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【シドニー駐在員 鈴木 稔 5月8日発】 世界的に遺伝子組み替え食品の表示 問題が大きな議論となっている中で、豪州食品加工業界は表示に反対する立場にあ るが、先ごろ、小規模の健康食品メーカーが発表した「未使用」表示を行う計画に 対し、食品加工業界の中央団体が計画を再考するよう説得に動くなど、内部に足並 みの乱れも見られる。 遺伝子組み換え農産物の安全性に対する消費者の関心と懸念の高まりに伴い、世 界的に遺伝子組み換え農産物・食品の表示問題が大きな議論となっている。 遺伝子組み換え農産物・食品に関する議論の構図は、大まかには、生産・加工 (+これを承認する行政)サイド対消費者・環境保護派という形で(あるいは輸出 国対輸入国という形で)、前者は、遺伝子組み換え産品は通常産品と同等であり、 安全性は確保されている、したがって特段の表示は必要ないとの立場である。また 後者は、(例えば牛海綿状脳症(BSE)のように)現在の科学水準で安全であっ ても将来的にも安全であると保証されたものではない、安全なものを求めようとす る消費者には知る権利と選択の自由がある、だから表示すべき、あるいは環境破壊 につながる危険性から生産そのものを禁止すべきという立場であり、議論は平行線 をたどっている感があるが、既に欧州では幾つかの国が表示の義務化、輸入・生産 の禁止などの動きを見せている。 豪州でも、この問題に関しては、今年2月初めに各種食品の安全性に関する基準 の作成・勧告等を行う機関である豪州・NZ食糧庁が、遺伝子組み換え食品の原則 販売禁止、例外的に個別事例ごとに安全性が確認され、公聴会を経て承認されたも のは販売可能、また、遺伝子組み換え農産物を原料として5%以上含む食品はその 旨を表示することという非常に厳しいガイドライン案を公表している。 このガイドライン案に対し、大手食品加工メーカーが中心となって組織された豪 州食品加工業界の中央団体である豪州食品評議会(AFC)は、遺伝子組み換え技 術によって生産された農産物・食品が通常のものと同等の栄養価、組成であると認 められれば表示は必要ないと主張し、一方、消費者団体は、表示等に大きなぬけ穴 があるとコメントするなど、この案は両サイドから批判を浴びている。 ガイドラインが最終的に決定されるまでにはまだ数カ月を要するとみられている が、このような中で、先ごろ、小規模の健康食品メーカーが自社の豆乳に遺伝子組 み換え大豆を使用していない旨の表示を行う計画を発表するなど、加工サイド内部 に足並みの乱れも見られる。表示が義務化されなくても、いったん表示を行えば、 消費者からの要求がさらに強まり、すべての食品に波及することを懸念するAFC は、この企業に計画の再考を促している。 たとえ、表示が義務とならなくても、この問題は、食品の製造サイドと消費者が 情報・意見交換により相互の理解・認識を深め、顧客ニーズとしての(任意の)表 示の在り方、その場合のコスト負担など、時間をかけた対話が必要のように思われ る。
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