のびのびと草地で育つ豚たち(ベルギーの放牧養豚)


   

ひとくちMemo

 現在の一般的な豚の飼養は、厳密な衛生管理の下「施設内」で行われている。
 一方、イギリスでは肥育豚の約4%が屋外飼養、いわゆる放牧養豚により飼育されたものであり、EUにおいては、わが国ほど珍しい飼養方法ではない。このような中、ベルギーでの取り組みは、まだ20戸程度と少数ではあるが、動物福祉に配慮した、より自然に近い飼養方法として市場での確実な評価を背景に近年徐々に拡大している。
 今回は、ルクセンブルクにほど近い、ベルギー南部の地で2年前より放牧養豚に取り組む生産者を訪ねた。








   
 今回訪問したフェラー農場の入り口に掲げられている看板には、放牧養豚の生産者グループのロゴマーク「Le Porc Plein Air(屋外の豚)」が描かれている。
  現在、このグループには9戸の生産者が参加しており、定め られた飼養管理、飼料給与などを実施している。

<フェラー農場の経営概要>
放牧養豚の開始:2005年8月
労働力:夫婦2名
経営面積:75ヘクタール
(うち15ヘクタールで豚を放牧)
飼養品種:雌豚
(ランドレース種にデュロック種をかけたもの)
雄豚(ピエトレン種(ベルギー原産の品種))
飼養頭数:繁殖雌豚50頭
年間出荷頭数:900頭(2007年計画)

 広大な草地を利用した豚の放牧地。
 以前は酪農を行っていたが、より収益が確保できると 期待された放牧養豚へと2年前に経営を転換した。草地 はそのまま豚の放牧地に転換して利用している。
 繁殖雌豚の放牧は、妊娠確認後約2カ月間と、分娩後 4週間である。雌豚はこの飼養施設の中で子豚を分娩する。放牧は1年中行われており、雪が積もる中でも事故
は起こらなかったとのことである。
 訪問時には、50頭の繁殖雌豚のうち26頭が放牧されていた。











放牧される繁殖雌豚。
 1頭ごとに電気牧柵で仕切られた区画で飼養される。放牧養豚の飼養方法は規格が定められており、雌豚1頭当たり最低6アールが必要。このフェラー農場では1頭当たり8〜10アールの草地を確保し、余裕を持って飼養されている。


授乳中の親子。
  繁殖成績は、分娩頭数が13〜14頭。うち、育成頭数が約11頭。分娩回数は年間2回となっている。

放牧場における飼槽と給水施設。

 この放牧場での電気牧柵は30センチメートルほどの高さに設置されており、子豚は母豚のいる区画から自由に出入りできる。
 当日は、あいにくの天気で子豚が元気に走り回る姿を見ることが出来なかったが、天気が良い日はあちらこちらで子豚が走り回っているようだ。もちろん、授乳時間になれば自分の母親の元に戻っていくとのことである。


   
 子豚は4週間で離乳後、別の放牧地へと移動し、 6〜7カ月齢で出荷されるまでそこで過ごす。
 放牧地にある小屋の内部。育成・肥育段階の豚は この小屋と放牧地を自由に行き来出来る。
 放牧によりストレスがないため豚同士による「尾かじり」は見られないことから、特に断尾は行っていない。


 肥育豚の平均体重は110〜135キログラム、枝肉重量が85〜110キログラムとなっている。

 なお、これまでのところ、放牧による寄生虫など の被害なども無いとのことである。






 

(左写真)離乳後の雌豚は繁殖豚舎へと戻り、通常、1 週間後の発情、交配を経て、妊娠後期の約2カ月間と ほ育の4週間を、再び放牧地で過ごすこととなる。

(上写真)この農場で飼育される雄豚(ピエトレン種)。


 写真左が今回の訪問で放牧養豚の詳細を説明 してくれた経営者のバネッサさん。彼女の説明 には放牧養豚への自信と情熱を感じさせるもの があった。
 写真中央がベルギー大手の食品スーパー「デ レーズ社」食肉担当責任者のクラッセンさん。
 写真右がこの放牧養豚グループの規格認証団体のミシェルさん。


   
 食品スーパー「デレーズ社」で販売される放牧養豚の豚肉。放牧養豚グループのロゴマーク が付けられている。
 小売価格は、一般の豚肉より2割高く設定されている。これは、定められた飼養管理や飼料給与の実施によるコストの増加分が反映された結果である。
   

 平らな地形が多いベルギーも、南部 に行けば起伏が多く見られる。写真は、今回訪問した農場隣の牛の放牧風景。

 やはり、放牧は多少の起伏があるほうが似合う?


(ブリュッセル駐在員事務所 和田 剛、小林 奈穂美)

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