中国、農産物輸出拡大に向け5カ年計画を発表


三農問題解決に向け、農産物の輸出拡大で農村を活性化

 中国商務部は8月25日、今年3月の全国人民代表大会(全人代)で承認された国民経済・社会発展第11次5カ年計画(いわゆる「十一五」)を踏まえ、2006〜2010年における農産物の輸出拡大に向けた5カ年計画(農産品出口“十一五”発展規画:以下「11次輸出計画」)を発表した。

 11次輸出計画は、最近、中国共産党および国務院(内閣に相当)が最重要課題の一つとして掲げている三農問題(農業振興、農村の経済成長、農民の増収と負担減)の解決に向け、農産物の国際貿易の情勢をよく分析し、中国の農産物輸出の発展目標と戦略的措置を明確にすることによって国際競争力を増加させ、農村部における就業機会と農民所得の増加を図るとしている。


畜産物の増加など中国の農産物輸出には4つの変化

 11次輸出計画の前文によると、2001〜2005年の第10次5カ年計画の期間中、中国の農産物輸出額は160億ドル(約1兆9千億円:1ドル=118円)から271億8千万ドル(約3兆2千億円)へと、5年間で7割も増加した。こうした中、最近の中国の農産物輸出には、次のような4つの変化が現れていることが明らかにされた。

 1 農産製品構造の変化−労働集約型産品にシフト

 園芸作物や畜産物、水産製品など労働集約型の産品輸出が増加する傾向にあり、2005年のこれら産品の輸出額は183億6千万ドル(約2兆2千億円)に達し、農産物輸出総額の67.5%を占めるに至っている。

 2 輸出主体の変化−国有企業から外資・民間企業へ

 農産物輸出の主力が、国有企業から外資系企業・民間企業に移行し、貿易・工業・農業が一体化した企業が、輸出をリードする勢力となっている。

 3 輸出企業の経営パターンの変化−生産基地所有へ

 「会社+生産基地」または「会社+生産基地+農家」という経営パターンが着実に普及し、農産物の品質や安全に対する輸出企業の意識が明らかに向上している。大部分の農産物輸出企業は、自己の生産基地を所有して生産と品質の標準化を図っている。国際標準や国際規格を取得する企業も増加傾向にあり、有機農産物認証企業は約1千社、HACCP取得企業も2千社以上に上っている。

 4 輸出市場の多元化−新規市場の拡大

 中国の伝統的な農産物の輸出相手先は、日本や香港、EU、米国、韓国、ASEANの6か国・地域であり、現在もこれらへの輸出が農産物輸出全体の8割以上を占めている。しかし、近年はこれら以外の国・地域への輸出額の伸び率が、伝統的な輸出相手先のそれを上回るようになっており、2005年末現在、中国の輸出相手先は215カ国・地域にも至っている。


2010年までに農産物輸出を380億ドルに

 11次輸出計画は、全体の目標として、積極的に農民の収益増加を促進するため、計画期間中、農産物輸出額を年平均7%ずつ増加させ、2010年には380億ドル(約4兆5千億円)とするとしている。また、計画期間中、農産物の輸出額に占める農産加工品の割合を、50%以上にまで引き上げることを目指している。個別品目ごとの目標は以下のとおりである。

 1 水産物については、東アジアや東南アジアでの市場占有率をさらに高めるとともに、積極的に欧米市場を開拓する。また、国際標準・国際規格の認証企業を引き続き増加させ、水産物の品質や安全性レベル向上に努める。

 2 園芸作物については、加工度を高めて付加価値製品の生産を増加させるとともに、積極的に欧米市場を開拓する。また、国際標準・国際規格の認証企業を引き続き増加させる一方、産品のブランド化を図り、国際競争力の向上を図る。

 3 畜産物については、香港や東南アジア市場への安定的な輸出を確保する一方、ロシアへの輸出を拡大し、牛肉・羊肉製品の輸出に向け、積極的に中東や中央アジアの市場開拓を図る。また、食肉加工品の輸出を拡大するとともに、国際標準・国際規格の認証企業を引き続き増加させる。同時に、家畜・家きん疾病の監視・管理体制を強化し、畜産物の品質と安全性レベルの向上に努める。

 4 穀物および豆類については、伝統的な輸出市場の占有率を維持する。そして、国内の食糧安全保障を確保しつつ、伝統的な市場への輸出を強化するとともに、産品の加工度を高め、高付加価値製品の輸出を奨励し、国際市場における占有率の向上を図る。

 今回、商務部の発表した11次輸出計画は、農業分野においては、先に農業部が発表した農業・農村経済発展第11次5カ年計画(「畜産の情報」海外編10月号トピックス参照)と、いわばセットの関係にあるものとも言える。中国政府は、これらによって社会主義新農村の建設と農業・農村経済の発展を推進し、懸案となっている三農問題の解決を意図していると考えられる。しかし、中国では近年、工業の急激な発展によって、輸出総額に占める工業製品の割合が急速に増加する一方で、農産物の輸出シェアが低下する傾向(95年:8.2%→2005年:3.6%)にあり、一部の地域では工場排水やばい煙などによる環境汚染が深刻な問題になるなど、目標達成には険しい道のりも予想される。


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