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【シンガポール駐在員 伊藤 憲一 8月5日発】タイ政府は、児童の栄養不良の 改善を図ることを目的として、92年から小学校の低学年児童に対し学校給食用牛 乳(以下「学乳」という)を無償で供給している。今年の学乳は、4万校の1年生 から4年生までの650万人を対象に、60億バーツ(1バーツ=約3.1円)の 予算規模で実施されている。 しかし、多くの関係者は、この学乳供給事業の供給に当たって、一部の供給業者 と学校などとの間で、不適切な実施が見られていると指摘している。 先般、報道された現地新聞によると、学乳予算の配分を多く受けているバンコク を含む7県において、供給業者と学校側との間で不正があったとしている。この供 給業者は、学乳の品質を低下させるなどして、資金をねん出していたとしている。 学乳は、国産生乳の需給状況および供給価格などから、生乳の使用割合を25% 以上に規定するとともに、児童が飲みやすくするために加糖なども認められている。 しかし、学乳の一部には、供給業者が生産コストを引き下げるために、安価な脱脂 粉乳を多く使用した生乳の割合が低いもの、チョコレートもしくはストロベリー飲 料および豆乳などが供給される事例が見られるとしている。 このことは、国産生乳を使用することで酪農の健全な発展を目的としている学乳 に、輸入された脱脂粉乳などが多く使用されることにより、逆にその輸入を拡大さ せることとなっている。 このような事態を重視した同事業を監督する学乳実施委員会は、財政当局、食品 医薬品局、健康サービス局、消費者保護事務局、保健所などからなる監視チームを 発足した。同チームは、6月に全国の70供給業者から学乳をサンプリングすると ともに状況の調査に乗り出した。その結果、同チームは、地域によって異なるが、 学乳1本当たり0.3から0.7バーツを供給業者から関係者に渡していたことが 確認されたとしている。なお、採取した学乳のサンプルは、現在、健康サービス局 で成分を調査中としている。 このような状況を踏まえ、同委員会は、諸外国の学乳制度を参考にするとともに、 政府が中央で一括して学乳を購入する方式に改められるべきとしている。この方式 によると、供給価格は、政府と乳業会社などとの交渉により決定されるとともに、 学校は、近くに所在する供給業者である乳業工場などから納入されることとなり、 供給業者の選定の必要がなくなる。そのため、@配送時間が短縮され学乳の鮮度が 保たれる、A供給価格は、中間業者が排除されることにより流通経費が削減され、 供給価格の引き下げになる、B供給業者と学校などとの不適切な関係が排除される などとしている。 牛乳を含めた乳飲料全体の販売総額が260億バーツと推定される中で、60億 バーツの学乳予算は、全体から見れば低いものではない。また、学乳を充実させる ことは、将来の需要拡大につながるものと見込まれる。このためにも、学乳の適正 かつ公正な実施が求められている。
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