T はじめに
豪州では、毎年、2月末から3月初めにかけて、豪州農業資源経済局(ABARE)が主催する農業観測会議(OUTLOOK CONFERENCE)が、首都キャンベラで開催されている。
この会議では、ABAREが、今年の経済成長、農業・貿易政策、気象条件などを総合的に勘案して作成した主要な農産物ごとの需給、貿易に関する短・中期的な見通しを示すとともに、豪州農業が抱える諸問題について、関係者と討議を行うものである。
農業立国である豪州は、主要農産物の多くが輸出に向けられており、これらの輸出動向が農業経済に大きな影響をもたらすことから、この会議への関心は極めて高い。
今年も、2月29日〜3月1日までの3日間にわたり活発な議論が交わされ、畜産分野では、BSE問題による日本での米国産牛肉の再輸入停止や経済成長の著しいBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国の総称)諸国の動向などの要因を織り込んだ上で、2010/11年度までの見通しが行われた。
今回は、この農業観測会議の中から、肉用牛産業および酪農産業を中心にABAREが作成した短・中期的な需給見通しを紹介する。
U 肉牛産業の見通し
1 肉牛取引価格は低下するが、生産量は増加の見通し
ABAREによると、豪州の牛肉生産量は、今後5年間にわたり右肩上がりで増加すると予測している。一方、日本および韓国などの東アジアの市場が、2006年に北米産(米国およびカナダ)牛肉の輸入を再開するとの前提に立ち、豪州の家畜市場における肉牛取引価格は、中期的に値下がりするとみている。
(1)日本の米国産牛肉輸入再開は、2006年の中頃と予測
日本は2005年12月12日、20カ月齢以下の一定の条件で管理された米国およびカナダ産牛肉の輸入再開を決定したが、2006年1月20日に起きた特定危険部位を含む米国産牛肉の発見により、米国は、日本に牛肉を輸出できない状況が再び続いている。
日本の米国産牛肉の輸入再開時期は、依然、不明であるが、今後、豪州の牛肉輸出量を考える上で、米国がいつ日本への輸出を再開するのか、そして、米国がいかに迅速に輸出量を増加させるのかということが、今後、豪州の肉牛産業の転換点となるのは当然である。
ABAREによると、日本の米国産牛肉の輸入停止は、遅くとも2006年の中頃までと予測している。また、米国の牛肉輸出量について、日本、韓国向けは、2010/11年度までにはBSE発生以前の2003年の輸出レベルに到達することは難しいものの、2006年下期と2007年においては、かなりの増加が期待されるとみている。
(2)肉牛飼養頭数のピークは2年後
豪州の肉牛飼養頭数は、2002/03年度に発生した干ばつ以降、着実に増加しており、2005/06年度は、高い肉牛価格を背景に生産者の増頭意欲が増したことなどから、2006年6月時点では、前年比3.2%増の2,550万頭が見込まれている。
図1 肉牛飼養頭数、と畜頭数、枝肉生産量
ABAREでは、2006年後半から2007年にかけて、肉牛価格の値下がりによる保留意欲が弱まり、と畜頭数は増加に転じるものとみており、肉牛飼養頭数は、2008年6月の2,670万頭のピークを境に2011年6月には2,540万頭に減少するとしている。
一方、枝肉生産量は、豪州産牛肉に対する需要の高まりを背景に中期見通しの最終年度である2010/11年度に向けて増加し続けるとみており、2010/11年度の生産量は、2005/06年度生産量の1割増である228万トンと予想している。
図2 1人当たりの牛肉消費量と小売価格
なお、豪州国内の1人当たりの年間牛肉消費量は、生産量の増加による小売価格の低下から2010/11年度までの間、37キログラム台後半に向け、増加傾向で推移するとしている。
(3)米国産牛肉の輸入再開見込みから肉牛取引価格は大幅下落の見通し
2005年下半期の家畜市場における肉牛取引価格は、国外での豪州産牛肉に対する需要の高まりを背景に高値で推移しており、2005/06年度の取引価格は、前年比9.1%高のキログラム当たり325豪セント(286円:1豪ドル=88円)と見込まれている。
ABAREでは、今後、日本および韓国などの米国産牛肉の輸入再開の影響から豪州産牛肉の需要が減退し、2005/06年度末に向けて肉牛取引価格は低下し、さらに、米国向け輸出においては、米国内の生産増に加えて、特に、ウルグアイやカナダといった牛肉輸出国と厳しい競争に直面することも予想されるとしている。
2006/07年度の家畜市場における肉牛取引価格は、高級牛肉志向である日本と韓国市場において、豪州産牛肉から米国産牛肉へシフトすることなどでさらに弱まり、前年度比11.4%安のキログラム当たり288豪セント(253円)と見込んでいる。
また、2007/08年度から2010/11年度に向けて、家畜市場における肉牛取引価格は、豪ドル安傾向などの相場上昇につながる要因は見込まれるが、供給増と輸出競争の激化から価格低下に歯止めがかからず、2010/11年度は、2005/06年度比34.8%安の212豪セント(187円)と大幅な低下としている。
図3 家畜市場における肉牛取引価格
(4)アルゼンチンの動向により豪州肉牛取引価格はさらに下落
ABAREによると、米国市場への輸出を望んでいるアルゼンチンからの牛肉輸出が可能となれば、豪州にとっては、さらに大きな痛手になるとみている。アルゼンチンは、2000年3月の口蹄疫発生後、米国への牛肉輸出は停止状態にあるが、早ければ2008年にも、ウルグアイと同じく、口蹄疫フリーステータスが得られるとの期待が高まっており、このことが、今後を予測する上で大きなリスク要因としている。
(5)東南アジアの経済成長から向こう5年間の生体牛輸出は堅調
ABAREによると、生体牛輸出については、(1)米ドルや輸出国通貨に対しての豪ドル高、(2)海外市場における豪州産牛肉需要増による肉牛価格の上昇、(3)東南アジアの輸出市場における南米産牛肉やインド産水牛肉との競合−などの様々な困難な状況に置かれている。
2002/03年度の生体牛輸出頭数は、干ばつの影響で記録的な96万8千頭となったが、2003/04年度以降、輸出は前年を下回り、2005/06年度は、肉牛価格の上昇や豪ドル高の影響から、51万5千頭まで減少すると見込んでいる。
図4 生体牛輸出頭数
今後5年間の東南アジア経済をみると、2003年から2005年までに達成した年4.8〜6.4%の経済成長率までには届かないものの、依然として、年率4.6〜4.9%の経済成長が見込まれており、予想される豪州の肉牛価格の低下も背景に2010/11年度の生体牛輸出頭数は、2005/06年度比46.8%増の75万6千頭と回復基調で推移するとみている。
2.輸出市場の見通し
(1)日本
牛肉消費量の回復は手探りの状態
2001年9月の日本のBSE発生と2003年12月の米国のBSE発生は、日本の牛肉需要と牛肉輸入の両面において、著しい減少を招く結果となっている。日本の牛肉消費量は、2005年にわずかであるが増加し、回復の兆しがみられたが、2006年1月に米国産牛肉で起きた「せき柱混入事件」は、輸入牛肉に対する消費者懸念を再燃させており、現在、日本の消費者が牛肉の消費を増やすかどうかなどを判断することは、難しい状況にあるとしている。
米国産牛肉の再開で、日本向け輸出は2009/10年度まで毎年減少
2003年末の米国でのBSE発生後、豪州産牛肉の日本向け輸出量は2004/05年度に41万9千万トンと記録的な水準に達し、日本の牛肉輸入量の9割を豪州産が占めるに至った。
ABAREでは、2006年中頃に米国産牛肉の輸入が再開されれば輸出量は減少に向かい、2009/10年度の日本向け輸出量を29万2千トンと予測している。
図5 国別牛肉輸出数量
(2)米国
北米市場では、ウルグアイと競合
ABAREによると、米国とカナダが、2003年にウルグアイとの貿易を再開したことが、豪州にとって米国市場における懸念材料になっている。
2005/06年度の豪州の米国向け牛肉輸出量は、豪州産牛肉の価格高と米国市場へのウルグアイ産牛肉の急激な浸透から、前年度比13.2%減の31万5千トンを見込んでいる。しかし、2010/11年度に向けて、豪州国内の肉牛価格の値下がりから、ウルグアイ産やカナダ産牛肉と競争しやすい環境が整うことで、米国向け豪州産牛肉の輸出量は、毎年増加し、2010/11年度の輸出量は、2005/06年度比25.4%増の39万5千トンと大幅な増加を予測している。
(3)韓国
日本と同様、輸入牛肉に対する安全性に強い関心
豪州にとって第3の牛肉輸出市場である韓国への牛肉輸出量は、米国産牛肉輸入停止により2004/05年度は、前年度比21.3%増の9万1千トンと著しく増加し、2005/06年度は、さらに前年度比4.4%増の9万5千トンを見込んでいる。
ABAREによると、韓国では、人口増加や継続する高い経済成長による所得の伸びが見込まれることから、牛肉消費量は、2010/11年度に向けて増加予想となるが、輸入牛肉の安全性に対する消費者の強い関心は、日本と同様とみている。米国産牛肉の輸入再開後の韓国への豪州産牛肉輸出量は8万トン台に低迷し、再び9万トン台に達するのは2010/11年度と予測している。
3.アジア市場を重視する豪州の牛肉産業
豪州産牛肉は、金額ベースで牛肉生産額のほぼ3分の2が輸出されており、2004年でみると、日本と米国は、豪州牛肉輸出額のそれぞれ5割と3割を占める重要な輸出市場となっている。
図6 牛肉輸出額に占める国別割合
特に、牛肉輸出額の65%がアジア向けであることから、今後とも、豪州は、アジア市場重視の姿勢を取り続けるとしている。
図7 牛肉輸出額に占める地域別割合
V 酪農産業の見通し
1 乳製品貿易量の拡大で、価格は下落との見通し
ABAREによると、豪州の生乳生産量は、今後5年間にわたり、1頭当たりの乳量の改善が見込めることで、徐々に増加すると予測している。また、世界の牛乳・乳製品価格については、生産増から需給が緩和するとみており、2010/11年度に向けて値下がりするものと予測している。
(1)1頭当たりの乳量は、2010/11年度に向けて毎年1%の増加
ABAREでは、豪州の乳用牛飼養頭数は、2002/03年度の干ばつの影響から減少傾向で推移していたが、2005/06年度は、前年比1千頭増の200万6千頭と反転し、ここしばらくの減少傾向に、ようやく歯止めがかかったとみている。
また、2010/11年度の乳用牛飼養頭数は、201万4千頭と予測しており、わずかながらも毎年度、増加で推移するとしている。
1頭当たりの乳量は、干ばつの影響による給与飼料の高騰などから2003/04年度は減少したが、飼養管理の改善などから2004/05年度以降、毎年、乳量の増加が見込めるとしており、2010/11年度は、2005/06年度比5.0%増の5,365リットルと予測している。
図8 乳用牛飼養頭数と1頭当たりの乳量
(2)干ばつ前の水準への回復が、当分難しい生乳生産量
豪州の生乳生産量は、1頭当たりの乳量の増加に加え、一層、集約的な飼養管理により、2004/05年度以降、小幅ながらも前年を上回り、2010/11年度は、2005/06年度比5.4%増の1,081万キロリットルと予測している。なお、飲用向けと加工向けの割合は、おおむね2:8の比率のまま、推移するとみている。
図9 生乳生産量の推移
乳用牛飼養頭数と1頭当たりの乳量の増加が見込まれているが、2002/03年度の干ばつ以前の生産量である1,130万キロリットルの水準に戻ることは、当分の間、望めそうにない。
2.海外の状況について
世界の主要乳製品価格は、乳製品に対する需給ひっ迫から、2003年から2年にわたり値上がりが続き、2002/03年度から2004/05年度の2カ年度間をみると、バターは83.1%高、チーズは55.2%高、脱脂粉乳は36.9%高と大幅に上昇している。
ABAREでは、中期的な乳製品価格の動向について、2005/06年度前半から2010/11年度に向けては、主要生産国に加えて、中国、インドおよびウクライナといった国々の生産量の増加から、世界の主要乳製品価格は、需給緩和傾向に転じるとみており、2010/11年度は、2005/06年度比で25%前後の価格低下を予測している。
図10 主要乳製品国際価格
(1)中国の生乳生産増が世界の生産量を押し上げる
2005年の世界の生乳生産量は、中国が前年比2割以上の生産増が予測されることから、前年比で2.4%増、数量にして4億1,400万トンが見込まれている。2010/11年度に向け、引き続き生乳生産の増加が予測されるが、これは、中国、インドおよびアルゼンチンの生産増が要因になるとしている。
(2)乳製品貿易量は、チーズ、全粉乳が増加し、バター、脱脂粉乳は減少
世界の乳製品貿易量は、2010/11年度に向けて拡大が見込まれており、この要因としては、(1)米国とEUの乳製品在庫水準が低いこと、(2)EUの生乳生産割当の増加が限定的であること、(3)生乳生産量が増加している中国、メキシコおよびブラジルも、今後、乳製品輸入市場となると見込まれること―などを挙げている。
ここ数年間の乳製品貿易をみると、チーズと全粉乳の増加に対し、バターと脱脂粉乳は減少しており、今後とも、チーズ、全粉乳については、アジア(特に中国)、ブラジルおよびロシア連邦で需要の増加が見込めることから、豪州もこれらの商品に力を入れるとしている。
豪州の2010/11年度の乳製品輸出額は、2005/06年度比11.9%減の22億8,900万豪ドル(2,014億3千万円)と予測されるが、今後は、豪ドル安との見方から、豪州乳業に与える影響は限定的と楽観視している。
図11 乳製品輸出額
(3)中国、インドの新興市場により世界の消費量は増加
世界の牛乳・乳製品消費量は、ここ数年間、右肩上がりで増加し続けており、飲用牛乳の消費量は、2000年から2005年にかけて8%強増の1億6,300万トンになると見込まれている。1人当たりの消費量をみると、同期間において米国とEUが、ほぼ横ばいであるのに対し、チーズではロシア連邦およびウクライナが、全粉乳では中国が、バターではインド、ロシア連邦およびウクライナが著しく増加しており、増加のけん引役になっている。
中国とインドは、経済発展による所得水準の向上から急激に消費者のし好が変化しており、牛乳・乳製品需要は、2010/11年度まで拡大するものと予測している。
3.主要乳製品の動きについて
2005/06年度における豪州の最大生産品目であるチーズ生産量は、39万1千トンと見込まれ、2010/11年度は、2005〜06年度比12.5%増の44万トンが予測されている。輸出量はこのうち6割程度である。
図12 豪州チーズ生産量、輸出量とチーズ国際価格
2000年以降、ロシア連邦のチーズ輸入量は、旺盛な消費量に支えられ著しく増加しており、2005年の輸入量は、2000年比で358.3%増の21万5千トンと見込まれている。メキシコおよび韓国も、世界のチーズ需給に影響を与えるほどの輸入国で、2005年の輸入量は、2000年比で、それぞれ、57.4%、43.3%と増加しており、この二国による2005年の輸入量は、世界チーズ貿易量の約1割を占めるに至っている。
図13 チーズ輸入量
|
図14 チーズ消費量
|
|
|
チーズの国際価格について、2005/06年度は、トン当たり2,800米ドル(322,000円:1米ドル=115円)の見込みであるのに対し、2010/11年度は24.7%下回り、トン当たり2,108米ドル(242,420円)と予測している。ABAREでは、今後、チーズ需要の拡大から、アルゼンチン、ウクライナおよび豪州で生産量の増加が図られるとみている。
(2)バター:国際価格の下げ要因となるインドのバター生産動向
豪州のバター生産量についてABAREでは、2005/06年度は14万7千トン、2010/11年度は、2005/06年度比14.3%減の12万6千トンと予測している。
一方、2005/06年度のバター輸出量は、生産量の5割程度を見込んでいるが、2010/11年度は、1割下回る生産量の4割程度とみている。
図15 豪州バター生産量、輸出量とバター国際価格
2003/04年度から2004/05年度の間、世界のバター価格は、北米およびロシア連邦を中心に、著しい需要増から上昇した。しかし、2005/06年度上期から北米におけるバター生産量の増加とロシア連邦でのバター消費量の減少に加え、季節的に生産量のピークを迎かえるオセアニア地域からの輸出増や、バターの国際価格がEUのバター介入価格を上回っていたことなどによる貿易量の増加から、下落に転じている。
ABAREでは、2005/06年度のバター国際価格について、トン当たり2,054米ドル(236,210円)、2010/11年度はこれを23.6%下回る1,570米ドル(180,550円)と予測している。
注目すべき点として、低コストで生産されるインドのバター生産量の拡大が取り上げられる。インドでは、1頭当たりの乳量に改善がみられず、極端に低いこと(約1,000リットル)が懸念材料として指摘されているが、今後、バターの生産が増加すると見込まれているウクライナ、豪州およびNZに加え、国際価格に一層の下落圧力を加えるものと予測している。
(3)脱脂粉乳:需要は脱脂粉乳から全粉乳への流れ
豪州における2005/06年度の脱脂粉乳生産量は、18万3千トンと見込まれ、2010/11年度は、2005/06年度比25.1%減の13万7千トンを予測している。一方、2005/06年度の全粉乳生産量は、19万1千トン、2010/11年度は、2005/06年度比10.5%増の21万1千トンを予測している。
2005/06年度の脱脂粉乳および全粉乳の輸出量は、脱脂粉乳が生産量の2割、全粉乳が同3割程度向けられているが、2010/11年度は、脱脂粉乳が1割減、全粉乳が1割増になるとみている。
図16 豪州脱脂粉乳・全粉乳生産量と脱脂粉乳国際価格
この要因についてABAREでは、全粉乳の需要が増加する背景に、還元乳用の原料が脱脂粉乳から全粉乳に移行していることを挙げており、脱脂粉乳よりも風味を損なわない全粉乳の還元の柔軟性や包装技術の進歩も一因であるとしている。
特に中国では、食品表示の義務化もあって、還元乳製品において、脱脂粉乳から全粉乳への需要が増え、中でも育粉向け粉乳には、栄養価の高い全粉乳の利用が増えるとみている。
2005/06年度の全粉乳価格は、トン当たり2,220米ドル(253,000円)の見通しであるのに対し、2010/11年度は、これを18.9%下回るトン当たり1,800米ドル(207,000円)と予測している。
一方、脱脂粉乳の価格は、2005/06年度がトン当たり2,200米ドル(253,000円)の見通しであるのに対し、2010/11年度は、実質ベースで22%値下がりし、トン当たり1,722米ドル(198,030円)を下回ると見込んでいる。
4.需給を左右するBRICs諸国などの動向
豪州は、生産する乳製品ごとに、その生産量の50%から85%を輸出しており、輸出に依存する構造であることから、輸出市場で競争力を維持することは、豪州の乳業にとっての生命線である。
しかしながらABAREは、国内で抱える問題として、干ばつといった自然環境による不安定要因、また、長期的に豪ドル安と見込んではいるが、乳製品価格の下落に直面していることもあり、一層の低コスト、効率的な製造システムの構築が挙げられ、これらが豪州の乳業界にとって最も重要な課題となっている。
さらに、近年、著しい経済成長から所得が向上しているBRICsを中心とした牛乳・乳製品消費量の増加は、世界の乳業界に大きな影響となって表われており、今後は、この国々の動向に注目し、対応していく必要が求められるとしている。
W.おわりに
豪州連邦政府は、2006年1月から、1頭当たり3.5豪ドル(315円)から5.0豪ドル(450円)に肉牛取引課徴金を引き上げることを承認した。
課徴金引き上げについては、米国でのBSE発生に伴う豪州産牛肉輸出の拡大を受けて国内の肉牛価格が高値で推移していることや、資源国家である豪州経済が好調であることが後押ししたと考えられる。
しかしながら、米国におけるBSE発生により、アジアの多くの国が輸入一時停止措置を採ったことにより、アジアにおける輸出国としての地位を不動なものにした豪州が、今後の米国やブラジル産牛肉との競合を見据えた上で、豪州産牛肉の輸出競争力のさらなる強化を図り、販売促進を協力に推し進める意思表示とも受け取れる。さらに、BSE未発生国としての家畜防疫対策の拡充や食の安全性確保にも精力的に取り組む姿勢を明らかにしている。
また、豪州は、NZ、米国、タイなどとFTAを締結するとともに、中国とのFTAの早期締結に向けた交渉が進められている。
このように、豪州は今後とも、牛肉、乳製品をはじめとする農畜産物の「輸出志向」をますます強めていくものと考えられる。
参考資料:ABARE「Australian Commodities 06.1」
|