EUのGI制度
EUの農相理事会は3月20日、EUの地理的表示(GI)保護制度に関する二つの規則に合意した。
EUでは、地理的に区別された地域における確かな特徴を持つ高品質の農産物についての価値を高め、また農村地域での農業生産の多様性を促進するための規則として、「農産物および食品のための原産地呼称および地理的表示の保護に関する理事会規則(EEC/2081/92)」および、伝統的な製品の製造方法を保護するため「農産物および食品のための特性の証明に関する理事会規則(EEC/2082/92)」を規定している。また、これらの規則は、消費者へ製品の情報を正しく伝えるとともに、生産者の公平な競争を保護するものである。現在これらの規則の下で登録されている農産物は、チーズで150品以上、肉・肉製品で160品以上、そのほかすべてを合わせると720品以上となる。
WTOのパネルからの報告書の概要
米国および豪州は2003年8月、EUのこれらの規則が、世界貿易機関(WTO)協定に合致していないとして、紛争処理機関(DSB)のパネル(紛争処理小委員会)の設置を要請した。この要請に対してDSBは同年10月、パネルを設置した。この件に関してパネルは2005年3月15日、EUの農産物や食料での商標とGI保護制度に関する調査報告書を公表した(海外駐在員情報通巻第665号参照)。報告書の概要は次のとおり。
・パネルは、EUのGIに関する規則が、EU域外のWTO加盟国の製品に対する扱いを規定していないとする米国および豪州の主張を支持する。これは、EU域外からのGIの登録が、EUのGIを保護する制度と同等の制度を持つWTO加盟国の政府からの申請を条件とし、EUの当該制度に相互の保護を申請するものであるためである。さらに、EU加盟国と同様の、登録するGI製品の検査を行う部局を必要とすることとなっており、EU域外の国で、EUのGI登録制度に参入する保証がないためである。
・パネルは、EUのGI規則は、商標とGIの不適切な共存を認めないとする知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)に矛盾するという米国および豪州の主張を支持する。しかし、EUのGI規則は、GI製品と商標で正当な利益を考慮することができる場合に、商標に対して“限定的例外”を認めていることについては支持する。
DSBは2005年4月20日、この報告書に合意した。
EUの対応
この報告書における勧告を受けEUは、米国および豪州と協議の上、勧告のあった事項を受け入れ、本年4月3日までに実施することをDSBに通知した。
欧州委員会は2006年1月、勧告にこたえる新たな二つの規則を提案した。提案のあった規則は、欧州議会により調査が行われた後、EUの農相理事会は3月20日、この二つの規則に合意した。
これまでの規則との主な変更点は以下のとおり。
・登録する製品の名称、製品の簡潔な説明、表示やラベルに関するルール、製品が由来する地理的地域の定義および製品と地理的由来の関係の証明などを記載した申請のための単一の文書(single
document)の導入。この文書は、製品を管理する者のだれもが、異議を唱えることができ、一方、加盟国の主管当局は、登録される名前の保護を保証するため、製品の登録前に主要な情報の公式な発表を確実に行うことを目的としている。
・第三国の製品を管理する者は、直接、欧州委員会を通じて、登録の申請ができる。
・第三国からの製品に対するEUの制度と同等のものを条件とする条項をすべて削除する。また、第三国は各加盟国や製品の関係者などと同様に登録申請者に対して、直接異議を唱えることができる。
・EEC/2081/92およびEEC/2082/92を廃止する。
第三国の申請者用の申請様式をインターネットに掲載
欧州委員会は3月31日、上記の改正を盛り込んだ理事会規則EC/510/2006および同EC/509/2006を官報に掲載した。また同委員会は4月3日、本規制に従い第三国の生産者がEUのGIに登録できる申請様式等をインターネットに掲載した。これにより、第三国の生産者が、EUのGIに関する登録申請または異議が容易になった。
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