5月3日より輸出再開
欧州委員会は4月29日、イギリス産の生体牛および牛から生産されるすべての製品に対する輸出の制限措置を廃止する委員会規則を官報に掲載し、5月2日から施行した。これを受けたイギリスの国内規則が5月3日に施行され、この結果、同日からイギリス産牛肉などのEU域内への輸出が再開された。これまでも、一定の条件を満たした牛肉などの輸出は可能であったが、非常に厳しい条件を満たしたものに限定されており、その制限がなくなるという点で、96年3月以来、10年ぶりの本格的な輸出再開となった。また、ほとんどのEU加盟国において同国産牛肉などの輸入再開の法令が整い、輸入が再開された。
なお、96年8月1日(肉骨粉の給与禁止措置開始日)前に同国で生まれた牛および96年8月1日から2005年6月15日(FVOによる検査終了日)前にと畜された牛由来の牛肉などは、他の加盟国および第三国へ輸出できないこととなっている。また、全加盟国で除去が義務付けられている特定危険地位(SRM)についても、今回の規則の改正により、同国は、他の加盟国と同等ととなった。
子牛輸出に係る動物福祉の問題
今回の生体牛の輸出再開により、輸出禁止の間は、そのほとんどが生後まもなく処分されてきた乳雄子牛を、子牛肉(veal)の生産用素牛として輸出することが期待されている。イギリスは、子牛を個体ごとに閉鎖的な空間(クレーツ)で飼養することを、EUの中で最も早くから禁止するなど動物福祉への関心の高い国であるが、生産者団体のイギリス全国農業者連合(NFU)は、子牛の輸出を動物福祉の観点から懸念する声にこたえるためにリーフレットを作成し、子牛輸出の必要性や動物福祉の順守について次のように説明している。
・乳雄子牛は子牛肉の生産に適しているが、イギリスでは歴史的にこれを食する習慣がほとんどない。このため、輸出が禁止されていた間は、生後まもなく処分をしていた。 今回の輸出再開に当たり、輸出禁止前の水準である年間45万頭、1頭当たり80ポンド(16,400円:1ポンド=205円)での輸出が見込まれ、農家経営の一助となる。
・長期的な目標は、イギリス国内で育成し子牛肉として輸出することであるが、短期的には、コストや技術的な問題、また輸出相手国の消費者が自国で育成した子牛由来の肉を好む現状から、これを行うことは困難である。
・輸出者には、子牛の輸送中における動物福祉基準の順守と、子牛の飼養に係る福祉基準を順守する農場にのみ出荷することを義務付ける。
第三国のうち、スイスがイギリス産牛肉の輸入再開を決定
イギリス食肉家畜委員会(MLC)の下部組織であり、イギリスの牛肉産業などの振興を目的としたイギリス牛肉・羊肉実行委員会(EBLEX)によると、スイスが6月5日よりイギリス産の生体牛および牛から生産されるすべての製品の輸入を再開することが明らかとなった。スイスは、90年にイギリス産牛肉などの輸入停止を世界で最初に実施した国であるが、EU域外で輸入再開を決定した最初の国ともなった。
2006年のイギリスの牛肉需給
昨年11月の30カ月齢を超える(OTM)牛の食肉流通の開始、本年1月の96年8月1日前に生まれた牛を対象とした新たな老齢牛対策(OCDS)の開始、今回の牛肉などの本格的な輸出再開と、イギリス産牛肉をめぐる制度変更が次々と行われている。このような状況の中、MLCが行ったイギリスの2006年の牛肉需給予測は2005年の実績と比べ大きく変化したものとなっている。
まず、生産量は、OTM牛のフードチェーンへの流入により大きく増加し、前年比14.0%増の86万4千トンと予測している。また、輸出量は今回の本格的な輸出再開を受け3万トンに増加、消費量はわずかに増加し106万4千トンになると見込んだ結果、輸入量は前年比21.8%減の23万トンに減少すると予測している。2005年のイギリスの牛肉輸入は、55%が隣国アイルランドからのものであり、また、イギリス産牛肉の輸出再開がEUの牛肉市場におけるアイルランド産牛肉との競合につながるとすれば、一連のイギリス産牛肉をめぐる制度変更により最も影響を受けるのはアイルランドであると思われる。
○ イギリスの牛肉需給予測
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