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【シンガポール駐在員 山田 理 5月8日発】 所得の向上による鶏肉消費の拡大 を受けて、毎年10%以上の高い伸び率で急速に拡大してきたマレーシアの鶏肉生 産であるが、94年以降、5%前後の伸びに留まっている。同国の鶏肉消費は、既 に高い水準となっており、主要な輸出先であるシンガポールにおいても、鶏肉の消 費は伸び悩んでいる。政府の援助を受けることなく、順調に発展してきたマレーシ アのブロイラー産業であるが、近年、やや陰りが見え始めている。 マレーシア農業省獣医局(DVS)は、96年の鶏肉生産についての統計を公表し た。これによると、毎年10%以上の高い伸び率で急速に拡大してきた同国のブロ イラー出荷羽数は、96年には、対前年比4.9%増の3億2千万羽となり、94 年以降、3年連続で5%前後の増加に留まった。 マレーシアでは、国民の多くが信仰するイスラム教が豚肉の摂食を禁じているた め、鶏肉が畜産物消費の中心的品目となっている。一人当たりの消費は、94年で 既に29.6kgと日本の約3倍の高い水準に達しており、今後、国内需要の急激 な増加は見込めない状況にある。 輸出については、毎年、マレーシアの鶏肉生産の約15%程度がシンガポールへ 生体で輸出されている。96年の生体での輸出量は、対前年比8.0%増の4千2 百万羽となった。しかし、シンガポールにおいてもマレーシアと同様に鶏肉の消費 水準が既に高く、人口の少ないシンガポールで食料品の消費に大きなウェートを持 つ観光客の数が伸び悩んでいる。これらのことから、マレーシア鶏肉のシンガポー ルへの輸出にも陰りが見え始めるのも時間の問題である。 また、国内の鶏肉は、政府、生産者団体などの協議によって決められている。鶏 肉が主要な畜産物であることから、インフレ抑制を狙う政府が、鶏肉を価格管理品 目の一つとして指定し、鶏肉価格を抑制を図っている。そのため、業界は年々増加 する労賃などを鶏肉価格に転嫁することができないでいる。 このように、鶏肉生産のコスト削減を強いられている状況下で、インテグレーシ ョン化がさらに進行している。DVSが昨年6月に実施した養鶏産業の実態調査に よると、ひな生産のうち、7社のインテグレーターによるものが全体の72%を占 め、生産量は、前年との比較で21.3%増加している。また、上位14社が全体 の約90%を生産している一方で、非インテグレーターは、全体のわずか21.3 %を占めるのみで、生産量も前年から12.1%と大幅に減少した。こうしたこと から、ひな生産の寡占化が確実に進行している。 こうした厳しい状況の中で、政府内部からも養鶏業界を支援する政策立案が必要 との意見も出てきており、鶏肉生産において飼料として利用されている、キャッサ バやフィッシュミールなどの関税、輸入課徴金の削減などが検討課題に挙げられて いる。 シンガポールやマレーシアの所得向上に伴う鶏肉消費量の拡大を背景に、政府の 援助を受けず、民間が自立的に発展させてきたマレーシアのブロイラー産業である が、近年、やや陰りが見え始めている。
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