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豪州の鶏肉輸入禁止が広げる波紋


【シドニー駐在員 鈴木 稔 9月24日発】 豪州は、検疫上の理由から鶏肉の
輸入を禁止しているが、先頃、以前より輸入解禁を求めてきたタイ政府の高官
が、豪州側の緩慢な対応にしびれを切らし、「報復」として豪州産食肉・乳製
品の輸入ボイコットを示唆したことから、これは豪州畜産業界全体を巻き込ん
だ問題へと発展してきた。

 豪州は、疾病侵入防止という検疫上の理由から、鶏肉は、ニュージーランド
からの加熱調理品を除いて、全面輸入禁止としている。しかし、この措置は、
その科学的根拠が不透明で、客観的にみれば、輸出入がほとんどない国内自給
型の養鶏産業の保護のための、政治的理由による「非関税障壁」に近いと言う
のが実態である。

 鶏肉の輸入解禁は、タイ、米国、デンマークが要請しており、豪州検疫検査
局は、これに対処する形で、すでに2年半余り前に科学的見地から輸入解禁の
可能性を検討し、適切に加熱処理されたものは、検疫上のリスクはないと判断
した。

 しかし、当時の労働党政権は、政治的思惑から輸入解禁の最終決断を引き延
ばしてきた。その後、昨年3月の政権交代直後の5月に、アンダーソン第一次
産業大臣は、加熱処理済み鶏肉の輸入解禁を示唆したが、養鶏関係者、関係政
治家の強硬な反発に遭い、検疫条件等の細部を関係者と継続協議することを約
束し、未だに最終結論が下されていない。

 このように、豪州側の対応が遅々として進まない中、先頃、強く輸入解禁を
要請しているタイ政府の高官が、解禁が認められない場合、豪州産食肉・乳製
品の輸入をボイコットするとの示唆をしたことから、本件は、牛肉、酪農とい
う輸出産業を巻き込んだ問題に発展してきた。

 酪農関係団体は、すぐさま、他産業に対する不必要な検疫保護が酪農を危機
に陥れているとして、鶏肉などの輸入にかかる、正当化されない検疫障壁の撤
廃を政府に求め、また、豪州肉牛生産者協会会長も、牛肉産業が「人質」にさ
れてはならないと、科学的根拠に基づく迅速な解決を政府に求める声明を発表
した。

 アンダーソン大臣は、昨年来、輸出産業としての豪州農業の繁栄のためには、
WTO(世界貿易機関)ルールを遵守していく以外に選択の余地はないと発言
し、鶏肉の輸入解禁問題も、政治家の干渉を許さず、科学的根拠に基づいて最
終判断を下すとしてきたが、現実には、養鶏業界の抵抗は、依然として強硬で、
決断のタイミングが見出せない状況にある。

 むしろ、今回、政治的にも影響力がより大きいと考えられる酪農・牛肉産業
が巻き込まれたことから、大臣としての決断は下しやすい状況が整ってきたと
見ることもでき、今後の対応が注目される。




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