乳業団体が国際的な視点で酪農政策を改革すべきと主張(米国)


急速な拡大を続ける米国の乳製品輸出

 米国の主要乳業団体である国際乳製品協会(IDFA)は10月11日、下院を通過した次期農業法案は拡大を続ける米国産乳製品の輸出にとって障害となるとするとともに、酪農政策を大幅に改革しなければ、急速な構造変化が進む国際市場において自国が指導的な立場を発揮することが困難になるとする声明を公表した。

 近年、米国の乳製品の輸出は、デイリー・アメリカ社(デイリー・ファーマーズ・オブ・アメリカやランド・オレイクスなど大手酪農協9社の共同販売会社)を通じた脱脂粉乳の輸出の増大などにより、急速に拡大している。米国農務省(USDA)によると、2006年の乳製品の輸出金額は前年比12%増の18.9億ドル(2,192億円:1ドル=116円)に達しており、2007年に入ってからも国際価格の高騰を背景に前年実績を大きく上回る輸出が続いている。

 IDFAは、米国で生産される生乳の約11%が乳製品として現在海外に輸出されているとする一方、今後、アジア地域を中心とした国際的な乳製品需要の拡大が見込まれることから、米国産乳製品の市場拡大の余地はまだまだ大きいとしている。

米国の乳製品輸出金額の推移


酪農関係政策が米国の「黄」の農業補助金の7割近くを占める年も

 米国は10月4日、WTOに対して2002年から2005年における農業の国内支持通報を行っている。これによると、米国は2002年農業法で新設された主要農産品に対する価格変動対応支払をデミニミス(産品を特定しない補助金で国内生産額の5%を下回るもの)に分類して総合AMS(いわゆる「黄」の補助金。協定に基づき上限が定められている。)から除外する一方、同じく同法に基づき実施されている生乳収入損失契約事業(MILC)については産品特定的補助金であるとして総合AMSに計上している。

 この結果、これまでも「黄」の補助金として分類していた生乳価格支持事業などと併せると、多い年には米国の総合AMSの約7割弱が、酪農関係政策により占められていたことが明らかになっている。

 現在、米国では2007年農業法の策定に向け、上院農業委員会で農業法案の最終調整作業が行われており、順調にいけば年内にも新農業法が成立することになる。しかし、7月末に下院本会議を通過した下院農業法案は、生乳価格支持については法律で乳製品の買入れ価格を定めるなどの修正を加えた上で実質的にその内容を継続し、MILCについても延長を認めるなど、現行の米国の酪農政策の根幹を維持するものとなっている。

米国の総合AMSと酪農関連政策の推移

注:2000年の生乳収入損失契約の額は北東部酪農協定に基づく支持相当額である。


貿易歪曲的な国内保護は輸出拡大の障害に

 このような中、IDFAのティプトン会長は、今回の声明で、「国内酪農政策の現状維持は、米国が乳製品貿易において主導的地位を占める上で障害となる。われわれは酪農家へのセーフティーネットが貿易阻害的な性格を持っていることをかねてから懸念している。この政策は、米国が国際市場から隔離され、国際市場への関心も持っていなかった大昔に導入されたが、今日の状況は当時とは大きく異なっており、農業法にこの情勢変化を反映しなければ、米国の酪農家と乳業者に実害が及ぶ危険がある。」とし、改めて酪農政策の改革を訴えている。また、今般のWTO通報にも触れ、「他国はわが国の政策に注目しており、WTOに通報された多額の米国の貿易阻害的な酪農補助事業を疑いの目で見ている。われわれは上院がこの機会にわが国の酪農事業の改革に乗り出すことを期待している。これにより、米国の酪農・乳業界は、乳製品の輸出者という新たな国際的地位を維持することが可能となる。」として、下院農業法案と同様の法案が上院で可決されることを強くけん制している。

 今回のIDFAの声明では、10月4日に開催された農業関係税制改正法案の上院財政委員会審議の過程でメーン州選出のスノウ上院議員が主張した濃縮乳たんぱくの関税引き上げや、下院農業法案において規定されている輸入乳製品に対するチェックオフの徴収はWTO協定に違反するという考えも示している。その上で、他国の報復措置を招かないように、国内制度を改善していくことの重要性を訴えている。ちなみに、近年急速に増加しているとはいえ、2005年の米国の乳製品輸出額は同年の酪農関連国内支持相当額の3分の1以下にとどまっている。


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