2007年に史上最高値を更新し続けた原油と穀物・油糧種子相場の高騰は、輸送コストの上昇や各種生産資材・包装資材などの上昇をも引き起こし、世界中の食料品価格の大幅な値上がりを避けがたいものにした。
本稿では2007年の価格上昇のベースとなる近年の各国の消費者物価指数と、家計最終消費支出における食品・飲料への支出割合などに着目して主要国の比較を試みる。
世界の農業・食糧事情影響を与えている主要な要素
米国等のバイオエネルギー政策とそれに伴う原料需要の増加、中国などBRICs諸国に代表される需要の高まり、気候条件の変化など諸要素が食料の需給や価格に影響を及ぼすメカニズムについては、内外の多くの専門家により報告されている。
以下のフローチャートは筆者の整理のために作成したものであるが、使用する目的によっては、このフローには重要な視点が欠けている。それは、現状が低所得食糧不足国などの深刻な問題に直結しているという点である。高価格により穀物などの純輸出国は交易条件が大きく改善するのに対して、貧困層の多くを抱える穀物の純輸入国はより大きな損失を受ける。現在世界が直面している状況は、食料、資源、資金を持てる国々と貧困国あるいは世界の貧困層の「格差」を、より拡大する方向に進んでいるということを付言しておきたい。
主要国の消費物価指数(CPI)の比較
─日本は世界でもまれな消費者物価の安定国─
わが国とNAFTA(米国、カナダ、メキシコ)、EU主要国(英国、フランス、ドイツ)、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)、食料の重要な供給国アルゼンチン、産油国代表サウジアラビアおよび資源大国豪州の1996年〜2006年の消費者物価指数の暦年変化を比較すると、次のような特徴が浮かび上がる。
(1)日本の消費者物価の安定度が際立っている。
(2)各国の消費者物価指数は上昇を続けているが、日本の消費者物価全体および食料品価格は横ばいないし低下傾向にあった。
(3)通貨危機などの影響、その後の資源、食料需要の強さに支えられて好景気の国々はインフレ傾向で物価上昇率が大きい。特に、ロシア、アルゼンチン、ブラジルの上昇率が大きい。
(4)EU諸国、サウジアラビアは比較的消費者物価が安定しているものの、上昇傾向に変わりはない。
(5)総じて、全消費者物価指数よりも食料品の消費者物価指数の上げ幅の方が大きい。
消費者物価指数の比較:全体と食料品のみ(2000年=100)
食料品の消費者物価指数(2000年=100)
食料品の消費者物価指数(2000年=100)
食料品の消費者物価指数(2000年=100)
主要国の最終家計消費支出(名目)に占める食品・食料消費支出の割合
一人当たり家計最終消費支出(日本:名目、USドルベース)
一人当たり家計最終消費支出(インド:名目、USドルベース)
一人当たり家計最終消費支出(米国:名目、USドルベース)
一人当たり家計最終消費支出(英国:名目、USドルベース)
一人当たり家計最終消費支出(フランス:名目、USドルベース)
一人当たり家計最終消費支出(豪州:名目、USドルベース)
日本は96〜98年度をピークに1人当たり家計消費支出、食料費支出減少
わが国は、1人当たり家計消費支出では96年度をピークに、また、そのうちの食料費支出では98年度をピークに10年にわたって減少傾向にある。
家計消費支出と食料費支出の推移(日本)
1人当たり家計消費支出のうち食料費支出の推移(日本)
米国の小売コストに占める農家販売価格の割合上昇
─Farm value-retail costは穀物、畜産物、脂肪・食用油で上昇─
米国農務省(USDA/ERS)の公表データによれば、米国では農家での第一次生産段階のコスト上昇分が、小売段階における鶏卵、乳製品、脂肪・食用油および穀物・パン類などにコスト圧力(仕入原価の値上がり)となってはねかえっている様子がうかがえる。
小売コストに占める農家販売価格の割合
わが国は、生産者価格や卸売価格が小売価格になかなか転嫁しない市場であると言われる。その理由として、小売セクターが食品製造メーカーなどと比較して市場支配力が圧倒的に強すぎ、パワーバランスが均衡していないからだとの指摘がある。
食品メーカーなどが昨年末相次いで、2008年2月から3月にかけて製品を値上げすると発表した。デフレ傾向の中、小売価格を上げれば消費者の購入量が減る(売上減)との懸念もある中、消費者を含め原料、諸資材コストの上昇分を各セクターが分担し合うことは、わが国だけではなく各国の課題である。
〔1〕 ILO, LABORSTA Labour Statistics Database
〔2〕 United Nations, National Accounts Statistics : Main Aggregate and Detailed
Tables,
〔3〕 International Monetary Fund, International Financial Statistics Yearsbook
〔4〕 USDA(ERS), DATA SETS |