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イギリスの農業経営における週48時間労働


 【ブラッセル駐在員 東郷 行雄 12月4日発】 欧州司法裁判所は、このほ
どイギリス政府に対し、残業を含む週当たりの労働時間を上限48時間とするこ
となどを内容とするEU指令を同国内においても適用するよう決定した。この指
令は、農業面においては家族労働を適用除外としているものの、労働者を雇用し
ている大規模農場経営者については労務管理の見直しを迫る内容となっている。
イギリス畜産業における労働事情について最近の話題を報告する。

 (1)労働時間に関するEU指令の適用
 欧州司法裁判所の今回の決定は、93年11月に制定された「労働時間の設定
等に関するEU指令」に基づき、96年11月23日までに各加盟国が行わなけ
ればならない国内法の整備、適用について、イギリス政府が実態に合わないとし
て同指令の適用除外を同裁判所に求めていたものに対し、なされたものである。

  同指令は、労働者の健康や安全性の観点から労働者の保護を目的として、週当
たり労働時間の上限を48時間と設定したほか、1日当たりの非労働時間を最低
連続して11時間とすること等が規定されている。

  農業関係については、収穫期など作業が集中することが予見できる場合におい
て、労働者に対し基準を満たす非労働時間を他の時期に振り替えて保証すること
を前提に、この規定の適用の免除が認められている。

  今回の決定に対し、他のEU諸国に比べ労働者を雇用している大規模農場が多
数みられるイギリスでは、これらの基準を達成するために新たな熟練労働者の確
保などが必要となる。特に柔軟性を持った作業時間が求められる酪農経営や耕種
経営の経営者にとっては厳しいものとして受け止められており、農業団体を中心
にイギリス政府に対し、同指令からの農業経営の適用の除外を求める動きも出て
いる。

  しかし、労働者側からみれば今回の決定は朗報であり、同指令の対応について
はイギリス国内においても足並みがそろっていないというのが真相のようである。

(2)BSE問題下における労働事情
 イギリスの調査機関が発表したところによると、今年3月の牛海綿状脳症(B
SE)問題発生以降、この問題が起因となって職を失うなどの影響を受けた労働
者を調査した結果、イギリス全体では、1万人以上が失業し、2万人を超える労
働者が労働時間の短縮や不安定な雇用契約下に置かれていることがわかった。

 この調査は、イギリス国内の農場、食肉加工業、食肉処理業、家畜市場、運送
業などに従事する労働者を対象として、BSE問題発生後初めて行われたもので
ある。

  調査機関の説明によると、正確な情報の入手は、調査の性格上政治的な要素も
からんでいることから困難な面もあり、これらの集計数字は氷山の一角にすぎな
いとして、実状はより深刻な事態であることをうかがわせている。

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