厳しい穀物需給への政策対応(EU)


 EUの農相理事会は9月26日、EUをはじめ世界的に厳しい穀物需給の現状にかんがみ、EUにおける穀物生産量の増加および輸入量の増加による穀物需給の緩和を目的とした政策対応について議論を行った。


厳しい穀物需給

 EUでは、本年4月の異常な熱波、その後、夏にはヨーロッパ西部を中心とした多雨およびヨーロッパ南東部を中心とした干ばつにより、昨年に引き続き穀物の不作が予想されている。また、穀物の介入買入在庫もハンガリーのトウモロコシなどを中心に、2006年7月時点で1,400万トンあったものが、好調な需要を背景に9月時点で100万トンを切る水準にまで落ち込んでおり、世界的な穀物在庫の減少や価格高騰と相まって供給面で厳しい状況が続いている。

 欧州穀物・油糧作物輸出入組合(COCERAL)の9月時点の予測によれば、2007年のEU27カ国の穀物生産量は2億5千百万トンと、不作であった前年をさらに8百万トン近く下回ると見込まれている。


義務的休耕(セットアサイド)の一時解除

 穀物生産を抑制するための休耕(セットアサイド)制度については、1ヘクタール以上の耕地に原則10%の休耕地を組み込むことにより生産者を単位とした直接支払い(デカップリング)の受給資格を得ることとなっており、EUでは現在380万ヘクタールの農地で、この義務的休耕が実施されている。一部の加盟国や生産者団体からは、この義務的休耕地を食用および飼料用穀物の生産に利用すべきとの声が上がっていた。

 26日の農相理事会では、これらの休耕地における穀物生産利用を目的とし、2007年秋および2008年春には種する耕地について義務的休耕率をゼロとすることを決定した。これにより、欧州委員会の試算では、1,000〜1,700万トンの穀物増産が期待され、家畜飼料も含めたEUにおける厳しい穀物需給の改善の一助となるものと期待される。

 なお、本措置は暫定的なものであり、今後の義務的休耕制度のあり方については、休耕がもたらす環境保全効果を主な論点に、2008年に予定されるヘルスチェック(制度検証)において議論を行うとしている。


穀物の輸入関税の一時的な引き下げ提案

 欧州委員会のフィッシャー・ボエル委員(農業・農村開発担当)は9月26日、農相理事会におけるスペイン農相の提案を受け、2008年6月末までを期限として輸入穀物の関税を一時的にゼロとする提案を近日中に行うことを公表した。

 EUの輸入穀物にかかる関税の実効税率は、介入買入価格に1.55を乗じた額とロッテルダム港到着時の平均CIF価格の差を基に算出している。昨今の国際的な穀物価格の上昇を受け、デュラム小麦、普通小麦(上質)、ライ麦、ソルガムについてはすでにゼロとなっており、トウモロコシについても、9月16日適用分よりそれまでの1トン当たり4.13ユーロ(690円:1ユーロ=167円)から同1.93ユーロ(322円)に引き下げられている。

 関税の引き下げ措置は域内の厳しい穀物需給や価格高騰の緩和が目的であるが、すでに実効税率がかなり低い水準となっていることや、現在の主要輸出国における穀物の輸出余力を勘案すれば、それほど大きな効果は期待できないものと思われる。なお、今後の市場動向によっては、2008年6月末前にも、再び実効税率を引き上げることを強調している。


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