1 はじめに
2005年12月、わが国はWTO香港閣僚会合においてLDC(後発開発途上国)からの市場アクセスを原則として無税無枠化することのほか、開発支援策の一環として今後3年間に100億ドルの資金協力を行うことを表明した。これは、わが国がWTOラウンドを通して途上国の開発を進め、自由貿易体制から更なる利益を得られるようにするための「開発イニシアティブ」として発表したものである。
ラオスはLDC諸国の一つに数えられ、本イニシアティブの対象となるほか、地理的には周囲を5カ国と接し陸封された形となっているが、インドシナ半島の交通の要衝に位置し、近年国内の幹線道路が整備されつつあるとともに同国を貫通する国際幹線道路の「東西経済回廊」(ベトナムのダナンからラオスとタイを経由してミャンマーのモーラミャインに至る、全長1,500キロメートルの計画道路)および「南北経済回廊」(ラオス北部を経由して昆明とバンコクを結ぶルート)が整備されつつある。
このような中、海外からの投資も増加しており、電力や鉱工業に続いて農業への投資が行われ、投資元は隣国のタイ(2000〜2006年1月承認ベース6億7百万ドル)とベトナム(同4億7千万ドル)に続いて旧宗主国のフランス(同4億2千万ドル)が上位を占めている一方、日本からの投資も(同1千万ドル)も行われ、日本とのEPA交渉も開始している。また、最近は中国における人件費の上昇などにより、ラオスに中国の補完的役割を期待する日本企業も出てきている。特に今後、AFTA(アセアン自由貿易地域)の実現による貿易の活性化や中国を含めたGMS開発構想、タイを主導の枠組みとするACMECS(イラワジ・チャオプラヤー・メコン経済協力戦略)のメンバー国としての一層の経済成長が期待される。
しかしながら現状では、産業としては農業が国の経済の基幹を担っており、特に作物においては、タイを中心に周辺国への加工用原料の供給国となっている。畜産部門においては、穀物消費において人間と競合しない牛や水牛の生産が盛んで、その一部は輸出されている。未整備なインフラや人材不足が国の発展の障害となっているが、豊富な土地資源などを生かして、今後の生産振興が期待される肉牛(牛および水牛)の生産と流通の概要を報告する。
2 ラオスの概況
(1)インドシナ諸国の主要経済指標
インドシナ半島に属するベトナム、ラオス、カンボジア、タイ、ミャンマーは、地理的に陸続きで隣接しているものの、タイ以外の国は、近年まで続く国内の混乱で日本をはじめとする諸外国からの外国投資が少なかったため、東南アジア諸国の中でも経済発展が著しく遅れた。インドシナ諸国の主要経済指標を表1で比べてみても、1970年代以降、経済発展を遂げたタイと比べ、国内総生産(GDP)に大きな差がある。その中でラオスは、インドシナ半島の東西および南北の経済回廊の通り道として交通の要衝に位置し、周辺諸国の発展とともに、今後の経済発展が期待されている。
表1 インドシナ諸国の主要経済指標(2004年)
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(2)ラオス人民民主共和国の概要
国土面積 :23万6,800平方キロメートル
人 口 :583万6,000人(2004年推計)
首 都 :ヴィエンチャン
言 語 :ラオ語
宗 教 :仏教(上座部)
政 体 :社会主義共和制
元 首 :カムタイ・シパンドン大統領
財政年度 :10月1日〜9月30日
通 貨 :キープ
(1米ドル=10,591キープ:2006年4月現在)
3 ラオスの農業および畜産の概要
国民経済上重要な農業および畜産
ラオスの人口の約8割は都市部を離れた農村や山間部に居住しているとされ、表2のとおりGDPの約半分は農業によって占められている。
また、表3をみると農業の主体は米作を中心とする作物部門であるが、それに次ぐ畜産部門は、牛や水牛が労働力として使用されるほか、預金代わりの財産として家計上、重要となっている。米などが農家の自給的作物であるため、家畜の販売による収入が農家の現金収入の約半分を占めるとされている。
表2 GDPの内訳
表3 農業のGDPの内訳
4 畜産政策
(1)意欲的な国家計画
ラオスでは、2020年には国民所得を2000年時点の3倍になるよう計画を立てており、国内産業の振興に励んでいるところであり、家畜の生産に関しても表4のとおりに計画している。
表4 2020年までの畜産振興計画
農業普及局の担当者の話では、国としては、在来種にレッドシンディーやブラーマンを掛け合わせて乳肉兼用種の開発を計画している。これは、将来的な経済発展に伴い、乳製品の需要増加が見込まれるためとしている。一方、チェンパサック県の農林事務所では、タイのカンペンセン牛(「畜産の情報:海外編」2006年2月号参照)を導入したいと話していた。カンペンセン牛はタイの風土に適応させるために増体などを目的に開発された肉牛であり、中央と地方の牛の改良に対する方針に相違が生じているように見受けられた。
(2)政策上重要な貧困対策と国際援助
畜産振興計画は非常に意欲的なものとなっているが、恒常的な歳入赤字が続いており、畜産の振興に関しても海外からの援助に依存する形となっている。現在、畜産に関係して行われている援助に関しては表5のとおりであるが、これ以前にも国際機関などからの援助が行われている。また、家畜疾病対策として、JICAにより「タイ及び周辺国における家畜疾病防除対策」が2001年12月から2006年12月の予定で実施されている。
表5 ラオスにおける畜産関連援助プロジェクト
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プロジェクトの実施例 SADU事業
スイスがドナーとなって行っているSADUに参加している農家を取材した。モン族のネングレオリ氏43歳、妻と18歳を筆頭として子供が8人いる。以前は焼畑のみを行っていたが、5年前から牛や水牛を飼養している。作物は米、キャッサバを0.5ヘクタールずつ作るほか、スクワットという蔓性の野菜を作っている。労働力は夫婦と子供二人の4人で、耕運機(ハンドトラクター、1,100ドル(12万5千円、1ドル=113.4円)で購入)1台を所有している。
山岳地帯上空から、茶色部分は焼畑
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キャッサバと米は自家用で野菜と家畜の販売が現金収入源となっている。現在牛6頭、水牛5頭を飼養し、昨年は4頭生まれてそのうちの3頭を販売した。販売価格は水牛が1キログラム当たり36,000キープ(367円、100キープ=1.02円)、牛が35,000キープ(357円)であった。
急峻な山の斜面での焼畑
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シェンクワン県ラブオ村でSADUプロジェクトのマーケティングの改善事例を取材した。村落の掲示板に、集落内の牛または水牛の販売予定者の住所、家畜の種類、頭数および希望価格などがリストとして提示されており、その脇に仲買人の顔写真のコピーが張ってある。販売者である農家よりも仲買人への便宜の傾向が強いように思われるが、結果として、農家の取引効率化などのメリットにもつながるとされている。掲示データは週に1度、村民により更新される。
村落にある牛と水牛取引の掲示板
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5 家畜の飼養概況
家畜の飼養頭羽数は、表6のとおり、各畜種とも増加傾向で推移している。耕運機の導入などにより、牛や水牛の頭数が減少するとの見方もあったが、金融システムが未発達のため、家畜が預金代わりの機能を果たしており、頭数が維持されているものと考えられる。水牛は個々の農家でいわば放し飼いで飼養されているが、牛は何らかの飼料給与または柵などの設置が一部で行われており、水牛に比べて人の手がかけられている傾向がある。
刈り取り後の水田での水牛
放牧地での肉牛在来種
表6 家畜飼養頭羽数の推移
表7 家畜と飼養形態
表8 県別家畜飼養頭羽数
6 牛と水牛の需給と流通
ラオスにおける牛の主体は、在来種、在来種と外国種との交雑種で、小型であり、成牛の雄で300〜350キログラム、雌で200〜250キログラム程度となっている。水牛は、一部にインド由来の河川水牛がいるが、ほとんどは沼沢水牛とされ、成雄で400〜450キログラム、成雌で300〜350キログラムに成長するとされている。
牛および水牛は放し飼いを主体として飼養されるため、乾期(1〜3月)における飼料確保が必要となるが、基本的に低投入の飼養形態を採っているため、農家の対応は十分でない。また、乾期にはラオスにおいて祝い事が行われる季節とも重なっており、全国的には乾期の前半に販売が増加する傾向があるとともに、高値で売るために体格などの優れた個体から販売され、逆選抜が行われる傾向も強いとされている。
また、全国に3カ所あるキャトルセンターでは肉牛などの改良と普及を行うとされているが、広大な土地を所有するものの、設備や人材などの点で、改良と普及を推進するには多くの障害がある。
(1) 順調に伸びる畜産物生産
表9は、農林省の推定した畜産物生産量である。家畜が必ずしも行政機関の監督の下でと畜されるとは限らないため、推定量となっている。2003年から2005年にかけて食肉生産量は、8%程度増加している。
表9 畜産物推定生産量
牛の生産に関する事例1 牛の放し飼い
チャンパサック県パクソン郡のコーンツ村の路傍で牛を追っている3人の女性(うち子供2人)にインタビューした。約40頭の群れは3農家の所有する牛で構成されている。女性たちは牛を追って帰宅の途中であった。牛に対しては特段の飼料は給与しておらず、牛は朝7時ごろ農家を出て行き、午後の4〜6時にそれぞれの農家に戻って来る。それぞれの農家では主にコーヒーを栽培しており、家族は6〜10人で、うち子供は3〜6人とのことであった。牛は自然交配し、大きくなったものから仲買人に売るとのことで、最近の価格は1頭150ドル(1万7千円)が相場とのことである。
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夕暮れ時に牛を追っていた女性達
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牛の群れ
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牛の生産に関する事例2 大規模飼養農家
チャンパサック県ボロベン高原のノーヒネ・キャトルセンター近くの農家のフォウボン氏を取材した。氏は45歳で以前は会社で経理をしていたが、1990年に就農した。家族は夫婦と子供が4人で、就学前の5歳の男の子が末っ子となっている。150ヘクタールの土地は政府から1ヘクタール当り2ドル(227円)で借りている。現在、肉牛155頭のほかにコーヒー30ヘクタール、キャベツ1ヘクタール、ばれいしょ1ヘクタールを栽培している。牛は、以前は最高400頭飼養していたが、盗難などで減少したとしている。155頭のうち雄は35頭で、残りの雌のうち85頭が妊娠している。年間約50頭を乾期の11月から4月の間に販売している。これは雨期よりも価格が高くなるためとしており、1頭当り平均150ドル(1万7千円)で売れるとのことである。飼料は野草で、他は塩を集牛のために与えている。年収は8,000万キープ(81万6千円)で、開業時に借りた金利7%の2,200万(22万4千円)キープは既に返済し終えたとしている。
竹製の柵へ集牛
牛の生産に関する事例3
ノーヒネ・キャトルセンター
チャンパサック県ボロベン高原にあるセンターの設立は1976年で、その目的は牛の改良であり、在来牛とブラーマンを交配している。現在の頭数は127頭で、雌93頭うち36頭が繁殖用、雄は34頭で繁殖用が3頭である。繁殖用雄牛はコブウシブラーマンの雑種とのこと。敷地は400ヘクタールと広大である。設備はハンドトラクター(いわゆる耕運機)とバイクが3台とのこと。将来的には人工授精を使った改良と牧草の種の供給を行いたいとしている。飼料は野草のほか、エレファントグラスが小規模ながら栽培されており、刈り取って与えられていた。乾期には50キロメートル離れたパクセーの方から稲ワラを無料でもらい受け、アンモニア処理後与えるとのことであった。収入は、生後2年程度の発育状態の良いものを外部に販売して得ている。
エレファントグラスを搬送
牛の生産に関する事例4
シェンクワン県フォーキラオのキャトルステーション
当キャトルステーションは1997年に設立され、草地と牛の改良および訓練が目的とされている。600ヘクタールの土地のうち柵があるのは120ヘクタールで、76頭(うち雌は3頭)の牛を飼っている。牛は農家から購入したものと、ベトナムから導入したブラーマン11頭(うち雄1頭)がおり、昨年は22頭が生まれた。草地が酸性土壌のため、牧養力が低く、サイレージが作れないとのことであった。かんがい設備の整備がされつつあり、一部に起耕の土地も確認された。乾期(1〜3月)用のものと思われるワラの保管施設もあった。
土地は広いが酸性土
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(2) ウェットマーケット中心のと畜加工
一般の市場での食肉販売に関しては、獣医の検査済み証を必要とするため、公設と畜場でのと畜処理が要求されるが、食肉は冷蔵施設を持たないウェットマーケットでの販売が主であり、鮮度を維持するため、と畜場での作業は夜半過ぎから明け方にかけて行われ、当日の朝にマーケットで小売業者に引き渡される。通常、「ミドルマン」と呼ばれる仲買人がと畜場に家畜を搬入し、と畜処理後、枝肉を受け取り、小売業者に販売する。
食肉の加工は一般にウェットマーケットの店先で行われており、除骨や小割りの作業を間近で見ることができる。一部に豚の皮の揚げ物などが作られているものの、ほとんどが生肉の形態で取引されている。
ウェットマーケットでの食肉の小売
加工の事例 と畜場
Donedou と畜場を管理しているヴィエンチャン市内にある国営食糧公社を取材した。と畜料金は、牛18,000キープ(184円)、水牛20,000キープ(204円)、豚17,000キープ(173円)となっている。水牛が高いのは通常牛より体格が大きいほか、皮をはぐのが牛に比べて困難であるからとされている。2005年の処理頭数は、水牛17,178頭、牛4,713頭、豚23,320頭、となっている。食肉生産量は、骨抜きで水牛1,653.4トン、牛268.3トン、豚(骨付き)1,782.4トンとなっている。そのほかに非公認と畜場が13カ所あり、当該と畜場のシェアは50〜60%であるとのことであった。非公認と畜場が堂々と存在するのは不思議であるが、中央政府の法律では公認できないものの、地方レベルでは食肉の供給の観点から存在を認めざるを得ないというのが、現状ということらしい。
後にと畜場に行ったが、名称は「近代的と畜場」となっているものの、設備は老朽化しており、豚の係留所からと畜処理所までの誘導路にはふんがそのままにされていた。場内は洗浄の後のようで、特段の異臭はなかった。と畜場の柵の外側には係留された牛と水牛がおり、水牛の体と角の片方にはペンキで所有者を示す印がしてあった。副場長によれば、仲買人などによって持ち込まれた家畜は、処理後構内で小売関係者に引き渡されていくとのことである。
と畜場の外観
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(3)食肉消費の中心は牛肉と水牛肉
国連農業食糧機関(FAO)の統計によれば、ラオスにおいて食肉で最も多く消費されるのは、牛および水牛肉である。次いで豚肉と家きん肉となっている。また、水産物では魚が食肉と同等に消費されるが、内陸国であるため、そのほとんどは淡水魚である。牛および水牛の輸出数量のコントロールは密輸などもあり実際上困難で、輸出相手国の事情に左右される傾向があるため、一定量以上の牛および水牛の輸出は、国内での供給の減少と食肉価格などの上昇を誘発する可能性がある。
(1)畜産物消費
表10 一人当たり消費量
(2)市場の畜産物価格
食肉などの価格は表11のとおりであった。
表11 トンカンカン市場での畜産物価格
(4) 仲買人中心の家畜の流通
一般的に、牛や水牛の取引には、仲買人が介する。パクセーの仲買人からのヒアリングによると、仲買人には地方政府からライセンスを取得し、そのライセンスに基づき牛の売買を行うこととなっているが、関係者によれば、実際には無許可で売買を行うものが少なくないとのことである。
また、牛または水牛の取引について、現在の取引価格の関係から、仲買人は価格の有利な首都のヴィエンチャンで取引するか、またはベトナムに輸出するとされている。
(1)家畜の農家販売価格の周辺国との比較
表12で2005年のタイ、ラオスおよびベトナムにおける牛、水牛及び豚の農家販売価格をみると、ラオスでは、全畜種とも生体1キログラム当り1.3(147円)〜1.5(170円)ドル程度の同様の価格帯となっているが、タイでは牛と豚が同程度の価格で、水牛価格はそれらよりも低くなっている。ベトナムでは北部南部とも価格は年末にかけて上昇した。2005年12月のベトナムの牛(南部は水牛を含む)価格はラオスに比べて1.8〜1.9倍であり、水牛は北部で1.5倍となっているほか、豚はベトナム北部ではラオスと同程度で、南部でも1.3倍程度である。タイおよびカンボジアの牛、水牛、豚のすべての価格はラオスより安くなっている。
以上のことから、ラオスの牛、水牛は基本的にベトナムのみが価格上有利となっており、事実、パクセーの仲買人は、ベトナムの国境に生体を運ぶ機会が増えているとのことであった。
(2)タイからみた畜産の輸出入状況
表13は、タイ税関が取りまとめたラオスとの牛および水牛の貿易量である。タイからラオスへの輸出はほとんどなくラオスからの輸入が主であるが、近年輸入頭数は減少傾向である。同様に表14の豚についてはラオスからの輸入はなく、タイからラオスへ輸出される頭数は増加傾向であり、中でも50キログラム未満の子豚が多い。なお、ラオス側でとりまとめた各県のタイからの豚の輸入頭数(表15)はタイ税関の頭数を大きく上回っている。統計の不備とともに密貿易の可能性も否定できない。同様のことは牛や水牛の輸出入に関しても行われているものと言われており、年間10万頭程度が周辺国に輸出されていると見込まれている。
表13 タイ 牛と水牛の輸出入頭数(対ラオス)
表14 タイ 豚の輸出入頭数(対ラオス)
表15 ラオス・県別の豚輸入頭数(対タイ・2004年)
牛の流通に関する事例 チャンパサック県パクセー市の牛の仲買人
牛の仲買人であるフェトビラフォン氏を取材した。ラオス資本のドンコング(Donekhong)社が地方政府から得た仲買人のライセンスの下で牛の売買を行っており、同社に5%のコミッションを支払っている。氏は51歳で、家族や親戚合わせて16人が一緒に暮らしている。以前は漁業に携わっていたが、1986年から仲買人をしている。氏のほかにパクセーには3人の仲買人がいるが、彼らはと畜場に所属しているとのことである。年間1,200頭の水牛と牛を扱っているが、同氏の場合その8割が水牛であり、扱い頭数は雨期の7月〜12月が多くなっている。これは農家が転期の餌不足による体重減少前に販売しようとし、水牛が集めやすくなるためとしている。
農家から直接牛を買い上げるのはコレクターと呼ばれる者であり、水牛の場合、コレクターが農家から、1キログラム当たり3万キープ(306円)で買い集めたものを、仲買人は、キログラム当たり3万2千キープ(326円)で買っている。集めた牛はトラックに乗せて、と畜場、ヴィエンチャンまたはベトナムとの国境に輸送する。トラックは2台所有し、1台に26頭積載する。ヴィエンチャンまでは12時間、ベトナムとの国境までは9時間かかる。国境での価格決定は、相手国内の相場を基準に値決めする訳ではなく、相手がコストに見合う価格以上を提示すれば合意している。特に価格情報を集めるようなことはしておらず、以前はタイにも運んでいたが、取引価格の有利なベトナムが主となっている。将来の展望に関して聞くと、やせた牛を肥育して販売すれば十分な利益を見込めるので、構想を練っているとのことである。 |
7 終わりに
経済的発展を続けるインドシナ半島にあって、ラオスは交通の要衝として今後の期待が寄せられているが、現在のところ、自主的な経済運営を強力に推し進めるというよりは、援助を行う各国との協調の下にゆっくりとした発展を目指しているように思われる。農業分野における近年の変化は周辺国の中でも特に発展著しいタイなどからの投資によって大きな影響を受けている。
畜産においては、他の農業分野同様にタイの影響を受けつつも、価格競争力のある牛や水牛の輸出が主にベトナム向けに行われている。しかしながら、家畜の飼養目的は、あくまでも農業経営の一部として、また預金の代わりとして行われ、専業経営はほんのわずかである。
土地などの条件に恵まれてはいるものの、農家は従前の飼養方法のまま家畜を飼い、改良された品種の投入や土壌の改良によっては大幅な生産性の向上が想定されるという潜在的な可能性を保持したままであるが、周辺国との交易が盛んになるにつれ、低コストと地理的有利という自国のメリットを生かした畜産経営が増えてくることが期待される。
なお、今回の報告書作成のための取材にご協力頂いたJICAおよびラオス政府ならびに県事務所、流通関係者そして農家の方々へこの場を借りて御礼申し上げます。
(参考資料)
・(社)畜産技術協会「平成15年度 畜産分野における国別援助計画基礎資料 ラオス編」
・(社)畜産技術協会「平成15年度 先進国海外技術協力情報収集現地調査報告書−ラオス人民共和国−」
・National Static Center 「Statistical Year Book 2003」
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