はじめに
2006/07年度の「100年に一度」といわれた干ばつ、そして、2007/08年度の新たな干ばつの発生により豪州の酪農業は深刻なダメージを受けている。中でも、豪州全体の生乳生産の77%(2006/07年度実績)を産出するビクトリア(VIC)州、ニューサウスウェールズ(NSW)州の酪農生産に対する影響は非常に大きい。豪州の生乳生産の66%を産出するVIC州では、2006/07年度の大規模な干ばつにより、生乳生産は最盛期の2001/02年度レベルの85%にまで落ち込んだ。さらに2007/08年度は、新たな干ばつによりそれを下回って推移している。また、NSW州では、2006/07年度の州の生乳生産量が2001/02年度との対比でVIC州以上の下げ率を記録したほか、2007/08年度の生乳生産状況も低迷を続けている。このような豪州の2年続けての生乳生産量の減少は、世界の乳製品需給に少なからず影響を与えている。
―乾き続ける酪農地― (2007年12月時点、VIC州北部地域)
原油価格の上昇を背景に急速に乳製品需要が拡大する中東、ロシアなどの原油産出国、また、経済成長の著しい中国や東南アジア各国での乳製品消費の伸びなど、国際市場での乳製品需要は急速に拡大している。一方で、国際市場への主要供給国の一つである豪州では、干ばつによる乳製品生産の減少、また、最大の供給国であるEUの輸出補助金の削減など、供給面で不透明な状況が伝わる中で乳製品国際価格の上昇を招いている。
しかし、国際市場では、原油マネーなどを背景に乳製品需要はさらに拡大との見方も出ている。また、国際市場への乳製品供給量が限られてきたことで、乳製品は石油に次ぐ戦略物資などと一部ではささやかれ始めており、乳製品の国際価格が引き続き高値安定での推移が見込まれる中、今後の豪州の生産状況が注目されている。
1 最大の酪農生産地、ビクトリア州の生産現場から
では、実際の酪農生産の現場では、今回の干ばつが酪農にどのような影響を与えたのか、また、酪農家は、今後の酪農生産についてどのように考えているのか。豪州最大の酪農生産地域であり、干ばつの被害が特に大きかったVIC州北部の酪農生産地の現地調査などをもとに報告する。
─VIC州北部酪農地域(タチウラ(Tatura)地区)─
VIC州北部の酪農地帯は、NSW州との州境を流れる豪州の主要河川の一つ、マレー川を境に南北約300キロメートル、東西約550キロメートルの地域に広がる。この地域では、マレー川に合流する形で地域の中心を南北に流れるゴールバン川などから引かれたかんがい用水により牧草地が整備され、放牧を中心に若干の粗飼料などを給与することで酪農が形成されている。
同地域のほぼ中央に位置するタチウラ酪農協で酪農家約280戸を管理するスチュアート・ブラウン氏。同農協を含めこの地域では、生産される生乳を主にバター、チーズなどに加工しており、輸出乳製品の主要生産拠点ともいえる。同氏は、この酪農協を中心に長年にわたり酪農家へのコンサルタント業務を行い、地域の酪農情勢に最も精通した者の一人といえる。2007年12月下旬、同氏に地域の酪農情勢について話を聞いた。
―スチュアート・ブラウン氏―
─2006/07年度の集乳量は前年度比25%減、2007/08年度はそれをも下回る水準─
VIC州北部の酪農地域は、かんがい用水や地下水を利用した放牧酪農が中心であるが、2006/07年度の大規模な干ばつは、この地域の酪農生産に大きな被害をもたらした。同氏によると、この地域からタチウラ酪農協へ供給される生乳量の推移を見ると、ここ最近では2004/05年度の474百万リットルを筆頭に450百万リットル台で安定してきた。しかし、2006/07年度は、これが338百万リットル、前年度比で25%の大幅な減少となった。この要因としては、(1)干ばつによりかんがい用水の取引価格が大幅に上昇したことに加え、取水制限がとられたことで放牧環境が大きく悪化したこと、(2)放牧酪農が難しくなったことから酪農家は、生乳生産を維持するため購入粗飼料などに切り替えざるを得なかったこと、(3)粗飼料や穀物の生産地でも、干ばつで生産が大幅に減少したことで価格が急上昇し、酪農家にとって急激な生産コストの上昇を招いたこと─などが挙げられる。このため、多くの酪農家では、生産コストを少しでも軽減させるため、乳牛の預託、また、早期のとう汰や売却などを行い、結果的に生産規模の縮小は避けられなかった。
―牧草が“消失”した放牧地―
2007/08年度の生乳生産の状況をみると、2007年6〜8月にかけて降雨量が平年水準を上回ったことから酪農生産の回復が期待されたが、8月以降、降雨量が大幅に減少したことで、前年度の干ばつで大きく落ち込んだかんがい用水への供給量はさらに低下した。このため、新たに取水制限が実施されるとともに取引価格は一時期、百万リットル当たり1千豪ドル(10万円:1豪ドル=100円)を突破するなど、干ばつ以前の価格(百万リットル当たり150豪ドル前後)の7倍近くに達した。
現在(2007年12月末時点)は、11月以降まとまった降雨量が記録されたことでかんがい用水の取引価格は同500豪ドル(5万円)前後まで緩和されたが、酪農環境には引き続き厳しい状況が続いている。この地域の酪農家は、前年度の干ばつで乳牛の飼養頭数を減少しており、2年続けての干ばつでさらに頭数を減らすところや、乳牛を全頭売却し、酪農を一時停止する農家も出ている。
豪州の酪農生産者で組織するデイリー・オーストラリア(DA)によれば、2007/08年度(7〜10月)のVIC州北部の生乳生産量は、干ばつにより生産が大きく減少した前年度に比べて15.9%減少している。
―かんがい用水などを利用した放牧地への散布―
─過去の干ばつの中で2007/08年度は、酪農生産にとって最悪の結果─
豪州では2000年以降、大規模な干ばつといわれるものは2002/03年度、2006/07年度、2007/08年度と3回も発生しているが、長年、この地域の酪農協に携わってきたブラウン氏は、2007/08年度の干ばつが酪農生産にとって、最も悪い結果になっているとしている。同氏はその理由として、それぞれの干ばつ時の状況を次のように分析している。
・2002/03年度
この干ばつは、豪州全土にわたって大きな被害をもたらしたが、この地域へのかんがい用水への供給源となるマレー川、ゴールバン川流域の貯水量が前年度までの降雨により一定量を維持していたことで、結果的にかんがい用水に対する取水制限などは少なく、他の干ばつ地域に比べて放牧環境が維持できた。このため、酪農家は乳牛の飼養頭数を減少させることなく、生乳生産も大幅減とはならなかった。
・2006/07年度
この干ばつは、「100年に一度」といわれる規模であり、また、前年度の冬場の降水量が少なかったことに加え気温の上昇が続いたことで、マレー川、ゴールバン川流域の貯水量は大きく減少していた。このため、かんがい用水への供給も規制され、取引価格の上昇や取水制限を招いたことから酪農の放牧環境は悪化した。酪農現場では購入粗飼料などの増加に伴う生産コストの急激な上昇、また、他の地域への乳牛の預託、さらに、早期とう汰などを急速に早めた結果、この地域の乳牛飼養頭数は5割近くまで減少し、酪農生産の大きな後退を招いた。
・2007/08年度
今回の干ばつは、前年度の干ばつの後遺症を引きずった中で再び発生し、年度開始当初のマレー川、ゴールバン川流域の貯水量が満水時の18.5%と非常に低い水準であったことから、早々にかんがい用水の取引価格上昇や取水制限が実施された。このため、放牧地を回復させることはさらに難しい環境となったため、乳牛のとう汰継続や全頭を売却し、酪農を一時休止する酪農家も増えたことから、酪農生産はかつてない水準へと落ち込んでいる。
現在(2007年12月末)のマレー川、ゴールバン川流域の貯水量は、2007年11月に入り、まとまった降雨が記録されていることから、満水時の22.7%と年度当初に比べれば回復傾向にあるものの、依然として低い水準にあるのは変わりない。
―酪農家の庭先に積み上げられた購入粗飼料―
─高い乳価を背景に酪農家の意識は前年度より上向き─
では、このような状況の中で、酪農家は今後の酪農生産についてどのように考えているのか。ブラウン氏は、現在の環境は酪農家にとって非常に厳しいものであるとしながらも、「100年に一度の干ばつ」といわれた前年度よりも大規模酪農家を中心にその生産意欲は上向いていると言う。
タチウラ酪農協の状況を見ると、同農協に出荷する酪農家は、休業中の酪農家を含めて現在282戸。これは、他の乳業会社への移行などを含めて前年度から66戸減少した。このうち、74戸の酪農家の生乳生産量は前年度比35%減となり、112戸が同9%減。一方で、85戸の酪農家は、厳しい状況ながらも同15%増を維持している。同氏は、減少しているのは主に飼育頭数が100頭を割るような小規模の酪農家が多く、飼養規模で250頭を超える酪農家については増加傾向としている。これは、現在の乳価が乳製品国際価格上昇を背景に高水準にあることで、一定頭数規模の酪農家は、生産力をより高めようとしていることが要因にあるとみている。
一方で、小規模の酪農家についても、生乳生産の落ち込みは前年度に乳牛飼養頭数を大幅に減少させた結果であり、現在の乳価水準の下では、購入粗飼料による生産コストの上昇も含め、それを上回る乳価の引き上げにより、酪農環境は大きく改善しているとしている。
同酪農協に出荷する酪農家について、2007/08年度(7〜12月平均)の乳牛1頭・一日当たりの平均収支状況を見ると、支出については放牧環境の悪化により、酪農家が独自に購入する粗飼料などの価格が平年の倍以上となっていることから、平均支出は6.45豪ドル(645円)と、干ばつ以前の平均水準3豪ドル(300円)を大きく上回っている。一方、収入については、年度当初からの乳価引き上げが反映し、平均収入は8.90豪ドル(890円)と非常に高い水準にあるため、差引2.45豪ドル(245円)のプラスとなっている。ただし、農家一戸当たりの乳牛飼養頭数が大幅に減少していることに加え、その他固定費や労賃、利息などを差し引くと、経営環境は依然として厳しい状況にある。しかしながら、2006/07年度の干ばつ時は、乳製品の国際価格が上昇基調にあったものの、乳価への反映が遅れたことで、収支は軒並み大幅な赤字を計上していたが、それに比べれば経営環境は好転している。
今後の収支見通しについて同氏は、乳価上昇が引き続き予想されることで収入は最終的に10豪ドル(1,000円)を超えるレベルまで拡大し、一方、支出については、購入粗飼料の価格が徐々に下がってきたことや、最近の降雨により放牧環境もゆっくりではあるが改善に向っていることから減少とみている。このため、より一層の収益改善が期待でき、飼養頭数の回復など再生産に向けた動きが進むと思われる。また、放牧地で地下水の利用ができる一部の酪農家については、かんがい用水を取引する酪農家に比べて収益状況は良いことから、再生産に向けた動きは、さらに上向きにあるようだ。
―地下水の利用で青々とした放牧地―
─今後の乳価は引き続き上昇予測、最盛期までの回復には4〜5年が必要─
この地域の今後の乳価の見通しについてブラウン氏は、乳製品の国際価格は一部乳製品について下がっているが、全体の水準は依然として高いことから1リットル当たり47豪セント(47円)台に達するとみている。飲用向けを中心とするクイーンズランド(QLD)州の一部地域では、生乳確保のため1リットル当たり70豪セント(70円)に到達とのニュースも聞くが、加工向け中心となるタチウラ酪農協では、2007/08年度の乳価について12月末までにすでに3回の引き上げを行っており、有数の酪農生産を背景に数社の乳業工場がひしめくこの地域での生乳確保に向けて、乳価引き上げの価格競争は激しさを増している。
将来的な酪農生産見通しについて同氏は、あくまでも天候次第としながらも、高い乳価を背景に酪農家の意識は上向いていることから、生産は回復に向かうとみている。また、来期(2008/09年度)の見通しについては、2006/07年度の生乳生産水準を維持できるとしながらも、乳牛頭数の増加により後半の伸びを期待している。
放牧酪農が中心のVIC州北部地域では、放牧環境の状況がすなわち、生乳生産に直結していた。このため、長引く干ばつで、酪農への悪影響の深刻化も心配されるが、国際的な乳製品価格の上昇を背景に、干ばつによるコスト上昇分を吸収できる乳価水準が提示される今、伝統的な放牧酪農のスタイルは維持するものの、飼料購入を拡大させるなど、従来とは異なった生産拡大への動きが進んでいるようだ。
しかしながら、この地域を含め干ばつの被害を受けた酪農生産地では、早期とう汰や売却などで乳牛飼養頭数の大幅な落ち込みが伝えられていることから、生乳生産が最盛期の水準まで回復するには、少なくとも4〜5年は必要との見方が強い。
―干ばつ以前の放牧風景―
このような姿に回復するのは何時か?
2 豪州全体の酪農概況
前項では、VIC州北部の酪農地帯に特化したが、それでは、最近の干ばつにより生乳生産の減少が続く中で、豪州全体の酪農経営はどのような影響を受けてきたのか。豪州経済資源局(ABARE)では、それぞれの干ばつ時の状況について豪州の酪農概況を次のように分析している。
・2002/03年度〜2005/06年度
2002/03年度の酪農経営は厳しい干ばつに見舞われたことから、一戸当たりの農業収支が▲4万27豪ドル(427万円)の大幅な赤字を計上した。また、翌2003/04年度は、生乳生産量の減少などにより生乳販売収入が減少したが、天候の好転に伴い飼料費などの生産コストが下がったため、経営収支はやや改善した。しかしながら、2期連続の赤字となった。2004/05年度は、天候の回復や乳牛飼養頭数の増加による生乳生産量の上昇、また、乳価の引き上げ、さらに、飼料費など生産コストが大幅に下がったことで農業収支は黒字に転換した。2005/06年度は、生産者乳価が上昇する一方、肥料、飼料費などの支出が増加し、農業収支は前年度をやや下回る水準であったが、経営収支は黒字を維持した。
・2006/07年度
2006/07年度の酪農経営は、新たな干ばつの発生により生乳生産量が減少する一方、乳価が前年度水準であったことから現金受取額は減少した。一方、現金支払額は、干ばつによる飼料不足を背景に飼料費や支払利息が拡大したため、全体で増加した。この結果、農業収支は、2002/03年度の干ばつ時を上回る▲8万900豪ドル(785万円)の大幅な赤字を計上した。
豪州の酪農経営状況
[酪農家の経営状況]
─かんがい地域での干ばつは、酪農家に大きな経営負担─
干ばつで酪農家の経営収支が大きく悪化する中で、特にかんがい地域における酪農家の収支はさらに厳しいものとなっている。VIC州の主要酪農地帯(3地域)における2005/06年度および2006/07年度の経営状況は次のとおりである。
生乳生産の90%をかんがい地域で行っているマレー川、ダーリング川流域を中心とする北部地域では、その他の地域と比較して現金受取額の減少幅が小さいものの、飼料費を中心に現金支払額が大幅に増加した。この結果、現金収入および農業収支とも赤字を計上した。一方、かんがい用水への依存率が小さいVIC州西部地域や東部地域では、北部地域と比較して経営に及ぼす影響は小さい。
―経営難で、酪農家などの廃業も続く―
[VIC州における酪農家の地域別経営状況]
[NSW州南部沿岸地域における酪農の状況]
豪州の酪農は、おもに比較的降水量に恵まれた沿岸部およびかんがい地域で行われている。NSW州南部沿岸地域にある酪農が盛んなナウラ(Nowra)は、大都市シドニーから170キロメートルほど南方に位置する。ナウラ周辺の平均年間降水量は1,000ミリメートル程度と比較的降水量に恵まれており、州内でも有数の酪農地域となっている。
この地域は、大都市近郊に位置していることから飲用向け需要が大きい。このため、乳牛の飼養は、放牧に加え、乾草、サイレージや穀物飼料を利用した周年搾乳が行われている。2007年12月にナウラや隣接するベリー(Berry)といった酪農地域を訪れてみた。
この地域の放牧地は、いずれも緑色の牧草に覆われ、他の地域で深刻となっている干ばつのイメージはなく、丘陵地や平坦地を利用して乳牛の放牧が行われている。
―ナウラ地区における乳牛の放牧―
ナウラにある酪農家を訪問した。この酪農家では、搾乳牛700頭を含め全体で1,300頭の乳牛を飼育しており、同地域では有数の大規模酪農経営である。今年の牧草の状況は、気温がやや低い状況が続いたことから、平年と比べていまひとつ良くないが、現時点では十分な量の飼料を確保している。自家飼料としては、牧草のほか冬場の飼料としてサイレージを作っている。また、自家飼料のほか、穀物(小麦:6割、大麦:4割)を飼料会社から、また、乾草を生産農家から直接購入している。現時点では十分な量の飼料を確保しているものの、穀物の購入価格が非常に高くなっており、経営を圧迫していると厳しい表情を見せた。
―自家生産のサイレージ―
この地域での干ばつの影響については、購入飼料価格の上昇といった影響があるものの、牧草の生育状況についてみると特に大きな影響はなく、むしろ、2002/03年の干ばつ時の方が影響は大きかったようだ。なお、牧草地には、現在は使用されていないが、地下水を利用した散水施設が設置されており、干ばつへの対応が見られた。
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─今後の酪農経営動向─
ABAREでは、2007/08年度の豪州全体の酪農経営の動向について、次のように分析している。
・2007/08年度は前年度に続く干ばつの影響により乳牛飼養頭数が減少するものの、生産者乳価が大幅に引き上げられること、また、乳製品国際価格が短期的に高水準での推移が予測されることで、生産者の増産意欲は、今後、より一層高まるものとみられる。
・しかしながら、生産コストについては、飼料、肥料および燃料費など依然、高水準にあり、特に牧草の生育状況が悪く購入飼料への依存度が高まると、農業収益の確保が困難な状況になるとみられる。
・豪州では、昨年11月以降、各地でまとまった降水が見られるが、酪農主産地の一つであるVIC州北部地域などにおいては、かんがい用水割当量の急速な改善には至っておらず、引き続きかんがい用水の割当制約に伴う経営への影響が大きいとみられる。
おわりに
今回調査したVIC州北部地域は、豪州の食料庫と呼ばれるマレー・ダーリング集水域に位置し、豪州全体の生乳生産量の2割以上を占める豪州有数の酪農生産地域である。また、同地域における酪農生産は、かんがい用水への依存度が高いことから、比較的降水量に恵まれた沿岸部酪農地域と比べて干ばつによる影響が大きい。このため、同地域における生乳生産の動向が豪州全体の生乳生産に与える影響は非常に大きくなっている。
2007/08年度の豪州の酪農経営は、飼料費など生産コストが依然として高水準にあることから、引き続き厳しい経営環境が予測されている。しかしながら、今回調査したVIC州北部地域では、依然として経営環境は厳しいものの、乳製品国際価格を反映した高い乳価を背景に生産者の前向きな増産意欲が出ているのも事実である。今後の天候にもよるが、このような高い乳価が続く間、酪農家はかつての生産水準の回復に向けてどの程度の生産体制の再構築が出来るのか、その動向が注目される。
一方で、このような高い乳価により豪州の生乳生産は上向く可能性はあるが、通常の干ばつでも2〜3年、さらに、今回のようなたび重なる干ばつに見舞われれば、生乳生産回復には、少なくとも4〜5年は必要となるかもしれない。また、最近の豪州での干ばつの発生頻度や地球温暖化現象の動向などを見ると、豪州の生乳生産量は短期間のうちにかつての生産水準であった1千万トン台に回復する可能性は低いとみられている。加えて、世界的な乳製品の生産動向を見れば、全体の生産量に対し、国際貿易に占めるシェアは低く、また、輸出余力を持つ生産国が限定されている。豪州など主要輸出国の一部では、人口増加などを背景に国内での乳製品需要は拡大しており、干ばつなどにより乳製品生産が減少する中で輸出余力の伸びは難しい状況にある。従って、世界的な乳製品需要の高まりに反して乳製品生産国の輸出余力は限られるなど、今以上に需要と供給のギャップが生じることで、売り手側の力(価格支配力)が益々強まる傾向にある。
―干ばつ以前の穀物畑、生産動向は酪農にとっても大きな関心事項―
[参考資料]
Australian Dairy 07.1(ABARE)
Australian Dairy 07.2(ABARE)
Australian Farm Survey(ABARE)
Australian Commodities(ABARE)
Dairy Austraria ウェブサイトほか
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