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イギリス産牛肉等の禁輸解除に向け、新たな動き



 【ブラッセル駐在員  池田  一樹  1月16日発】 イギリス政府は、遅延して
いた牛海綿状脳症(BSE)に感染した牛と同一農場・時期に生まれた牛のとう
汰(選択的とう汰)を開始すると発表した。これにより、昨年3月末から続いて
いるイギリス産牛肉等の禁輸の解除に向けた検討を開始するための前提条件がす
べて実施に移されることとなった。

 イギリス産牛肉等の禁輸については、昨年6月、段階的な解除に向けての枠組
みが合意されている。この合意では、解禁に向けての検討の開始に当たり、イギ
リスでの30カ月齢以上の牛の処分計画(OTM計画)の効率的実施、牛の移動
記録の徹底など5条件が前提とされている。

  これまで、イギリスでは、OTM計画に関して110万頭以上の処分を実施し
ており、既に能力不足による処分の順番待ちは解消されている。また、牛の移動
記録については、牛パスポート規則を施行し、さらに、今後はコンピューターに
よる一括管理の導入を計画するなど、4条件は実施に移された中で、選択的とう
汰が唯一残された条件であった。

  選択的とう汰は、既に昨年7月に法制化が始まった。しかし、その後、とう汰
の効果や効率に疑義を唱える学術論文が発表され、当初計画に沿った実施に関係
者のコンセンサスを得られなかったことなどから、実施が遅延していた。しかし、
他の加盟国は、当初計画通りとう汰を実施しない限りは禁輸解除の協議に応じる
様子は見せていないことなどから、ついに実施が決定された。

  これで、禁輸の段階的な解除に向けての前提条件が出そろったことになり、禁
輸の段階的解除の枠組みによれば、次のステップはEU委員会への防疫の進展状
況に関するワーキングペーパーの提出である。イギリス政府は、これに併せて、
“牛群証明計画”を提出する準備をしている。この計画は、輸出牛肉等の生産用
の牛については、30カ月齢以下であり、過去にBSEの発生がない牛群で飼養
されており、かつ、と畜前6年間はBSEの発生のあった牛群と接触のなかった
旨を証明することを骨子としている。禁輸解除の一つの段階として合意済みであ
るBSE清浄群の牛肉等の輸出を目指した具体策である。

  EU関係者は、イギリス政府による選択的とう汰開始を歓迎している。ただし、
禁輸解除問題の検討開始は、事前にイギリス政府の一連の防疫措置の検討評価な
どが必要なことから、まだ先になるものとみられる。

  一方、先般、EU委員会では、12カ月齢以上の牛、めん山羊の頭部、せき髄
などBSEの伝播源としての危険の高い、いわゆる“特定危険部位”を、食用、
飼料用ともに使用を禁止しようとする提案が否決された。EU委員会としては、
イギリスのみならずEU全体で、めん羊のスクレイピーとBSEとの関係の可能
性にまで細心の注意を払い、疑わしきは罰することにより防疫の万全を期する構
えでいた。これに対し、加盟国の多くは、自国とイギリスとのBSEの発生状況
の相違を理由に反対した。単一市場とはいえ、統一した防疫の実施を阻む国境が
顕在化した票決結果となった。

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