はじめに 米国のバイオエタノール生産は、トウモロコシを原料としているため、飼料穀物との競合が避けられず、世界的な穀物需要の増加傾向の強まり、干ばつなどの異常気象と相まって、トウモロコシをはじめとする農産物、さらには食品価格にも影響を及ぼしている。
これまで米国のバイオエタノール事情は、トウモロコシやエタノールの生産面に着目したものが多い。そこで、本稿では、バイオエタノールの需要はRFS(再生可能燃料基準)により人為的に高められているが、そのRFSの影響、エタノールの混合ガソリンの利用、輸送面の課題を含めて若干の検証を行う。
1 バイオエタノール生産は急増
米国のバイオエタノールは、(1)RFS(再生可能燃料基準:燃料販売業者へのエタノール使用量の義務付け。2012年には75億ガロンに拡大)、(2)ブレンダー(エタノールとガソリンの混合者)、工場建設、エタノール混合ガソリンへの税制上の優遇措置、(3)さらには安価な輸入エタノールが急増しないための輸入関税(54セント/ガロン)などによる手厚い保護政策により、バイオエタノールの生産量と需要量は着実に増加している。
具体的には、2006年のエタノール生産量は48.55億ガロンであり、建設中の工場が稼働したことにより、年初の生産能力(43.36億ガロン)を上回った[1]。2007年のエタノール生産量は8月末の段階で前年を32%上回る41億ガロンに達しており、再生可能燃料協会(RFA)の会長は、2007年11月に開催されたリヒト社主催の世界エタノール10周年記念会議において、今年は65億ガロンを超える水準になると発表している[2]。
また、再生可能燃料協会によると、2007年10月9日現在では131工場が稼働中でその生産能力は年間70.23億ガロンであるが、さらに73工場で新設、10工場で増設が計画されている[3]。これらが予定通りに稼働すると、年間134.75億ガロンの生産体制となる。
2007年の農家所有のエタノール工場は約4割を占めており、製造エタノール1ガロンにつき0.1ドルの所得税控除の対象となる6,000ガロン以下の小規模工場は約6割となっている。ここ数年のエタノール生産の動向をみると、農家所有の工場の生産シェアは減少しており、大規模工場のシェアが拡大している(図1)。小規模エタノール製造者(農家所有の工場が多い)の所得税控除政策は、まさにトウモロコシ農家の経営安定対策であるとも言える。
以上を背景にして、バイオ燃料の生産量は2007/08年度には70億5,700万ガロンの生産になると予測されており、当初の予想を上回る速度で増加し、2008/09年度には4年前倒しで現行のRFSの最終目標である75億ガロンを達成するとみられている(図2)。
図1 米国のエタノール工場の形態と生産能力の推移
図2 米国でのバイオエタノール生産の推移
2 トウモロコシの生産も史上最高に。エタノール向けは輸出向けを大きく上回る
バイオエタノール燃料需要の増加に伴いトウモロコシの作付面積も拡大している。2007/08年度の作付面積は前年比20%増の3,789万ヘクタールで、生産量は25%増の3億3,448万トンと過去最高の規模になると予測されている(図3)[4][5][6]。トウモロコシの増産の背景は、中西部では新規に開墾することは困難なため、トウモロコシの連作、エタノールの需要拡大により収益性が急速に高まっているトウモロコシへの大豆からの転作、品種改良や密植度の増加などによる単収増が増産に貢献している。
なお、トウモロコシ生産農家は、コストと労力削減のため、GM品種を積極的に利用するようになってきており、2007/08年産の予測ではトウモロコシのGM品種の割合は73%を占める。GM品種には、害虫抵抗性品種(コーン・ルートワームなどに抵抗性を示す品種)、除草剤抵抗性品種(ラウンドアップレディなど)、または両者の抵抗性を兼ね備えた品種(最近増加傾向)がある。中でも、コーンベルトではコーン・ルートワームと呼ばれる防除の難しい根の害虫対策が課題であり、これに対して抵抗性をもつGM品種は、トウモロコシの連作を可能にした要因の一つである。
次に、1980年からのトウモロコシの仕向先の長期トレンドを図4に示した。これについても、バイオエタノール向け需要は長期にわたりゆっくりと増加してきたが、2005年以降急増しており、2007年には、エタノール向けが22%と輸出向けの16%を上回っている[7]。
図3 トウモロコシの生産量及び作付面積の推移
図4 米国のトウモロコシの用途別長期トレンド
3 バイオエタノール政策の特徴、ブラジルとは異なるアプローチ
連邦政府により、表1のように各種の補助および税制優遇措置が行われており、エタノール生産の拡大を支えている。バイオエタノールをガソリンに混合した燃料に対しては、51セント/ガロンの連邦ガソリン税を控除する措置(2010年末まで)が講じられており、バイオエタノールの混合率が高くなるほど税の控除額が大きくなる。シカゴのエタノール先物相場が1.565ドル/ガロン(2007年10月限終値)であるので、連邦ガソリン税の控除額は約1/3に当たり、その需要拡大効果は大きい。
連邦ガソリン税の控除は、輸入されたバイオエタノールに対しても適用されているが、輸入バイオエタノールに対しては、54セント/ガロンの関税(内国税とほぼ同率)が賦課されている(2008年末まで適用)。このため、国産エタノールの方が有利な扱いを受けているが、輸入関税が2009年以降に延長されない場合には、競争力のあるブラジルからの輸入に圧される可能性が高い。このエタノールに対する輸入関税に対しては、ペトロブラス社(ブラジルの国営石油会社)が、高い輸入関税で保護された状況下で、世界最大のトウモロコシ供給国である米国のトウモロコシがエタノール用に仕向けられ、その結果、世界の穀物価格の高騰を引き起こしているとして、引き下げを求めている。
この他の支援策としては、E85(ガソリンにエタノールを85%混合した燃料)対応のガソリンスタンド建設に対しては30%の所得税控除もしくは3万ドルを上限とする助成が、また、小規模製造業者(年間生産量6,000万ガロン以下)に対しては、年間150万ガロンを上限として1ガロン当たり10セントの所得税を控除するなど、幾つかの支援策が行われている。
これらの措置は期限付きであるが、現在のところ優遇措置期限終了後も延長すると見られている。このように、米国のエタノール生産振興は、川上から川中、川下まで手厚い保護政策が施されているのが特徴である。
以上の支援策に加えて、2007年9月よりガソリン製造者と輸入者に対して、ガソリン製造量などに一定の割合をかけた数量分の再生可能燃料の利用を義務付けることや、2007年農業法案の中に、セルロース系原料を利用するエタノール製造者に対する0.5ドル/ガロンの所得税控除(2010年12月末まで)が盛り込まれたことなど、新たな対策も順次加えられている。
ブッシュ大統領の2007年1月の一般教書の中では、2017年までの10年間でガソリン使用量を20%削減するという「Twenty
in Ten」を打ち出し、再生可能燃料および代替燃料の使用を同年までに360億ガロンにすることを目標としている。そのため、RFS目標も2012年に132億ガロン、2022年に360億ガロン(うち、210億ガロンはセルロース系原料のエタノールなど、とうもろこし以外の原料のものとする。)にする案が上院で可決後、下院との調整段階にあった[8]。この案は、2007年12月6日に下院を通過しており、今後、上院での再審議に入る予定である。現行のRFSは、ほぼ達成間近であり、エタノールの需要喚起の効果はもはや小さくなっている。このRFSがどの程度引き上げられるかが、今後のエタノール生産・需給事情、高エタノール混合ガソリン(E85)やフレックス車の普及、ひいてはトウモロコシのエタノール仕向量にも大きな影響を与える。
なお、政策面でブラジルとの違いの一つとして、「エタノールの混合の全国での義務化と混合率の水準」が挙げられる。エタノール混合の義務化はバイオエタノールの普及を大きく拡大させる要因になる。米国でエタノール混合が義務化されている州は図5の通りで、義務付けが立法されていても施行されていない州も半数以上に及んでいる[9]。他方ブラジルでは、全国レベルで混合率を需給状況に合わせて20〜25%の間で調整している。
米国ではRFSでバイオエタノールの全体使用量をエタノールの価格にかかわらずに義務付けているが、ブラジルでは小売段階でのエタノール混合ガソリンの販売を義務付け、1975年よりプロアルコール政策でエタノールなどの価格統制、エタノール製造者への支援、FFV(フレックス)車の開発への支援など、生産から利用面までの一貫した政策を約25年にわたって進めてきた結果、生産・利用基盤が構築された。これらの支援策は1990年代の規制緩和により徐々に廃止され、現在では、基本的に混合率の規制のみで運用している。 RFSは確かにエタノールの需要喚起政策としては強力であるが、実際の利用を促進するための施策が遅れている。製造されたエタノールをガソリンと混合し、販売・利用するのは石油業界、自動車業界である上、消費者の混合ガソリンへの理解も進んでいない。
ブラジルの石油業界としては、国営のペトロブラス社が存在しており、プロアルコール政策の中ではエタノールの販売および一部流通の独占権を得ていた[10]。また、プロアルコール政策では、エタノール工場建設の促進や含有エタノール価格の管理も行われていたが、石油価格の急落や同政策による財政負担が重荷になったことから、1990年代に徐々に緩和された。他方で、ブラジル政府はペトロブラス社に対して原油の増産を進めさせ、2006年には原油の自給を達成し、近いうちに輸出も予定しているなど、石油業界として重要な原油からの利益の確保にも配慮している。さらに、自動車業界にも古くからエタノール専用車に対して支援が行われ、2003年からのFFV車の販売が開始されると数年間で、新車販売の8割強がFFV車で占められるまでに普及した(表2)。
米国とブラジルは2大エタノール生産国であるが、輸出国はブラジル1カ国であるのは、この政策アプローチの違いが大きな要因の一つとなっている。
表1 米国のバイオエタノールの主な税制等の対策
図5 エタノール混合を義務付けている州
表2 米国とブラジルとのバイオエタノール産業の比較
4 バイオエタノールの流通と利用状況、米国の弱点の一つ
エタノールの流通経路はどの国も大差なく、製造されたエタノールとガソリンをブレンダー(混合施設)で混合し、給油所に配給する。
エタノールの生産地(原料の生産地)と給油所(消費地)の距離でガソリンとの価格競争力が大きく異なる。米国ではコーンベルト地帯のトウモロコシを使って、そこでエタノールを生産し、ブレンドして混合ガソリンを地元で利用しているのが実態であり、現時点では広い意味での「地産地消」の状況にある(図6)。他方、ガソリンの大消費地は遠く離れた東と西海岸にあるため、エタノールの利用を大きく拡大するには、これらの大消費地にいかに効率よく輸送するかにかかってくるが、輸送手段は、6割が鉄道であり、残りも3割がトラック、1割が河川輸送と、エタノールの専用パイプラインを計画しているブラジルに比べると輸送インフラが弱点となっている[11]。
さらにE85の供給に対応可能な給油所は2007年11月時点では全米で1,287か所と全給油所の約0.7%でしかなく、しかも、多くはコーンベルト地帯にとどまっており、ガソリンの主要消費地である東海岸や西海岸ではほとんど整備されていない[12]。ワシントンD.C.で3か所、ニューヨーク州で6カ所、カリフォルニア州で6カ所などとなっており、うち一般に使用できるものは2カ所しかない[13]。
一方、バイオエタノールの唯一の輸出国といっても過言でないブラジルでは、エタノールの主産地(南東部のサンパウロ州)とガソリンの主な消費地(エタノールの消費地)がほぼ一致しており、かつ、主な輸出港にも近い。今後、産地が中西部に拡大する中、主要輸出港までのエタノール専用パイプラインの建設計画が進められている。
E85などの高混合率ガソリンを利用するための車の開発・普及も米国とブラジルでは大きな違いがある。米国ではFFV車の普及率も低く、約600万台と自動車普及台数の3%にとどまっている。
図6 エタノール工場の分布
5 原油価格とトウモロコシ価格とエタノール仕向量、エタノール混合ガソリンの利用との関係
エタノールの供給面に関し、原油価格とトウモロコシの仕向量の長期トレンドは、図7の通りである。以前は、原油価格とトウモロコシのエタノールへの仕向け量、さらにはトウモロコシ価格との関係はなかったが、2003年以降は、原油価格の上昇に伴って、仕向け量も価格も上昇傾向にある(図8)。このように近年、トウモロコシ価格は原油価格の影響を強く受けていることがわかる。原油価格だけでなく、RFSなどの政策支援により、エタノールの人為的な需要が生まれ、その主原料となるトウモロコシの需給が堅調となっていることもある。
図7 原油価格(WTI)とトウモロコシのエタノール仕向け量の長期トレンド
図8 原油価格(WTI)とトウモロコシ価格の長期トレンド
ただし、ここ1年の状況をみると、原油価格は2007年2月以降、上昇を続けているが、トウモロコシ価格は2007年度の生産量が過去最高の水準であったことからも、依然として高水準ではあるが落ち着きをみせている。トウモロコシ価格は、原油価格だけで大きく左右されるわけではない(図9)。
図9 直近1年の原油価格(WTI)とトウモロコシ価格の推移
このように、原油価格とエタノール混合ガソリンとの関係は複雑である。
需要面から考えると、ブラジルでは、すでにE100(含水エタノール100%)が全国で販売されており、かつ「ガソリン」にもすでに25%のエタノールが混合されている。この場合、原油価格が高騰するとガソリンの「代替剤」としてE100の需要は高まる。ただし、ガソリン(E25)については、原油価格の高騰によりE25の価格も上昇するので消費にはマイナスとなる。しかし、前述のようにブラジルは原油増産も推進しており、原油高騰による利益は、国産原油の販売を通じて、エタノールを利用している石油業界を潤している。
一方、米国の場合にはE85の需要は増えているものの、現状ではE10、またはそれ以下の混合率が主流となっており、現状ではエタノールはガソリンの「添加剤」のレベルにとどまっている。この場合、原油価格の高騰の下では低混合率の混合ガソリンの価格優位性は低くなり、原油価格の作用面のみからすれば、需要も減少することになる。実際に、アジアで唯一、輸出余力があるとみているタイのバイオエタノール混合ガソリン(E10。全ガソリンスタンドの約半数で普及)は、価格が原油価格の高騰を受けて大きく上昇したことなどにより、その消費が減退したことから、今年1月には1リットル当たり1.5バーツであったガソリンとの価格差(政府が統制)を3.5バーツに拡大させ、消費者の利用促進を図っている。
米国では、RFSなどの政策効果により需要は増加しており、今後、高混合率の混合ガソリンへと移るにつれて、原油価格と混合ガソリンとの関係は、ブラジルのように「代替剤」としての関係になる。
原油価格とエタノール工場でのトウモロコシの損益分岐価格との関係はより複雑となる。現在の原油価格の下で、いくらのトウモロコシ価格なら採算がとれるかということであるが、工場の建設時期(新設工場ほど初期投資が大きく、原料調達も苦労する)、エタノールの製造能力、製造コスト(工場により開きが大きい)などにより異なってくるので分析が大変難しく、条件設定等を慎重に見極めないと「実態」を反映していないことになりかねない。
6 バイオエタノールの生産コストと原料によるエネルギー収支比の比較
われわれが昨年8月に調査したミネソタ州のドライミルの工場(2006年操業開始)では、総コストに占める原料代が約50%、エネルギー代が約30%であり、コストの最大要因は原料代であった。ブラジルではエネルギーコストが小さいため、原料代のウェイトがこれより高い。米国ではトウモロコシの購入価格がエタノールの生産コストに大きな影響を与え、熱源・電源である天然ガスの変動の影響も強く受ける。したがって、調査時期、工場の規模、立地などによって生産コストも大きく変動する。
このように国別に生産コストを一本化し比較することは難しいが、参考までに、米国でのトウモロコシを原料とするバイオエタノールの生産コストは0.25ドル/リットルと、ブラジルのさとうきびを原料とする製造コスト0.20ドル/リットルに比べると割高である[14]。
また、原料作物から製造されたエタノールのエネルギー量と投入エネルギーとの比(産出/投入比:エネルギー収支比)については、米国のトウモロコシを原料とする場合には1.3〜1.8と、てん菜(1.9)や小麦(1.2)を原料とする場合とはほぼ同等であるものの、ブラジルのさとうきびを原料とする場合の8.3に比べると生産効率は大きく劣っている[15]。ブラジルのさとうきびを原料とする場合には、工場の燃料にさとうきびの副産物であるバガスを利用できる点で他の原料よりも有利になっている。米国の新しいエタノール工場の多くは燃料として天然ガスを使用しているが、近年の天然ガス価格の上昇は、生産コスト高の要因の一つとなっている。無論、トウモロコシのようなでん粉質原料とさとうきびのような糖質原料とを比べれば、糖化工程にかかるエネルギーが不要な糖質原料の方が有利であることはいうまでもない。
7 バイオ燃料と穀物および食品価格の高騰、開発途上国への影響を懸念
2007年7月4日に発刊されたOECD(経済開発協力機構)およびFAO(国連食糧農業機関)の「農業アウトルック2007-2016」によると、バイオ燃料向け原料需要の増加が、今後、多くの農産物の国際価格を引き上げるとしている[16]。余剰農産物や輸出補助金の減少も価格を引き上げる要因であるが、それ以上にバイオ燃料生産のための農産物需要の増加が大きな要因になるとしている。さらに、飼料穀物価格の上昇に伴い、飼料を通じて、間接的に畜産物の価格上昇にもつながるとしている[16]。
また、同年11月7日のFAOの「Food Outlook Report」によると、2007年の食料輸入額は21%増加しているが、そのうち開発途上国のみをみると25%の増加とさらに大きくなっており、食料価格の上昇は、特に途上国に大きな影響を及ぼし、多くの低所得食料不足国(LIFDC)での食料の輸入と消費を減退させるとしている[17]。
主要農作物の生産地での干ばつや在庫の減少などは一時的な価格上昇の要因であるが、バイオ燃料の生産によるトウモロコシをはじめとする穀物やさとうきび、菜種などの利用増加による上昇は長期的に影響するものと考えられている。主要農産物の輸入コストは、FAOによると乳製品で最も高騰しており2007年には前年に比べ約65%の上昇で、その他、穀物や植物油では約40%の上昇となっているが、砂糖では価格が落ち着いたことから約35%下降している[17]。
8 トウモロコシ以外のセルロース系原料の利用可能性
上記のように、米国のトウモロコシ・エタノールを取り巻く情勢は、食料vs燃料、さらには開発途上国の食料問題の観点からも厳しさを増している。米国内でも今年に入り、畜産関係団体が反対運動を強化している。
このような中、米国では、トウモロコシをはじめ、スイッチグラス、セルロースなどからのバイオ燃料の生産などに関する調査・開発計画に対して資金が提供されており、商業市場におけるバイオ燃料の価格競争力を高めることを目的とした製造技術の開発に充てられている。具体的には、USDA(米国農務省)からは、バイオ燃料の供給原料の生産および製品の多様化に関する調査研究に対して2006年度に1,280万ドルが、また、DOE(米国エネルギー省)からは、バイオエネルギー原料としてのセルロースの開発に対して2006〜2008年度にかけて470万ドルが提供されている[18]。
スイッチグラスなどのセルロース系原料は、トウモロコシを原料とする場合のようには食料や飼料と競合しないことから注目されているが、商業ベースでの生産の実現までは時間がかかり、その後も、トウモロコシのエタノール向け数量を大きく減らすまでは、生産が拡大しないと予測されている(図10)。セルロース系原料は産出エネルギー量が小さいとも言われており、また他の作物との競合があるなどの課題がある。
図10 原料別バイオエタノール生産の予測
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別名 Tall Panic Grass
北米大陸土着植物
C4植物、多年生
高さ1.8〜2.2m程度
成長早い、肥料わずか、耐干性、病害虫抵抗性
飼料、cover crop
400リットル/トンのエタノール
生産が期待
高エネルギー効率:
とうもろこしの20倍とも言われている。
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写真 スイッチグラス |
9 バイオエタノールの最近の状況と見通し
2007年農業法の検討状況をみても、現行の各種政策の継続または拡大が見込まれる中、投資ファンドによる影響も加わり、トウモロコシを原料とするエタノールの市場は今後も拡大すると考える。USDAの長期予測においても、図11のようにトウモロコシのエタノール向け需要は、2009/10年度まで急速に増加した後も継続して増加するとみられている[19]。
また、エタノールの生産量は、図2に示すようにFAPRI(食料・農業政策研究所)では、トウモロコシのエタノール向け需要と同様に2009/10年までは急速に増加し、その後伸びは鈍化するものの増加を続け、2012/13年度には120億ガロンになると予想している。USDAによる予測もFAPRIと同じく2009/10年までの増加が著しいとしているが、生産量は2016/17年度にも120億ガロンを超える程度であるとしている[19]。
ちなみに、CDFA(Calfornia Department of Food and Agriculture)では飼料向けなど他用途への供給に支障をきたさない範囲での、トウモロコシを原料としたエタノール生産量は、全米で140億ガロン程度とみている。
トウモロコシ価格は高値で推移しており、2007年9月には3.5ドル/ブッシェルとなっている。価格についても、2009/10年度まではエタノール向け需要の増加により3.75ドル/ブッシェルまで上昇するが、その後は、エタノール需要の伸びが鈍化し、トウモロコシ生産量が追いつくことで需給バランスが図られ、価格も下落すると予測されている[19]。
最近ではトウモロコシ価格の高騰、エタノール価格の下落により、新しく建設された比較的小規模な工場(工場建設費も高騰)の利益が減少していると言われているが、他方、大規模な工場はエタノールの生産を順調に増加させている。
一方、エタノールの利用面は、前述の事情(輸送インフラ課題、E85のガソリンスタンドの整備やFFV車の普及の遅れなど)から不安がある。
今年8月に調査したカリフォルニア州にあるでん粉・糖化製品工場では、(1)石油価格が下がる可能性、(2)原料トウモロコシ価格の上昇、(3)新しい工場の燃料である天然ガス価格の上昇、(4)税金の優遇措置の期限、(5)工場建設ラッシュによる生産能力超過をバイオエタノールの不安定要因として挙げ、エタノール生産での利益は原油、トウモロコシ、天然ガスの価格次第であるとしている。また、エタノールの原料としては、ブラジルでの普及を例にさとうきびが最適であるとの考えを示している。
世界の燃料向けエタノールの生産量は2006年には397億リットルで、ガソリン需要の3%である[20]。仮に、このエタノールをすべてさとうきびから生産した場合には、世界の砂糖総需要の約28%に当たる約4,060万トンの砂糖がエタノールに置き換わることになる。2007年8月に開催された米国砂糖連盟主催の第24回国際甘味料シンポジウムにおいて、ブラジルの市場アナリストは、現在の燃料向けエタノールの生産量はガソリン需要の3%に当たるが、ガソリン需要は2020年までに40%拡大すると予想している。
以上のように、各種支援策を受け、エタノールの生産は今後も増加すると考えるが、最近のトウモロコシ価格の高騰、エタノール価格の下落傾向、原油価格がどうなるのか(特に小規模な工場の収益性問題)、天然ガス価格の動向、輸送インフラや給油所の整備状況によっては、供給過剰の状況も起こり得るのではないかと考える。
生産コストの最大要因であるトウモロコシの生産動向は、エタノール生産に直接的な影響を与える。トウモロコシ相場については、以前は生産見通しなどを反映していたが、今はコモディティ・ファンドの介入が相場に大きな影響を及ぼしている。供給量が増加してもなかなか相場が冷えないのは、このためである。トウモロコシは、好調なエタノール需要を反映して、大豆からの転作などにより作付面積を増加しているが、最近のEUのバイオ燃料(バイオディーゼルが主)の混合の義務化の決定などを受け、大豆油の価格が高騰しており、ファンドが米国の大豆市場にも介入しつつある。まさに、限定された土地内でのトウモロコシと大豆との競合が起こりつつあり、工場によってはトウモロコシの確保に苦慮するところも現れるだろう。
図11 トウモロコシの需給予測
おわりに
今年8月に訪問した、カリフォルニア州のトウモロコシ農家によると、トウモロコシの主産地である中西部では、収穫後、カントリーエレベーターに貯蔵しておき1、2年後に販売されることが多いとのことである。そのため、2007年の作付面積は拡大が予測されているものの、生産されたトウモロコシが市場に出回るまでは高値傾向が続くと考えられる。実際に、シカゴ先物相場(期近)でブッシェル当たり400セントを超えていた今年の初めに比べると価格もいくらか安定してきているが、エタノール生産によるトウモロコシ需要の動向は今後も継続的に見ていく必要があるだろう。
また、ブラジルと並んで世界のエタノール生産大国の米国は、ブラジルとは、政策アプローチも、生産構造、利用状況も随分異なっている。米国のエタノール産業の発展は、天候、原油価格などの外部要因を除けば、RFSがさらにどの程度引き上げられるか、その実効性をどう高めていくかによって大きく左右される。混合ガソリン(特にE85)の利用を推進する施策も必要となろう。
一方で国内外(トウモロコシの最大の顧客である畜産農家、OECDなどの国際機関、環境グループなど)から逆風も受けているのも事実である。バイオ燃料は、化石燃料に比べると温暖化ガスの排出を15〜26%削減できる(米国エネルギー省)として、地球環境への配慮を理由にその利用が進められてきたが、環境団体などからは、米国のトウモロコシは本当にカーボンニュートラルかとの疑問も出されている。
米国は世界最大のエネルギー消費国であり、経済発展に伴いその消費量は拡大を続けている。USDAでは、2009/10年度には米国産トウモロコシの30%以上がエタノール生産に供給されると見ている。さらに、2016/17年度には31%のトウモロコシがエタノール生産に向けられ、120億ガロン以上のエタノールが生産されるものの、その量は米国全体でのガソリン消費量の8%にも満たないとしている[19]。地球温暖化ガス削減のためには、バイオ燃料だけでなく、省エネや自動車利用の抑制などガソリン消費量自体を抑制する施策と同時並行で行う必要があろう。
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