部バイオ安全委員会(CIBio)の機能メカニズムの設定
(5) GM製品の関連活動を進める各組織の運営許可に係るバイオ安全関連要件の設定およびバイオ安全品質証明書(CQB)の発行
(6) 研究活動のためGM製品の輸入の許可
(7) GM製品のPNB策定において、CNBSに対し技術支援の諮問および補佐
(8) GM製品の研究活動および商業利用行為におけるバイオ安全について、リスクレベルおよび要求されるバイオ安全レベル・安全対策・使用制限などを含め、ケースバイケースで技術見解書を発行
(9) 分析以前に案件の抜粋を、そして分析後に案件の所見を国家官報に掲載し、進行中のプロセスや会議録などの活動状況を、バイオ安全情報システム(SIB)により広報
(10) GM製品のバイオ安全に関する新たな事実や科学知識などにより見解の再評価
(11) 商業的利用において、CTNBioの要請を受けて権限を施行する各省部局などの登録監視機関などは、バイオ安全の観点からは、CTNBioの技術的判断に従う
(12) すでに認可されているGMOの派生品は、新たな評価および技術所見発行の対象とはならない
(13) すでに商業的利用の許可を受けたGM商品の農業生産、販売、輸送のプロセスに関わる個人および法人に対し、CTNBioがこれに反した見解を下さない限り、CQBの提出およびCIBioの結成を免除

となっており、(12)(13)から察すれば、RR大豆は新たなプロセスを要求されることはないようである。

 なおCTNBioによれば、新バイオ安全法は制定されたが、法第12条にある「施行規則」がまだ制定されておらず、よってCTBioの機能も規定されていないため、CTNBioの活動は停止しているとのことで、活動が再開するのにまだ時間がかかるようである。

★CTNBioの構成メンバー:合計27名、任期は2年で2回まで継続可能

(1)各分野の専門家 計12名
  a)ヒトの保健分野3名、b)家畜分野3名、c)植物分野3名、d)環境分野3名
(2)各関係省庁の代表者1名 計9名
  a)科学技術省、b)農務省、c)厚生省、d)環境省、e)農地開発省、
  f)開発商工省、g)国防省、h)大統領府特別水産漁業庁、i) 外務省
(3)各関係省庁から任命される専門家 計6名
  a)消費者保護関係(法務省)、b)バイオテクノロジー関係(農務省)、
  c)保健関係(厚生省)、d)環境関係(環境省)、e)家族農業関係(農地開発省)、
  f)労働者保護関係(労働雇用省)

 またCTNBioのメンバーは、倫理・専門概念を順守することを活動理念とし、業務的あるいは個人的な関心に係る審議に参加することは禁止されている。

 さらにCTNBioは、テーマを分析するため上記(1)の4専門分野に分野別常駐サブ委員会や臨時サブ委員会を設置することになっている。

 なお、審議事項の最終的な決定方法は、やはり今後制定される大統領令によって決まるとのことである。

 

5 おわりに

 筆者がブエノスアイレスに赴任して一番最初に書いた「海外駐在員情報(通称:週報)」は、「遺伝子組み換え作物の自由化をめぐる綱引き」(2002年4月2日発行)であった。それ以来、ブラジルにおけるGM大豆解禁の動きを追い、そして2005年3月に新バイオ安全法が成立した。

 この長きにわたる中、解禁をめぐる過去からの経緯を少しずつ整理してきたつもりだったが、いざ全てを含むレポートの形にしてみると、時系列的な矛盾が多々存在することに気がついた。すでに週報として公表した中にも間違いを見つけたところであり、この場をお借りして読者の方々にお詫び申し上げたい。


 ブラジルにおいて、なぜ解禁されていないGM大豆の栽培が行われたのかと過去の執筆からいつも疑問に感じるが、よく言われることは、(1)ラテン的性格に起因していた、(2)大豆ブームの到来時期が合致した、(3)“まね”は当たり前だ−ではないかと思う。隣国アルゼンチンではGM大豆は解禁されており、大豆ブームに乗って優良草地は耕地へと換わった。そこで「なぜアルゼンチン産大豆の9割が、GM大豆なのか」と農業関係者に質問すると、答えは当然、除草剤の回数が減るためコストが削減できる、大豆の国際価格の上昇といつも聞く答えが大半を占めるが、「面倒くさくないから」と言う人もいる。アルゼンチン人の気質に合ったのだ。

 そして、特許権という意識も低い(または意識があっても無視)ということもあり、自家増殖種子は、アルゼンチンからブラジル南部の国境を越えた。

 ブラジルにおけるGM大豆解禁論争はご多分に漏れず、(1)食品や飼料としての利用者に対する安全性(試験方法およびその評価方法かつそれらの妥当性)、(2)環境アセスメントの必要性の有無、(3)(1)および(2)を判断する権者は誰か(推進派か慎重派か)、(4)GM製品か否かまたはGMO混入の有無についての知る権利(表示義務)−であろう。(しかしこれらを決定するのはある方向性の意思をもった個人であり、かつ組織である。はっきり言って終わりのない論争に思える。)

 2005年6月27日発行のFood&Agriculture「ミズーリ州で遺伝子組み換え米作付けをめぐる騒動(米国)〜大手ビールメーカーの反対で作付け地を変更〜」を読んで、「米国人よ、お前も自分が食べるものは、やっぱりGM食品は不安なのだな」と感じた。日本人にとって大豆は油を搾る原料というより、味噌、醤油、豆腐として日々食卓に上るなじみ深い食品だ。

 ブラジルのGM大豆解禁の経緯をまとめてみて思ったことは、今後、科学が進めば進むほどいろいろな考えを持った人同士、組織同士が対立や調和を繰り返すのであろう。そして、その際の解決方法としてよく言われる合言葉は「科学的な根拠に基づいて」である。しかし、科学は万能ではないことは誰でも知っている真実であり、一消費者として決して忘れてはいけないものなのだ。

 私は消費者として責任を持つためにも、個人の責任で選択・判断することは忘れてはならないと思うし、かつその選択・判断に必要となる手段を奪われてはならないとも思う。

(参考法令)

2005年3月24日付け法第11105号
憲法第225条補項1のU、W及びX号を規定し、遺伝子組み換え体(GMO)及びその派生品に関わる活動の安全規則及び監視の仕組みを定め、国家バイオ安全審議会(CNBS)を設置し、国家バイオ安全技術委員会(CTNBio)を再構成し、国家バイオ安全政策(PNB)を制定し、1995年1月5日付け法第8974号、2001年8月23日付け暫定令第2191-9号及び2003年12月15日付け法第10814号の第5、6、7、8、9、10、16条を廃止し、その他の規定を定める。
本法を連邦議会が公布し、共和国大統領が認可する。

第1章
序則及び全体規定


第1条 本法は、バイオ安全及びバイオテクノロジーの科学分野を発展させるとともに、ヒト・動物・植物の生命と健康を保護し、かつ環境の保護に関する予防原則の順守を行動指針として、遺伝子組み換え体(GMO)およびその派生品(筆者:以下「GM製品」とする)の形成、栽培、生産、操作、輸送、移転、輸入、輸出、貯蔵、販売、消費、自然環境への放出及び廃棄に関わる安全規則及び監視の仕組みを定める。

補項1 本法における研究活動とは、GM製品を得るためのプロセスまたは安全評価のプロセスの一部として、実験室やフィールドなどで実施されるものの実験レベルでのGM製品の形成、栽培、操作、輸送、移転、輸入、輸出、貯蔵、研究、自然環境への放出及び廃棄を含む。

補項2 本法におけるGM製品の商業活動とは研究活動に該当せず、商業目的としたGM製品の栽培、生産、操作、輸送、移転、販売、輸入、輸出、貯蔵、消費、放出及び廃棄を指す。

第2条 GM製品に関連する生物体の操作を含む教育、科学研究、テクノロジー開発及び工業生産などに係る活動及びプロジェクトは、公法または私法の組織に限られ、当該組織は本法及びその規則の規定に従い、不履行による結果に対する責任を負う。

補項1 本法において組織レベルの活動及びプロジェクトとは、独自の施設において運営されるもの、または組織の科学的・技術的・管理的責任において運営されるものをいう。

補項2 本条が定める活動及びプロジェクトは、独立自由業の個人に対しては、たとえその個人が法人との雇用関係、或いはいかなる関係を結んでいる場合においても認められない。

補項3 本法が定めた活動の実施を希望する者は、国家バイオ安全技術委員会(CTNBio)の許可を要請し、CTNBioは規定された期限内に回答を与える。

補項4 本条の本文が記す活動またはプロジェクトを融資または後援する国内外の、または国際的な公的組織及び民間組織は、CTNBioが発行するバイオ安全品質証明書を要求すべきであり、それを怠った場合、本法及び施行規則の不履行に起因する効果の連帯責任を問われる。

第3条 本法において次のように定義する:

I−有機体:ウイルス及びその他今後出現し得るものを含み、遺伝材料を再生または運搬する能力を有するすべての生物体。

II−デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA):後代へ伝達する能力があり、遺伝的特徴の決定的情報を含む遺伝材料。

III−組み換えRNA/DNAの分子:天然または合成RNA/DNAのセグメントを、生きている細胞外で操作し変更した分子で、生きている細胞内で増殖可能なもの、或いはその増殖の結果として生じたRNA/DNA分子。合成RNA/DNAのセグメントは、天然RNA/DNAと同等であると見なす。

IV−遺伝子工学:組み換えRNA/DNAを作出及び操作する活動。

V−遺伝子組み換え体(GMO):遺伝子工学のいずれかの技術により遺伝材料(RNA/DNA)が変更された有機体。

VI−GMO派生品:GMOから得た製品で、自主的に複製する能力を有さない、または有効なGMOを含まない製品。

VII−ヒトの生殖細胞:男性及び女性の生殖腺に存在する配偶子、及び倍数性(ploidy)にあるすべての段階において存在し、直接子孫を形成する元となる母細胞。

VIII−クローニング:遺伝子工学の技術応用を問わず、唯一の遺伝資源に基づき人工的に行われる無性生殖の再生プロセス。

IX−繁殖(再生)目的のクローニング:個体を得ることを目的としたクローニング。

X−治療用クローニング:治療に利用する胚性幹細胞生成を目的としたクローニング。

XI−胚性幹細胞:身体のいかなる組織にも変更が可能な胚の細胞。

補項1 遺伝材料を直接有機体に挿入する技術によるものは、試験管受精、接合、形質転換、倍数性育種、その他すべての自然プロセスを含み、組み換えDNA/RNA分子またはGMO分子を用いない限りGMOとは認められない。

補項2 GMO、異種起源のタンパク質及び組み替えDNAなどを含まず、生物的プロセスによって得られ、科学的に純粋であると定義される物質は、GMO派生品のカテゴリーには含められない。

第4条 受容または提供にGMOを利用しない場合、下記の手法によって遺伝子の変更が行われるものには、本法は適用されない。

I−突然変異誘発(mutagenesis)

II−動物ハイブリドーマ細胞の形成と利用。

III−細胞融合。従来の培養手法により作出可能な植物細胞の原形質のものも含む。

IV−自然条件で処理される非病原性有機体のオートクローニング。

第5条 本来的な行為(筆者注:おそらく体外受精卵移植を意味すると思われる)に利用せず、研究及び治療目的のため試験管受精により作出されるヒト胚から得た胚性幹細胞の利用は、次の条件を満たすことにより認められる。

I−見込みのない胚であること。(筆者注:おそらく「成長の」見込みのないの意)

II−本法施行日にすでに3年以上凍結されている胚、または施行日にすでに凍結されている胚が凍結日以降3年経過した時点で利用されること。
補項1 いかなる場合にも親の許可を必要とすること。
補項2 ヒト胚性幹細胞を研究または治療に用いる研究機関や衛生サービスは、プロジェクトについて、それぞれの研究倫理委員会に評価と許可を委ねること。
補項3 本条が定める生物材料の販売は禁止され、それを行った場合は、1997年2月4日付け法第9434号の第15条に記される犯罪に該当する。

第6条 次の事項を禁止する。

I−追跡記録を維持せずにGMOに関するプロジェクトを実施すること。

II−本法の規定に反して実施される生ある有機体に対する遺伝子工学、または自然RNA/DNA及び組み換えRNA/DNAの試験管内操作。

III−ヒトの生殖細胞、ヒトの接合子及びヒトの胚に対する遺伝子工学。

IV−ヒトのクローニング。

V−CTNBio及び登録監視機関及び組織が定め、本法第16条、その他及び施行規則に定められる規定に反し、GM製品を破壊または自然環境に廃棄すること。

VI−CTNBioの肯定的な技術判決なくして研究活動によりGM製品を自然環境に放出すること、商業的放出の場合はCTNBioの肯定的技術所見。またCTNBioが環境劣化をもたらすポテンシャルが有ると認めた活動に対して環境管轄機関のライセンスなくして放出すること。さらに本法及び施行規則に基づき国家バイオ安全審議会(CNBS)が審議・決定権を要求した場合、同審議会の許可なくして自然環境に放出すること。

VII−利用が制限されている遺伝子技術の利用、販売、登録、特許申請及びライセンス取得。
補項 本法において利用が制限されている遺伝子技術とは、繁殖能力を持たない再生構造体を生産するためにGM植物を作出または増殖する全ての人為的介入プロセス、または外部化学誘発剤により植物の繁殖性に関わる遺伝子を活性化または不活性化する遺伝子操作の全ての方法−を指す。

第7条 次の事項は義務である。

I−遺伝子工学分野の研究及びプロジェクトの過程において発生した事故を調査し、発生後5日間以内に管轄当局にレポートを提出すること。

II−GM製品の散布を招く可能性がある事故については、CTNBio、公共衛生当局、農牧防疫当局及び環境関係当局に即座に連絡すること。

III−事故が発生した場合に曝されるリスクについて、また取るべき処置については、CTNBio、公共衛生当局、環境関係当局、農牧防疫当局、共同体、機関または企業の従業員に対し十分な情報伝達手段を設けること。

第2章
国家バイオ安全審議会−CNBS

第8条
 大統領府に直属し、国家バイオ安全政策(PNB)の策定及び実施に関わる共和国大統領最高補佐機関である国家バイオ安全審議会(CNBS)を設置する。

補項1 CNBSは次の権限を有する。

I−本件に関して権限を有する連邦機関及び組織の行政活動に関する原則と方針を定める。

II−CTNBioの要請により社会的・経済的な利益及び時勢、または国家の関心に関する観点から、GM製品の商業的利用許可申請を分析する。

III−CTNBioの決定に対して本法16条に記す各機関及び組織が必要と判断した場合に基づき、権限の範囲内でGM製品の商業的利用活動に関する審議をし、最終的かつ決定的な決断を下す。

IV−(拒否)

IV
−(原案)本法16条補項7が定める異議申し立て提出後45日間以内に検討し、この期限が守られない場合、異議申し立ては損なわれたものとなる。

拒否の理由(大統領府官房長官):登録及び監視責任を有する各省が、CTNBioの判決に対して異議を申し立てることがあっても、この補項の場合では、期限切れによってCTNBioの判決が決定的なものとなる可能性がある。CNBSを構成する閣僚は、複雑で論争を呼ぶ案件を45日間以内に評価することが義務づけられることになるが、この期限内に閣僚が決断するに必要となる新たな諮問や説明を得ることは不可能である。

補項2 (拒否)

補項2 (原案)CTNBioの技術判決公布後、CNBSが審議・決定権を要求する期限は30日間であり、審議・決定権の移転手続後45日間以内に議決することとし、この期限が守られない場合、(CTNBioの)判決は決定的なものとする。
拒否の理由(大統領府官房長官):CTNBioが権限に関するテーマについて判決を下すには期限がなく、その反面CNBSは案件に対して権限を有する各省の所見発表後、国家の関心事項に関して45日間以内に決定を下す必要があり、期限切れの場合、CTNBioの判決は決定的なものとなる。案件の複雑さにより新たな調査、またはより深い分析が必要とされる場合もあり得るため、より長期の期限が必要である。

補項3 CNBSが分析した活動に対して有利な判決を下した場合、本法16条に記す各機関及び組織に報告する。

補項4 CNBSが分析した活動に対して否定的な判決を下した場合、申請者に回答するためCTNBioに報告する。

第9条 CNBSは次のメンバーによって構成される。

I−大統領府官房長官:審議会長を務める。
II−科学技術省国務大臣
III−農地開発省国務大臣
IV−農務省国務大臣
V−法務省国務大臣
VI−厚生省国務大臣
VII−環境省国務大臣
VIII−開発商工省国務大臣
IX−外務省国務大臣
X−国防省国務大臣
XI−大統領府特別水産漁業庁長官

補項1 CNBSは官房長官の、またはメンバーの過半数からの要請により召集される。

補項2 (拒否)

補項2 (原案)CNBSのメンバーの代理は各省の事務局長とする。
拒否の理由(大統領府官房長官):補項2によると国務大臣及び大統領府特別水産漁業局長官の代理はそれぞれの事務局長となる。しかし外務省、国防省及び大統領府特別水産漁業局には事務局長が存在しない。それに加えて正規メンバーの代理は大統領令またはCNBSの内部規定によって定められるべきものである。

補項3 CNBSは、会議に他の公共または民間機関及び組織の代表者を招聘することが認められ
る。

補項4 CNBS内に、大統領府官房に直属した事務局を設置する。

補項5 CNBSの会議は、6名のメンバー参加によって開催することが認められ、絶対多数の賛成票(筆者注:6票以上のことらしい)によって決断される。

第3章
国家バイオ安全技術委員会 − CTNBio

第10条
科学技術省に属するCTNBioは、審議および諮問を目的とする多分野の合議体であり、GM製品に関する国家バイオ安全政策(PNB)の策定、更新及び実施、またはGM製品の研究及び商業的利用に関わる技術的安全規則制定及び技術所見作成において、連邦政府に技術支援と補佐を務める役割を有する。

補項 CTNBioは、ヒト・動物・植物の健康および自然環境を保護する能力の向上を目的とし、バイオ安全、バイオテクノロジー、バイオ倫理学、その他関係各分野における技術や科学の開発及び発展を追跡しながら、その権限を行使する。

第11条 CTNBioは、科学技術省から任命される正規メンバー及び補欠メンバーによって構成され、バイオ安全、バイオテクノロジー、生物学、ヒト及び動物の保健、自然環境の各分野において認知された技術能力及び周知の科学知識を有し、抜きん出た専門活動を展開する博士号を有した27名のブラジル国民によって構成される。その内訳は、

I−実質的に専門活動に従事し周知の科学技術知識を有する下記の専門家12名
 a)ヒトの保健分野3名、b)家畜分野3名、c)植物分野3名、d)環境分野3名

II
−下記の機関より任命される代表者それぞれ1名
 a)科学技術省、b)農務省、c)厚生省、d)環境省、e)農地開発省、
 f)開発商工省、g)国防省、h)大統領府特別水産漁業庁、i) 外務省

III
−法務大臣より任命された消費者保護専門家

IV
−厚生大臣より任命された保健専門家

V
−環境大臣より任命された環境専門家

VI
−農務大臣より任命されたバイオテクノロジー専門家

VII
−農地開発大臣より任命された家族農業専門家

VIII
−労働雇用大臣より任命された労働者保健専門家

補項1 本条I項が定める専門家は規則に基づき、科学界の参加により選定された3名のリストをもとに選ばれる。

補項2 本条V〜[項が定める専門家は規則に基づき、民間社会の組織が選定した3名のリストをもとに選ばれる。

補項3 各正規メンバーに対して補欠メンバー1名が待機し、正規メンバー不在時に作業に参加する。

補項4 CTNBioのメンバーの任期は2年とし、2回まで継続可能とする。

補項5 科学技術省国務大臣は、CTNBioのメンバーの中から会長を任命し、任期は2年間で同期間(=2年間)更新可能とする。

補項6 CTNBioのメンバーは、倫理・専門概念の絶対的順守を活動理念とし、業務的あるいは個人的な関心に関わる審議に参加することは禁止され、それに従わない場合、規定に基づき委員を解任される可能性がある。

補項7 CTNBioの会議はメンバー14名の出席によって設置することが認められ、本条I 項の各分野の代表者が最低1名参加するものとする。

補項8(拒否)

補項8 (原案)CTNBioの決定は補項7の定足数を守った上で会議に出席したメンバーの多数決によって定められる。拒否の理由(大統領府官房長官):公共衛生及び自然環境に影響し、論争を呼ぶ複雑な問題をわずか8名のブラジル人(定足数は14名の過半数は8名)によって決定するのは適切ではなく、たとえ学術的に優れていようともCTNBio合議体の3分の1にすぎない。また本件は決定の定足数を増やす大統領令の対象となり得る。

補項9 連邦公共行政を構成する機関及び組織は特別関心事項を審議するため、CTNBioの会議への参加を申請することが認められるが、投票権はない。

補項10 科学界、公共分野及び民間社会の代表者が、特別に招聘され会議に参加することが認められるが、投票権はない。

第12条 CTNBioの機能は本法の施行規則に定められる。

補項1 CTNBioに事務局を設置し、科学技術省がこれに技術、行政支援を行う。

補項2(拒否)

補項2 (原案)GMOの研究許可または販売許可の申請手数料の金額及び徴収方法は、本法の施行規則によって定められる。
拒否の理由(法務相):この補項では、CTNBioにおいて申請案件の評価に係る経費を払うため、申請者より手数料を徴収することを定めている。つまり租税を命名し、徴収した税の用途を定めているが、納税義務の課税対象を定義していない。課税対象の明示は国家税法典第4条により義務付けられている。

第13条 CTNBioは総会の審議にかけるテーマを事前に分析するため、ヒトの保健分野、家畜分野、植物分野、環境分野の分野別常駐サブ委員会を設置し、かつ臨時サブ委員会を設置することができる。

補項1 正規メンバー及び補欠メンバー全員が分野別サブ委員会に参加し、分析用書類は全員に配布される。

補項2 サブ委員会の機能及び作業の調整法は、CTNBioの内部規定で定められる。

第14条 CTNBioは、次の役割を有する。

I−GM製品の研究に関する規則を制定する。

II
−GM製品に関連する活動及びプロジェクトの規則を制定する。

III
−権限の範囲内で、GM製品の評価およびリスクモニタリングの基準を設定する。

IV
−GM製品に関わる活動及びプロジェクトのリスク評価分析をケースバイケースで実施する。

V
−GM製品に関する教育、科学研究、技術開発及び工業生産に従事する各機関の内部バイオ安全委員会(CIBio)の機能メカニズムを設定する。

VI
−GM製品の関連活動を進める研究所、機関及び企業の運営許可に係るバイオ安全関連要件を設定する。

VII
−GM製品のバイオ安全に関わる国内及び国際機関と交流する。

VIII
−現行法の規定に従い、GM製品の研究活動を許可、登録及び追跡する。

IX
−研究活動のためGM製品の輸入を許可する。

X
−GM製品のPNB策定において、CNBSに対し技術支援の諮問及び補佐を行う。

XI
−研究所、機関、または企業におけるGMO関連活動を進めるため、バイオ安全品質証明書(CQB)を発行し、関連書類を本法律16条に記す登録監視機関に送付する。

XII
−GM製品の研究活動及び商業利用行為におけるバイオ安全について、リスクレベル及び要求されるバイオ安全レベル、要求される安全対策及び使用制限などを含め、ケースバイケースで技術見解書を発行する。

XIII
−本法の施行規則に従い、GM製品とその使用に適用するバイオ安全レベル、また使用に関する安全手法と対策を設定する。

XIV
−本法の施行規則に従い、GMOを危険度のクラスによって分類する。

XV
−GM製品のバイオ安全に関する技術と科学の開発と発展を追跡する。

XVI
−管轄する内容に関し規制的性質を有する決議を発行する。

XVII
−組み換えRNA/DNA技術に係るプロジェクトおよび活動工程の検証において、事故や病気の予防・調査の方法において、管轄機関を技術的に支援する。

XVIII
−GM製品に係る関連活動の実施において、本法16条に記す登録監視機関及び組織を支援する。

XIX
−分析以前に案件の抜粋を、そして分析後に案件の所見を国家官報に掲載し、またアジェンダ、進行中のプロセス、年次レポート、会議議事録、その他要請者が商業的関心のある秘密情報と指定しCTNBioがそれを認めた情報を除いた活動情報を、バイオ安全情報システム(SIB)により大々的に報道する。

XX
−GM製品に係る関連活動及び製品の利用により環境劣化及びヒトの健康にリスクをもたらすポテンシャルを有するものを見極める。

XXI
−GM製品のバイオ安全に関し有意義な新事実や、新たな科学知識に根拠付けられたメンバー、または登録監視機関及び組織の要請により、本法及び施行規則に定められる時期と方法によって見解を再評価する。

XXII
−GM製品のバイオ安全分野の科学研究及び調査の実施を提案する。

XXIII
−科学技術省国務大臣に内部規定案を提出する。

補項1 GM製品のバイオ安全に関し、他の行政機関及び組織は、CTNBioの見解に従う。

補項2 商業的利用のケースにおいて、CTNBioの要請を受けて権限を施行する登録監視機関は、多くの分析用技術要素の中で、GM製品のバイオ安全の側面からCTNBioの技術的な判断に従う。

補項3 研究活動においてバイオ安全に関し肯定的技術見解が下された場合、本法16条に記す登録監視機関の権限行使を図るため、CTNBioは関連書類をこれらの機関に送付する。

補項4 CTNBioの技術見解は、本法16条に記す登録監視機関及び組織の任務遂行を指導及び支援することを目的とし、かつ国の各地域の特性を考慮するとともに、技術見解書に技術的根拠、安全措置及び利用制限を明記する。

補項5 すでに認可されているGMOの派生品は、新たな評価及び技術所見発行の対象とはならない。

補項6 すでに商業的利用許可を受けたGM商品の農業生産、販売、輸送のプロセスに関わる個人及び法人に対し、CTNBioがこれに反した見解を下さない限り、CQBの提出及びCIBioの結成を免除する。

第15条 CTNBioは公聴会を開くことが認められ、施行規則に従い民間社会の参加が保証される。

補項 商業許可の要請に関する場合、民間社会は本件に係わっていることを証明することにより、施行規則に従って公聴会の開催を要請することができる。

第4章
登録監視機関及び組織


第16条
 厚生省、農務省、環境省、大統領府特別水産漁業庁の機関及び組織は、それぞれの権限内の役割の中でCTNBioの技術見解、CNBSの議決、そして本法及び施行規則が定める規定に従い、次の役割を有する。

I−GM製品の研究活動を監視。

II
−GM製品の商業許可の登録及び監視。

III
−GM製品の商業的利用のための輸入許可証の発行。

IV
−GM製品関連活動及びプロジェクトを実施する機関や技術責任者の登録を更新し、SIBに更新した情報を提供。

V
−授けた登録及び許可について、SIBをも通じて公表する。

VI
−本法が定める罰則を施行する。

VII
−GM製品のバイオ安全の評価項目設定について、CTNBioを支援する。

補項1 CTNBioが肯定的に表明した場合、CNBSが審議権を要求した場合、上訴の場合にCNBSが肯定的に表明した場合、特殊な分析及びそれに関連する判決により各機関は次の役割を負う。
I−農務省は、現行法及び本法の施行規則に基づき、動物・農業・畜産業・アグロインダストリーおよびその他関連分野への利用に向けられるGM製品とその活動に対し、許可証及び登録証を発行しかつそれらを監視すること。
II−厚生省の管轄機関は、現行法及び本法の施行規則に基づき、ヒト、薬剤、家庭内衛生およびその他関連分野への利用に向けられるGM製品とその活動に対し、許可証及び登録証を発行しかつそれらを監視すること。
III−環境省の管轄機関は、現行法及び本法の施行規則に基づき、生態系に放出されるGM製品とその活動に対し、許可証及び登録証を発行しかつそれらを監視するとともに、CTNBioが本法に基づきGMOが著しい環境劣化をもたらすポテンシャルを有するものと認めた場合、ライセンスを発行する。(筆者補足:環境ライセンス−IBAMAが発行するもので、それまで人間の手が入らなかった自然の土地において、農業、鉱業、建築などの活動を始める場合、取得する事が義務付けられるもの)
IV−大統領府特別水産漁業庁は現行法、本法及び本法施行規則に基づき、漁業及び水産業への利用に向けられるGM製品とその活動に対し、許可証及び登録証を発行すること。

補項2 CTNBioが著しい環境劣化をもたらすポテンシャルを有するものと認めた場合にのみ、1981年8月31日付け法第6938号8条のI、II項及び10条の本文を適用する。

補項3 環境劣化のポテンシャルを持つまたは実際に環境劣化を引き起こす活動か、さらに環境ライセンスが必要となるケースかは、CTNBioが最終的及び決定的に議決する。

補項4 本法に記す登録証、許可証及び環境ライセンスは120日間以内に発行される。

補項5 申請者が、調査書または説明書を作成する場合、補項4の期限カウントは最高180日間停止する。

補項6 本条が定める許可及び登録において、それに係るCTNBioの技術見解に従うが、バイオ安全に関し技術見解を超えた技術的要求は認められない。

補項7 GM製品の販売許可に関しCTNBioの技術見解に異議がある場合、登録監視機関及び組織はその権限内において、CTNBioの技術見解の公布日から30日間以内に、CNBSに異議を申し立てることが認められる。

第5章
内部バイオ安全委員会−CIBio


第17条 遺伝子工学の技術または手法を用いる機関、またはGM製品の研究を行う機関は内部バイオ安全委員会(CIBio)を設置し、各特殊プロジェクトに対して1名の主任技術責任者を任命する。

第18条 CIBioはそれを結成した機関内において、次の役割を有する。

I−活動の影響を受ける可能性があるすべての労働者及び共同体メンバー全員に対し、健康及び安全、または事故発生時の配慮に関わるすべての情報を提供する。

II−CTNBioが本法施行規則によって定めるバイオ安全標準及び規則に従い、責任下にある施設の機能を保証するため、予防および検査計画を定める。

III−管轄機関による分析、登録または許可を求める場合で、書類の提出が必要であれば、本法施行規則によって定められる各書類をCTNBioに提出する。

IV-GM製品に関わる進行中の活動及びプロジェクトに関する追跡は個別に行われ、記録を維持する。

V−人々が曝されるリスクの評価結果、または生物因子の散布を招く可能性がある事故や事件に関し、CTNBioまたは本法16条に記す登録監視機関及び組織、そして労働者団体に報告する。

VI−GM製品に関連する可能性がある事故及び病気の発生を調査し、結論及び処置についてCTNBioに報告する。

第6章
バイオ安全情報システム−SIB


第19条 GM製品関連活動の分析、許可、登録、モニタリング及び活動追跡に関わる情報を管理することを目的としたバイオ安全情報システム(SIB)を、科学技術省の管轄下に設置する。

補項1 GM製品に係るバイオ安全法を変更、補足し、またはこれに影響する法律、規定、行政行為は、施行と同時にSIBにより広報する。

補項2 本法16条に記す登録監視機関及び組織は、本法において定められた所管事項の活動関連情報を、SIBに入力する。

第7章
民事及び行政責任


第20条 環境または第三者への被害責任を有する者は、罪の有無に関わらず連帯的に全額賠償、または修復が課せられるが、それによって本法が定める刑罰の適用を免れるものではない。

第21条 本法及びその他関連法の規定に反する作為、または不作為を行政違反とする。補項 行政違反は、製品の押収、販売禁止、活動停止などの保全処分とは別に、本法施行規則に定められる形で次のように罰される。

I−警告

II−罰金

III−GM製品の押収

IV−GM製品の販売禁止

V−活動停止

VI−営業所、活動、事業の一部または全面停止

VII−登録、ライセンス、許可の停止

VIII−登録、ライセンス、許可の取り消し

IX−政府が供与した奨励及び税制上の恩典などの喪失または制限

X−公的金融機関の融資を受ける権利の喪失または停止

XI−営業所への介入

XII−最高5年間の公共行政との契約禁止

第22条 違反の重大性に応じて2千レアルから150万レアルの罰金を科すが、その基準及び金額を定め施行するのは、本法16条に記す登録監視機関及び組織の権限である。

補項1 罰金は本条が定める他の刑罰と併科することが認められる。

補項2 再犯の場合、2倍の罰金が課せられる。

補項3 最初に刑罰の対象となった作為、または不作為が存続することによる違反の継続の場合、その原因が消滅するまで当刑罰を毎日課すが、それによって即時的な活動停止、または責任研究所/機関、企業の営業停止を免れるものではない。

第23条 本法が定める罰金は権限に応じ、本法16条に記す農務省、厚生省、環境省、または大統領府特別水産漁業庁の登録監視機関及び組織によって課せられる。

補項1 刑罰適用により取り立てた罰金は、本法16条に記す登録監視機関及び組織の中で、罰金を課した当該機関及び組織に充当される。

補項2 連邦公共行政の監視機関及び組織は、本法が定める監視活動に関わる業務の実施に当たり、州、連邦区及び郡と協定を結び、刑罰適用により取り立てた罰金の一部を引き渡すことが認められる。

補項3 監視員は違反調書の写しをCTNBioに送付する。

補項4 違反が犯罪、軽犯罪、または国庫あるいは消費者を侵害した場合、監視員は行政及び刑事責任を追及するため管轄機関に告訴する。

第8章
犯罪と罰則


第24条 本法5条の規定に反してヒト胚を利用すること。刑罰−1年ないし3年の禁固刑及び罰金。

第25条 ヒトの生殖細胞、接合子、または胚を使用して遺伝子工学を行うこと。刑罰−1年ないし4年の禁固刑及び罰金。

第26条 ヒトのクローニングを行うこと。刑罰−2年ないし5年の禁固刑及び罰金。

第27条 CTNBio及び登録監視機関及び組織が定める規則に反してGMOを自然環境に放出あるいは廃棄すること。刑罰−1年ないし4年の禁固刑及び罰金。

補項1 (拒否)

補項1 (原案)過失犯罪の場合刑罰−2年ないし4年の禁固刑及び罰金。

拒否の理由(法務相):27条の本文において、故意による同犯罪に1年ないし4年の禁固刑を定め、補項1において2年ないし4年の禁固刑定めることは比例原則に反する。

補項2 次の場合、刑を加重する。

I−他人の所有地に害をもたらした場合、1/6 ないし 1/3。

II−環境に害をもたらした場合、1/3 ないし 1/2。

III−他人に重傷害をもたらした場合、1/2 ないし 2/3。

IV−他人の死をまねいた場合、2/3ないし2倍。

第28条 使用が制限されている遺伝子技術の利用、販売、登録、特許登録、ライセンス取得をした場合。刑罰−2年ないし5年の禁固刑及び罰金。

第29条 CTNBio及び登録監視機関及び組織の許可なく、あるいはCTNBio及び登録監視機関及び組織が定めた規則に反して、GM製品を生産、貯蔵、輸送、販売、輸入、輸出すること。刑罰−1年ないし2年の禁固刑及び罰金。

第9章
経過規定及び最終規定

第30条
 本法が施行されるまでの間に、商業的利用に対して肯定的なCTNBioの技術見解を受けたGMOについては、本法の公布日より60日間以内にCNBSがこれに反する表明をしない限り、登録及び販売を行ってよいものとする。

第31条 CTNBio及び本法16条に記す登録監視機関及び組織は、規範に関する議決を本法の規定に適合するよう120日間以内に見直すものとする。

第32条 すでにCTNBioが発行したバイオ安全品質証明書、コミュニケ及び技術見解及び1995 年1月5日付け法第8974号に基づき公布された規則は、本法の規定に反しない限り有効とする。

第33条 本法の公布日に本法が規定する活動を実施する機関は、施行規則公布後120日間以内に内規を適合させること。

第34条 2003年12月15日付け法第10814号に基づき発行された暫定登録(筆者補足:暫定的にGM大豆の品種登録したことを指す)は有効性を維持し、永久的なものとなる。

第35条 農務省の全国品種登録制度(RNC)に登録されたグリフォサート耐性を有するGM大豆品種の生産及び種子販売は許可される。

第36条 農業生産者が2004/2005年度の栽培において独自に利用するために保管したグリホサート耐性を有するGM大豆の作付けを許可するが、種子としての販売は禁止する。
補項 本条本文が記す許可を行政権が延長することを認める。

第37条 1981年8月31日付け法第6938号のアネックス[のコード20の記述(筆者注:「環境資源の汚染ポテンシャルを有し、またはそれを利用する活動」を定めた項目で、汚染ポテンシャルおよび資源利用度のレベルが「中」のもの)は、次の文章で施行される。「コード20、記述:林業;木材またはまき及び林業副産物の経済的利用;ブラジルの自然動物相及び植物相の輸入及び輸出;エキゾチック動物相及び自然動物相に関する飼育活動及び経済的利用;自然遺伝資産の利用;生体水産資源の利用;育種改良及び農業利用を除いたエキゾチック種の導入;CTNBioが事前に著しく環境劣化を招くポテンシャルを有すると定めた遺伝子組み換え種の導入;生物多様性をバイオテクノロジーにより、CTNBioが事前に著しく環境劣化を招くポテンシャルを有すると定めた活動に利用すること。」

第38条 (拒否)

第38条 (原案)行政権は、CTNBio及びGM製品の登録、許可、ライセンス、監視機関の運営能力拡大のため行政措置を講じ、それぞれの役割に適合するためバイオ安全分野の人材養成を図る。

拒否の理由(大統領府官房長官):憲法61条補項1、U項によると、これは共和国大統領独自のイニシアティブによるプロジェクトである。また拒否した条項は行政権に対して具体的な枠組みがなく極めて粗雑な負担を行政権に課す。コストなくして、つまり経費の増大なく各機関の運営能力を拡大することはできない。

第39条 農薬の原料の生産に使用される場合を除き、GM製品に対して1989年7月11日付け法第7802号(筆者注:農薬に関する法律)の規定及びその変更は適用されない。

第40条 GMOを含むか、あるいはGMOより生産されたヒトまたは家畜の消費向け食料及び食料成分は、施行規則に基づいてその事実をラベルに表示する。

第41条
 本法は公布日に施行される。

第42条
 1995年1月5日付け法第8974号、2001年8月23日付け暫定令2191-9号及び2003年12 月15日付け法第10814号の第5、6、7、8、9、10、16条を廃止する。

ブラジリア、2005年3月24日、独立184年目、共和国宣言117年目。
LUIZ INACIO LULA DA SILVA (大統領)
Marcio Thomaz Bastos (法務相)
Celso Luiz Nunes Amorim(外務相)
Humberto Sergio Costa Lima(厚生相)
Luiz Fernando Furlan(開発商工相)
Patrus Ananias(社会開発相)
Eduardo Campos(科学技術相)
Marina Silva(環境相)
Miguel Soldatelli Rossetto(農地開発相)
Jose Dirceu de Oliveira e Silva(官房長官)


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