肉牛の国内生産振興が急務 ● タ イ


牛肉などの輸入増大

 タイでは高まる牛肉需要に対応するため、周辺国からの生体牛の輸入が増加しており、同国の関税局公表による2004年の生体牛輸入額(CIF価格)は6億2,400万バーツ(16億8,500万円:1バーツ=2.7円)と、前年に比べ42%の増加となった。畜産開発局(DLD)の説明によると、輸入生体牛の平均価格は1頭約3万バーツ(約8万1千円)とされることから、およそ2万頭の生体牛が正式な手続きを経て輸入されたことになる。相手国として、国境を接する周辺国からその大半が輸入されており、特にミャンマーを経由するインド方面からの輸入が急増しており、2005年上半期で見ると全体の9割を超えている。

 また、冷蔵・冷凍牛肉の輸入量も増加している。同じく2004年の冷蔵、冷凍牛肉の輸入額は約1億2,900万バーツ(3億5千万円)で前年に比べ22%の増加となっている。内訳を見ると、2005年上半期の輸入額のうち24%が冷蔵、76%が冷凍品で、国別にはともに豪州、NZ産が9割、1割をアルゼンチン産が占める。

 一方、内臓などのくず肉輸入は2004年に一時的に減少し、輸入額は2,500万バーツ(6,750万円)と前年より10%の減少となった。これは米国、カナダ産がBSE発生のため停止された影響が大きい。ただし2005年上半期、既に2004年通年を上回る2,900万バーツ(7,800万円)の輸入額を計上しており、内訳は豪州・NZ産65%、アルゼンチン産35%となっている。

 今年に入って大輸入国である豪州やNZとのFTAが次々と発効する中、現在行われている米国との協議でも牛肉が主要議題の一つとされるなど、将来的に牛肉輸入の増加が見込まれ、政府は国内生産者保護・育成、家畜疾病対策(口蹄疫予防)などの観点から緊急な対策が迫られており、2005年〜2008年の4年間で肉牛振興緊急対策を行うとしている。この計画に従って現在、不足する人工授精師を2万人増員することを目標に、技術者養成研修が各地で開催されているほか、肉牛生産者育成のため新規就農者研修を行い、生産者として認定する作業が進められており、最終的にはこれを100万世帯に増やすことが目標に掲げられている。


国内肉牛生産振興対策

 政府は従来から、熱帯気候への適応性の高い品種の開発などにより肉牛生産振興を図っているが、今のところその多くは品種としての能力を安定させるための牛群造成の途上であるため、民間による飼養は限定的である。現在政府および関連研究機関が開発しているものとしては北部ターク牛、ガビン牛、中部のカセサート大学を中心に奨励されているカンペンセン牛などが挙げられる。これらはブラーマンやシャロレー、シンメンタール、在来牛などを交配したもので、これらの奨励交雑種の主要改良目標は増体能力、産肉能力、飼料効率などであり、脂肪交雑など肉質に関する目標は設定されていない。


品質評価基準策定の動き

 東南アジア地域では近年日本食がブームであり、巨大市場であるバンコク市などを中心に、和牛肉などの高品質牛肉に対する関心から需要が増大している。しかし、これらの品質を評価する基準については大学などの研究機関による評価基準策定へ向けた基礎調査が開始されているものの、DLDでは今のところ公式な策定をしていない。そのため、仮に生産者が高品質牛肉を生産できたとしても、高値では販売し難い状況にある。現在流通している高品質牛肉のほとんどは豪州などで生産された輸入品であり、日本からの牛肉輸入はBSE発生のため停止されている。

 生産者にインタビューを行うと日本での職人的肥育手法に関する質問を受けるなど、高品質牛肉に対する関心は総じて高い。

 ただし、大都市以外の大部分の地域ではと畜場の整備が進んでいないことや冷蔵施設の普及の遅れなどから生鮮肉による流通が一般的で、質よりは量が求められ、供給不足と内外価格差から輸入生体牛への需要が高い。


元のページに戻る