大きなハラル市場
タイの国民の多くは仏教徒で、イスラム教徒の割合はわずか4%であることから、ハラル(「イスラム教の教義に従って処理された」の意)製品の国内市場は限定されているが、「世界の台所」として食品輸出を振興しており、海外のイスラム市場に向けた製品の開発が期待されている。
特に、アセアンでは、マレーシアとブルネイがイスラム教を国教としているほか、大きな人口を抱えるインドネシアの9割近くがイスラム教徒であり、結果的にアセアンの人口5億4千万人の4割に当たる2億2千万人がイスラム教徒となっている。なお、アセアンは自由貿易地域(AFTA)として2015年には域内での関税が撤廃されることとなっている。
また、世界全体では、人口の約2割がイスラム教徒で、122カ国に居住し、その食品市場の規模は1,500億ドル(17兆7千億円:1ドル=118円)と言われている。
ただし、それらの国のうち、一人当たりGNPが高く、十分な購買力を持つ国は、原油高騰の恩恵を受ける産油国や経済発展が継続している国であり、中でも、サウジアラビアは原油価格の高騰により、2005年の経済成長が23%に達し、一人当たりのGNPも10,400ドルから13,200ドルと大幅に増加している。
振るわないイスラム圏への鶏肉製品輸出
3月中旬、タイ商務省の副大臣代行は、タイからの2005年の食品輸出額が100億ドル(1兆1千800億円)になっているのにもかかわらず、イスラム諸国への輸出額がわずかその3%にすぎないとし、ハラル製品の開発と輸出が食品安全の確保と同様に必要であると食品業界に訴えた。
タイにおいては、2004年1月に鳥インフルエンザ(AI)の発生が確認され、冷凍鶏肉の輸出ができなくなったが、それ以前の2003年のアラブ首長国連邦やクウェートなど中東への冷凍鶏肉の輸出は2,482トンで、全体に対するシェアは0.7%にすぎなかった。同様に鶏肉調製品の輸出はアラブ首長国連邦を中心に48トンとなり、全体のシェアは0.2%であった。AIの発生により2005年には鶏肉調製品の輸出はアラブ首長国連邦への99トンのみとなった。
この背景としてには、主要市場である日本やEUとの結びつきが強く、タイのブロイラー輸出業界の積極的な中東などのイスラム圏の市場開発が遅れたためと考えられている。
このほか、イスラム圏へ輸出するハラル製品のうち、食肉に関しては畜種のほかにと畜方法などの限定要件が要求されるほか、原料の成分がハラルに合致しているかどうかが問題となる上に、国によっては、表示に関して必ずアラビア語での標記を条件とするなど、食品企業にとってきめの細かい対応が要求される。
そのため、加工処理に際して、食肉に比べてハラルに関しての要求が多くない水産物や野菜果物の製品は数量も多く輸出されている。例えば、2005年におけるタイからサウジアラビアへの輸出に関しては、15億6千万バーツ(46億8千万円:1バーツ=3円)の水産加工品と4億9千万バーツ(14億7千万円)の野菜や果物の加工品が輸出されている。
ハラル鶏肉製品輸出は企業別に対応
タイから輸出される主要食肉製品である鶏肉調製品に関して、タイブロイラー加工輸出協会は、メンバー19社のほとんどが、いずれかの国のハラル認証を受け、個別に対応しており、現在のところ、協会としてハラル製品の輸出拡大を進める計画はないとしている。中でも有望市場としているサウジアラビアへの鶏肉製品の輸出に関しては、同国が輸入する鶏肉製品の多くは米国とブラジル産であることから、コスト面での競争が厳しいとしている。
|