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【ブラッセル駐在員 池田 一樹 9月25日発】食品の衛生や安全性の問題に 起因するEU−米国間の畜産物の貿易問題が目立ってきている。世界貿易機関 (WTO)で紛争処理中のホルモン牛肉のEUへの輸入禁止措置やEU産鶏肉 の米国への輸入禁止措置に加え、最近では牛脂や牛脂関連製品のEU向け輸出 をめぐって対立が深刻化する様相を呈している。 EUでは、牛海綿状脳症(BSE)対策として、来年1月から、牛の脳脊髄 など、特定の臓器の使用が禁止される。また、同時に当該臓器やこれを含む製 品の輸入も禁止される(海外駐在員情報302号)。これに対して、米国は、 重要な輸出品である牛脂について、製造過程(レンダリング処理)で当該臓器 を取り除くことは困難として、米国をBSEの危険性のない地域として認定し、 禁止措置から除外するようEUに要請している。 この要請を受けて、EUの科学獣医委員会は、今月、米国にはBSEの発生 例はないが、BSEに類似するスクレイピーなど3種類の病気が存在しており、 また、BSE感染牛の輸入の可能性もあるとの見解を報告した。この報告に基 づき、EU委員会のフィッシュラー農業委員は、認定の可能性は極めて低い旨 の発言を行っている。米国産牛脂のEU向け輸出は年間1億USドル(119 億円)にのぼり、さらに、医薬品(牛脂を原材料に使用する場合が多い)のE U向け輸出は年間45億USドル(5千4百億円)とみられる。このまま禁止 措置がとられた場合の影響は深刻である。米国は、早くから関連製品の輸出に 影響が生じないよう禁止規則が改正されない場合は、WTOに提訴すると述べ ており、今後両国の緊張が高まることが予想される。また、製品の約8割に牛 脂関連製品が使用されているといわれるEUの製薬業界では、今後、原材料の 調達に大きな支障を生じかねない。 一方、今年4月、3年間にわたるEU向け米国産畜産物の輸入検疫条件の協 議が終了したが、鶏肉分野は米国の食鳥処理における消毒薬の使用に問題があ るなどとして、合意に至らなかった。このため、EUは年間約5千万USドル (59億円)にのぼる米国産鶏肉の輸入を差し止めたところ、米国は、報復措 置として年間約百万USドル(1億2千万円)のEU産(主としてフランス産) 鶏肉の輸入を禁止した。EUは、これを不当として、WTOの規定に基づく2 国間交渉を要請していたが、このほど、フィシュラー農業委員は、EUはパネ ルの設置を要求したと述べた。EU委員会は、この措置について、輸出額の多 少ではなく、EUの主義主張として、米国の報復措置は受け入れられないと述 べている。 米国産ホルモン牛肉の輸入禁止に関しては、先日、WTOのパネルが輸入禁 止措置を不当とする最終報告を取りまとめたところであるが、EUは、これを 不服として、WTOに申し立てを行うことを決定した。これにより、新たなパ ネルが設置され、この申し立てを審議することとなる。結論は、11月末まで に出るものと予想されている。
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