特別レポート

中国における学校給食の現状

総括調整役  菊地 弘美
畜産振興部 畜産振興第三課 坂西 裕介

1 はじめに

 中国で開催された学校給食に関する2つの会議に出席する機会を得たので、これらの会議において収集した情報を基に、中国の学校給食の現状をまとめて報告する。

1 第3回国際スクールミルク会議

 4月11日〜14日に雲南省昆明市において、第3回国際スクールミルク会議(The 3rd International School Milk Conference)が開催された。

 この会議は1998年の南アフリカ、2002年のメキシコに続き、今回が3回目であり、昆明市政府の主催、FAOの共催により開催され、約40カ国の代表が参加した。会議は参加各国のスクールミルク(学校給食用牛乳)の現状などに関する講演とそれに対する意見交換および現場視察から構成されている。

 会議では、各国の代表によるスクールミルクプログラムの内容説明およびFAOなどによる講演があった。これらを通じて、スクールミルク後進国は先進国で実施される制度や直面する問題を自国の制度運用に反映し、さらには発展を図るという点においても、有用な会議となっている。

 スクールミルクプログラムとは児童・生徒に対し、学校で牛乳を提供し、児童・生徒の栄養改善を図り、身体資質を向上させるものである。

 現在、世界60カ国以上で実施されている。日本においては、昭和32年より実施されており、普及率は小学校95.3%、中学校77.2%であり、全体では88.6%となっている。

2 第1回中国学生栄養給食フォーラム

 7月16日、17日の両日に渡り、中国上海市において、「第1回中国学生栄養給食シンポジウム」が開催された。主催は、国家の発展戦略の策定、大型プロジェクトの計画や手配などを行う国家発展改革委員会である。

 シンポジウムには、国家発展改革委員会マクロ経済研究院公衆栄養・発展センター主任于小冬氏、同センター産業促進処副処長胡承康氏、国家学生牛乳計画専門家委員会主任蒋建平氏、中国食品工業協会会長王文哲氏などとともに、吉林省、山東省、広東省などの各省や、首都北京市、上海市などの直轄市の学校、食品行政担当者など約300名が参加し、報告発表、討論、学生栄養食工場視察などが行われた。

 今回、主催者の要望により、「日本における学校給食制度」について報告を行った。出席者からは、完全給食実施率88%という高い普及率に対して大きな関心が寄せられ、国家の補助の仕組みや補助額について質問があった。質問の背景には、中国では学校給食に対する中央政府からの補助はほとんどなく、適切な法制度の整備と国庫補助を求める要請が次第に大きくなっていることがある。このほかいくつか質問のあった中に、食べ残しに対する指導の方法があり、中国でも、日本と同じような問題に直面しているのかと認識した。

 

2.中国の「学生栄養食」について

  「第1回中国学生栄養食フォーラム」に提出された報告書および資料を参考にして、「学生栄養食」について、紹介、報告する。なお、「学生栄養食」とは、日本でいう「学校給食」である。

1 中国国民の栄養と健康、二つの栄養不良問題に直面

 中国は、急速な経済発展を遂げてきているが、一方、都市と農村、東部と西部における経済発展の格差の拡大が指摘されている。この経済発展の格差は、国民や小中学生の栄養と健康の状態にも色濃く反映されている。

 農村と西部地区においては、栄養素の摂取不足という栄養不良問題が広い範囲にわたって存在しており、このことが、これらの地域の経済と社会の発展に大きな制約を与える要因となっている。農村の貧困地区では、この栄養不良問題が深刻である。一方、都市と東部地区においては、栄養素摂取のアンバランスという栄養不良が、経済と社会の発展の新たな段階において突出した問題となっており、冠状心疾患、ガン、糖尿病、高血圧、脳卒中など、栄養状態に関わる慢性疾病が増加している。

2 2億人の成人は体重オーバー、1億6千万人以上が高血圧

 食生活が豊かとなり、栄養のバランスが崩れ、栄養の摂り過ぎが進むとともに、体重オーバー、肥満、高血圧という問題が生じてくるのは、各国共通である。

 中国でも、同じであり、2004年の栄養と健康の現状に関する調査によると、2億人の成人 は体重オーバー、8千万人は肥満、1億6千万人以上は脂質代謝異常、2億人以上は貧血、1億6千万人以上は高血圧、2千万人以上は糖尿病である、との結果が出た。

 また、2002年の調査結果によると、児童少年の過重率(体重オーバー率)および肥満率は、都市の7〜17歳の学生(小中高生)は、それぞれ16.7%、9.8%となっており、憂慮すべき問題となってきている。

3 「学生栄養食」は、児童・少年の健康成長を促進する主要な「戦略手段」

 中国での「学生栄養食」の創始者は、著名な栄養学者である于若木教授である。フォーラムでは、于教授の言葉が紹介された。すなわち、学校での栄養食は、学童の偏食を矯正でき、健全な成長と発育および知能の発展を促進し、生活習慣病を予防できる、また、夫婦共働きの家庭において、子供の昼食の心配を解決し、社会全体に利益をもたらすというもの。

 この言葉は、フォーラム参加者に対して、改めて今何をすべきかを認識させるものであった と感じた。フォーラムを契機として、今後、政府と企業の共同事業と責任で、「学生栄養食」が促進されるものと思われる。

4 「学生栄養食」は、80年代以降、推進・普及され、現在30都市で実施

「学生栄養食」は、80年代以降、世論の提唱と自発的な取組、民間による普及とモデル事業の拡大、政府主導と推進拡大という3つの段階を経て発展してきた、現在、一定規模以上の「学生栄養食」を実施している都市は約30であり、各都市での1日の供給量は数万食、多いところでは30万食に達しているという。

 政府サイドの資料によると、 国務院は、「食物構造改革と発展綱要」、「国家大豆行動計  画」、「中国栄養改善行動計画」、「国家学生牛乳飲用計画」などを相次いで出し、「学生栄養 食」のモデルプランを推進してきた、この結果、中国では20余りの省市・地区・県で「学校栄  養食」が普及し、栄養給食の加工、製造企業は100社余りとなり、栄養給食を食べている小中高校生の人数は約100万人、これに自前で栄養給食を提供している学校を加えると、延べ150万人の小中高校生が栄養給食を食べている。

5 運営方式は6種類に大別され、集中加工方式と出張請負方式とで7割

「学生栄養食」を製造している会社の運営方式は、大別して、(1)業者の集中加工方式、(2)業者の学校への出張請負方式、(3)会社によるクリーニング(泥落とし)済み野菜配達方式、(4)学校内独自の給食方式など、6種類ある。

 給食サービスを受けている全学生(小中高生)のうち55%は、(1)の集中加工方式(自社内の工場で集中的に製造・加工を行い、箱詰めして小中学校に配達する方式)、15%は、(2)出張請負方式(学校の食堂での給食を請け負う方式)である。また、(3)クリーニング済み野菜配達方式(業者が簡単な加工済みまたはクリーニング済み野菜を供給し、学校側が調理する方式)、(4)学校内独自給食方式(学校が内部に独自で食堂を設置し、調理員を置き、栄養士を定め、原料を独自に調達して、調理する方式)が、それぞれ10%となっている。

6 しかし、「学生栄養食」は、質の低下、栄養の無視、価格の上昇などの問題に直面

「学生栄養食」は、一方では、さまざまな問題を抱えており、まず、量が減少し、種類も単調となり、動物性と植物性との組合せが行われないなど質の低下が挙げられる。次に、「非栄養」化として、学生の口に合うことのみに重きを置き、ファストフードのようなメニューを考え、栄養を無視するという傾向がある。さらに、食品物価の上昇などから栄養給食の価格が値上がりしている。このほかに、栄養給食の多くはおいしくなく、学校に到着したときは冷めているとの問題も指摘されている。

 これらに対して、政府は、「学生栄養食」の会社・業者および学校に対していかなる対策を講ずるべきか、指針の提示、指導などを行っている。例えば、「栄養給食」を正確に理解し、受け入れること、科学的に「栄養給食」を作ること、学校は方向性を正し、宣伝・指導を徹底すること、給食の入札競争に参加すること、衛生部門は管理監督を徹底することなど。

7  「学生栄養食」の普及・発展に向けて

「学生栄養食」に関して、法律がなく、補助金の交付も行われていないので、以前から、海外 諸国の例を参考に、立法化、予算化すべきとの議論がされてきている。

 立法については、「学生栄養食」単独での立法は困難な状況にはあるが、準備作業に積極的に取り組むべきであり、現実的な方法として、「学生栄養食」を展開する都市政府が管理条例を制定していく必要がある、

 また、予算については、まず、「学生栄養食」を教育事業の構成要素として、政府の計画に 盛り込み、支援施策を制定するとともに、教育、農業、「科学技術などの関係部門と都市が連携して、これを推し進めるべきである」、との提案が出された。具体的な動きは今後である。



3.中国の「スクールミルク計画」について

1 スクールミルク計画は2001年より実施され、普及率はわずか5.8%

  2000年11月15日、政府は農業部、教育部をはじめとする7つの部局により中国学生牛乳飲用計画を作成し、計画の実施機関として、「国家学生飲用牛乳計画部協調機関」を設立した。また同時に学生牛乳飲用計画暫定管理規則(以下「管理規則」とする。)を公布し、2001年より本格的な実施に入った。学生牛乳飲用計画は、「中国児童発展要綱(2001−2010)」において、児童の栄養改善に関する取り組みの一環として、位置付けられており、積極的に推進することとされている。国は計画が効率的に実施されるよう、中央に加え、省・市においても、それぞれ実施機関を設立した。

 現在では全国28の省、自治区、直轄市の省都都市と一部の大・中都市の4,468校の小中学校において学生飲用牛乳プログラム(以下「学乳」という。)が実施されており、1日の供給数量は約200万パックに上り、飲用している学生は全国の約5.8%である。

 下表を見ると、学生牛乳飲用計画の実施前の99年と実施後の2002年では、それぞれの指標で大幅な増加が見られ、学生牛乳飲用計画の実施は、中国における酪農の発展にも寄与していると言えるだろう。中国の小中高生人口は全国で2億人に達しており、中国の酪農における学乳市場の大きさがうかがえる。

 

2 学乳の供給体制・供給形態について

(1)供給業者の資格認定制度で認定されているのはわずか48社

 中国における学乳の生産企業は、政府の認定制度により一定の基準を満たすことで生産資格が付与される。生産企業は、地方の学生牛乳計画実施機関に申請をし、一次審査の後に国家学生飲用牛乳計画部協調機関により、二次審査を受ける。その後、国家学生飲用牛乳計画部協調機関内に設置された専門委員会による調査などを経て、指定生産企業として認定される。この資格の有効期限は3年間である、期間満了時には資格の再審査が行われる。現在、政府は乳業者48社を学乳指定生産企業として認定している。すなわち、2001年5月に7社、2002年5月に41社が認定されており、これらの企業は20余りの省、市、自治区に分布している。生産企業に関する基本条件は管理規則に規定されているが、それぞれの段階において、以下の項目が要求されており、安全・品質管理を徹底している。

(1)乳業者および製品について
 ア 1日平均の生乳処理量は50トン以上であること
 イ 原料乳は生乳を使用すること。還元乳の使用を禁ずる
 ウ 栄養強化剤の添加は行わないこと

図1 中国学生牛乳マーク

※ 学乳を供給する場合の牛乳パックに印刷される。
※ SMCはその企業の認証番号を示す。
例:昆明雪蘭牛乳 SMC02032

○昆明雪蘭牛乳により供給されている学乳パック
普通の牛乳
イチゴ味
オレンジ味
バニラ味
○上海光明乳業
○天津乳業
○蒙牛乳業(250ml)
表2
各乳業メーカーにおける牛乳の成分表示の例

 エ 原料乳の貯蔵・輸送時は牛乳の温度を7℃以下に保つこと

(2)牧場および乳牛について
 ア 衛生部が定める「牛乳・乳製品衛生管理規則」の要件を満たすこと
 イ 機械により搾乳を行うこと
 ウ 防疫体制を整備し、定期的な検疫を実施すること

(2)牛乳の供給形態は200ミリリットルのLL牛乳が主流

 学乳として、供給されている牛乳は超高温殺菌法(UHT)の無菌充填によるもの(LL牛乳)であり、常温での品質保持期限は6カ月となっている。これは、中国国内のコールドチェーンシステムが整備途中にあることおよび学校内の保存施設が未整備であるためと考えられる。国内における流通についても、LL牛乳が主流となっている。学乳1本当たりの価格は、1.3元(約18円:1元=13.6円)前後であり、国からの補助金はなく、地方政府や乳業会社の負担により、保護者負担を軽減している。市販の牛乳が1.6〜1.9元(22〜26円)であり、市販価格と比べると廉価となっている。  

 容量は200ミリリットルが一般的であり、一部180ミリリットル、250ミリリットルもある。通常の牛乳のほか、風味付け(オレンジ・イチゴ・バニラ・チョコレートなど)されたタイプもある。

(3)学乳は午前中に配布され給食とは分離

 中国においては、給食と学乳が切り離されて考えられており、給食を実施する学校においても、必ずしも給食時ではなく、午前中に牛乳を飲んでいるようである。中国における給食の普及率がまだ低いこと以外に、中国の食習慣にも起因しており、生徒の多くは十分な朝食を摂っておらず、午前10時ごろに、多くの生徒の血糖値の低下が見られているためである。今回、昆明市鉄道南站小学校を視察する機会を得た。牛乳は午前の2時間目が終了した後の休み時間に飲用されている。

 写真はその飲用風景である。

3 今後の展開について

 中国政府によると、2006〜2007年には700万パック、全国の2割の学生が牛乳を飲用する見込みであり、さらに、2010年には1,000万パックに達し、飲用人数は、国内小中学生の約3割を超すと見られている。

 今後、問題となるのは、空パックの処理であると思われる。空パック処理は、日本においても問題となっているが、中国の牛乳パックは無菌包装のため、日本とは材質が異なり、処理にも手間を要するため、大きな問題となるであろう。


4.中国の学校給食および学乳の普及・発展について

  中国では、児童・生徒の栄養改善を目的として「学生栄養食」および「学生飲用牛乳」を実施しているが、前述のとおり学乳と給食の供給は切り離されて考えられている。学乳先進国では一般的に給食時に牛乳を飲用しており、牛乳は給食の一部となっている。中国においても、学乳の普及を図る上で、今後、牛乳と給食を一体的に取り組むべき体制および法整備が必要である。

 また給食の普及には国の補助が不可欠であり、例えば日本における平成16年度の給食関係予算は150億円に上る。またフィンランドに至っては、給食は全額公費による負担となっている。本文で述べたとおり、中国においては、学乳を含め、給食に対する補助制度は未発達であるため、今後、国が主導する包括的な補助制度の確立が必要である。

(参考)

 「第1回中国学生栄養食フォーラム」会議報告書および資料のうちから、下記を参考にした。

1 「学生栄養食の健康発展の促進は政府および企業の共同事業と責任である」
   国家発展改革委員会公衆栄養発展センター主任 于小冬

2 「中国における大衆栄養改善と食物の強化」
   国家発展改革委員会公衆栄養発展センター主任 于小冬

2 「この20年間における我が国の「学生栄養食」発展と現状」 
   国家発展改革委員会公衆栄養発展センター 胡承康

3 「国内外の学生栄養食普及」についての回顧と展望」
   国家学生牛乳計画専門家委員会主任
   北京市学生栄養食研究センター主任 蒋建平


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