ALIC/WEEKLY


通貨下落に耐えるマレーシアの養豚経営


【シンガポール駐在員 伊藤 憲一  2月5日発】マレーシアでは、昨年からの通
貨下落による生産コストの上昇で、多くの農家が苦況に陥っている。そのような状
況の中、消費地シンガポールに隣接し、養豚の生産地域であるジョホールバル州の
大規模養豚農家を訪問する機会が得られたので、その状況について報告する。

 今回の訪問先は、養豚の生産地域であるジョホールバル州で、16ヘクタールの
敷地に、繁殖用雌豚約2千頭、肥育豚約2万頭を飼養し、これらを60名の従業員
で管理している一貫経営の大規模養豚農家である。また、同農家は、クアラルンプ
ール、シンガポール方面への出荷に便利な高速道路に隣接した、地理的に良好な場
所に立地している。

 生産している豚の種類は、ランドレースとヨークシャーを交配した雌に、デュロ
ックの雄を交配して生産された、3元交配種である。また、年間、2千頭の繁殖用
雌豚が生産する約3万8千頭の子豚は、生体重が80sを超えるまで肥育される。
しかし、出荷生体豚は、当地が熱帯地域のため成長にばらつきがあり、不揃いであ
った。

 昨年6月以前、1s当たり0.7マレーシアドル(以下、M$)であった自家配
合飼料の製造費は、飼料用原料の輸入価格の上昇から、現在では同0.8M$とな
り約14%上昇した。通貨の下落率に対し、飼料製造費の上昇率が低いのは、これ
まで流通段階で値上がりが緩和されているためである。

 生産した豚は、その半数がシンガポールへ、残りが国内のマーケットへ生体で出
荷されている。昨年6月以前のシンガポール向け生体1s当たりの販売価格は、約
2.8シンガポールドル(以下、S$)であったが、現在では約1.7S$となり、
約4割も下落している。 

 しかしながら、マレーシア産がほとんどを占めるシンガポールの豚肉の小売価格
は、以前と比較して大きな引き下げは見られていない。

 むしろ、同農家は、シンガポール向けよりも、利益が確保できる国内向けの割合
を増やしたいと考えているが、回教の国であるマレーシアの豚肉消費に限界がある
ため、消費地シンガポールに多くを出荷せざるを得ない状況となっている。

 同農家は、規模的には上位で、これまで経営的に耐えてきているが、他の多くの
中小養豚農家は、通貨下落の影響を強く受けて、規模の縮小または廃業に追い込ま
れている。また、これまで野放しになっていた環境規制問題も、今後、クローズア
ップされてくるものと見られ、経営的にさらに難しくなるものと予測される。

 ちなみに、昨年の通貨危機以前、6月末の1USドルに対するマレーシアドルの
為替レートは2.52M$であったが、本年1月末には4.35M$となり、約
42%下落している。




元のページに戻る