LIPC WEEKLY
【シンガポール特派員 末國 富雄 8月1日発】 シンガポールは、国内で消 費する食糧の90%以上を外国からの輸入に依存している。しかし、国内の農業 生産がなくなったわけではなく、最近では逆に、極めてシンガポール的な方法で の農業生産の拡大努力が行われている。 シンガポールは、全面積が620kuと、東京都に匹敵する広さの島に約30 0万人がすみ、東京ほど過密ではないとしても、農地に使えるほどの余剰の土地 はない。このため、農業は主に島の北西部の、政府が区割りした期限付きの有料 借用地にある農業団地内で集中的に行われている。 全部で6カ所ある農業団地は、生産する農産物などの特殊性と政府の開発意図 を反映して、アグロ・テクノロジー・パーク(ATP)と呼ばれる。ここでは、 野菜や鶏卵、牛乳といったものから、養殖魚や鑑賞用植物、ワニ、熱帯の鳥類な ど特殊なものまで生産され、マレーシアなど外国からの輸入品との競争に耐えら れるよう、高度な技術内容を持ったものに限定されている。95年のATPの生 産高は、2億3千万Sドルである。同年の食糧国内消費額(輸入額−輸出額)が、 約16億ドルであるところから、ATPの生産高は決して少ないものではない。 シンガポールの産業は、貿易、金融、観光などが中心で、いわば日常的に他国 との交易の中で成り立っている国である。経済運営への自信からか、「必要な食 料は輸入すればよい」と国際分業論が中心を占めてきた。しかし、最近では農業 に対する相応の負担を肯定する意見もあり、産業として生産性の低い農業への一 定の理解と、農業を有望なビジネスの一分野とする見方が相半ばする。 7月中旬、国家開発省第一産品局(PPD)の案内で、国会議員団がジュロン 地区の獣医公衆衛生研究所とスンゲイ・テンガATPの養殖魚と採卵養鶏場を視 察した。参加した国会議員団を代表して、国家開発委員会のチャン・ヒー・コク 委員長は、ATPは農業用地が制約されている中で、国内で消費する食糧を国内 で生産している例であると賞賛し、「シンガポールは、食料の生産に対する投資 を国内で消費する以上に行うべきである」と述べている。同委員長は、今後の具 体的な方法として、マレーシアなど国外への食糧生産のための投資を呼びかけて いる。「シンガポール国内で培った技術を使って安価な農地や労働力を利用でき る」という経済的な利点とともに、「自分の卵を1つのカゴだけに入れておくべ きでない」と食糧確保の必要性を指摘している。 シンガポールは、このような開発輸入型の海外投資を既に幾つか実施している。 ショウガ、バナナなどの組織培養技術を近隣国にある合弁企業へ導入し、その生 産物を輸入しているのがその1つの例であり、最近では養殖稚魚のふ化飼育技術 開発にも力を入れている。 PPDでは、国内のATPの生産高を2000年には現在の倍の4億5千万S ドルにまで拡大し、500の農場と6千人の雇用を抱えるまでに拡大したい意向 である。
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