中国の穀物生産、トウモロコシは最高記録更新へ


トウモロコシ生産量は1億4千万トン超と予測

 中国国家糧油信息中心によると、主要穀物であるコメ、小麦およびトウモロコシの2006年の生産状況は、作付面積・生産量ともに2005年を上回り、特にトウモロコシの生産量は、前年を約163万トン上回る1億4千1百万トンと予測され、昨年に引き続き最高記録を更新する見込みとなった。

 また、小麦については、冬小麦の生産量が前年比7.0%増の9,780万トンで、春小麦を合わせた小麦全体の生産量は、同5.7%増の1億3百万トン弱と予測されている。

 国家統計局の試算では、2004〜2005年のトウモロコシなどの増産により、2005年の穀物生産量は約4億8千万トンに達したものの、2006年の穀物消費量は5億トンに達すると予測され、輸出入量などを加味した国内供給量で見ると、約1千5百万トンが不足するといわれている。中国農業部は今年1月上旬、穀物を毎年約500万トンずつ増産し、生産量を2010年までに5億トン台へと伸ばす計画を発表した。このため、中国屈指の穀物生産地帯である黒龍江省や吉林省、遼寧省の位置する東北部では、今後25年間で、約60万ヘクタールの用地開墾と年間300万トンの穀物増産が期待されており、これを実現させるための新たな水利プロジェクトや農業生産性向上の必要性が指摘されている。さらに、農業部は、東北部における穀物増産に加え、その他の地域においても、水利技術や土壌の改良、高収量品種の作付けなどを奨励している。

表 中国の主要穀物・油糧作物の生産状況


増加するバイオエタノール生産

 中国では、90年代以降の高度経済成長とこれに伴う石油消費の増大から、国内における原油の輸入依存度の低減と都市部の環境対策を目的として、トウモロコシを主たる原料とした燃料用エタノールの生産が2001年から開始された。そして、2002年3月には「自動車用エタノール燃料使用テスト計画」が決定され、2004年11月以降、黒龍江省、吉林省、遼寧省、河南省などでは、一部の指定地域で当該地域内のすべての自動車に、燃料用エタノールを10%配合した混合ガソリン(E10)の使用が義務付けられた。中国政府は、将来的にはE10の使用を中国全土に拡大させる意向であるといわれている。

 こうしたバイオエタノールの生産は、原油価格の高騰とも相まって、今や世界的な動きとなっている。国際的に信頼度が高いとされるドイツの砂糖関係調査会社であるF.O.Lichtのデータによると、2005年の世界のバイオエタノール生産量は、前年同期比11.5%増の4,599万キロリットルで、うちブラジルの1,670万キロリットル(同6.6%増)、米国の1,500万キロリットル(同4.8%増)に次ぎ、中国の生産量は世界第3位の380万キロリットル(同4.1%増)を記録している。これは、中国がバイオエタノールの生産を開始した2001年に比べると、4年間で24.6%の増加であり、年平均では5.7%の伸び率となっている。

 国家発展改革委員会の関係部局は、第10期5カ年計画(2001〜2005)における十大重点プロジェクトの1つとして、中国における自動車用E10の使用は既に成功を収めたと評価している。このため、今次の第11期5カ年計画(2006〜2010)の期間中においても、エタノール混合ガソリンの生産・使用は、中国における重点的な代替エネルギー戦略の1つとして、さらに強力に推進されるものとみられている。


バイオエタノール産業推進の一方、穀物の不足を懸念する声も

 バイオエタノールやバイオディーゼルなど、トウモロコシや大豆などを原料としたバイオ燃料の生産が世界的に増加する一方、人の食糧や家畜・家きんの飼料確保を不安視する声もまた、世界的に発せられているところである。

 これに対し、中国農業部や黒龍江省畜牧獣医局の関係者は、最近の中国におけるトウモロコシの年間生産量1億2千万〜1億3千万トンのうち、1千5百万〜2千万トンが輸出され、生産量の6割強〜7割に当たる8千万〜9千万トンが家畜・家きんの飼料用に、さらに黒龍江省や吉林省で行われているエタノール生産用には2千万トン程度が仕向けられる一方、中国では食用としてのトウモロコシ消費は極めて限られていることや、国内の穀物生産は種類・量ともに豊富であることなどを挙げ、中国においては特段の問題が生ずることはないとしている。

 また、経済成長や食の多様化の進展などに伴い、今後も中国で牛乳・乳製品や食肉など畜産物消費量が伸び続けた場合、需要に見合うだけの家畜・家きんの増頭羽の必要性が生ずることになるが、これに対しても、政府関係者は、生産量は市場の需要に従うものであり、家畜・家きんを増やすこととなればトウモロコシなどの増産も当然必要となるが、今後はむしろ量より質の改善に目を向けることが重要であり、牧草や配合飼料の供給増と環境などに配慮した規模制限を行うことにより、家畜・家きんへの穀物供給を抑制することができるとしている。

 しかし、中国の一部の識者からは、穀物の主要生産地が東北部にあり、かつ、北部・東北部では酪農生産やエタノール産業の急成長によりさらに多くの穀物が必要となってくる一方で、伝統的な食肉産業として重要な養豚の主要産地が四川省など南部にあることを挙げ、北部や東北部から南部へ輸送されている穀物の供給が停滞するケースも生じかねないことに対する危惧や、今後において穀物不足が生じた場合、中国の港湾に穀物、特に相当量のトウモロコシの輸入を想定した設備が整っていないことに対する指摘など、将来の国内の穀物供給に懸念を表明する声なども上がっている。


元のページに戻る