中国初の食品安全白書、中国食品の品質向上を強調
このところ、製品の問題などが世界的に話題となっている中国で、国務院新聞弁公室(新聞弁公室=報道事務室、広報室)は8月17日、「中国の食品品質安全状況」(中国的食品質量安全状況)と題する白書を発表した。中国で食品の安全性に関する白書が発表されるのは、初めてのこととされる。
白書は、(1)食品生産および品質の概況、(2)食品の監理体制および監理業務、(3)輸出入食品の監理、(4)食品安全法規および技術保証体系、(5)食品安全に関する国際交流および国際協力−の5章からなっている。白書は、中国の食品工業について、一部企業では加工技術や装備が国際水準の先端レベルあるいはそれに近い水準に達しており、中でも食肉製品や乳製品、飲料およびビール業界の大手メーカーは、いずれも世界の一流レベルの生産・検査設備を有し、製品の品質は十分に保証されているとしている。
また、白書は、全国を対象とした食品の国家監督抽出検査における合格率について、2006年は77.9%、2007年上半期は85.1%に達し、中国食品の品質安全レベルが着実に向上しているとしている。特に油脂・油脂製品、酒類、水産製品、食糧加工品、飲料、食肉製品、乳製品、調味料、でん粉および砂糖など中国における消費量上位10品目については、2007年上半期の合格率が、水産製品が85%となった以外はいずれも9割を超え、食肉製品は97.6%に達したことなどを挙げ、中国食品の品質と安全性の向上を強調している。
輸出入食品の安全性もアピール、合格率は9割以上
白書によると、2006年の中国の食品輸出量は、前年比13.3%増の2,417万3千トン、輸出額は同16.0%増の266億6千万ドル(約3兆1千億円:1ドル=117円)となり、日本、米国、韓国、香港およびロシアなどが主な輸出相手先となっている。このうち、2006年および2007年上半期において、米国内で合格となった食品はそれぞれ99.2%および99.1%、同じくEUでは99.9%および99.8%、香港では99.2%および99.6%とされる。
最大の輸出相手国である日本については、2007年7月下旬に厚生労働省が発表した「平成18年輸入食品監視統計」のデータを参照し、2006年は中国食品に対する抽出検査率(件数ベース)が15.7%と最も高かった一方で、その合格率(件数ベース)も、EU産の99.38%、米国産の98.69%を上回り、中国産は99.42%と最も高いものであったとしている。
中国が輸入する食品についても、その安全性に関する重大な事故は長年にわたって起こっておらず、輸入食品の合格率も、2004年が99.3%、2005年が99.5%、2006年が99.1%、2007年上半期が99.3%と、いずれも高水準にあるとしている。
国際協力により中国食品の品質レベルの向上を促進
白書は、食品安全性に関する分野で、中国政府が関係各国および国際機関と友好的な協力関係を築き、先進各国などの管理経験および検査技術を参考に、中国食品の品質レベルを全体的に向上させることを重視しているとしている。この中で、国家質量監督検験検疫総局が、現在までに日本、韓国、豪州、ニュージーランド、シンガポール、ノルウェー、ロシアおよび香港などとの間で、定期あるいは不定期に研究会や専門家の相互訪問などを実施していることなどを挙げ、中国の食品安全性向上に対する国際協力重視の姿勢をアピールしている。
なお、今年8月4日には、北京で開催された米中間協議において、輸出入食品の安全保障と管理体制、法規・基準に関する協力、情報交換および閣僚級協議制度など、食品の安全協力に関する枠組みについて合意されたほか、同月6日には、同じく北京で開催された日中間協議において、食品検査に関する技術や情報交換などに関する協力強化が確認された。
問題解決には多くの難関、貿易相手国を遠回しにけん制も
中国初の食品安全白書は、多岐にわたって実に多くの詳細なデータを用い、中国における食品安全性の向上に向けた取り組みなどについて記述しているが、その一方で、比較対照となるデータや記述が不十分で、信頼性に乏しいとの厳しい指摘もある。
白書はその終わりで、中国は責任ある国家であり、長年にわたり食品の品質向上と安全性確保のために積極的な努力を続け、中国人民は各国の消費者の利益を保護してきたとしている。しかし、中国はいまだ発展途上国であり、食品の安全性や工業化のレベルは、先進国と比べて差があることから、食品の品質向上に対する負担は重く、道のりは遠いとし、問題の解決には難関も多いとの認識を示すとともに、えん曲的に貿易相手国をけん制して締めくくられている。
中国政府は挙国体制で安全性確保に向けた取り組みをアピール
中国製品に対する問題が世界的に懸念される中、農業部、衛生部、国家工商行政管理総局、国家質量監督検験検疫総局および国家食品薬品監督管理局の5部局が7月11日に共同会見を実施し、安全性向上に挙国体制で当たっていることを強調した。同月26日には、国務院が「食品等産品の安全監理に関する特別規定」(2007年7月26日付け中華人民共和国国務院令第503号)を公布し、生産者や販売業者などに対し、生産・販売する生産物の安全責任を課すとともに、製品のリコール制度の導入(食品リコール制度については、2007年8月27日付け国家質量監督検験検疫総局第98号令「食品召回管理規定」により、同日から正式実施)および罰則などが明文化された。8月16日には、国務院公布の特別規定を受け、農業部が、各級地方政府の農業主管部門に対し、農産物品質安全監理責任追及制度の構築・実行を指示したと発表したほか、8月中旬には、国務院が呉儀国務院副総理を本部長とする製品品質・食品安全対策本部の設置を決定、さらに、輸出食品に対し、国家質量監督検験検疫総局の定める検査検疫合格マークの張り付けを9月1日から義務付ける(かごや麻袋入りのもの、ばらのものなどを除く)など、中国政府は、安全性向上に対する数々の取り組みを実施し、自国製品の信頼性回復を図っている。
その一方で、中国政府は、複数回にわたって海外メディアの対応を偏向報道であると非難し、米国や日本など海外から中国に輸入された製品の一部について、検査により不合格のものがあったと応酬したほか、中国製品の安全性問題に急進的な対応を示す米国に対し、8月22日、同国産輸入大豆に農薬や雑草の混入および成分基準違反などがあったとして、原因究明と今後の対策を提示するよう通告したと発表するなど、硬・軟交えた対応を見せている。
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