特別レポート

EUおよびイギリスの 動物福祉に関する規則について (飼養管理を中心に)

ブリュッセル駐在員事務所 和田和田
ブリュッセル駐在員事務所 山ア良人

1 はじめに

 欧州委員会は2006年1月23日、2006年から2010年までの5年間の動物の保護および福祉政策の改善のための具体的な行動計画を採択し、公表した。EUの動物福祉政策は世界的に見ても先進的であり、また、厳しい基準に基づき取り組んでいるとされるが、この行動計画により、これまでの動物福祉政策を、より首尾一貫した政策として推進していくこととしている。また、2007年1月からは、共通農業政策(CAP)における直接支払いの受給のための共通順守事項(クロス・コンプライアンス)として、動物福祉に関する農場段階の飼養管理に関する規則の順守を条件に追加するなど、その取り組みをより確実なものにしようとしている。

  今回は、EUにおける現状の動物福祉の取り組みを理解するための参考として、動物福祉を実施するに当たっての順守すべき基準、特に、飼養管理に関する基準やそれらをめぐる最近の動きを紹介する。また、EUの取り組みに基づく加盟国の動きとして、EUの中でも動物福祉の順守に関心が高いとされるイギリスの対応状況などを紹介する。


2 EUおよび各加盟国における動物福祉政策の実施

 動物福祉の実施については、EUと各加盟国の間で次のような関係となっており、双方で協力の上、動物福祉の順守の促進を図っている。

(1)EUの役割

 動物福祉の実施に関しては、EUレベルでは欧州委員会の保健・消費者保護総局がその責任を担っており、その主な役割は次のとおり。

・農場段階、輸送段階、と畜段階などの動物福祉の基準に関する理事会規則や指令などのEU法令の整備

・各加盟国におけるEU法令の順守の促進

・フードチェーン・家畜衛生常設委員会の運営。各加盟国の代表者による現行の理事会指令に関する議論と必要な緊急対策の承認(同常設委員会は、動・植物衛生、動物福祉に関する事項を所掌している)

・保健・消費者保護総局の食品獣医局(FVO)による各加盟国のEU法令の順守状況の検査、その結果に基づく対応状況の確認

(2)加盟国の役割

 一方、各加盟国レベルにおける動物福祉の実施については、それぞれの主管当局がその実施の責任を担っており、その主な役割は次のとおり。

・理事会指令に基づく国内法令の整備

・EUの各種動物福祉法令の国レベルでの実施

・国内法令や監督活動を通じたEUの各種動物福祉法令の順守のさらなる促進


3 EUの飼養管理に係る動物福祉に関する法令について

 EUでは、動物福祉に関連し関係者が順守すべき「最低限の基準」は、理事会指令で規定されている。なお、これらの規則の種類は、大きく次のものに分けられる。

・農場段階の家畜などの飼養管理に関するもの

・家畜の輸送中の管理に関するもの

・と畜段階に関するもの

  このうち、農場段階の飼養管理に関する動物福祉の最低基準を定めた理事会指令は、家畜を含む動物全般を対象とするものと、畜種別に採卵鶏、豚および子牛を対象とするものとに分けられる。

表1 動物福祉に関するEUの主な法令

 これら理事会指令は、達成すべき結果を規定したものであり、法的効力を付与するための法令を各加盟国が制定の上、実行している。

(1)農場段階における動物福祉の基本規則(飼養を目的とする動物の保護に関する理事会指令98/58/EC)

 本規則の対象は、食料、毛、皮、そのほかの農産物生産を目的として繁殖・飼養するすべての動物で、これには魚類、両生類、は虫類も含まれる(本レポートでは、このような農産物生産を目的として飼養する動物を、「家畜」と表記する。)。なお、野生動物、競争・ショー・文化やスポーツイベントを目的とする動物、実験動物、無脊椎動物は対象外となっている。

  各加盟国は、これら家畜の飼養者が動物福祉に確実に取り組み、また家畜に対し不必要な痛み、苦痛、けがを生じさせないよう手段を講じなければならない。

  また、各加盟国は、魚類、両生類、は虫類を除く動物について、これまでの経験や科学的な知識に基づき設定した基準に基づいて、家畜の種類や飼養状況、生理、行動に応じた飼養が確実に行われるようにしなければならない。

 
〈飼養管理に関する一般基準〉

(1)飼養者について

・家畜は、適切で専門的な能力や知識を備えた、十分な数のスタッフが飼養すること。

(2)観察について

・最低1日1回は飼養者が家畜の飼養状態の確認を行うこと。

・飼養状況の確認は適切な照度の下で行われること。

・病気やけがを発見した場合には、速やかに処置すること。必要があれば、別の適切な場所に移すこと。

(3)記録の保持について

・家畜の飼養者は使用した薬品や飼養状況の確認時に発見した死亡数を記録すること。

(4)行動の自由について

・家畜の種類や飼養状況、生理、行動に応じた自由な移動を、不必要な苦痛やけがを引き起こすような方法により制限してはならない。

(5)施設やその内装について

・飼養施設の部材、特に囲い部分については家畜にとって有害なものは使用してはならない。また、家畜の収容は、清掃や消毒を行った後に行うこと。

・家畜がけがをするような鋭く角のある材料などは使用せず、またそのような状態にならないよう維持すること。

・空調、ほこりの量、温度、湿度、ガス濃度について、家畜に有害なものとならないように努めなければならない。

・家畜を暗がりに閉じこめることを禁止する。また、人工照明の場合は睡眠ができるような適度な照度にしなければならない。家畜の生理・行動上、十分な自然光を浴びることができない場合には、適当な人工照明の下で飼養しなければならない。

(6)施設内で飼養しない家畜について

・施設内で飼養しない家畜は、悪天候や捕食動物、健康リスクから保護しなければならない。

(7)自動化機器または機械

・家畜の健康に関係するすべての自動化機器または機械は、最低1日1回は点検しなければならない。故障を発見した場合は、直ちに修理するか家畜の健康に安全な対策を講じなければならない。人工的な空調システムを採用している場合には、家畜の健康を保つのに十分な空調を保証するバックアップシステムを備えておかなければならない。また、警報装置は、その故障を管理者に知らせるものとし、そのシステムは定期的に点検をしなければならない。

(8)飼料や水などについて

・家畜には月齢や畜種に応じた飼料を与えなければならない。また、健康状態や栄養状態を維持するのに十分な量の飼料を与えなければならない。飼料や水には、不必要に苦痛やけがを引き起こす物質を含んではならない。

・すべての家畜は、その生理に合った適切な頻度で飼料が与えられなければならない。

・すべての家畜は、適切な量の水が与えられなければならない。

・給餌、給水の施設は、飼料や水を汚染することなく、また個体間の競争による悪影響を最小限にするよう設計・設置しなければならない。

・治療、健康目的以外に、科学的な研究や経験により有害性が未確認ないかなる物質も投与してはならない。

(9)繁殖方法

・家畜に苦痛やけがを与える自然交配や人工交配の手順を用いてはならない。

・すべての家畜は、健康や福祉に悪影響を及ぼす場合を除き、遺伝子型や表現型は期待されたものとして飼養されなければならない。

(2)農場段階における畜種別の規則

 
(1)採卵鶏(採卵鶏の保護のための最低基準に関する理事会指令1999/74/EC)

  本指令では、飼養方法として、A ケージ以外で飼養する場合、B エンリッチドケージ(拡充ケージ)で飼養する場合、C エンリッチドケージ以外(バタリーケージなど)で飼養する場合に分けて基準を規定している。

  このうち、A ケージ以外で飼養する場合の基準については、2007年1月1日以降は、すべての施設が本指令に定める基準を順守しなければならないこととなっている。

  また、バタリーケージなどのエンリッチドケージ以外でのケージ飼養については、2003年1月以降、新たに導入することは禁止されており、また2012年1月以降は全面禁止となっている。

  なお、本指令は、350羽未満の飼養農家、採卵鶏の繁殖農家は適用除外となっている。

〈A ケージ以外で飼養する場合の基準〉

  本飼養方法については、2002年1月1日以降、以下の基準を満たさない施設の新設または改修は認められておらず、また2007年1月1日以降はすべての施設がこの基準を順守しなければならない。

・直線状の飼槽で給餌する場合は1羽当たり最低10センチメートル、円形状の飼槽にて給餌する場合は同4センチメートルを確保しなければならない。

・直線状の水槽にて給水する場合は1羽当たり最低2.5センチメートル、円形状の水槽にて給水する場合は同1センチメートルを確保しなければならない。

・産卵場所は7羽当たり最低1カ所設置。複数羽のグループに対し産卵場所を設置する場合は、最大120羽を1グループとし、産卵場所として最低1平方メートル確保するべきである。

・止まり木は、鋭い角が無く、1羽当たり最低15センチメートルの長さを確保するべきである。設置場所は砂浴び場の上以外で、高さは30センチメートル以上の場所、止まり木の上は20センチメートル以上の空間を確保するべきである。

・砂浴び場は1羽当たり250平方センチメートル以上、床面積の3分の1以上確保すべきである。

・床面はつめを痛めないものとしなければならない。

・飼養密度は1平方メートル当たり9羽を超えてはならない。ただし、行動可能な部分の面積と利用可能な部分の面積が等しい場合には、2011年12月31日までは同12羽まで認められる。


〈B エンリッチドケージ(拡充ケージ)の場合の基準〉

・1羽当たりのケージは、最低750平方センチメートルを確保しなければならない。

・産卵場所、砂浴び場を設置しなければならない。

・1羽当たり最低15センチメートルの止まり木を設置しなければならない。

・飼槽の長さは、ケージ内の鳥に対し、1羽当たり最低12センチメートルを確保しなければならない。

・給水器はグループの大きさに応じた適切なものを準備しなければならない。

・採卵鶏の確認や出入りを容易にするためにケージ間に最低幅90センチメートル以上の通路を設置しなければならない。施設の床面とケージの床面は35センチメートル以上離さなければならない。

・つめ研ぎ用の道具を設置しなければならない。


〈C エンリッチドケージ以外のケージ飼い(バタリーケージなど)の場合〉

 本飼養方法については、2003年1月以降、本ケージの新たな導入は禁止されており、また2012年1月以降の使用は全面禁止となっている。

・1羽当たりのケージは、最低550平方センチメートル確保しなければならない。

・飼槽の長さはケージ内の鳥に対し、1羽当たり最低10センチメートルを確保しなければならない。

・給水は、管やカップで飲ませる場合はケージ内に2カ所以上設置すること、それ以外の場合は飼槽の場合と同様の幅を確保しなければならない。

・ケージ内の高さは、ケージの65%以上の部分は40センチメートル以上を確保し、また、いずれの場所も最低35センチメートル以上は確保しなければならない。

・床面はつめを痛めない素材を使用。ケージの傾斜は14%または8度を超えないこと。

(2)子牛(子牛の保護のための最低基準に関する理事会指令91/629/EEC)

  本指令の対象は、6カ月齢までの育成または肥育用の子牛である。

  また、指令で定める基準のうち、飼養密度や施設の構造に関する基準については、2006年12月31日以降はすべての施設がこの基準を順守しなければならない。ただし、子牛が6頭未満の農場および授乳のため母牛と同居している子牛にはこの基準は適用されない。

〈飼養密度や施設の構造に関する基準〉

・次の基準については、98年1月1日以降に新設または改修するすべての施設がこの基準を順守しなければならない。また2006年12月31日以降はすべての施設がこの基準を順守しなければならない。ただし、子牛が6頭未満の農場および授乳のため母牛と同居している子牛にはこの基準は適用されない。

○8週齢を超える子牛については、治療目的以外で単房に閉じ込めてはならない。単房は、横がき甲(肩甲骨の間の部分)の高さ以上、縦が鼻先から尾の縁までの1.1倍以上とすること。治療目的以外で使用する単房は、硬質の材料の壁ではなく、他の子牛を見たり触れたりできるようにしなければならない。

○群飼養の場合、最低1頭当たり以下の床面積を確保すること



〈飼養管理に係る一般的な基準

・子牛を収容する施設や牛房には子牛に有害な材質を用いてはならない。また、洗浄や消毒ができるものでなければならない。

・感電を避けるための電気配線や電気機器に関する基準は、欧州委員会の基準ができるまでの間、各国が定める基準を順守すること。

・空調、ほこりの量、温度、湿度、ガス濃度について、子牛に有害なものとならないように努めなければならない。

・子牛の健康に関係するすべての自動化機器または機械は、最低1日1回は点検しなければならない。故障を発見した場合は、直ちに修理するか動物の健康に安全な対策を講じなければならない。人工的な空調システムを採用している場合には、子牛の健康を保つのに十分な空調を保証するバックアップシステムを備えておかなければならない。また、警報装置は、その故障を管理者に知らせるものとし、そのシステムは定期的に点検をしなければならない。

・子牛を暗い場所に閉じこめてはならない。各加盟国の気象条件を考慮の上、子牛の行動や生理で必要とする光を、自然光または人工光で与えなければならない。人工光の場合、最低でも、通常の自然光と同様の午前9時から午後5時までの時間は照明を行わなければなければならない。また、いかなる時間も、子牛の観察が可能となるような適切な照度の下で飼養しなければなければならない。

・畜舎で飼養している場合は最低1日2回、屋外で飼養している場合は最低1日1回、飼養者や責任者がすべての家畜の観察を行うべきである。病気やけがを発見した場合には、速やかに処置するか、処置ができない場合には獣医師のアドバイスをできるだけ早急に受け、また、必要があれば、適切な別の場所に移すべきである。

・施設内では、子牛は、容易に横臥、睡眠、起立、毛繕いができるようにしなければならない。

・子牛をつなぎ飼いすべきではない。ただし、群飼養で、子牛に生乳または代用乳を与えるために1時間を超えない範囲で行うつなぎ飼いは除く。ロープでつなぐ場合、けがを起こさないよう定期的に観察し、快適なものとなるよう調整をしておかなければならない。また、窒息やけがをしないような結び方とし、横臥、睡眠、起立、毛繕いが可能となるようにすること。

・子牛向けの施設、牛房、機械・器具は、交差感染や病気を媒介する物質の蓄積を防ぐために、適切に清掃や消毒を実施しなければならない。ふん尿、飼料残さについては、においやハエ・ネズミの侵入を最小限にするため必要に応じて除去しなければならない。

・床面は、平らにすること。ただし、けがをしないよう滑りにくくすること。敷き材は子牛の大きさや体重に適したものとし、敷き材を用いない場合には、硬質の素材で表面を平らにすること。横臥する場所は、快適な場所となるよう清潔に保ち、また適切に排水ができるようにしなければならない。2週齢未満のすべての子牛に対しては、適切な寝床を与えなければならない。

・すべての子牛には月齢、体重、行動、生理に応じた適切な飼料を与えなければならない。また、血中のヘモグロビン濃度が最低1リットル当たり4.5ミリモルとなるよう、十分な量の鉄分を補給しなければならない。また、2週齢を超える子牛には繊維質の飼料を与えなければならない。その量は、8週齢から20週齢の間に、1日当たり50グラムから同250グラムに増やしていくこと。なお、子牛には口輪をはめてはならない。

・すべての子牛には、最低1日2回飼料を与えなければならない。群飼養で制限給餌を行っている場合や、個体ごとに自動給餌を行っている場合は、すべての個体が同時に飼料を食することができるようにしなければならない。

・2週齢を超えるすべての子牛は十分な量の新鮮な水が飲めるように、またはほかの液体を飲むことで水分要求量を満たすことができるようにしなければならない。ただし、気温が高い場合や子牛が病気の場合には、常時新鮮な水が飲めるようにしなければならない。

・給餌、給水の施設は、飼料や水を汚染することなく、また個体間の競争による悪影響を最小限にするよう設計・設置しなければならない。

・子牛には、分娩後6時間以内に、できるだけ早く初乳を与えること。

(3)豚(豚の保護のための最低基準に関する理事会指令91/630/EEC)

  本指令では、飼養密度や施設の構造などに関する基準、飼養管理に係る一般的な基準、性別・生育段階別の基準が規定されている。

  このうち、飼養管理に係る一般的な基準および性別・生育段階別の基準については、2003年1月1日より本指令に基づき実施している。

  また、飼養密度や施設の構造などに関する基準の順守については、現行の基準に加え、今後、以下の基準の適用が予定されている。

・種付けを実施した未経産豚と分娩豚に係る1頭当たりの床面積の基準については、2013年1月1日以降はすべての施設が本指令に定める基準を順守しなければならない。

・雌豚や未経産豚をロープでつなぎ飼いするための施設の建設や改修を禁止する。また、2006年1月1日以降、雌豚や未経産豚をロープでつなぎ飼いすることを禁止する。

・上記2つの規程や、すでにすべての施設に適用されている離乳後の豚の飼養密度に関する基準以外のものについては、2003年1月1日以降、新設または改修する施設、および2013年1月1日以降のすべての施設に対し適用される。

〈飼養密度や施設の構造などに関する基準〉

・すべての飼養施設は次の2つの基準を満たすこと。

○離乳後の豚の場合(種付けを実施した未経産豚と分娩豚を除く)
仕切のない状態で最低1頭当たり以下の床面積を確保すること。




○種付けを実施した未経産豚と分娩豚の場合

  仕切のない状態で最低1頭当たり以下の床面積を確保すること。なお、2003年1月1日以降、この基準を満たさない施設の新設または改修は認められておらず、また2013年1月1日以降はすべての施設がこの基準を順守しなければならない。



 ただし、1群が6頭未満の場合は、面積を10%増加させること。1群が40頭以上の場合は面積を10%減少することができる。

・雌豚や未経産豚をロープでつなぎ飼いするための施設の建設や改修を禁止する。また、2006年1月1日以降、雌豚や未経産豚をロープでつなぎ飼いすることを禁止する。

以下の飼養密度や施設の構造などに関するすべての基準は、2003年1月1日以降、新設または改修する施設、および2013年1月1日以降のすべての施設に対し適用される。

・上記1頭当たりの床面積のうち、種付けを実施した未経産豚については最低同0.95平方メートル、分娩豚については最低同1.3平方メートル部分は継ぎ目のない固い床部分とし、排水口部分は最大15%とすること。

・スノコ床を採用する場合

○スノコ板間の最大間隔は以下のとおり

 


○スノコ板の最小幅は以下のとおり

 

・分娩予定の豚は、種付けの4週間後から分娩予定の1週間前までは群飼育をすること。収容する豚房の幅は2.8メートル以上とすること。1群の頭数が6頭未満の場合は、豚房の幅は最低2.4メートル以上とすること。

  雌豚が10頭未満の施設には本基準は適用されないが、豚房の中で容易に体の方向を変えられるだけの空間を確保すること。

・群飼育の分娩予定の豚について、飼料の競合がある場合でも個々の個体が十分に食することができるようにすること。

・空腹を満たすため、またそしゃくをさせるために、離乳後の母豚や未経産豚には、高栄養飼料を給餌する際と同量の繊維質の飼料を給餌すること。

・群飼いの場合、他の個体から攻撃を受ける豚や病気またはけがをしている豚については、一時的に単房で飼養すること。この場合、獣医師のアドバイスがない限り、豚は単房の中で容易に体の方向を変えられるようにすること。


〈飼養管理に係る一般的な基準〉

  2003年1月1日より以下の基準が適用されている。

・施設内の豚を飼養する場所では、常時85デシベル以上となる騒音は避けること。継続的または突発の騒音も避けること。

・1日最低8時間は、最低40ルクスの照度を保つこと。

・施設については、豚が横臥する場所は清潔で快適なものとし、すべての豚が横になるようにすること。また、睡眠や起床が普通にできるようにすること。分娩前または分娩中の豚を除き、ほかの豚を見ることができるようにすること。

・豚の健康を害さない範囲で、わら、乾草、木くず、おがくず、培養土、泥炭やこれらを混ぜたものに常に接することができるようにすること。

・床面は、平らにすること。ただし、けがをしないよう滑りにくくすること。床は豚の大きさや体重に適したものとし、敷き材を用いない場合には、硬質の素材で表面を平らにすること。

・すべての豚に対し、最低1日1回は給餌すること。群飼養で制限給餌を行っている場合や、個体ごとに自動給餌を行っている場合は、すべての個体が同時に飼料を食することができるようにすること。

・2週齢を超えたすべての豚は、十分な量の新鮮な水を飲めるようにすること。

・治療目的または個体特定の目的以外で体を傷つける行為は、次の例外を除き禁止する。
−7日齢未満の子豚のきばの均一な削除
−尾の一部分の切除
−切除以外による去勢
−屋外飼育や加盟国の法律にのっとった場合にのみ装着が認められる鼻環


〈性別・生育段階別の基準〉

  2003年1月1日より以下の基準が適用されている。

ア 雄豚(繁殖用)

・豚房は、豚が動き回ることができ、ほかの豚の音を聞き、においを嗅ぎ、見ることができるように設置、建設すること。成長した雄豚の場合、1頭当たり最低6平方メートル確保すること。
自然交配による繁殖を行う場合は、豚房の大きさは1頭当たり最低10平方メートルとし、仕切りを設けてはならない。2003年1月1日以降、この基準を満たさない施設の新設または改修は認められておらず、また2005年1月1日以降はすべての施設がこの基準を順守しなければならない。

イ 雌豚および未経産豚

・グループ内での、他の豚に対する攻撃を最小にするような措置を講じなければならない。

・妊娠した豚に対し、外部または内部から発生する寄生動物に注意をしなければならない。分娩房にいる間は妊娠した豚を清潔に保たなければならない。

・分娩予定1週間前からは豚に適切な睡眠場所を与えなければならない。

・分娩する豚の後部には分娩するための適切な空間を設けなければならない。

・分娩房では、動く母豚から子豚を保護するための対策を講じなければならない。

ウ 子豚

・子豚が休む場所は、床面は硬い床かそこにマットもしくはわらなどを十分に敷くこと。

・分娩房では、子豚が十分に授乳できる空間を設けること。

・母豚や子豚の福祉や健康を損なわない限りは、28日未満で離乳させてはならない。ただし、疾病を減少させる観点から、母豚から離し、別の清潔な消毒済みの施設に移動させる場合には、これを7日間早めることができる。

エ 離乳した豚、育成豚

・豚がグループ内で予期せぬ行動により争うことを防止しなければならない。

・群の混成は必要最小限とすること。もし実施する場合は、できるだけ若いうち、できれば離乳後1週間以内に行うこと。

・深刻な争いが見られるときは速やかに原因を調査し、たくさんのわらなどを与えてみること。攻撃を受けている個体または攻撃している特定の個体を別にしてみること。

・群の混成を容易にするための精神安定剤の使用は、特別な状況や獣医の指導時のみに限定すること。

4 「動物福祉行動計画」について

 2006年1月に欧州委員会が公表した「動物福祉行動計画」は、行政府である欧州委員会が、2006年から2010年までの今後5年間に、動物福祉の分野で取り組むべき行動を明確にし、また包括的に整理し、EU市民、利害関係者、欧州議会、欧州理事会に対する責務を具体化したものである。

  この行動計画の主な目的は、以下の5点である。

・動物の保護と福祉に関するEU指令の定義のさらなる明確化

・EUや国際レベルの動物福祉の基準の高度化

・将来の必要性に向けた現行方策のさらなる調和

・動物福祉の将来に向けた研究の支持と実験動物を用いた試験における「3つのR」の原則(replacement(代用)、reduction(減少)、refinement(改良))の促進

・欧州委員会の動物の保護や福祉の政策分野におけるさらなる一貫性や調和への取り組み


  そして、この目的の達成のために掲げた5つの行動分野は以下のとおりである。

・動物の保護および福祉の最低基準の引き上げ

 現行の畜種別に設定した最低基準や現在設定されていない畜種の基準について、最新の科学的証拠や社会経済的な評価を基に設定する。EUルールの効果的な施行と国際貿易のルールに考慮して優先順位をつけて行う。

・動物福祉分野における研究および実験動物を用いた試験における「3つのR」の原則の促進

  動物福祉の実施について最大限の配慮を払うべきとのアムステルダム条約の動物福祉に関する付属書に沿って、実験動物を用いた試験における代替方法の発展、確認、実施および監視を行う。

・動物福祉に関する指針の規格化の導入

  動物福祉にのっとった畜産物生産を発展させ、EUや国際レベルでの適用を容易にするために、動物福祉の基準の適用に優先度をつける。この考え方に沿って、表示の規格化について計画的に調査を進める。

・家畜飼養者や一般国民との動物福祉に関する情報の共有および提供の促進

  例えば農場段階での現行の動物福祉に関する取り組みについては、その販売者と生産者が協力して、消費者の信頼や意識の改善や消費の際の購入決定のための情報提供を行うことなどが含まれる。

・EUの動物福祉分野における国際的な主導的立場の保持

  動物福祉によりのっとった生産方法により、開発途上国との貿易機会を切り開く試みを含む。EUは、ペットや家畜、野生動物などといった、動物福祉の分野の境界を超えた問題に積極的に取り組むこととしている。また、これらの問題には速やかに、効果的に、また一貫した態度で取り組む。 
これらの5つの分野での取り組みは、次のタイムテーブルにより具体的な取り組みが計画されている。

表2 動物福祉行動計画に基づく2006年から2010年までの具体的な行動予定



5 ブロイラーの保護に関する理事会指令の検討について

 EUでは、「動物福祉行動計画」に掲げたように、動物福祉に関する最低基準の設定について、現在の採卵鶏、豚、子牛から、さらに他の畜種にも広げることを検討している。このうち、最も検討が進んでいるのはブロイラーの動物福祉の基準設定についてであり、欧州委員会は2005年5月31日に「食肉生産のために飼養される鶏の保護のための最低条件を定める理事会指令(案)」を採択し、公表している。

(1) 背景

 この指令案は、欧州委員会からの要請に基づく、2000年3月に動物の健康と福祉に関する科学委員会が発表した調査レポートの結果に基づいたものである。このレポートでは、現行の生産システムにおける問題点として足やもも肉の異常、腹水症のような代謝障害や急性心臓疾患による突然死を挙げている。また、動物福祉に関し以下の点を問題点として指摘している。

・現状の飼養密度はばらつきがあるが高いものでは1平方メートル当たり生体80キログラムを超える場合もある。このような状況は、心臓疾患、活動低下、皮膚病を引き起こす原因となる。

・飼養時の照明が10ルクス(日光が1万ルクス、オフィスが250ルクス)またはそれ以下となっている。この状況は、睡眠の障害、目の異常、ストレス、もも肉の異常を引き起こす原因となる。

・空気の質や天候

・敷きわらの質(最低5センチメートル以上は必要で、また衛生的であるべき)

・飼養者の訓練

・環境面の質的向上

(2) 飼養方法に係る具体的な最低基準

 以上のような問題点を踏まえて設定した最低基準の案は以下のとおりである。なお、この基準は、ブロイラーの飼養羽数が100羽未満の飼養農家、繁殖農家、ふ化場には適用されない予定となっている。

〈ブロイラーの飼養に係る最低基準(案)〉

・飼養者は、ブロイラーの飼養密度を1平方メートル当たり生体30キログラム以下としなければならない。なお、鶏舎内のアンモニア濃度、気温や湿度などの一定の条件を満たす場合は、ブロイラーの飼養密度を、1平方メートル当たり生体38キログラム以下とすることが認められる。

・給水器は飲みこぼれが生じないように設置・維持されること。

・鶏がいつでも飼料を食べられるようにしておくこと。また、食鳥処理時刻の12時間前より早く断食させないこと。

・すべての鶏にいつでも乾燥した敷き料を用意すること。

・加温し過ぎないようにすること。また、除湿のため、十分な換気を行うこと。必要な場合は加温装置と組み合わせること。

・音は最小限の水準とすること。換気扇、給餌機または他の装置は、それらが発生する音が最小限となるように設置し、運転し、かつ、維持すること。

・照明を点灯する場合は、鶏舎の床面全体が、鶏の目の高さの位置で20ルクス以上の照度となるようにすること。また、当該鶏舎に導入後3日間、および食鳥処理のための出荷前3日間は、鶏舎内の明暗を24時間周期とし、消灯時間を最低連続4時間、合計で最低8時間とすること。

・すべての鶏について最低1日2回の監視を行うこと。鶏との距離が3メートル以内で監視が行えるような方法を定めること。重度の傷があるか、歩行困難など健康状態が悪く、苦しんでいるような場合は、適切な治療または迅速なとうたを行うこと。

・出荷後、新たな群を導入する前に、鶏舎、装置または鶏に接する道具を、完全に洗浄し消毒すること。

・以下の記録を最低3年間保管すること。(1)導入した鶏の数、(2)鶏の導入元、(3)飼料の配達日、量および種類、(4)実施された治療内容、(5)毎日の死亡鶏の数、また、判明している場合はその原因、(6)毎日の鶏舎内の最高気温および最低気温、(7)出荷時の平均体重、(8)出荷羽数、食肉処理場に到着した際にすでに死亡しているブロイラーの数。

・治療や診断などの目的以外での外科的処置の禁止。ただし、羽食などを防ぐ目的であれば、一定の条件の下、くちばしの切断を行うことなどは認められる。

(3) 指令案をめぐる検討の推移

 欧州委員会による規則案の採択の後、本指令案は閣僚理事会および欧州議会に送付され、それぞれにおいて検討が行われている。

  まず、閣僚理事会においては2005年7月の農相理事会で議論が行われ、議論の際の加盟国間の意見は次のとおりであった。

・支持:ドイツ、スウェーデン、デンマークは現行の飼養密度により生じるリスクに対処する欧州委員会の提案を支持。デンマークおよびスウェーデンは、すでにと畜や飼養密度の上限に関する国レベルの規則を適用している旨紹介。

・懸念を表明:スロバキア、チェコ、フランスは、本規則によるEUのブロイラー産業の競争力が低下、またEU内の市場シェアが低下する可能性があることから加盟国ごとの経済的事情や地理的条件に注意が必要であるとの懸念を表明。

・意見を表明:ギリシャはブロイラーに対する十分な保護の必要性とともに、費用対効果の重要性を強調。

  また、欧州議会では、2005年11月には環境委員会において、2006年1月には農業委員会において採択され、2006年2月の本会議において一部修正の上、可決されている。

  したがって、今後の手続きとしては、農相理事会における採択・合意を残すのみとなったが、2006年2月以降EU域内で発生した高病原性鳥インフルエンザにより大きな影響を受けているブロイラー生産者に配慮し、フランスを中心に、コスト増につながる指令案について早急に議論を進めるべきではないとの声が出ている。

  一方で、スウェーデン、デンマーク、ドイツ、イギリスなどの推進派の国々は、消費者がより動物福祉の実施に関心が高く、それを望んでおり、また飼養密度の低減が鳥インフルエンザの感染リスクも下げることになるとして、早急な議論を求めている。

  このような状況の中、欧州委員会としては、オーストリアを議長国とする2006年前半の閣僚理事会において採択・合意を目指していたが、6月19、20日に開催される農相理事会で議題として取り上げられることとなった。議論の中心は飼養密度の水準とその導入時期とみられている。

6 イギリスにおける動物福祉の取り組み

 3から5では、EUレベルでの動物福祉に関する動きや家畜の飼養のための最低基準を中心に説明した。これらが加盟国レベルで運用されている現状として、EU加盟国の中でも動物福祉の順守に関心が高いとされるイギリスの例を紹介する。

(1) イギリスにおける動物福祉に関する法令について

 (1)1911年動物保護法

  イギリスにおける動物の虐待からの保護に対する歴史は古く、1822年に牛への虐待を禁じたリチャード・マーチン法が議会において可決されている。これが、世界で最も古く議会で制定された動物福祉に関する法律となっている。

  その後、1911年には、家畜や飼育動物を対象とした「1911年動物保護法」が制定されている。この法律の目的は、家畜などに対する不必要な苦痛を回避することである。具体的には、次のことを禁止している。

・きつく殴打すること、蹴ること、冷遇すること、必要以上に動かすこと、必要以上に荷を背負わすこと、苦痛を与えること、怒ること、怖がらせること

・輸送時に必要以上の苦痛を与えること

・戦場で使用することやいじめること

・正当な理由がなく有害物質を投与すること

・正当な取扱いでない手術

・人間の食料残さを与えること による不必要な苦痛

・けがや不自由または疲れさせた状態で放した飼養動物の狩猟、または逃げ場のない閉鎖した空間における飼養動物の狩猟

(2)農場段階における家畜の福祉に関する法律

 ア 1968年農業法〔雑則〕(Agriculture (Miscellaneous Provisions)Act 1968)

  「1911年動物保護法」は、動物への不必要な苦痛を含めた虐待の禁止に関する一般的な規則を規定しているが、農場段階の家畜に対し不必要な苦痛やストレスを与えることは「1968年農業法〔雑則〕」において禁止されている。

  本法律における「家畜」とは、「食料、羊毛、皮、毛皮その他農業生産のための土地で飼養する動物」を指し、具体的には、牛、羊、ヤギ、豚、家きん、ウサギ、ダチョウ、シカなどを対象とする。馬や犬も農業生産の目的であれば対象となる。

  また「農業生産のための土地」とは、取引や販売のために農産物を生産する土地を指し、例えば都市地域に位置する高密度な鶏舎や販売目的で飼養する庭先のような土地も含まれる。ただし、自家消費用の農産物生産のための土地は含まれていない。
 

  イ 2000年家畜の福祉に関する規則(Welfare of Farmed Animals Regulations 2000)

  「1968年農業法〔雑則〕」に基づき、この細則を定めた「2000年家畜の福祉に関する規則」が2000年8月14日から施行されている。これは、EUの農場段階における動物福祉の基本規則(理事会指令98/58/EC)をイギリスにおいて実施するために制定された規則で、4つの地方行政区分(イングランド、ウェールズ、スコットランド、北部アイルランド)ごとに同様の規程が施行されている。

 地方行政区分ごとに制定されたこの規則は農場段階におけるすべての家畜を対象としており、具体的な飼養の基準として、付則1では、魚類、両生類、は虫類を除いたすべての家畜を対象とした、検査、記録保持、行動の自由、施設・機器の基準、給餌・給水の方法などの一般的な基準について規定している。また、付則2から7では、以下の畜種ごとの飼養の基準を規定したものとなっている。
付則2:採卵鶏
付則3:採卵鶏以外の家きん
付則4:繁殖や肥育目的の子牛
付則5:牛
付則6:豚
付則7:ウサギ

  このように、本規則では、一般的な動物福祉に関する規則のみならず、採卵鶏、子牛、豚に関する動物福祉のための飼養基準なども規定したものとなっており、EUの農場段階における動物福祉の基本規則に加え、採卵鶏、子牛、豚の動物福祉の最低基準を定めた規則にも対応したものとなっている。


  ウ 動物福祉規約(welfare codes)

  「1968年農業法〔雑則〕」においては、イギリスの動物福祉に関する主管当局はイギリス環境・食糧・地域開発省(DEFRA)の大臣が「家畜の動物福祉に関する推奨規約(Code of Recommendation for the Welfare of Livestock)」、通常「動物福祉規約」とよばれる規約を定めることとなっている。現在、牛、豚、採卵鶏について定められており、「2000年家畜の福祉に関する規則」の内容をより具体的に示した「動物福祉に基づいた飼養管理のための仕様書」となっている。

  なお、本規約は法律ではないことから、本規約に定める飼養管理方法を必ず順守しなければならないわけではない。しかし、本規約は生産者の動物福祉基準の順守を容易なものとすることを目的として定めたものであり、仮に飼養者が家畜に不必要な苦痛やストレスを与えたとの疑いで起訴される場合には、本規約を順守していないことがその証拠となることがある。

(2) イギリスの規則とEUの動物福祉に係る諸規則との比較

(1)EUの「農場段階における動物福祉の基本規則」との比較

  イギリスにおける家畜飼養者が順守すべき動物福祉のための一般基準は、前述の、地方行政区分ごとに制定された「2000年家畜の福祉に関する規則」(以下、「イギリスの規則」)の付則1で規定されている。これは、EUの農場段階における動物福祉の基本規則(理事会指令98/58/EC)(以下、「EUの基本規則」)に規定された基本的な飼養管理の内容と水準をそのまま規定したものとなっている。ただし、イギリスの規則では、EUの基本規則に加え、主なものとして以下の2点を追加して規定している。

・施設内で飼養される動物(家きんを除く)は、いかなる時にも、十分に乾燥した休憩場所で休憩ができるようにしなければならない。

・捕定のために、家畜に対し電流を流してはならない。

(2)EUの「採卵鶏に関する動物福祉のための飼養基準規則」との比較

  イギリスにおける採卵鶏を飼養する場合に順守すべき基準は、イギリスの規則の付則2で「ケージ飼い」の基準のみを規定していた。その後、「2002年家畜の福祉に関する規則〔改正〕」において、この付則2は改正され、採卵鶏の保護のための最低基準に関する理事会指令1999/74/ECの飼養管理の内容と水準をそのまま規定したものとなっている。また、「エンリッチドケージ以外のケージ飼い」に係る使用制限や使用禁止のスケジュールも同様である。

  したがって、採卵鶏に関するイギリスの基準は、EUの最低基準と同水準で実施している。

農場段階における動物福祉に関する法令の対応関係


(3)EUの「子牛に関する動物福祉のための飼養基準規則」との比較

  イギリスにおける子牛の飼養に関する順守すべき基準は、イギリスの規則の付則4で規定している。これは、子牛の保護のための最低基準に関する理事会指令91/629/EECに規定された基本的な飼養管理の主な内容とその水準を踏襲したものとなっている。

  なお、理事会指令91/629/EECでは2006年12月31日以降、8週齢を超える子牛の単房での飼養を原則禁止することとなっているが、イギリスでは他のEU加盟国に先駆け、これを90年より禁止している。
また、EUの理事会指令と比べると、以下の点で、イギリスの規則においてはより厳密な基準が設定されている。

○ 子牛1頭当たりの飼養施設の面積




○子牛に与える飼料中の繊維質の量

 


(4)EUの「豚に関する動物福祉のための飼養基準規則」との比較

  イギリスにおける豚の飼養に関する順守すべき基準は、イギリスの規則の付則6で規定していた。その後、「2003年家畜の福祉に関する規則〔改正〕」において、付則6は改正され、豚の保護のための最低基準に関する理事会指令91/630/EECで規定された基本的な飼養管理の主な内容とその水準を踏襲したものとなっている。

  なお、理事会指令91/630/EECでは、種付けを実施した雌豚について、種付け実施の4週間後から分娩予定1週間前までの間の群飼いを、2003年1月1日以降に新設または改修する施設と2013年1月1日以降のすべての施設で適用することとしているが、この分娩予定豚の群飼いについて、イギリスではすでに99年より義務付けている。

  また、理事会指令91/630/EECと比べると、以下の点で、イギリスの規則においてはより厳密な基準が設定されている。

○ つなぎ飼いの禁止



○ 単房の規格



○ 体を傷つける行為の特例



(3) 動物福祉に関する法令の順守について

 DEFRAは、「1981年動物健康法」に基づき、毎年、議会に対しDEFRAの検査の結果、動物福祉の順守違反として法手続が取られ有罪となった事案の詳細を含めた報告書を提出している。この報告書はイングランドとウェールズにおける実績をまとめたものである。

  この動物福祉に関する基準の農場段階および輸送段階での順守状況の検査は、DEFRAの州衛生・獣医サービス局(SVS)が実施している。このうち農場段階の検査は、SVSの年間計画に基づく農家検査と無作為抽出による農家検査の両方を行っている。さらに、SVSはこれらの農家訪問による検査に加え、以前の検査により動物福祉の順守に問題があるとされたすべての農場に対する厳しい追跡調査も実施している。SVSが検査の結果、動物福祉に関し問題があると判断すれば、まず、注意または警告を発する。通常は、この段階で改善が行われ問題はなくなるが、改善が見られず法的な手続きが必要と判断すれば、DEFRAが農場を告訴する手続きを行う。この場合、動物虐待防止協会(RSPCA)や地方自治体の協力を得て行うこともある。「1986年動物法〔科学的手順〕」に基づく法手続きを経て、有罪となれば1件につき6カ月以下の懲役または5,000ポンド(約103万円:1ポンド=205円)以下の罰金もしくはその両方が課せられることとなっている。

  2005年の議会に対する報告書では、個体登録や、副産物処理、動物福祉の基準などの順守に違反する農場などへの対応の実績および法手続をとった事案に関する氏名まで含めた詳細が取りまとめられている。このうち、動物福祉の基準の順守に関し講じた事案を取りまとめた概要は以下のとおり。

「1981年動物健康法」に基づき動物福祉の順守
のために講じた法手続きの結果(2005年)




その他動物福祉基準の順守のために講じた措置(2005年)




動物福祉の違反事例の詳細(抜粋)

 



(4) イギリスの動物福祉に関する法令をめぐる動き

 イギリスの動物福祉への取り組みが早くから進んでいることはすでに紹介したが、現行の動物福祉に関する数々の法律が、長い年月の経過に伴う社会の変化や科学の進展に十分に対応できていないとの問題も出てきた。さらに、現在、動物福祉に関係する法令が20以上もあることにより、法令間の食い違いや抜け道も見られるようになった。

  また、家畜の飼養に関する基準についてはEUの規則や各国の法律で規定され実施されているが、家畜以外の動物については同様の基準は定められていない。

  このため、DEFRAは、家畜やペット、競技用動物までを対象とした動物福祉に関する法律の一元化および規定内容の見直しを行うこととした。この動物福祉に関する法案の主なポイントは次のとおり。

・動物への虐待を減らすため、苦痛が表面化する前に動物福祉を順守させるために必要な手続きをとることを可能とする。

・家畜やペットの飼養者に、飼養する動物の動物福祉の実施に全責任を負わせる。

・罰則の強化による違反の抑制と現行制度における法の抜け穴をふさぐ。

・法の執行者および動物の飼養者のための法律を統合し簡素化を図る。

・現行の農場段階の家畜の「動物福祉規約」の制定と同様に、ペットに係る議会の承認を経た規約を制定する。

・動物を闘わせた場合(闘牛、闘鶏など)の罰則を強化する。

・動物福祉の違反者に対する法適用の有効性を強化する。

・動物を購入できる最低年齢を12歳から16歳に引き上げる。また、親の了解を得ない16歳以下の子供にペットを賞品として与えることを禁止する。

・特例を除く動物の体の一部を切除することを禁止する。
 

  この動物福祉法案のイギリス議会における審議については、2006年3月14日に下院を通過し、翌15日に上院に送られている。上院では4月18日に第二読会が開催され、4回開催される予定の委員会審議のうち、すでに2回が5月23日および同24日に実施され、残り2回が6月14日、同15日に予定されている。今後、第三読会を経て、両院の修正法案に両院が同意すれば、国王(女王)の同意手続きを経て、法律となる予定である。


7 おわりに

 今回のレポートでは、EUの動物福祉の取り組みや今後の動きを中心に紹介したが、EUの消費者がこの取り組みをどのように評価しているかを簡単に紹介する。

  欧州委員会が2005年6月に公表した消費者の意識に関する調査結果によれば、74%が「商品の選択を通じて動物福祉の改善に貢献できると信じている」と回答し、また57%が「動物福祉規則を順守して生産された家畜由来の製品を、より高い値段でも喜んで買う」と回答している。この結果からは、EUでは消費者サイドも、動物福祉の取り組みにおける役割やメリット・デメリットをきちんと認識した上で、生産者の動物福祉への取り組みを支持していると考えられる。

  動物福祉に取り組む結果、家畜の苦痛やストレスが軽減され、また本来の生育環境により近い環境が確保されるという家畜にとってのメリットと、その結果、生産される畜産物の品質・安全性が改善されるという人間にとってのメリットが期待される。一方、経済性追求の観点においては負の要素となる動物福祉に対する取り組みが生産コストの増加につながりかねないというデメリットが存在する。したがって、畜産物生産が経済活動である限りにおいては、生産者サイドの取り組みと併せて、消費者サイドの理解が無い限りはその取り組みはうまくいかないと考える。

  この調査結果は、早くから動物福祉に取り組み、また試行錯誤を繰り返してきたEUの成果であろう。そして、この結果は、EUにおける先進的な動物福祉の取り組みが、これまでの「家畜のため、人間のため」に実施するという段階から、商品の競争力向上のための「付加価値化のため」にもつながるという段階に移っているとも考えられる。

  消費者の食の安全・安心への関心の高まりと併せ、動物福祉への関心は今後さらに高まっていくだろう。このとき、動物福祉の厳しい基準をクリアして生産されたEUの畜産物は、EU域内はもちろんのこと、世界の市場においても競争力を持つ可能性が十分に考えられるのである。



(参考資料)
 欧州委員会ホームページ
 DEFRAホームページ
 DEFRA報告書(Return of expenditure incurred and prosecutions taken under the Animal Health Act 1981 and incidences of disease in imported animals for the year 2005)


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