米国農務省農業マーケティング局(USDA/AMS)は本年6月、乳製品の製造コストの上昇などを踏まえ、連邦ミルク・マーケティング・オーダー(FMMO)制度におけるクラスIII(チーズ・ホエイ向け)およびクラスIV(バター・粉乳向け)の生乳価格の算定方法(具体的には加工経費係数)を修正し、最低取引価格を引き下げるよう規則の変更を提案した。
今般、この規則変更に関する関係者からの意見提出が9月末に締め切られたことを受け、米国の乳業団体および酪農団体はそれぞれの主張と見解を公表したが、乳業団体がクラスIII生乳の最低取引価格をさらに引き下げるよう求めたのに対し、酪農団体はクラスI(飲用向け)およびクラスII(アイスクリーム・ヨーグルト向け)についても新たな算定方法を定めて最低取引価格を引き上げるよう主張するなど、両者の立場の違いが明確になっている。
FMMO制度は、加工原料乳の価格支持制度とともに米国の酪農政策の根幹をなす制度であり、農務長官が定める米国本土の11カ所の地域内において、一定の規格を満たす生乳について、毎月、用途別に最低取引価格が定められるものである。クラスI(飲用向け)については各地域ごとに異なる価格が設定されるが、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVについては全国共通の価格が設定される仕組みになっている。なお、クラスIおよびクラスIIの価格は、クラスIIIやクラスIVの価格に品質格差などを考慮して定められた一定額を上乗せして算定されている。
乳業団体はチーズ向け価格の更なる引き下げを提案
米国内の乳業メーカーなどで組織される国際乳製品協会(IDFA)は10日、チーズには生乳中の9割の乳脂肪しか含まれないことなどを理由に、計算方式を変更してクラスIIIの価格をさらに引き下げるよう、USDA/AMSに意見を提出したことを公表した。
IDFAの主張によれば、現在のクラスIII価格の算定方法はチーズの製造過程で生乳中の乳脂肪分がすべてチーズに移行することを前提としているが、実際には乳脂肪分の1割程度はバターよりも用途が限定され価格も安いホエイクリームとなることから、これを新たな算定方法に反映させることが適当としている。また、算定要素として用いるチェダーチーズの価格のうち、500ポンド樽に入った業務用については1ポンド当たり3セントの上乗せが行われているが、実態調査の結果、荷姿による価格差はないことが判明したことからこれを廃止すべきとしている。
生産者団体は飲用向け価格の計算方法の見直しを主張
一方、米国内の酪農家の8割弱が加盟する全国生乳生産者連盟(NMPF)は4日、クラスIIIおよびクラスIVに関する規則変更により、自動的にクラスIおよびクラスIIの最低取引価格も引き下げられるという現行制度への懸念を表明し、USDA/AMSに対してクラスIおよびクラスIIについて新たな算定方法を定めるよう求めるとともに、ジョハンズ農務長官に対して緊急に公聴会を開催するよう求めたことを明らかにした。
NMPFは、当初、クラスIIIおよびクラスIVの価格算定に乳製品製造コストの上昇を反映させること自体には反対しないものの、クラスIおよびクラスIIの価格はこれらと連動させずに計算するよう主張してきた。しかし、この提案がUSDAに受け入れられなかったことから、計算方式は大きく変えず、クラスIおよびクラスIIの価格算定の際に用いられている品質格差相当額を改訂することにより価格を引き上げるという新たな提案を行ったものである。なお、現行の品質格差相当額は98年以前のデータに基づき定められたものであり、NMPFはこの見直しによりクラスI価格は100ポンド当たり約73セント引き上げられるとしている。
年明けには次期農業法に関する政府案が公表されると予想される中で、用途別取引とプール乳価支払いの根拠となっているFMMO制度については、酪農・乳業界ともにその枠組みの継続を支持する意見が大半である。しかし、今回の規則の改正案をめぐる酪農団体と乳業団体の意見の相違は、政策関与が大きい品目における具体的なルールの変更の困難さを示す好例だと考えられる。業界内の小さなあつれきに妥協点を見いだすためには、5年ごとに行われる農業法の議論を待たなければならないのかもしれない。
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