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【シドニー駐在員 藤島 博康 4月8日発】豪州連邦議会上院の農村・地方問題 委員会は、一連の生乳価格支持制度の規制緩和に関して審査を行うと発表した。酪 農乳業界は、規制緩和は不可避とした上で、政府との交渉のたたき台となる業界再 編案の合意に努力を重ねているが、今回の決定は全体のタイムスケジュールに微妙 な影響を与えそうだ。 現在、豪州では、各州政府によって規制されている飲用向け生乳の農家販売価格の 自由化が検討されている。また一方で、加工原料乳生産者へ交付金を支払う連邦政 府による国内市場支持制度が2000年6月に廃止されることになっており、酪農 乳業政策の大きな転換期を迎えている。 上院の農村・地方問題委員会は、4月1日、この一連の価格支持制度について、 @将来的に国内および輸出市場において豪州酪農乳業界が直面する諸問題、A現状 の価格支持制度に関する諸外国などからの圧力、B一連の価格支持制度廃止後の酪 農乳業および地域社会への影響、C規制緩和を促進するため連邦政府としての施策 を焦点に審査を実施すると発表した。 審査に当たって座長を務める野党民主党のウッドレイ上院議員は、委員会での審 査結果を踏まえ、規制緩和を行うべきか否かの政治的な判断が下されるとの方針を 示している。 これに対し、飲用乳価格の規制緩和は不可避と認識が浸透している酪農乳業界に は「時既に遅く、審査は時間の無駄」との冷めた意見が多い。 ウッドレイ議員は「民主党は、規制緩和に関して非常に懐疑的であり、最終的に は数社の大手乳業メーカーしかその恩恵を享受できない可能性もある」とし、酪農 家寄りの姿勢を示している。これには少数派である規制緩和反対グループの後押し があったと思われるが、普段は農業政策に大きな関心を払わない同党の、しかも期 を逸した援護に、規制緩和に向け意見調整に奔走していた業界代表者らは困惑気味 のようだ。 豪州酪農乳業協議会では、今回の決定を歓迎するとしながらも、飲用乳価の規制 緩和については、州政府の守備範囲であり、連邦上院が介入すべき問題ではないと し、民主党の動きをけん制している。政策的には、国内市場支持制度は連邦、飲用 乳に関しては州政府と明確に分離されており、既に、ニューサウスウェールズ州政 府は、2003年までの現行制度の延長を決定した。しかし、現実的には需給構造 などの観点から、他州に比べ生産コストが低く、豪州の生乳全体の6割を生産する ビクトリア(VIC)州の決定に他州も追従せざるを得ず、最終的にはVIC州議 会の決議が豪州全体の流れを左右することになる。 一方、酪農乳業界としては、将来的な輸出競争力確保のためにも、国内市場支持 制度の廃止を期に、飲用乳価についても一気に規制緩和を推し進め、この見返りと して、移行期間に予想される酪農家の廃業、生乳供給の減少などの問題に対処すべ く、連邦政府から12億5千万豪ドル(約975億円:1豪ドル=78円)規模の 再編支援パッケージを引き出す方向で一致しており、政府代表者も交えその内容に 関し検討が続いている。 自由党と国民党による連合政権は上院において過半数に満たないため、今回の委 員会の決定は、今後の行方に微妙な影響を与える可能性もあるが、業界団体幹部に よると、飲用乳価の規制緩和という基本路線に変化はなく、7、8月頃にはVIC 州議会による判断が下されるとしている。
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