特別レポート

米国における家畜飼料の利用状況とエタノール副産物の活用について

ワシントン駐在員事務所  唐澤 哲也、郷 達也
  1. はじめに
  2. 米国における家畜飼料としてのトウモロコシの位置付け
  3. 米国における蒸留穀物の需給動向について
  4. 畜種別に見たDDGSの飼料利用の実態について
  5. 蒸留穀物の需要拡大に向けた取り組み
  6. おわりに

1 はじめに

 米国は、世界のトウモロコシ総生産量の約4割、総輸出量の6割強を占める世界最大のトウモロコシ生産・輸出国であり、その需給動向が国内外に与える影響は極めて大きなものがある。

 近年、米国のトウモロコシ消費量は、主要な仕向け先である飼料用向け、輸出用向けがほぼ前年と同水準で推移しているのに対し、90年代初頭までその他用途の一つでしかなかった燃料用向けが急速に拡大していることから、全体の消費量は大幅に拡大している。その結果、トウモロコシ需給はひっ迫し、トウモロコシの生産者販売価格は2006/07年度(9〜8月)に入り、昨年度を6割超上回る水準で推移している。

 米国農務省(USDA)のキース・コリンズ首席エコノミストは本年3月、同省主催の農業観測会議(Agricultural Outlook Forum)の場で、2007年における米国農業者の収益性は、好調な穀物価格により大幅な増加が見込まれるとした一方で、「畜産部門においては、今後数年間にわたり、飼料コスト高の影響を受けることとなるが、その影響の大きさは、エタノール生産の副産物であるDDGS(Distillers Dried Grains with Solubles)の家畜飼料としての適応性により左右されると考えられる」と述べ、トウモロコシ価格の高騰が短期的には解決しないとの見通しを示すとともに、代替家畜飼料の活用の重要性を訴えた。

 このように、新たなトウモロコシ需要の増大により、米国のトウモロコシ供給が不安定要素を抱える中、代替飼料の活用については、飼料用トウモロコシ輸入の9割強を米国産に依存するわが国の畜産関係者にとっても注目されるところである。今回は、新たな家畜飼料原料として国内外の注目が集まるDDGSの飼料利用の現状について報告する。


2 米国における家畜飼料としてのトウモロコシの位置付け

 米国は、世界最大のトウモロコシ生産国であると同時に、世界最大の消費国でもある。また、飼料穀物生産の優位性を生かした国内の畜産物生産量も世界最大となっている。トウモロコシは、飼料穀物生産量全体の95%を占めており、さらに、その生産量の6割が国内の飼料用に仕向けられていることからも、トウモロコシの需給ひっ迫が畜産部門へ少なからぬ影響を与えることは想像に難くない。

 ここでは、トウモロコシの需給ひっ迫がどの程度の影響を畜産部門へ及ぼすかを知るためにも、トウモロコシなどの飼料穀物に加え、その他飼料原料における飼料利用の動向について見ていくこととする。

(注)ここでいう飼料穀物とは、USDAの定義に従ってトウモロコシ、ソルガム、大麦、エンバク(オーツ)とし、一般に飼料原料として利用されている大豆、小麦などは含まない。

(1)飼料穀物等の飼料仕向け量の推移

 米国の飼料穀物および主要飼料原料における飼料仕向け量は、近年、全体的にほぼ横ばい傾向で推移している。

 内訳を見ると、最大の飼料穀物であるトウモロコシの2005/06年度(9〜8月)の飼料仕向け量は、前年度比0.3%減(1億5,600万トン)とわずかに減少したものの、近年、安定的に推移している。

 また、トウモロコシに次ぐ飼料原料となっているのが、大豆かすである。同年度における大豆かすの飼料仕向け量は、前年度比1.1%減(3,000万トン)であったが、90年代初頭と比べると4割以上増加している。

 なお、ソルガム、大麦、エンバク(オーツ)の飼料仕向け量はそれぞれ、生産量の減少に伴い近年減少傾向で推移しており、同年度におけるこれら合計の飼料仕向け量は、前年度比21.0%減(660万トン)と大幅に減少している。

 このように、主要な飼料穀物・飼料原料であるトウモロコシや大豆かすが、近年、ほぼ前年と同水準で推移している中、エタノール生産の副産物であるDDG(Distillers Dried Grains)とコーングルテンフィードが、2000/01年度以降、年平均20%以上の増加率を示し、急速に飼料仕向け量を増大させている。2005/06年度のこれらの合計は、前年度比15.6%増の1,500万トンとなっている。

(2)トウモロコシの需給ひっ迫により注目される新たな飼料原料

 前述のとおり、米国における飼料の主力はトウモロコシであるため、長引くトウモロコシの需給ひっ迫が、畜産部門へ多大な影響を及ぼすことは明らかである。

 このような中、USDAは5月18日、米国におけるエタノールの生産拡大、それに伴う飼料穀物部門および畜産部門への影響を示した報告書を公表した。これは、同省が本年2月末に「農産物に関する長期予測」の中で示した、「2015年度までにエタノール生産量は年間120億ガロン(トウモロコシ仕向け量は43億ブッシェル)に達する」との予測を評価したものである。

米国における飼料穀物等の飼料仕向け量の推移

資料:informa economics
  注:2006/07年度は推計値

 この報告書によると、米国のエタノール産業は現在、新たな工場建設が進むなど急速に拡大しており、生産能力は、数年以内にも120億ガロンに達するものとされている。一方、エタノールの生産拡大の速度は、今後10年以内には減速するとの見通しが示されている。

 また、エタノール生産の拡大によるトウモロコシ需要の増大により、トウモロコシの期末在庫率(年度末在庫の需要に占める割合、2005年度末では17.5%)は、今後10年間4〜6%台で推移するとしており、トウモロコシの需給ひっ迫が短期的には解決されないとの見通しを示している。

 さらに、トウモロコシの生産者販売価格は、エタノール生産の減速が見込まれる2010年度以降は下落基調に転じ、2016年度には1ブッシェル当たり3.30ドル(トン当たり16,000円:1ドル=123円)まで下落する一方、ピークとなる2009年度には同3.75ドル(同18,200円)まで上昇するものと見込まれており、畜産部門へ多大な影響を及ぼすことになるとの懸念を示している。従って、米国における畜産部門にとっては、ここ2〜3年間、厳しい状況が続くものと見られている。

 一方、この報告書の中では、今後の農業部門におけるキーワードの一つとして、エタノール、トウモロコシ、大豆、畜産(牛、豚、家きん)に加え、「DG(Distillers Grains、蒸留穀物)」が挙げられている。USDAは、このエタノール生産の副産物の一つであるDGについて、栄養価の問題から畜種間における利用可能量は異なってくるものの、トウモロコシ飼料全体の約2割を代替することが可能であるとし、畜産部門におけるトウモロコシ価格高騰の影響を縮小するための手段として期待している。

 以下では、この新たな家畜飼料原料として活用が期待されているDGの飼料利用の現状について見てみることとする。


3 米国における蒸留穀物の需給動向について

 米国では近年、燃料用エタノールの生産拡大に伴い、DDGSやコーングルテンフィードなど副産物の生産量が拡大し、また、家畜飼料としての利用が増大している。

 今後、新たな家畜飼料原料としてこれら副産物を利用する場合には、まず、将来的な安定供給の可能性、栄養価の特徴、そして価格動向などが注目される要素になってくるものと考えられる。ここでは、ほかの主要飼料原料との比較を交えながら、エタノール副産物の飼料利用の現状について見ていくこととする

(1)燃料用エタノールの生産動向と生産方法により異なる副産物

(1) 燃料用エタノールの生産動向
 DDGSやコーングルテンフィードは燃料用エタノール生産からの副産物であるため、その生産は、エタノール生産と深く関連する。

 再生可能燃料協会(RFA)によると、米国の2006年の燃料用エタノール生産量は、前年比24%増(約10億ガロン増)の48億5,500万ガロンとなり、2002年以降、ほぼ毎年20%以上の増加率を示しながら急速に拡大している。

 また、90年代のエタノール産業は、小規模な農業組合系統が中心となってきたが、2007年1月現在の平均生産能力は年間5,000万ガロンと、2000年初頭に比べて5割超拡大しており、さらに、現在建設(拡張)中の76のエタノール工場の平均生産能力は、年間7,000万ガロンを超えるなど、エタノール産業全体の規模拡大が顕著となっている。

(2) 生産方法により異なる副産物
 燃料用エタノールの生産方法には、実質的なでん粉加工業であるウェットミル方式と、トウモロコシの実を粉砕し、発酵処理するドライミル方式があり、それぞれの製造方法により副産物は異なってくる。

米国における燃料用エタノール生産量と生産規模の推移

資料:再生可能燃料協会(RFA)

 ウェットミル方式では、コーンスターチ、コーンシロップ、コーンオイルのほか、コーンジャームミール(トウモロコシ胚芽粕)、コーングルテンフィード、コーングルテンミールなどの飼料用副産物が生産される。一方、ドライミル方式では、主に蒸留穀物(Distillers Grains、DG)と二酸化炭素の二つの副産物が生産されるのみである。

 近年、建設されるほとんどのエタノール工場は、設備投資がより少なくてすむドライミル方式が主流となっており、2006年末現在、米国で操業中の116工場のうち、104工場がドライミル方式(2006年エタノール生産量全体の82%がドライミル方式によるもの)となっている。以下では、現在、エタノール生産量の8割超を占めるドライミル方式により生産される副産物を中心に見ていきたい。

(3) 蒸留副産物の種類
 ドライミル方式の副産物には、一括して「蒸留穀物(Distillers Grains、DG)」と呼ばれる固体部分(未発酵の穀粉)と、可溶成分(穀物の小粒子、酵母、水溶性の栄養分)を含むごく少量の液状部分がある。

 DGは通常、乾燥された「DDG(Dried Distillers Grains)」、あるいは、さらに可溶成分とともに乾燥された「DDGS(Distillers Dried Grains with Solubles、乾物90%)へと加工処理される。また、DDGSには、部分的に乾燥された「WDGS(Wet Distillers Grains with Solubles、乾物30%)」や「MDGS(Modified Distillers Grains with Solubles、乾物50%)」などの形態もある。

 一方、液体部分は、部分的に乾燥されたCDS(Condensed Distillers Solubles、乾物30〜40%)や、完全に乾燥されたDDS(Distillers Dried Solubles)となるが、現在ではほとんど製造されていない。

 このように、ドライミル方式の蒸留副産物には、乾湿別、可溶成分の有無などによりいくつかの種類がある。RFAによると(Ethanol Industry Outlook 2006)、現在、蒸留副産物の流通形態は、その約8割を占めるDDGSが主流となっているが、一部、DGの生産地域周辺では、乾燥コストや輸送コストを削減するため、乾燥されない状態で流通するケースがあるとしている。

ドライミル方式による副産物の製造過程

(2)エタノール副産物の需給動向

(1) 生産動向
 現在、蒸留副産物の主流となっているDDGSの公式な生産量は公表されていないため、ここでは当地調査会社調べによるDDGの生産量を見てみることとする。

 同社によると、2005年度のDDG生産量は、前年度比27%増の960万トンとなった。DDGの生産量は、ドライミル方式によるエタノール生産が急速に拡大した2002年度以降、年率30%超の増加率を示しながら急速に拡大しており、2000年度と比べて約4倍に増大している。

 USDAが本年2月末に公表した中期見通しによると、トウモロコシの燃料用仕向け量は、2010年度には40億ブッシェル、2016年には43億ブッシェルと見込まれている。2006年のエタノール生産全体の8割超をドライミル方式が占めていること、また、トウモロコシの約3割がDGとして回収されることを考えると、DDG生産量は少なくとも、2010年には2,700万トン、2016年には2,900万トンまで拡大し、蒸留副産物の安定供給が確保されていくものと考えられる。

(2) 需要動向
 このようにDDGS生産の急速な拡大に伴い、供給者側はエタノール生産全体の収益性を確保する上でも、新たな市場開拓をさらに重視していくものと考えられることから、家畜生産者など利用者側にとって、DDGSがより利用しやすい環境が整えられていくことが期待出来る。

 RFAによると、2006年におけるDDGの畜種別仕向け割合は、乳用牛向けが46%、肉用牛向けが42%、肉豚向けが9%、家きん向けが3%と、乳用牛・肉用牛の反すう家畜が全体の約9割を占めたとしている。また、当地調査会社によると、近年、DDG生産量の8〜9割は、米国内の家畜飼料用として消費されているが、そのほとんどが、エタノール工場の多くが位置するアイオワ、イリノイ州を中心とする米中西部のコーンベルト地域周辺の畜産農家で消費されているとしている。

エタノール生産方式別シェア・主要副産物生産量の推移

資料:informa economics

 全国トウモロコシ生産者協会(NCGA)は、今後の需要拡大の見通しについて、増大するDDGS生産は現在、コーンベルト地域周辺における反すう家畜向け飼料としては、十分な供給量を確保しつつあり、今後は、カリフォルニア、ニューヨーク、ペンシルヴェニア州などコーンベルト地域以外の主要酪農地域における消費拡大に向けた取り組みが必要であるとしている。また、肉用牛向けでは、今後消費拡大が見込まれる地域として、テキサス州北西部、カンザス州南西部、コロラド州南東部、オクラホマ州西部などを挙げている。さらに、肉豚や家きん向け飼料におけるDDGSの消費拡大についても、継続的な取り組みが必要であるとしている。

 これまで、コーンベルト地域以外の主要畜産地域に対する供給は、輸送問題などから制限されてきたが、現在、供給者側が独自の輸送手段を確保する取り組みが見られ、DDGSの利用拡大が図られつつある。

 一方、近年、DDGSの輸出量および輸出額がともに増大している。米国商務省(USDC)によると、2006年のDDGSの輸出量は、前年比17%増の125万トンと2000年と比べて6割程度増加している。上位輸出国は、メキシコ、アイルランド、カナダとなっており、これら3カ国で輸出量全体の5割強を占めている。また、近年では、米国穀物協会(USGC)のDG需要促進プログラムにより、台湾、インドネシア、マレーシア、ベトナム向けの輸出が増加している。

(3) 価格動向
 次に、家畜生産者や飼料製造業者などが飼料原料を選定する上で、最も重要な要素の一つになると考えられる価格動向について見てみることとする。

 DDGの価格動向を、トウモロコシ、大豆かす、コーングルテンフィードなどと比較して見ると、それぞれがほぼ連動して動いている。2006年後半以降、トウモロコシ価格が高騰したことにより、これらすべての価格は、2006/07年度(9〜8月)に入ってから上昇基調で推移している。

 これらの2006年度に入ってから現在まで(2006年9〜2007年4月)の平均価格について、水分含量の違いなどを無視して単純に価格(トン当たり)だけを比較すると、トウモロコシが前年同期比74%高の131ドル(ブッシェル当たり3.3ドル)、DDGが同26%高の108ドル、大豆かすが同6.9%高の189ドル、コーングルテンフィードが35.7%高の同73ドルとなっている。90年以降、DDG価格は、トウモロコシ価格と同水準か、またはそれ以上で推移してきたが、2006年9月以降は毎月、トウモロコシ価格を下回って推移していることが注目される。

 また、アイオワ州立大の研究者グループ(ISU/CARD)が5月11日に公表した、エタノールの生産拡大に関する研究論文の中でも、DDG価格は、数年後には、国内外における需要の高まりとともに、再びトウモロコシ価格と同水準まで押し上げられるものの、2007年は、DDGの生産拡大を背景に、トウモロコシ価格を下回って推移するとの見通しが示されている。

トウモロコシ・主要飼料原料価格の推移

資料 : informa economics

(3)蒸留穀物と主要飼料原料の栄養価の比較

 DDGSなど新たな家畜飼料原料を利用する場合、その飼料原料が含む栄養価の特性を知ることが最も重要な要素であると考えられる。ここでは、DDGSが含む栄養価の特性を、ほかの主要飼料原料との比較を交えながら見ていくこととする。

 トウモロコシなど穀類は、一般にでん粉を多量に含み、粗繊維が少ないことが特徴で、現在、牛や豚用の主要な飼料原料として広く利用されている。しかし、肉豚向けとしては、粗たんぱく質が量的に少ないだけでなく、リジンなどの主要な必須アミノ酸が不足しているため、大豆かすなどほかのたんぱく質飼料の添加が必要となる。
 大豆かすは、たんぱく質を多く含み、かつアミノ酸組成が比較的よいため、肉豚向け飼料を中心に、現在、最も重要なたんぱく飼料原料として広く利用されている。

 そこで、DDGSの栄養価をこれらと比較すると、粗たんぱく質含量は27%と、大豆かすの水準には及ばないものの、トウモロコシの3倍以上の値を示している。また、粗繊維や粗脂肪、さらに、牛の栄養素として必須とされる主要無機物の一つであるリンの含量が高いことが特徴で、現在、主に乳用牛・肉用牛の反すう家畜向け飼料として利用されている。しかし、トウモロコシと同様、肉豚やブロイラー向け飼料における必須アミノ酸の一つであるリジンなどが欠乏しているため、その利用は、反すう家畜向けに比べわずかなものとなっている。

 DDGSとほぼ同等の栄養価を持つコーングルテンフィードは、粗たんぱく質や粗繊維原料として、主に牛向けの飼料として一般的に利用されていることからも、価格次第ではその代替が十分可能であると考えられる。また、DDGSと同じく高たんぱく質含有の大豆かすが、長年にわたる多くの研究や製造過程の改良を重ねながら、現在世界的にも広く利用されていることを考えれば、今後、DDGSの栄養価に関する調査・研究が進むにつれ、飼料原料としての地位がさらに向上することが期待出来る。

主要飼料原料における栄養価の比較

資料 : informa economics


4 畜種別に見たDDGSの飼料利用の実態について

 DDGSの栄養価は、粗たんぱく質の含量が高く、また、肉豚やブロイラー向けとしてはリジンなど主要な必須アミノ酸が欠乏しているため、主に反すう家畜向け飼料として利用されている。また、DDGSの飼料利用に関する個別の調査・研究は、これまでも実施されてきたが、各畜種ごとの利用可能量などに関する情報は、十分に普及されてこなかった。

 このような中、米国穀物協会(USGC)は本年3月、DDGSの飼料利用の促進を図るため、家畜生産者や飼料製造業者向けに、これまで実施された調査・研究結果に基づく畜種ごとの飼料において推奨されるDDGSの利用量などを示した「DDGS User Handbook」を公表した。ここでは、このUSGCによる報告書を中心に、畜種別に見たDDGSの飼料利用の実態について見てみることとする。

(1)肉用牛向け

 米国の肉牛産業においては、トウモロコシ由来の蒸留穀物は、数十年前から利用されており、既に肉牛に対する蒸留穀物の飼料価値に関する多くの調査・研究がある。

 今回のUSGCの報告書によると、DDGSは、肉用牛のすべての生産段階において、優れたエネルギーおよびたんぱく源になるとしている。特に、肥育牛の仕上げ段階では、エネルギー源として効果的に利用されることとなり、乾物摂取量の最大40%水準まで、牛の成長能力や肉質に影響を与えることなく給与可能であるとしている。

 一方、DDGSを高い割合で給与することは、過度のたんぱく質やリンを給与することになる可能性があるため、これまで実施された多くの調査・研究では、乾物重量の15〜20%水準での給与が、トウモロコシを含む飼料給与と比較しても、牛の成長率や仕上げ段階における飼料効率を高めたとしている。

 また、同報告書では、DDGSを繁殖母牛向け飼料として利用する場合、(1)たんぱく質源としてコーングルテンフィードや大豆かすの代替、(2)少量のでん粉、高繊維のエネルギー源としてコーングルテンフィードや大豆皮の代替、(3)添加脂肪源―としての利用が最も効果的であるとしている。

 さらに、未経産牛の育成段階においてDDGSを粗飼料の代替とする時には、易分解性たんぱく質(DIP)の要求量を満たすために尿素を添加する必要はなく、牛の成長を促進する効果的な栄養補助飼料となるなどとしている。

(2)乳用牛向け

 DDGSは、乳用牛にとって良質なたんぱく質、脂肪、リン、そしてエネルギー源となる。

 同報告書によると、乳用牛向けは、生乳生産量、乳脂肪や乳たんぱくの割合に影響を与えることなく、DDGSを乾物摂取量の最大20%水準まで給与可能であるとしている。また、20〜30%水準での給与は、DDGSを含まない飼料と比較しても、同等かそれ以上の生乳生産を可能とする一方、未乾燥の蒸留穀物(WDGS(Wet Distillers Grains with Solubles、乾物30%)など)が、20%以上の水準で給与された時には、生乳生産量は減少することになるとしている。

 また、同報告書では、これまでの調査・研究によると、DDGSの給与は、乳脂質へは大きな影響は与えないものの、高水準で給与した時、乳たんぱく質の割合を減少させる結果になったとしている。

 さらに、同報告書では、(1)DDGSの品質向上と乳牛の生産能力向上の関連を見極めるためにも、最新のエタノール工場で生産されたDDGSに基づく調査、(2)粗飼料の発酵をつかさどる第一胃における機能の状態によりDDGSの利用範囲が変化し得るため、DDGSと乳牛の第一胃に関する調査−が必要であるとしている。

 DDGSは、トウモロコシに比べ糖分は少ないものの、より多くの繊維を含むため、乳用牛向け飼料として優れた面もある。当地調査会社によると、乳用牛の第一胃におけるでんぷん発酵は、アシドーシスや蹄葉炎を引き起こす可能性があるため、DDGSの高繊維含量(可消化中性水溶性繊維(NDF)40〜45%)は、乳牛のアシドーシスのリスクを減少させる効果があるとしている。一方、DDGSは、トウモロコシの3倍のリンを含むことから、乳用牛向けの飼料を配合する時には、環境へのリン排出を最小限にするため、この高いリン濃度を考慮しなければならないとしている。

 また、同社では、乳用牛の飼養者がDDGSを高水準で給与する時には、(1)飼料中の粗たんぱく質含量を考慮した上、適切な飼料割合を維持すること、(2)コーンサイレージが主要な飼料となる時には、リジンの補助原料を確保すること、(3)飼料の中への過剰な脂肪添加を回避すること−を考慮すべき事項としている。

(3)肉豚向け

 DDGSを肉豚向け飼料として利用する時には、トウモロコシ(エネルギー源)、大豆かす(アミノ酸源)、そして、第二リン酸カルシウム(リン源)の一部を代替することとなる。また、肉豚の肥育には、飼料の中に適量の必須アミノ酸(豚の場合、リジン、アルギニン、ヒスチジンなど10種類)、適度のエネルギー量および他の必須養分が含まれることが必要である。さらに、この条件下では、飼料中の粗たんぱく質含量がある程度変動しても、肉豚の成長に影響を及ぼさないとされていることから、肉豚向け飼料では、粗たんぱく質ではなく、リジンなど必須アミノ酸の必要量とバランスをとらなければならない。

 同報告書によると、DDGSは、高たんぱく質である一方、肉豚向け飼料における必須アミノ酸の一つであるリジンが不足しているため、仮に、DDGSが配合された飼料が粗たんぱく質の必要量とバランスをとるとしても、その飼料には、リジンやそのほか必須アミノ酸が著しく欠乏しているため、肉豚の成長能力を低下させることになるとしている。

 以下の表は、同報告書の中で示された、肉豚向け飼料として推奨されるDDGSの給与割合である。

肉豚向け飼料へのDDGSの最大給与割合

資料:米国穀物協会(USDC)

 同報告書によると、肉豚の育成・仕上げ段階では、DDGSを飼料の最大30%水準まで給与することは、豚の能力に影響を及ぼさないとしている。しかし、30%水準での給与は、DDGSにおける高濃度の多価不飽和脂肪酸(PUFA)が、バラ肉の硬さ、脂肪の柔らかさを低減させるなど枝肉へ影響を及ぼす可能性があるため、育成・仕上げ段階で推奨される最大の割合は20%としている。

 また、母豚向けの飼料においては、DDGSの給与開始当初は低い割合で給与し、それから徐々に最大割合へ増加させていくことを推奨している。母豚に対し早急に、高水準でのDDGSを給与した場合、飼料摂取の障害となり、通常の摂取状態に回復するまで約1週間を要することになるとしている。

(4)家きん・採卵鶏向け

 これまで、家きん向け飼料におけるDDGSの給与割合は、供給面や価格面における制約や、栄養価および消化率の変動性により約5%程度で推移してきた。また、過去数十年間、DDGSの利用が、産卵能力やふ化率の促進にどのような効果を与えるかが未確認であったため、その利用は、主に家きん向け飼料に限られたものであった。

 同報告書によると、現在、家きん向け飼料として推奨されるDDGSの最大給与割合は10%、また、採卵鶏向け飼料としては15%としている。これは、DDGSが含む粗たんぱく質には、リジン、メチオニン、シスチン、スレオニン、トリプトファン、アルギニンなどの可消化アミノ酸価が不足しているためであるが、エネルギーやアミノ酸など栄養素の適切な配合調整が伴えば、DDGSは家きん向け飼料として十分利用可能なものであるとしている。

 さらに、同報告書では、これまでの調査・研究により、トウモロコシや大豆かすと比較したDDGSの飼料効果は実証されていないものの、DDGSは、ビタミンや、家きん向け飼料に不足している微量元素を供給可能なものであるとされており、必須栄養素の必要条件が確立し、市販される多くの栄養補助剤が利用可能となった現在、DDGSの家きん向け飼料への利用促進が期待されるとしている。


5 蒸留穀物の需要拡大に向けた取り組み

 DDGS生産の拡大が顕著となったのは、ドライミル方式によるエタノール生産が急速に拡大した2002年度以降であり、その歴史はまだ浅い。また、エタノールの生産拡大が予想以上に加速したことから、供給者側によるDDGSの市場開拓に向けた取り組みは、これまで不十分であったため、DDGSの需要拡大に向けた種々の課題が指摘されてきた。現在、これらの課題に対しては、産官学一体となった取り組みが実施されているところであるが、ここでは、DDGSがこれまでに直面した主な課題やその取り組み状況などについて見ていくこととする。

(1)輸送問題
 
 DDGSの輸送問題はこれまで、エタノールの生産者のみならず輸送業界にとっても課題の一つとされてきた。

 DDGSの輸送問題は、その物性の一つである「流動性」(輸送機関や保管容器から放出される際、粒状固体・粉末が流れ落ちる能力)が影響する。DDGS、特に水分含量の高いDG(WDGS(乾物30%)など)は、積み込み前に冷却されないなど適切に処理されなかった場合、輸送中に凝結する物性がある。

 この物性は、荷降ろしを困難にするだけでなく、鉄道車両などへ損傷を与える可能性があるとされ、一部の鉄道会社からDGの輸送に会社所有の車両を使用することを拒否される要因となった。また、このことは、DDGSの利用をエタノール工場周辺の畜産農家に制限する要因の一つとなってきた。

 この問題に対し、DDGSの供給者側は、DGを乾燥させ水分含量の縮小を図るほか、最近では、供給者自らがホッパー(底開き貨車)など独自の輸送手段を確保することにより輸送可能範囲の拡大を図るなど、需要拡大に向けた取り組みが行われている。

(2)品質の安定性の問題
 
 DDGSの輸入業者などからはこれまで、品質の安定性に関する問題が指摘されてきた。これは、DDGSの供給原料や各エタノール工場における製造過程の相違により、品質にバラツキが見られることによるものであった。

 しかし、近年におけるエタノール工場の生産規模を見ると、2000年初頭に比べ5割超拡大しており、エタノール産業全体における規模拡大の進展に伴い、DDGSの品質の安定性は徐々に図られているものと考えられる。

 また、今回USDAが公表した「エタノールの生産拡大」に関する報告書の中でも、この品質の安定性に関する問題に触れており、DDGSはエタノール生産全体の収益性を確保する上でも重要な位置付けを担う副産物であることから、家畜飼料としての利用が増大している現在、供給者側による製品の安定性の確保に向けた自主的な取り組みが進展していくものと予測している。

(3)保存性の問題
 
 また、DDGSの課題の一つとして保存性の問題が挙げられている。

 これまでのDDGSに関する調査によると、乾燥されたDDGSは、約2カ月間の保存が可能とされる一方、未乾燥の蒸留穀物(WDGS(乾物30%)など)の保存期間は7日、さらに、夏期では3日に縮小するとされおり、現在、防腐剤や防カビ剤の活用など、DDGSの保存性の改善に関する調査が必要とされている。


6 おわりに

 近年、米国においては、燃料用エタノールの生産拡大を背景に、その副産物であるDDGSやコーングルテンフィードなどの飼料利用が増大している。特に、DDGSは、ドライミル方式によるエタノール生産が主流となった2002年度以降、生産量が大幅に増大しており、栄養価や供給面における種々の制約要因を解決しながら、新たな家畜飼料としての利用が急速に拡大している。

 家畜飼料として利用する際、最も重要な要素となる栄養価について、DDGSは、粗たんぱく質の含量がトウモロコシに比べ約3倍多く、肉豚やブロイラー向けとしては、リジンなど主要な必須アミノ酸が欠乏しているため、その利用は主に反すう家畜向け飼料に制限されている。また、各畜種ごとにおけるDDGSの利用可能量などに関する情報は、これまで十分に普及されてこなかった。しかし、本年3月、米国穀物協会(USGC)により、各畜種ごとの飼料において推奨されるDDGSの利用量などが示されたことなどから、家畜生産者がDDGSをより利用しやすくなる環境が整えられつつある。

 また、DDGSの供給面においては、輸送手段の不足や品質の一貫性の欠如などが課題となっている。しかし、輸送については、最近、供給者自らがホッパーなど独自の輸送手段を確保する取り組みが見られ、さらに、品質の問題についても、工場当たりの生産規模は、2000年当時と比べ5割強拡大しており、エタノール業界における規模拡大の進展に伴い、品質の統一性は徐々に図られつつある。

 今後、米国における政策的な要因を背景とした燃料用需要の拡大により、中期的なトウモロコシ価格の高騰が見込まれ、世界規模に及ぶ影響が懸念されている。このような中、米国の畜産部門においては、DDGSの家畜飼料としての利用が、その生産拡大に伴い、さらに増大していくものと考えられる。わが国の畜産関係者においても、飼料の安定的確保の手段の一つとして、DDGSなど新たな家畜飼料の利用に注目することが必要な時と考えられる。

参考資料:
・USDA/ERS Report :“Ethanol Expansion in the United States”
・USDA“USDA Agricultural Projections to 2016”
・米国穀物協会(USGC)“DDGS User Handbook”
・再生可能燃料協会(RFA)“Ethanol Industry Outlook 2007”ほか関連ホームページ
・Center for Agricultural and Rural Development Iowa State University Report :“Emerging Biofuels : Outlook of Effects on US Grain, Oilseed, and Livestock Markets”
・田先威和夫監修「新編 畜産大事典」


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