高まる危機意識
シンガポールでは、現在、隣国のマレーシアで再発生した高病原性鳥インフルエンザ(AI)による家きん輸入の一部停止やインドネシアにおける感染者の死亡数の増加などを受け、AIが人から人へ感染することへの警戒感が高まっている。
同国では、2003年における急性重症呼吸器症候群(サーズ)の感染拡大により多数の死者を出すとともに、外食産業や観光産業などを中心に大きな打撃を受けた経緯があることから、シンガポール政府も専用のウェブサイトを設け、国民への注意喚起および情報提供などを行っている。
輸入家きん肉に対する厳しい監視
同国では、消費する鶏肉の5割を生体でマレーシア(ジョホール、マラッカおよびヌグリスンビラン州)から、また残り5割はブラジルや米国などから冷凍で輸入している。また、卵は、消費量の65%がマレーシアからの輸入である。
このことから、シンガポール政府は、このウェブサイト中で、3月16日にマレーシアのペラ州で発生したH5N1型鳥インフルエンザへの迅速な対応(アヒルの即時輸入停止)を行ったことを紹介するとともに、現在輸入を行っているジョホール、マラッカおよびヌグリスンビランの各州の鶏については、シンガポール食品獣医庁(AVA)およびマレーシア獣医畜産局(DVS)が引き続き監視を行っているので、人および家畜が健康面で安全である旨を強調している。
AI防疫対策冊子の配布
このような対応のほか、シンガポール政府は今回、AIの防疫対策などを取りまとめた冊子を今月下旬に100万世帯へ提供することを決定し、ほぼ全世帯に配布されることになると国内のメディアが報じた。
また、すでに、同国政府のウェブサイトからは、当該冊子のダウンロードが可能であり、多民族国家であることから、英語、中国、マレー語およびタミル語の4カ国に対応している。同国政府は、今回の冊子発行に100万シンガポールドル(7千3百万円、1シンガポールドル=73円)を費やすとしている。
当該雑誌は、以下の内容などについて図解入りで示している。
(1)AIへの取り組み状況、(2)AIがシンガポールに及ぼす影響、(3)家族と自分の健康管理における注意点、(4)職場などにおける注意点、(5)死んだ鳥への対処法、(6)AIに関する情報の入手先
特に、同国の人口密度は1平方キロメートル当たり約6,200人(日本は約340人)と高いため、AIが人へ感染した場合の早期対応が重要である。
AI発生を想定した訓練の実施
さらに、同国政府はAIが人へ感染した場合を想定し、その対応策などを以下のとおり打ち出している。
(1)インフルエンザ用治療薬のタミフル剤68万ドース、同リレンザ剤5万ドースの確保。タミフル剤については、今年末までに100万ドースまで追加予定
(2)2003年のサーズ発生以来、公立病院の隔離病室を320室まで増床(完了済)
(3)今年の7月に2日間の予定で、AI発生を想定した訓練を実施する。訓練の内容は、病院や診療所で患者の隔離や感染者の管理など
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