カナダの畜産業界、米国の食肉原産地表示に懸念を表明


 カナダ肉用牛生産者協会(CCA)とカナダ豚肉協議会(CPC)は8月7日、食肉の原産地表示が義務付けられればカナダの畜産業が不利を受けるとして、政府に対し米国への働きかけを強めるよう求めていく考えを明らかにした。

 7月27日に米国下院で可決された2007年米国農業法案では、牛肉や豚肉の原産地表示に当たり、輸入された家畜が米国内で肥育、またはと畜された場合には、消費者にその事実がわかるような表示を義務付けることとされている。


米国下院で、原産地分類を細分化した上で表示義務化を認める農業法案が可決

 7月27日、米国下院は2007年農業法案(H.R.2419)を231対191で可決した。この法案には、2002年農業法で義務化されながらこれまで実施されてこなかった食肉の原産地表示について、推進派と慎重派の双方の意見を踏まえ、現行法の規定を一部改正した上で2008年9月30日から実施することが規定されている。

 これによると、改正後の表示規則では、食肉の原産地が、(1)米国内で生産され、肥育され、と畜された「米国産」、(2)生産、肥育、と畜の過程で米国以外の国を経由した「米国および○○国産」、(3)肥育された輸入肉畜を米国内でと畜した「○○国産・米国加工」、(4)食肉の状態で輸入された「○○国産」の4つの分類に細分化され、それぞれ表示が義務付けられるとされている。

 また、ひき肉の原産地表示については原料に含まれる可能性がある複数の国の並記を認めること、改正法の施行時点で米国内で飼養されている生体牛はすべて「米国産」と見なすこと、保管義務を課す記録は家畜の衛生証明など通常の取引上の書類の範囲にとどめること、罰則は意図的に不正表示を行った場合に限ることなど、原産地表示の義務化に反対してきた米国内の食肉業界に対して、一定の配慮を行ったものとなっている。

 このため、改正案については、「すべての問題が解決されたとは言えないが、書類保持義務の軽減やひき肉表示問題への手当がなされるなど、やっと実行可能なところまでこぎつけた(全米肉用牛生産者・牛肉協会(NCBA))」というコメントがなされるなど、原産地表示の義務化そのものに強く反対してきた主要畜産団体からも一定の評価がなされている。なお、この法案が実行されるためには、上院でこれと同様の規定を含む農業法が可決された後、大統領の署名を経て正式に法律として成立する必要がある。


カナダの生産者団体は、と畜した国を食肉の原産地とみなすべきと強く反発

 一方、カナダの畜産団体であるCCAとCPCは8月7日、米国農業法の現行規定は北米自由貿易協定(NAFTA)および世界貿易機関(WTO)の義務に反しており、現在検討されている「改正」措置でも不十分であるとして、連携してカナダ政府に対し米国への働きかけを強めるよう求めていく考えを明らかにしている。

 両団体は、表示根拠となる書類の保管状態を査察するとしている点や、米国内で生産され、肥育され、かつ、と畜された食肉だけに「米国産」の表示を認め、カナダから輸入した素畜を米国内で肥育した場合には「カナダおよび米国産」と表示しなければならない点がコストの上昇につながり、結果的に貿易障壁をもたらすと主張している。また、この問題を解決する唯一の方法は、生体のと畜処理を「実質的変更」とみなし、と畜された国を原産国とすることであるとしている。

 CPCのクレア・シュリーゲル会長は、CCAとCPCの共同プレスリリースを通じ、「もちろん、われわれは加米両国政府が貿易障壁となる措置の実施を回避する適切な方法を見いだすことを望んでいるが、仮にこれがうまくいかない場合には、われわれはカナダ政府に対しNAFTAおよびWTOの下で認められた権利を行使してこの貿易障壁を提訴するよう期待する。」とコメントしている。また、CCAのヒュー・リンチ・スタントン会長は、「カナダ産の牛肉や豚肉に競争力がないとは思わない。実際、われわれは米国の業者が法律に対処できるよう対応しながら、前向きに食肉製品を販売している。問題は、仮に米国のと畜場がどの製品にどの表示を行うか追跡する負担を嫌った場合、われわれの生体の出荷・販売が影響を受けるということだ。そうなれば、どんなにカナダ産食肉が米国の消費者の支持を得たとしても、カナダの畜産農家の手取りは減少することになる。」としている。


原産地表示を推進する肉用牛団体はカナダの生産者団体に反発

 これに対し、比較的小規模の独立系肉用牛生産者を会員とし、かねてから食肉の原産地表示の義務化に賛成の立場を表明して牧場主・肉用牛生産者行動法律基金(R−CALF)は、CCAとCPCの主張には根拠がないとする見解を公表している。

 R−CALFのマイク・シュルツ原産地表示委員長は、「両団体には米国の消費者にどのような原産地情報がもたらされるべきかを語る資格はなく、米国内の措置についてカナダの団体が論ずること自体がおこがましい。」とした上で、「彼らは輸出した食肉ではなく、米国内でと畜・処理された製品の原産地表示についてNAFTAやWTO上の問題があるというが、これらの協定は二国間の貿易において輸入品を国産品より不利に扱わないよう定めたものである。米国の原産地表示法は、輸入品と国産品との差別なしに、それぞれの原産国を表示するよう定められている。」と反論している。さらに、同氏は、「カナダの一部生産者団体は、数年前に米国がBSEの発生を理由に牛肉輸入を停止した際も、NAFTAやWTOを根拠に脅しをかけてきたが、結果的にカナダのBSE問題は当初の予想以上に深刻であることが明らかとなっており、米国の消費者はこれまで以上に食肉の原産地を知りたがるようになっている。」としている。

 なお、R−CALFは、かつて30カ月齢以下のカナダ産牛肉の輸入再開に反対してUSDAを訴えるなど、NCBAとは一線を画した行動をとっている。


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