LIPC WEEKLY

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タイ鶏肉業界の懸案事項



【シンガポール特派員 末國  富雄 6月20日発】 対日輸出シェアを減少さ

せているタイ鶏肉業界の国際競争力低下を指摘する声がある。しかし、現地では

国内消費や鶏肉調整品輸出の増大を背景に沈滞した雰囲気はない。業界では、日

本市場の需要と飼料原料の価格動向に強い関心を持っており、特に飼料コスト削

減に必要な措置を政府に要求する姿勢を明らかにしている。



 ここ数年、中国からの日本向け鶏肉輸出が急増し、日本の鶏肉輸入量全体を肥

大させた。しかし、それによってタイ産鶏肉そのものが大きく減少したわけでは

ない。主流である「骨なし冷凍品」の輸入単価を見ればタイ産が最も高い。その

中での現状維持は、タイ鶏肉業界の努力によるものであろう。その1つが、対日

輸出拡大のために製品の加工度を上げ、より付加価値をつけた鶏肉の生産にある。



 バンコクの北25kmに処理場を持つ中堅ブロイラー会社では、種鶏や飼料事

業以上に鶏肉加工分野での改善を強調している。今後、特に力を入れたい製品は

「調理済みの鶏肉」つまり消費者が電子レンジにかけるだけで食卓に出せるもの

である。



 この点について、バンコクのある日系鶏肉貿易業界の見方は若干異なる。加工

品へのシフトは、日本側の需要動向を反映したものということである。日本は需

要元のさまざまな要求、つまり加工内容、包装、出荷単位、価格などに応じてく

れる鶏肉生産・輸出業者と選択的に取引きしてきた。タイは日本の要求内容(レ

シピ)によく対応してくれる国の1つである。ところが、タイの製品開発能力は

まだ不十分で、日本側の出すレシピは新製品開発に重要な役割を演じている。つ

まり、日本の需要が、日本国内や中国、タイなどの鶏肉産業を選択し、成り立た

せているというのである。



 一方、タイ鶏肉が対日競争力を確保する上で生産コストの高さは最大の弱点で

ある。労働コストの上昇もあるが、何といっても飼料コストの影響が大きいこと

にある。タイ鶏肉業界は、養豚業界などと協調しながら、政府に飼料原料、特に

大豆ミール、魚粉の課徴金や関税の引き下げや還付を要求してきた。



 飼料輸入制度は、96年にWTO体制の下で関税と割当制に移行し、課徴金制

度は廃止された。ところが、タイ鶏肉業界の立場から見れば、飼料原料の輸入に

は依然として2つの問題がある。1つはいかに割当量を拡大するかという点であ

る。もう1つは、輸入飼料の関税額のうちの鶏肉輸出相当分の還付である。ブロ

イラー加工輸出業者協会のアナン事務局長は、高等裁が「科学的に算出する」こ

とを条件に認可し、輸出品の原料に係る関税還付は当然の権利であるとしつつも、

関税当局の対応は緩慢であり、払い戻しが実現するのは今年の終わりか来年初め

になるという見通しを述べた。さらに日本の関税率に触れ、「骨付きモモ」の税

率が「その他」より低いのは特定の国を利するものではないかと指摘した。今後

の焦点は、トウモロコシが3%で55万トン、大豆ミールが15%で83万トン

と輸入実績に近い数量の輸入割当が決定されていることもあって、関税相当分の

払い戻しになるとみられる。


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