LIPC WEEKLY
【ブラッセル駐在員 池田 一樹 7月10日発】 EUでは、中・東欧諸国の 加盟問題、ガット・ウルグアイラウンド(UR)合意による輸出補助金削減、 1999年から開始される次期WTO(世界貿易機関)交渉などを背景に、マッ クシャーリー・マークUと呼ばれる、1992年以来の共通農業政策(CAP) の改革の動きが活発になってきている。 CAPの更なる改革は、主に穀物、酪農および牛肉分野を対象として、検討が 本格化し、1年後には概要が取りまとめられる見通しである。 改革の背景としては、中・東欧諸国のEUへの加盟交渉を1998年初頭に控 え、農業予算増加に対する抑止制度の導入、市場指向性の高い96年米国農業法 などの影響で、今後の国際価格の低下が懸念される中での輸出補助金の削減、1 999年からのWTOラウンドに備えた補助金政策の転換などが挙げられる。 酪農分野については、1984年のクオータ制度導入以来の大きな改革になる ものとみられる。検討中の主な改革案は、域内の乳製品の支持価格を国際レベル にまで引き下げ、輸出補助金を削減する。その一方で、酪農家の損失補てんのた め、新たに乳牛奨励金といった直接補償制度への転換を図るといったものである。 クオータ制度については、従来のクオータを直接補償制度とリンクさせ、削減し ていく一方、従来のクオータの超過分は、一連の価格支持制度の対象としないク オータとして追加するといった改革も検討されているとみられる。安価な乳製品 を生産している中・東欧諸国の酪農分野をCAPに取り込むうえでは、支持対象 外のクオータの導入は重要な検討課題とみられる。 しかしながら、牛の頭数当たりで支払われる直接補償制度については、UR交 渉の過程において、牛肉分野で国内支持の削減対象外にする旨が、EC・米国間 で合意されたとはいえ、既にケアンズグループからの指摘を受け、次期WTOラ ウンドでは、生産との関連に議論が集中することは避けられないものとみられる。 このため、今後、対象頭数になんらかの制限措置、環境保全などとの関連付けな ど、デカップリングの色彩を強め、国内支持の対象外とする政策に持ち込むため の検討が行われるものとみられ、その検討結果は、まず、来年初頭に提出される ものとみられる。 牛肉の分野では、同一牛に対して2回支払われている雄牛特別奨励金制度につ いて、2回目の支払い(22カ月齢以降)は肥育期間の延長により、需要を見い 出せないまま、単に枝肉重量の増加を招いているとして廃止し、1回目の支払い を増加させる案が本年度の価格パッケージ案に提出されていたが、先月末の農相 会議では合意を得られなかった。この代案として、枝肉重量の減少および粗放的 飼養形態での奨励金支給などにより、需給バランスの改善を目指す改革案を、B SEの影響を見定めながら今年9月までに取りまとめることになり、奨励金の改 革についても棚上げされている。
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