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【シドニー駐在員 藤島 博康 7月29日発】豪州検疫検査局(AQIS)は、 7月19日、カナダの訴えにより世界貿易機関(WTO)から見直しを迫られてい た鮭類の輸入検疫条件を緩和すると発表した。豪州の一部農産物の検疫条件に対し ては、科学的根拠に欠けるとの国際的な非難が強く、また、米国が農産物貿易にも 保護主義を強める状況下、次期WTO交渉を前に対応ぶりが注目されていた。 病疫の侵入防止を理由とした従来の検疫条件は、カナダ政府により科学的な合理 性がないとしてWTOに提訴され、豪州に対し、7月6日までに改善案を示すよう 勧告が出されていた。鮭類の輸入はこれまで熱処理が義務付けられていたが、輸入 後の加工なしに直接消費者に提供できる切り身(頭や内臓を除去した)状態であれ ば、今後は生での輸入が可能になる。 カナダ側は、豪州の対応によっては、26日から、牛肉と砂糖を除く、羊肉、果 物やチーズなど52品目、輸出総額で約6千万豪ドル(約46億円:1豪ドル=7 7円)相当の農産品に税率100%の報復関税を課すと警告していた。在豪カナダ 高等弁務官事務所は、今回の条件緩和がWTOのガイドラインに沿ったものである か確認が必要として、27日現在、報復措置の可能性を否定していない。 鮭養殖業者らは、今回の条件緩和を牛肉業界に例えれば、口蹄疫の侵入を可能と するに等しく、被害額は年間1億2万豪ドル(約97億4千万)にも及ぶ可能性も あると非難を強めている。 これに対し、肉牛生産者協議会は、条件緩和が発表される以前からWTOの勧告 に従うべきと豪州政府に働きかけていた。また、米国の羊肉輸入規制発動により大 きな打撃を受けている羊業界は、科学的根拠が希薄であるならば条件を緩和すべき とし、政府決定を擁護する声明を発表している。昨年の肉豚価格の低迷時に豚肉業 界から輸入規制を求める声が上がった時と同様に、豪州農業界の大勢は、保護貿易 は豪州全体の利益とならず、自由貿易の下にこそ繁栄がもたらされるとの見解で一 致している。 現在の保守連合政権で貿易農業政策に大きな影響力を持つ国民党の党首、フィッ シャー副首相兼貿易相が20日辞任し、アンダーソン運輸・地方担当相が党首を引 き継ぎ副首相を兼任、またヴェイル農漁林業大臣が貿易相に就任した。 今回のAQISの発表目前に、ヴェイル氏は農漁林業相として「他国が(市場開 放度で豪州に)追いつくまでは、これ以上、貿易障壁を低くする必要はない」と貿 易自由化の後退とも取れる発言をし、アンダーソン氏が直ちに打ち消しにまわると いう場面も見られた。貿易自由化の推進は自国のぜい弱な産業の痛みを伴うもので もあるが、これまでは国内外に人望の厚いフィッシャー氏の強い求心力に支えられ て不満を押さえ込んできた側面もあるだけに、次期WTO交渉に向けた政策運営が 注目される。 豪州は、鮭問題のほかに鶏肉やりんごなどの検疫条件の見直しを迫られている。 また、米国の羊肉輸入規制や、ニュージーランドが豪州からの豚肉輸入を規制する 動きをみせていることなどに対し、一部生産者からは政府対応への不満の声も上が っている。
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