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豚肉業界救済の具体策を答申


【シドニー駐在員 野村 俊夫 11月27日発】政府諮問機関である生産性委員会は、
25日、大幅な価格低落に見舞われた豚肉業界へ救済策を政府に答申した。当該答申
は、価格低落の主因が豚肉輸入の急増にあったとし、世界貿易機関(WTO)規則に
基づく輸入セーフガードの適用が可能とする一方で、業界への直接補償や輸出促進な
どの施策が望ましいと提言している。

 豪州では、昨年末以来、豚肉価格が過去最低と言われる水準まで低落したため、業
界から、輸入の停止を含む抜本的な救済策が求められていた。これに対し、政府は、
本年6月、9百万豪ドル(約7億円:1豪ドル=77円)の緊急対策(流通合理化補
助等)を実施する一方、財務省管轄下の政府諮問機関である生産性委員会に、WTO
規則に基づく輸入セーフガードの適用の可否を諮問していた。

 このため、同委員会は、25日、@国産豚肉と直接競合した輸入産品の特定、A影
響を受けた国内業者の範囲の特定、B豚肉輸入増加の事実の検証、C国内産業が被っ
た被害の検証、D被害の原因が輸入の増加にあったことの検証、E業界への救済対策、
に関する詳細な答申を政府に提出した。

 答申は、まず、国産豚肉と直接競合した輸入産品はカナダ産の輸入豚肉であったと
特定し、また、影響を受けた国内業者は、肉豚生産者、と畜業者および豚肉処理加工
業者であったと報告している。

 続いて、95/96年度に約3千トンであった豚肉輸入量が、96/97年度以降、
8千トン以上に急増したこと、また、主要な輸入アイテムである骨付きもも肉の国内
流通シェアが、同時期に6〜7%から17〜22%に急増したことを挙げ、この間に
豚肉の輸入が急激に増加した事実が実証できると報告している。

 また、国内業界が受けた被害の検証については、具体的な検証方法が定められてい
ないので難しいとしながらも、昨年10月から本年6月にかけて国内豚肉価格が大幅
に低迷したこと、および肉豚生産者の経営収支が96/97年度の黒字(+7.6%)
から97/98年度は赤字(▲3.5%)に転落していること(豪州豚肉協議会の調査
結果)を挙げ、立証可能であると報告している。

 さらに、答申は、上記被害の主要な原因は豚肉輸入の急増にあったと結論しており、
その理由として、この間の国内豚肉生産からの影響は少なかったこと、豚肉輸入急増
以外に昨年10月以降の大幅な価格低迷を説明できる要因は存在しなかったことを挙
げている。加えて、同委員会が外部に委託した種々の調査の結果も、この結論を否定
するものではなかったと報告している。

 以上のことから、同委員会は、WTOに規定された輸入セーフガードを適用するこ
とは可能であると結論しており、仮に適用する場合には、初年度10%、次年度5%、
3年目以降は無税とする一律関税の適用が適当としている。

 ただし、答申は、輸入セーフガードの実施は国際間の補償問題を招く恐れがあり、
かつ、豪州の自由貿易推進の立場にもマイナスの影響を及ぼすと指摘し、これが最も
適当な施策かどうかは疑問であると報告した上で、被害を受けた業者への直接補償や
輸出奨励などの施策を実施することが望ましいと提言している。

 今後、政府は、この答申をもとに具体的な対策を協議することとなるが、この問題
は、先月実施された連邦総選挙の争点のひとつともなっただけに、慎重な対応がなさ
れるものと思われる。



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