中国、農畜産物の安全性向上の推進を強調


農業部が動物衛生リスク評価の専門家委員会を設立

 中国農業部は11月15日、北京市で全国動物衛生リスク評価専門家委員会(全国動物衛生風検評估専家委員会)の設立大会を開催した。同委員会は、国の関係部門や高等院校(中国における学院(≒単科大学)および総合大学の総称)、科学研究分野、農業関連分野など多方面の専門家からなり、動物衛生リスク評価および獣医学的な管理政策の決定に関する諮問機関としての任務を負う。

 設立大会の席上、尹成杰農業部副部長(兼農業部共産党組副書記)は、中国共産党中央委員会および国務院が重大動物感染症(口蹄疫、豚コレラ、高病原性鳥インフルエンザなど)の防御と畜産物の安全性に対する監理を非常に重視していることを指摘し、そのための監理体系や技術支援体制、法体系、トレーサビリティシステムおよび科学的なリスク評価体系などの構築の必要性を説いた。併せて尹副部長は、各級政府の畜産獣医主管部門に対し、動物防疫法など関係法規や国務院の通知(「獣医管理体制改革の推進に関する国務院の若干の意見」:2005年5月14日国発〔2005〕15号)などの規定を確実に実施し、中国の重大感染症の防御能力および畜産物の安全監理水準を確実に高め、畜産業の国際競争力を持続的に向上させていくことが新たな任務であるとした。

 この設立大会において、尹副部長はまた、動物衛生リスク評価制度の開発・発展は、動物防疫および畜産物の安全管理システム構築のための緊急任務であると強調し、関係各部門に対し、(1)情報の共有、関係部門間の支援・協力などによる組織協調の強化、(2)任務に対する考え方の整理と計画策定、任務手順の明確化などによる規則・制度の充実、(3)法制順守、科学的見地の尊重、民主発揚および各分野の交流強化と国際規則・基準に対する研究強化などによる科学主義と民主発揚の堅持、(4)動物衛生リスク評価任務に対する組織、制度、人員および経費などの面における強力な保障の提供−について重視するよう要請した。


農業部は畜産物の安全性向上をアピール、一方で問題点も認識

 2007年8月13日付け国務院通知(国弁発〔2007〕56号)による国務院製品品質・食品安全指導小組(組長:呉儀国務院副総理)の設立を受け、農業部は畜産物品質安全改善行動任務小組(畜産品質量安全整治行動工作小組:以下「畜産物安全小組」)を設立、11月13日にこれまでの成果を発表した。

 これによると、全国各級政府の畜産飼料管理部門および品質検査機関の共同努力により、中国の畜産物に対する品質安全意識は明らかに向上し、任務も順調に進展しているとされる。また、畜産物の品質安全確保の前提の一つでもある飼料の品質安全性の向上についてもふれ、全国の省級以上の飼料品質検査センターの抽出検査による飼料の合格率は87.8%(サンプル数2,929)、うち飼料添加が禁止されている薬物検査に対する合格率は98.9%(同2,002)であったとしている。さらに、河北省、浙江省および江西省など豚の主産省におけるクレンブテロールの検査では、養豚場235カ所およびと畜場8カ所の豚の尿2,154サンプルからの検出数が11サンプル、検出率はわずか0.51%にとどまったとしている。

注 クレンブテロール
  本来は気管支拡張薬としてぜんそく治療などに使用される薬物であるが、海外では成長促進剤や筋肉増強剤などとして使われることがある。中国では、禁止されているにもかかわらず、豚肉の赤身部分の色つやをよくするとして、豚に投与する例があり、上海市では、2006年9月、クレンブテロールを投与された豚の内臓や肉の摂取による大量食中毒事件が発生している。

 しかし、9割弱にとどまっている飼料の合格率については、安全性を示す数字としては到底高いものとは言えず、かつ本来は含まれていること自体が違法であるはずの禁止薬物が検出されているという事実は、食の安全・安心の確保という観点からも大きな問題であると言えよう。こうした実態については、畜産物安全小組も十分認識しており、今後の任務における重点事項として、(1)監督指導検査の強化によるクレンブテロールなど禁止薬物問題の解決、(2)飼料監理および畜産物の品質安全性の向上意識の育成など畜産物の品質改善に対する啓発任務の強化、(3)現場により近い各級地方政府の農業執行部門に対する指導・支援の強化−を挙げている。


全国農産物品質安全懇談会、各省の取組状況を検討

 こうした中、農業部は11月24日、湖南省長沙市において、省級レベルの農業主管部門を対象に、全国農産物品質安全特別改善懇談会(全国農産品質量安全専項整治座談会)を開催した。会議では、各省・自治区などから事前に提出された改善目標とその達成状況、注目事項、問題点および品質安全監理などに関する検討などが行われた。

 高鴻浜農業部副部長は、同市内の農産物卸売市場などを現地視察する一方、会議の席上において、(1)農薬、動物用医薬品、飼料および飼料添加物などの監理強化、(2)農産物卸売市場の監理強化、(3)農産物の安全な生産に対する指導・育成の強化、(4)農産物の品質安全管理に対し、長期にわたって効果的な機構・制度構築の推進、(5)農産物特別改善検査任務の確実な実施−の必要性について強調した。また、これと併せ、国務院製品品質・食品安全指導小組の組長を努める呉副総理の指示により、農産物の安全生産の基本知識に関する書籍シリーズを農民に無償配布することなどを明らかにした。


国際食品安全フォーラム、中国は改善努力の継続を強調

 中国製品の安全性に対する不安が世界各地で取りざたされる中、11月26〜27日の2日間にわたり、北京市において、国際食品安全ハイレベルフォーラム(国際食品安全高層論壇)が開催された。このフォーラムは、中国衛生部および国家質量監督検験検疫総局、世界保健機関(WHO)が共催したもので、世界43カ国・地域と国連食糧農業機関(FAO)など10を超える国際機関から600人を超える代表者が出席し、世界の食品安全分野における現状分析や食品の安全性保証に対する理念などに関する議論を通じ、食品の安全性確保とこれに向けた国際協力の強化を模索した。

 フォーラムの開会式において、呉副総理は、中国政府が食品の安全性を非常に重視していることを強調し、食品の生産・加工、流通、消費に到るまでの各段階における中国の安全管理能力および監理水準は絶えず向上し続けているとした。そして、食品の安全性確保は世界各国が直面している共通課題であり、食品の安全性保証は国際社会の共同責任であるとした上で、中国は世界最大の発展途上国であり、生産水準や食品安全監理能力について、先進水準に比べると一定の格差があるとした。さらに、世界の食品安全性確保に対し、(1)食品安全分野における国際協力の強化、(2)食品生産地における環境保護の重視、(3)国際食品安全情報の通報システムの早期構築、(4)国際的な食品安全問題に対する友好的な協議による解決、(5)メディアを通じた世論による食品安全監督機能の発揮−の面から引き続き努力していくとの決意を表明した。

 しかし、(4)において、中国側が「品質安全のための基準や技術を口実に貿易障壁を設定し、個別の問題をとらえて製品の輸入制限を行おうとする国際貿易保護主義が形成されている」と述べたことについて、フォーラムに出席したEU委員会のピーター・マンデルソン通商担当委員が、この件は消費者の安全に関する問題であり、貿易については国際基準に従うのが当然と批判するなど、一部には中国の政治的な駆け引きも垣間見える。

 フォーラムは最終日の27日、食品の安全性確保のための法整備やリスク分析に基づく国際基準の制定、食品の安全性を脅かす事件・疾病の発生など緊急時における国際機関への通報システムの確立、途上国・先進国間および途上国間での食品安全性確保に対する能力向上のための協力の強化など、すべての国に向けた7項目の提言を内容とする「北京食品安全宣言」(Beijing Declaration On Food Safety)を採択・発表して終了した。しかし、国家としての建前・体裁と実態との乖離(かいり)に悩む中国にとって、農畜産物など食品を含めた製品が国内外でその信頼を回復するためには、今後も多難な道のりが予想される。


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