農業部がリスク評価の専門家委員会を設立中国農業部は5月17日、国家農産物品質安全リスク評価専門家委員会(国家農産品質量安全風検評估専家委員会)の設立大会を開催した。同委員会の設立は、昨年4月29日に公布された農産物品質安全法(中華人民共和国農産品質量安全法:2006年11月1日施行/本誌海外編2006年7月号中国トピックス参照)に基づいて農業部が推進する、農産物の品質安全業務を強化する上での重要措置として位置付けられている。 同委員会は、農業、衛生、ビジネス、商工業、品質検査、環境保全、食品および薬品などの学際領域を担当範囲とする。構成メンバーは農学、獣医学、毒性学、感染症学、微生物学および経済学などの専門家で、委員会は農産物の品質安全管理を推進するためのシンクタンクとしての役割を持ち、農産物の品質安全性に関するリスク評価の最高学術諮問機関とされている。主任委員(委員長)には、虎渠中国農業科学院長が就任した。 委員会の主要任務は、農業部の委託を受け、国家農産物品質安全リスク評価政策を立案・研究することである。具体的には、(1)農産物のリスク評価のための規則や計画の企画・立案、(2)リスク評価のための基準や関連技術規範の制定、(3)国内農産物のリスク評価措置の普及発展とリスク評価の報告、(4)農産物のリスク管理措置の立案、(5)リスク評価に関する国内外の技術交流および協力の推進−などである。 設立大会の席上、牛盾農業部副部長は、中国の農産物は最近3年間、輸出が鈍化しているとし、中国産品の信頼性低下などに対する危機感を示すとともに、衛生・検疫措置に関するリスク評価などの仕組みが不十分であると指摘した。そして、農産物のリスク評価は食品安全管理技術の基礎であり、中国農産物のリスクコントロールに対する意識改革を推進するものであるとした上で、このリスク評価が農業の国際化と経済のグローバル化に対応し、中国農業の国際競争力を高めるための根本的な解決策であると強調した。 国家質検総局が国際会議、食の安全と消費者保護を強調一方、5月21〜22日には、国家質量監督検験検疫総局(以下「国家質検総局」)が、中国産品に対する安全性への懸念を強めた欧米各国の要請を受け、北京市内で国際消費品安全大会を開催した。食の安全などを含めた消費者保護に関する国際会議が中国で開催されるのは初めてのことといわれ、国家質検総局などの発表によると、日本や欧米など30カ国以上の関係者300人余りが出席した。 中国産品に対する不安感を端緒とする国際会議開催の背景には、利益さえ上げればよいとする倫理観の低い業者の存在と、中国における商品の安全・安心に対する意識の問題があるといわれる。最近では、米国においてメラミンなどを含んだ中国産原料によるペットフードを摂取した犬・猫が相次いで死亡した事件や、中国業者がグリセリンと偽ってジエチレングリコールを混入したせき止めシロップの服用により、パナマにおいて少なくとも100人が死亡したとされる事件が発生するなど、海外における中国産品への不信感が高まってきている。中国国内でも、薬品や工業用インクを別種のキノコに塗って見せかけた偽キクラゲによる食中毒事件や、発がん性が強く食品への添加が禁止されているスーダンレッド(工業用赤色合成着色料の一群で、多くの種類がある)が漬け物やアヒルの卵、鶏肉製品(チリペパーの着色料として使用)、カップラーメンなどから検出される事件が発生し、市民に不安を与えた。さらに、2003年には、でん粉に香料を加えるなどした偽粉ミルクや劣悪な乳児用調製粉乳により、多くの乳児に成長不良や疾病、死亡などの事例が発生した(阜陽粉乳事件:本誌海外編2007年3月号特別レポート「急速に発展する中国の酪農・乳業」参照)。
会議の席上、李伝卿国家質検総局共産党組書記は、中国は商品の安全性を重視し、消費者の健康と安全に対し責任を負う国家であると強調した。その上で、商品の安全確保は「共同責任」であるとし、中国産品による健康被害などは中国だけの責任ではないとしながらも、中国政府は商品の安全性を保証し、消費者の健康と安全を確保するため、法整備も含め、農業や食品・商品安全などに対する基準システムを構築していくとした。また、各国政府は互いに協力・交流を活発にし、連携して消費者の健康と安全確保に努めるとともに、グローバルベースにおいて、より高水準な商品安全を実現していく必要があるとした。 中国政府、問題企業のブラックリスト公開へ中国外交部の姜瑜新聞司副司長は、5月22日の定例記者会見で、パナマにおけるせき止めシロップの事件やドミニカなどで中国産練り歯磨き粉からジエチレングリコールが検出された事件などに対する質問に対し、外交部は主管部門ではないと前置きした上で、中国政府は商品の安全性を非常に重視し、法整備や基準体系、監視・管理システム、輸出入検疫システムなどを順次構築しており、個別事件に関しては、調査終了後に関係部門から結果が公表されるとして、中国産品の安全確保に向けた取り組みを強調した。 一方、このところ国際社会で高まっている中国産品に対する不信・不安については5月22日、ワシントンで開催された第2回米中戦略経済対話(5月22〜23日)でも議題に浮上した。22日の米中対話では、米国のマイク・ジョハンズ農務長官とマイケル・レビット保健社会福祉長官が、米国の消費者間で中国産品に対する不信や不安が拡大していることを踏まえ、中国側に検査体制の強化など商品の品質安全確保に向けた対応策を要請した。また、問題のある商品や中国で社会問題化している大気汚染、水質汚濁などによる環境破壊が世界的に拡大することを防ぐため、米国が技術協力することでも一致したとされる。 これらの動きを受け、国家食品薬品監督管理局は5月下旬、食品関連企業の信用度をデータ化し、安全管理などに問題のある企業についてはリストに列挙・公開することを明らかにした。胡錦濤国家首席(中国共産党中央委員会総書記)は4月下旬、食の安全をテーマに中国共産党政治局の集団学習会を開催し、食品の安全保証の重要性を強調するなど、食品の品質安全性に強い関心を寄せている。「ブラックリスト」の公開は、こうした中国指導部の意向に加え、国際問題化しつつある中国産品への不信感や脅威論などに対する火消しの意味が含まれているともいわれている。 こうした一連の品質安全保証措置については、自国内における商品および健康に対する安全確保のみならず、他国との関係維持・発展も含めた中国政府の強い意気込みを感じることができる。しかし、低モラルで商品の安全性に対する知識も欠如している零細業者などを完全に取り締まることは難しいといわれ、とりわけ農村部では、物理的・技術的に品質の安全性チェックなどがかなり制約される上、安全性に対する意識も格段に低いといわれる。それ以上に、法治よりも人治の要素が強いといわれる中国では、その運用が食品などの安全確保を左右する重要なキーポイントになると思われる。 |
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